tener’s diary

てねーるのブログ記事です

【ディズニー映画感想企画第30弾】『美女と野獣』感想~ディズニー・アニメーションの‟最高傑作”~

 ディズニー映画感想企画第30弾は『美女と野獣』の感想記事を書こうと思います。しばしばディズニーの「最高傑作」と言われることも多く、名作中の名作として多くの人に知られる超有名作品でしょう。数年前に実写化したことで最近また人気が再燃している印象もあります。
 そんな『美女と野獣』について語っていきたいと思います。

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【基本情報】

ハワード・アシュマン氏の死

 『美女と野獣』は30作目のディズニー長編アニメーション映画として1991年に公開された作品です。原作は、ボーモン夫人による同タイトルの有名なフランス民話です。『リトル・マーメイド』に次ぐ「ヨーロッパの童話原作のプリンセスもの」として企画されてました。『美女と野獣』をアニメ化する構想自体はウォルト・ディズニー氏の存命時代にもあったそうですが結局その構想は当時頓挫していました。それから何十年も後の、マイケル・アイズナー&ジェフリー・カッツェンバーグによる新体制下のディズニー・スタジオによって、改めてこの『美女と野獣』をアニメ化することが決定したそうです。

 当初は非ミュージカル映画としてロンドンのディズニー・スタジオで制作が進められていたそうですが、『リトル・マーメイド』の大ヒットを受けて『美女と野獣』もミュージカル映画として制作し直すことが決定し、制作スタジオもカリフォルニア州のバーバンク*1に戻されました。そして、ミュージカル要素を入れるために、『リトル・マーメイド』と同様にアラン・メンケン氏とハワード・アシュマン氏の作曲家&作詞家コンビが再び雇われました。

 しかし、ハワード・アシュマン氏はこの『美女と野獣』の完成を見ることなく1991年にエイズにかかって亡くなってしまいます。『オリバー ニューヨーク子猫ものがたり』以来ディズニー音楽の作詞に携わり続けた偉大な作詞家が若くして亡くなってしまったのです。晩年には『美女と野獣』と同時進行で次作『アラジン』の音楽制作にもアラン・メンケン氏と一緒に携わっていましたが、結局これらは製作途中のままで亡くなってしまいます。彼の死は、第二期黄金期の繁栄の真っただ中にいたディズニーに起きた悲劇として今でも多くの人に記憶されています。

 『美女と野獣』のエンドクレジットでは、ハワード・アシュマン氏への追悼文が掲載されています。


‟最高傑作”としての評価

 制作中は「ハワード・アシュマン氏の死」という悲劇的な事件にも見舞われた映画『美女と野獣』ですが、1991年に公開されるとすぐに歴史的大ヒット作品となりました。前々作『リトル・マーメイド』の興行収入を上回る興行成績を記録し、評論家からも絶賛の大嵐でした。その異常なほどの評価の高さは現在でも健在であり、今でも「ディズニー史上最高傑作」としばしば言われることがあるぐらいです。

 その評価の高さゆえにこの『美女と野獣』は、前々作『リトル・マーメイド』も受賞したアカデミー歌曲賞アカデミー作曲賞を受賞したのみならず、アカデミー作品賞へのノミネートまで経験しました。実写映画も含めれば過去にも『メリー・ポピンズ』でディズニー映画がアカデミー作品賞にノミネートしたことはありますが、実写ではないアニメーションのディズニー映画がアカデミー作品賞にノミネートされたのは、この『美女と野獣』が初めてです。

 それどころか、ディズニー作品に限らずアニメーション映画全体の歴史を見ても、アカデミー作品賞にノミネートされたアニメーション映画は『美女と野獣』が初です。つまり、『美女と野獣』は「ディズニーの最高傑作」どころか「アニメーション映画の最高傑作」と言っても過言ではない評価を得た作品なのです。

 今でも「好きなディズニー映画は?」みたいなアンケートを取ると『美女と野獣』は上位にランクインすることが多く、まさに‟最高傑作”と呼ぶにふさわしい作品でしょう。この『美女と野獣』の爆発的な大ヒットによって、ディズニー第二期黄金期はまだまだ継続しているのだということが世間に示されたのです。





【個人的感想】

総論

 上述の通り、『美女と野獣』はディズニー・アニメーションの‟最高傑作”に挙げられることの多い作品なんですが、僕もその通りのクオリティだと思います。もう、こんなのは褒めまくる以外の感想が書けませんよ。完璧な名作としか言いようがないです。特に、本作品は「ミュージカル映画」としての最高峰だと思いますね。劇中歌の数がものすごく多く、ミュージカル要素がかなり充実しているなと感じられます。

 以下、『美女と野獣』が「最高傑作」と呼ばれる所以を語っていきたいと思います。


王子様とお姫様のロマンス

 『美女と野獣』は「ヨーロッパの童話を原作とするプリンセスもの」のディズニー映画において一つの転換点になってると思います。というのも、「プリンセス」と「プリンス」のどちらのキャラも際立って描写されているんですよね。 決して「プリンセス」だけの物語でもなければ「プリンス」だけの物語でもない。「プリンス」と「プリンセス」のどちらもが文句なしに主人公と言えるような物語になっています。

 今までのディズニーのプリンセスものを振り返ると、『白雪姫』や『シンデレラ』ではプリンセスのキャラばかりが目立ち、プリンスのキャラは正直言って空気でした。あんまりセリフもありません。その後、『眠れる森の美女』や『リトル・マーメイド』では王子様も終盤のヴィランとの戦いでしっかり活躍するなど見せ場を用意し、それまでの作品のような空気キャラを脱却しています。しかし、それでも『眠れる森の美女』のフィリップや『リトル・マーメイド』のエリックも、ある意味で理想的すぎる「格好良い正統派な王子様」という感じのキャラ設定がなされており、少し人間味を感じない気がしなくもないです。フィリップにしてもエリックにしてもあまりにも欠点がなさすぎて逆に没個性的なキャラになってる面があるんですよね。

 それに対して、『美女と野獣』のビーストは最初から欠点だらけのキャラクターとして描写されてます。この作品は、愛を知らず怒りっぽくてわがままだったビーストが、ベルと出会うことで愛を知り成長する物語にもなっています。つまり、ベルだけでなく明らかにビーストも主人公として描かれてるんですよね。だからこそ、ベルだけでなくビーストに対しても主人公にふさわしい個性的なキャラ設定が与えられてるんですよね。あくまでもアリエル中心の物語でありエリックは脇役に過ぎなかった前々作『リトル・マーメイド』と違い、『美女と野獣』はベルだけでなくビーストも主人公の物語です。この点が本作品の新しい点だとは思います。

 ちゃんと「王子様とお姫様のロマンス」になってるんですよね。決して「お姫様だけのロマンス」にはなってない。ヒロインとヒーローのどちらのキャラもしっかりと掘り下げられた恋物語になってるという点では『わんわん物語』に近い気がします。『わんわん物語』のような王道の恋愛物語を、「王子様とお姫様から成るヨーロッパの童話」を使って再現した点が本作品の新しい点であり、魅力的な点なんですよねえ。感動します。


豊富すぎるミュージカル要素

 本作品は、ディズニー映画における「ミュージカル映画」としての要素を極限まで高めた作品になってると思います。第二期黄金期のディズニー映画は基本的にどの作品もミュージカル要素がたくさん入ってるのですが、『美女と野獣』はその中でも特にミュージカル要素が多い作品です。劇中歌の数もめちゃく多いうえ、ミュージカルシーンに多くの上映時間が割かれています。ほとんど音楽だけでストーリーが進んでるんじゃないかと思えるほどです。作曲家アラン・メンケン&作詞家ハワード・アシュマンという黄金コンビの実力が存分に発揮されています。

 "Beauty and the Beast"や"Be Our Guest"のようなメジャーな曲だけでなく、"Belle"や"Gaston"のようなキャラ紹介曲もあれば、"Something There"や"The Mob Song"のようにストーリーを大きく進める曲もあります。このように多様な劇中歌が作品内にたくさん溢れているので、「ミュージカル映画の最高峰」と言っても過言ではないと思います。しかも、どの曲も感情を大きく揺さぶってくれる名曲なんですよね。



音楽

 上述の通り、『美女と野獣』にはアラン・メンケン&ハワード・アシュマンという素晴らしいコンビによって生み出された数々の名曲があります。以下、それぞれの名曲について語っていきたいと思います。

Belle

 オープニングで流れる曲です。タイトルから分かる通り主人公ベルの紹介ソングになっています。歌詞が良いんですよね。ベルがいかに変わり者だと町のみんなから思われてるかということを伝える歌詞になっています。このミュージカルシーンだけでベルの境遇や彼女の住む街の様子が伝わるようになっている辺り、本作はちゃんと音楽に合わせてストーリーも進むタイプのミュージカル映画だなということがうかがえます。しばしばミュージカル映画に向けられがちな「歌ばかりでストーリーが全然進まないから、上映時間のわりに内容が薄い」みたいな批判は本作品には当てはまらないんですよね。

 『美女と野獣』に限らずディズニーのミュージカル映画は、どの作品もわりと「ストーリーと音楽のどちらもがしっかり作られてる」ことが多いのですが、『美女と野獣』はミュージカルシーンが特に多いだけにその傾向が顕著に現れています。"Belle"のミュージカルシーンでは、ベルのキャラ設定やベルの住む町の様子や、さらにはベルに恋する悪役ガストンの設定までもが紹介されています。後半で再びこの曲がrepriseされるシーンでもガストンとベルの関係性やベルの夢などが描かれていて、本作品の物語の基本設定が飲み込める仕様になっています。そういう点でこの曲はストーリー展開においても必要不可欠な要素になってるんですよね。

 曲そのものも素晴らしいです。リズミカルな出だしとサビの豪華な雰囲気が対照的で耳に残ります。ものすごくブロードウェイの音楽っぽさを感じる曲だと思いますね。かなり好きです。

Gaston

 次に出てくるミュージカルシーンがこの"Gaston"の曲です。これもタイトル通り悪役ガストンのテーマソングになってます。ネットでは愛される脳筋バカとしてネタにされるガストンのキャラが存分に発揮されてるシーンですね。ヴィランズ・ソングとは思えないような華やかな曲想が印象的で、ガストンが町の人気者であることをうかがわせるような音楽に仕上がってます。

 歌詞もとても面白くて、特に「昔は卵を毎日4ダース食べてたけど今は5ダース食べてるぜ!」とガストンが自慢げに言うシーンはネットで頻繁に話題になります。ガストンの脳筋ぶりがうかがえる素晴らしい歌詞だと思いますね。僕もここのシーンはめっちゃ笑えるので大好きです笑

Be Our Guest

 この曲は、『美女と野獣』で流れる劇中歌の中でも"Beauty and the Beast"と並んで最も有名な曲の一つでしょう。ルミエールを筆頭とする城の住人たちが総出でベルに夕食を出すこのミュージカルシーンはとても楽しいシーンだと思います。曲自体もとにかくにぎやかで楽しげな音楽に仕上がっています。それに合わせて流れるアニメーションの映像の演出もめっちゃ楽しいです。個人的には、大量の蝋燭の奥にルミエールが現れて"Course by course, One by one~♪"と歌い始めるシーン以降の映像が特に好きですね。本当に楽しい晩餐会って感じの映像なので、見てるこっちまで楽しくなってきます。

 あまりにも名曲すぎて、逆にこれ以上何も書くことがなくて困ってしまいます。一度聞いただけで完璧にメロディが頭に残るようなかなりキャッチーな曲に仕上がっています。しかも、聞いててめちゃくちゃ楽しいです。僕は小学生の頃からこの曲を何度も歌ってた記憶があります。それぐらい楽しくなる曲なんですよね、これ。本当に名曲だと思います。

Something There

 ベルとビーストの間に恋心が芽生える過程を歌った曲です。オープニングの"Belle"と少し似たメロディを使ってる曲ですね。ベルとビーストそれぞれの心境の変化が音楽に合わせて分かりやすく表現されてる名シーンだと思います。主人公二人の心境の変化と恋の芽生えという重要なシーンを音楽に合わせて展開させていく辺りは、まさに「理想的なミュージカル映画」だと言えると思います。ストーリー上の重要な展開と音楽を見事に一致させています。

 歌詞で二人の心情がしっかりと分かりやすく描かれてるからこそ、ベルとビーストの間の恋が自然なものになってるんですよね。この点も本作品が過去のディズニーのプリンセス映画とはちょっと違う点で、両者の間に恋が芽生えるシーンが決して唐突になってないんです。『白雪姫』にしても『シンデレラ』にしても『眠れる森の美女』にしても、プリンセスとプリンスは初めて会った瞬間に恋に落ちてるんですよね。これらの映画では恋に落ちる過程がほぼ一目惚れに近いので、しばしばこの点が不自然であり得ないと批判されることがあります*2。『リトル・マーメイド』でもアリエルがエリックに恋に落ちた過程は一目惚れに近いです。*3

 それに対して『美女と野獣』では、『わんわん物語』での"Bella Notte"のシーンのように、二人の間の恋愛感情の芽生えが"Something There"の音楽に合わせてしっかりと丁寧に描かれてるんですよね。だからこそ、上述した通りこの作品は「王子様とお姫様の恋物語」としてクオリティの高い内容に仕上がってる。そこに唐突さは感じられないです。

Beauty and the Beast

 本作品の主題歌ですね。作品タイトルと同じこの曲は、とても感動的で美しい曲に仕上がっています。もう、ほんと、名曲としか言いようがないです。この曲に合わせてベルとビーストが踊るシーンは、この映画を代表する屈指の名シーンとして知られていますね。今までもディズニーのプリンセスものの映画では多くのダンスシーンがありましたが、その中でもこの"Beauty and the Beast"でのダンスシーンが知名度においてもそのクオリティにおいても最高峰でしょう。ここの映像には、当時のディズニーですっかりお馴染みの技術となったCGが大いに活用されています。だからこそ、とても美してうっとりするような映像に仕上がってるんですよねえ。

 もちろん、音楽も素晴らしいです。とにかく感動する素晴らしい名曲に仕上がっています。なんというか、聞いてるだけで心がうっとりして、幻想的な気分に浸れるんですよね。本当に王道おとぎ話の世界に入り込めたようなロマンチックな気分に浸れる、名曲中の名曲でしょう。「名曲」としか言いようがない自分のボキャ貧さが悔やまれるほどの名曲です。本当に感動します。

The Mob Song

 ガストンが町の住民を先導しビーストの城を襲撃するシーンで流れる曲です。終盤のアクションに向かって物語が一気に進むシーンであり、そのストーリー展開に合った形で音楽が流れています。つまり、ここも「ミュージカルに合わせてしっかりストーリーが進む」箇所になってるんですよね。それまで感動的な恋物語として進んでいたストーリーが、この辺りから一気にきな臭い雰囲気へと変化する過程は本当に秀逸です。曲想もかなり緊迫感のある雰囲気を醸し出していて、作品の展開に合っています。

 緊迫感のあるこの曲に合わせて、町の住民たちが進軍していく映像もとても良く出来ています。魔女狩りとかの集団リンチの怖さに通じるものがありますね。そういう怖さを上手く演出できている名曲だと思います。好きですねえ。

Human Again

 実はこの曲は劇場公開版にはない曲です。劇場公開版ではカットされているシーンなのですが、あとで一部のDVD版においては見られる仕様になっています。まあ、この曲のシーンがあると物語全体が少し冗長になるので、劇場公開時にカットしたのは正解だと個人的には思うのですが、曲自体は素晴らしい出来です。やはり。アラン・メンケン&ハワード・アシュマンという黄金コンビの作成した曲に外れなしですね。ルミエールやコグワースなどお城の住人たちのキャラをより掘り下げる良い歌詞だと思います。メロディもキャッチーで耳に残ります。


ディズニーの‟王道”イメージを固めた作品

 ディズニーと言えば「昔のヨーロッパを舞台にしたお姫様と王子様のラブロマンス」というイメージが世間一般には今でも流布していることと思います。このブログでは以前から指摘してるように、実はこのイメージはあまり正しくありません。そもそもウォルト・ディズニー存命時代に作られた「プリンセスもの」のディズニー映画は『白雪姫』『シンデレラ』『眠れる森の美女』の3作しかありませんからね。しかし、それにも関わらず「ディズニーと言えばプリンセスもの」というイメージは大衆に流布しており、『美女と野獣』はそんな世間の「王道ディズニー」のイメージにぴったり合致する作品となっています。だからこそ、多くの観客の心を掴みヒットしたのだと思われます。

 すでに述べて来たように、『美女と野獣』では今までのディズニー映画のプリンセスにもあったラブロマンスの要素をより強化しています。ベルとビーストのキャラを掘り下げ、二人の恋愛模様を丁寧に描くことを通して、かつてのプリンセス映画では少々粗雑に描かれていた面もあるラブロマンスの要素を極限まで高めています。そういう新しい作風であるにも関わらず、舞台は昔のヨーロッパ(のフランス)であり、プリンセスとプリンスのラブロマンスが描かれているという点に、「王道ディズニー」のイメージを人々は見たのです。それゆえに、「王道の古典を踏襲していながら、その古典で不足していた要素を新しく強化してる」という点で『美女と野獣』はまさに「新しい古典」とも言うべき作品になったのです。そして、その後のディズニーの「王道」のイメージは『美女と野獣』を通して固められたのです。

 ディズニーの古典的名作を否定することなくむしろその伝統を継承しながらも、古典的名作たちでは不十分だった部分(恋愛要素)をしっかりと補うことで、それら古典的名作の上位互換として君臨した点に、この『美女と野獣』の素晴らしさがあるんだと思います。だからこそ、今でも本作品は「ディズニーの最高傑作」と言われているんでしょう。


魅力的なキャラクターたち

 名作と呼ばれるディズニー映画には魅力的なキャラクターがたくさんいるものです。この『美女と野獣』もその例外ではなく、魅力的なキャラクターが多数登場します。以下、各キャラクターについて語っていきたいと思います。

ベル

 本作品の主人公です。容貌は美しいけど、読書好きゆえに町のみんなからは変わり者と思われてるそんなキャラクターです。しかし、そんな周囲の目を気にすることもなく、ガストンやビーストに対してもしっかりと自分の意思を主張する芯の強い女性として描かれています。

 この点が、今までのディズニー映画のヒロインにはない新しい試みとしばしば言われることもありますね。いわゆる「ポリコレ」に配慮したキャラ設定になったと良く言われています。【ディズニー映画感想企画第28弾】『リトル・マーメイド』感想~本格的な第二期黄金期の始まり~ - tener’s diaryの記事でも述べた通り、僕はかつてのディズニー映画でもそういうヒロイン像は提示されていたと思ってるので、「ベルの登場でディズニーが初めて新しい時代のポリコレ価値観に配慮するようになった」みたいな発言にはあまり賛同できないのですが、ベルが芯の強い魅力的なキャラクターとして描かれていることは確かです。

 父モーリスやビーストのことを思いやる優しい心も持っているところも描かれており、そういう点も含めて理想的なヒロインだと思います。こういう魅力的なキャラクターとして設定されてるからこそ、中盤以降のビーストが優しさを見せるようになるのも納得できる展開になってるんですよね。狼に襲われたビーストの傷の手当てをベルがする過程が自然な展開として描かれることで、ビーストが徐々に丸い性格に変化していくその後の展開にも不自然さや唐突さをあまり感じないんですよね。理想的なヒロインだと思います。

ビースト

 ベルと並ぶ本作品のもう一人の主人公です。上でも述べましたが、『美女と野獣』がそれまでのディズニー映画のプリンセスものと大きく違う点は、このビーストのキャラ設定にあると思うんですよね。今までの完璧な王子様キャラとは違い、ビーストは欠点だらけの王子様と描かれています。また、見た目もハンサムで格好良いデザインではなく、文字通り「恐ろしい野獣」になっています。

 だからこそ、「見た目にとらわれない心の美しさ」をテーマとする本作品にふさわしいキャラクターになってるんですよね。見た目も心も恐ろしい野獣そのものだったビーストが、ベルと出会ったことで次第に優しい心を持つように成長していく過程が秀逸なんですよね。先述した通り"Something There"の曲に合わせてビーストの心境の変化が丁寧に描かれてるんですよね。

 登場当初こそ怒ってばかりで恐ろしい見た目だったビーストも、怒っている表情以外の顔を見せるようになり、視聴者も自然と親しみを持てるようになります。本作品に対しては「人間の変わる前のビーストの見た目の方が良かった」って意見をしばしば耳にしますが、それもそのはずなんですよね。ビーストが優しい性格に変化していく過程が作品内で丁寧に描写されたことによって、ベルと同様に視聴者も「ビーストの内面」に惚れるようになってるのです。それゆえに、それまではマイナス要因として働いていたビーストの見た目もプラス要因に変わったのです。

 「ハンサムな容姿の人間の王子様」ではなく「見た目は恐ろしいけど心の優しい野獣」に観客みんなが恋したことを、ラストの変身シーンで実感できるんですよね。この点が本当に秀逸です。魅力的な描かれ方をしてるキャラクターだと思います。

 後半からのビーストは本当に理想的なプリンスに変わっています。中盤でベルの幸せを思って彼女をお城から解放してあげたり、ラストで死にかけた際も最後までベルを思う言葉を重ねたりするなど、本当にベルを愛するようになったことが伝わるようなシーンがたくさん描かれてるんですよね。だからこそ、ベルだけでなくビーストもしっかりとこのラブロマンス物語の「主人公」の一人と言えるキャラになってるんです。『美女と野獣』というタイトルが表しているように、本作はまさに‟美女(ベル)”と‟野獣(ビースト)”のどちらもが主人公の恋物語なんですよね。

城の家臣たち

 本作品では、ルミエールやコグスワースやポット夫人など魅力的な脇役がたくさん登場します。当初の予定では城の住人はビーストだけにするつもりだったそうですが、それをやめてたくさんの家臣を登場させたのは良いアイディアだったと思います。彼らの登場のお陰で、"Be Our Guest"のような名曲シーンも生まれたうえ、城の中も賑やかで楽しいものになりました。エンディングでもベルとビーストの二人が彼らたくさんの家臣に見守られたことで、「大団円」って感じの幸せな雰囲気が漂っています。

 『リトル・マーメイド』でもそうでしたが、第二期黄金期のディズニー映画は「名脇役」の描き方が上手いんですよね。決して主役の存在感を食うほどのキャラにはしないけど、それでも物語の展開には必要不可欠な存在として描いています。ルミエールやコグスワースがいなければお城の中の雰囲気ももっと寂しくて暗いものになってたでしょう。前半でビーストに捕らわれて悲しむベルを慰める存在もいないことになります。ルミエールやポット夫人たちが、お城で一人つらい思いをしているベルの支えとなってくれたからこそ、前半の展開が過度に陰鬱になりすぎるのを防いでる面もあります。

 しかも、家臣たちそれぞれにしっかりと個性的な性格が付与されてるから、決して「キャラが多すぎて良く分からん」みたいなことにはならないんですよね。ルミエールとコグスワースの漫才コンビ、頼れるお母さんのポット夫人、無邪気で可愛らしいけどしっかり活躍も見せるチップ、部屋でベルを慰める洋服ダンス……などなどそれぞれにしっかりと個性があります。

 特に、僕はルミエールとコグスワースのコンビが好きですねえ。陽気で機転の利くお調子者のルミエールと、生真面目でお堅い性格のコグスワースの凸凹コンビは見ていて本当に楽しいです。こういう個性的で魅力的な「名脇役」の登場こそが名作ディズニー映画の特徴なんだなあと改めて実感させてくれます。

ガストン

 本作の悪役ですね。「ヒロインを自分の女にしようと企む脳筋ナルシスト野郎」というタイプの悪役はそれまでのディズニー・ヴィランズにはあまり見られないやや珍しいタイプだと思います。そのためなのか、ガストンはわりと日本のネット人気が高いキャラだと感じます。ファンタジー風の世界観にも関わらず魔法を使えない普通の人間が悪役であるという点では『シンデレラ』のトレメイン夫人にも通じるところがあります。実際、ガストンもトレメイン夫人とは別方向で非常に「人間らしい」悪役だと思います。

 「あー、こういうナルシストな野蛮人みたいな性格の人って現実にもいるよねえ、分かるなあ」という感想をガストンに対しては抱かせてくれるんですよね。先述した通り、彼のテーマソングである"Gaston"の曲は、そんな彼のリアリティーある「嫌なやつ」キャラを存分に表現した名曲になってます。この名曲のおかげでガストンはネットですっかりコミカルな「脳筋バカ」として定着しています。

 でも、ガストンってああ見えて後半からは結構狡猾なんですよね。精神科医を丸め込んでモーリスを人質にとる作戦を思いついたり、ベルがビーストに恋してることをすぐに見抜いて町の住民たちをビースト退治に扇動したりするなど、なかなかに狡猾で機転の利くキャラとして描かれています。だからこそ、終盤までの展開に緊迫感が増すんですよね。終盤のビーストとの戦いで「ベルは俺のものだ!!」とガストンが叫ぶシーンは、ガストンがどういう人物かが端的に表現された名シーンだと思います。ここのアクションの見ごたえは本当に圧巻です。

ル・フウ

 ガストンの手下キャラに近いポジションにいるのがこのル・フウです。ディズニー・ヴィランズの手下キャラのお決まり要素である「間抜けな手下」感はこのル・フウにも表れています。ガストンにしょっちゅう殴られてるのにも関わらず、終始ガストンのために尽くすル・フウは、悪役ではあるんですけどどこか憎めない魅力的なキャラになってると思います。僕はこのル・フウの「尽くす男」っぷりが結構好きなんですよね。

 まあ、モーリスを精神病院に入院させるガストンの悪だくみに参加したり、ガストンと一緒にビーストの城を襲撃したりと、普通に悪いことしてるやつではあるんですけどね。それでも、コミカルなキャラクターとガストンへの忠誠心の強さが作品内の至る所でうかがえ、なかなかに魅力的な「悪役の手下」キャラとして描かれている気がします。


フェアリー・テイル風の演出

 本作品のオープニングは、‟お伽話”風の演出になっています。『白雪姫』や『シンデレラ』などかつてのディズニー映画のプリンセスもののオープニングでは、絵本の映像とナレーションから始まる演出が採用されていました。『リトル・マーメイド』のオープニングではその方式は採用されていないのですが、『美女と野獣』では再びナレーションによるオープニングが採用されています。

 ナレーションから始まることで、『白雪姫』や『シンデレラ』などのようなディズニーの古典的名作と同様に、この『美女と野獣』も「フェアリー・テイル(お伽噺)なのだ」ということを視聴者に自然と意識させる演出になっています。こういう古典的名作を踏襲する演出がとられてる点も、本作品が「新しい古典」である所以なんだと思います。

 映像も、絵本こそ映されていませんが、ステンドグラスの絵が映されていることで絵本の絵を見ているような気持で見ることができます。本当に美しいオープニング映像だと思いますね。また、このオープニングで流れるBGMも耳に残る良い感じの音楽になっています。名曲です。


アクションシーン

 名作ディズニー映画には素晴らしいアクションシーンが大抵あるものです。本作品でもそれは終盤で見られます。ガストンに率いられた町の住民たちとビーストの城の住人たちが戦うシーンは、緊迫感のある素晴らしいアクションだと思います。コミカルなアクションとシリアスなアクションが両方とも見られるのが素晴らしいんですよね。

 ル・フウたち町の住民(ガストン除く)が、ルミエールたち城の家臣と戦うシーンはドタバタコメディって感じのシーンになっています。それまでの展開でお城の家臣たちの個性がしっかりと描写されてたからこそ、終盤で彼らが活躍するドタバタ風アクションが楽しくて嬉しいシーンになってるんですよね。特に、海賊帽をかぶったコグスワースがル・フウのお尻をぶっ刺すシーンが個人的に好きですね。ちょっと仲の悪いルミエールを助けるためにコグスワースが活躍したっていう点も萌えポイントです笑

 このコミカルなアクションシーンとは対照的に、ガストンとビーストのバトルは緊張感のあるシーンになっています。途中までの無気力なビーストをガストンが一方的にボコるシーンから、ベルの救援でビーストがやる気を出してガチバトルシーンに至るまで、全てのシーンがスリル満点でハラハラします。とても見ごたえのあるバトルだと思います。先述した通り、「ベルは俺のものだ」と叫ぶガストンのシーンが特に好きです。

 その後、優しくなったビーストがガストンを見逃すもガストンに後ろから刺される怒涛の展開にも目を見張るものがあります。一息つく暇さえない怒涛のアクションの連続が本当に素晴らしいです。終始画面に釘付けになります。


感動的なエンディング

 怒涛のアクションシーンが終わるとすぐに感動的なエンディングへと移ります。ガストンに刺されて死にかけるビーストとベルとの間の悲劇的な別れの会話から、呪いが解けてビーストが人間に戻るまでの展開はひたすら感動してしまいます。ボキャ貧なので「とにかく感動する」としか言いようがないのが悔しいです。

 この感動的なエンディングに至るまでの流れがあまりにも完璧すぎるので、全く文句のつけようがないんですよね。真実の愛を知ったことで呪いが解けて"Happy ever after"となる展開が、もう「ディズニー風フェアリー・テイル」の王道すぎて素晴らしいんですよね。心の底から幸せな気持ちになれる素晴らしいエンディングです。


納得の‟最高傑作”

 はい、ということでここまで映画『美女と野獣』の魅力を存分に語っていきました。もう、ホント、全てにおいて完璧な名作としか言いようの作品だと思います。この作品が「ディズニーの最高傑作」としばしば言われるのも当然だと思います。とにかく面白いし楽しいし感動します。

 最初から最後までベルとビーストの恋物語に没頭して物語を見続けられます。「見た目にとらわれない二人の愛」に心底感動できます。美しい音楽や映像に最後まで聞きほれるし見とれます。本当に「歴史に残る名作中の名作」としか言いようがないと思います。本当に至高の名作なんですよねえ。とにかく素晴らしいとか言いようがありません。大好きです。






 以上で、『美女と野獣』の感想記事を終わりにします。次回は『アラジン』の感想記事を書くつもりです。それではまた。

*1:ウォルト・ディズニー・カンパニーの本社の所在地です。

*2:魔法にかけられて』や『アナと雪の女王』など後世のディズニー映画では、昔のディズニー・プリンセス映画のこの不自然な点を自虐ネタにしてるぐらいです。

*3:ただし、一方でエリックがアリエルに恋するまでの過程はアリエルとの交流の積み重ねによるものでした。この点は次の『美女と野獣』へと繋がる要素となっているのかも知れません。