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てねーるのブログ記事です

【ディズニー映画感想企画第54弾】『ベイマックス』感想~マーベル原作のアメコミヒーロー映画~

 はい、ディズニー映画感想企画第54弾です。今回は『ベイマックス』の感想記事を書きたいと思います。最近東京ディズニーランドに『ベイマックス』の新アトラクションが出来たばかりなので、Dオタの間では今一番ホットな話題になってるディズニー映画の一つかもしれません。そんな『ベイマックス』について語っていきたいと思います。

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【基本情報】

マーベルとディズニー

 『ベイマックス』は2014年に公開された54作目のディズニー長編アニメーション映画です。原作は、マーベル・コミックによるアメコミ作品『ビッグ・ヒーロー・シックス』です。そうです。マーベルのコミック作品が原作なのです。マーベル・コミックと言えば、『アメイジングスパイダーマン』や『X-メン』など数々の有名なアメコミ作品を出版してるアメリカの超有名な漫画出版社です。2008年からは同じマーベル系列の映画製作スタジオであるマーベル・スタジオが『マーベル・シネマティック・ユニバース』シリーズ*1と呼ばれる一連の映画作品を制作していっては立て続けにヒットさせていました。特に、本作公開の少し前の2012年に公開したMCU作品『アベンジャーズ』の記録的大ヒットによって、マーベルは当時の映画界において王者とも言うべき地位に君臨してました。

 そんなマーベル・エンターテインメント*2ウォルト・ディズニー・カンパニーは2009年に買収したのです。このため、ディズニーはMCU映画や多数のマーベル・コミック作品の権利を手にしました。そして、買収後さっそくディズニーはマーベル・コミックの作品をディズニー長編アニメーションとして映画化することを企画したのです。ディズニーは数あるマーベル作品の中から『ビッグ・ヒーロー・シックス』をアニメーション映画化の対象として選びました。こうして、『ビッグ・ヒーロー・シックス』を原作とするディズニー映画『ベイマックス』の制作が始まったのです。

 ディズニーがマーベル作品をアニメーション映画化したのは本作が初めてです。というか、そもそもディズニーがアメコミをアニメーション映画化したこと自体、本作が初めてです。アメコミ風の作品ならば以前にも『ヘラクレス』をディズニーは作ってはいますが、あれもあくまでもアメコミ‟風”なだけで実際に何かしら具体的なアメコミ作品が原作にあったわけではありません。『ベイマックス』は、ちゃんとしたアメコミ原作のヒーローもの作品をディズニーが初めてアニメーション映画化した例なんですよね。

 上述した通り、当時は『アベンジャーズ』の大ヒットに象徴されるようにマーベル原作のアメコミヒーロー映画の全盛期でした。そんなに乗りに乗ってるマーベルを買収したディズニーが、MCUと同じようにウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオでもマーベル原作のアメコミヒーロー映画を作ったのはある意味で時代の流れだったとも言えるかもしれません。世はまさにアメコミヒーロー映画の時代だったのです。

 なお、余談ですが、本作はマーベル作品が原作というだけあって、なんとスタン・リー氏が声優として出演しています。スタン・リー氏と言えば、マーベル・コミックにて数多くのアメコミ作品の原作を務めた伝説的な大御所漫画家です。彼がマーベルで生み出した漫画作品は、『アメイジングスパイダーマン』『X-メン』『ファンタスティック・フォー』『アイアンマン』『アベンジャーズ』……などなど本当に多岐に渡ります。これらの名作を生み出したアメコミ界の巨匠であるスタン・リー氏が本作ではエンドクレジット後のおまけ映像でちょこっとだけ出演しているのです*3。マーベル原作だからこその嬉しいファンサービスですね。


日本との関係

 本作はディズニー映画初の「マーベル原作のアメコミヒーロー映画」であると同時に、ディズニー映画初の「日本が舞台の作品」でもあります。正確に言うと、サンフランシスコと東京を合わせたサンフランソウキョウという名の架空の都市が本作の舞台です。なお、原作の『ビッグ・ヒーロー・シックス』のほうはサンフランソウキョウではなく文字通り「日本の東京」が舞台で、メインとなるヒーローチームのメンバーも全員が日本人でした。それをディズニーは映画化に当たって原作改変し、舞台を東京ではなくサンフランソウキョウという架空の都市にしたり、ヒーローチームのメンバーにも白人や黒人などを加えたりしました。ようは、ちょっとアメリカ寄りの舞台設定にしたわけですね。

 とは言え、本作は原作と同じく日本風の要素を存分に詰め込んでいます。主人公のヒロ・ハマダは名前から分かるように明らかに日本人として設定されてますし*4、サンフランソウキョウの街の風景は日本風の建築物や看板などが多数登場します。また、本作に登場するロボットのベイマックスの顔のデザインは、日本の神社にある鈴をモデルにして描かれています。

 このように、『ベイマックス』は現代日本風の世界観をもとにした作品として当初から作られました。そんな作品だからなのか、本作は日本で公開されるに当たっていくつかの日本向けローカライズも行われました。そのひとつが、日本のエンドクレジットだけに登場する主題歌の追加です。本作では、日本でだけAI氏*5の"Story"という曲がエンドクレジットのシーンにて主題歌として使われました。この曲は本作の公開よりもはるか前の2005年にリリースされたJ-Pop曲であり、本作ではその歌詞を英語に変えたバージョンを日本版エンドクレジットで流したのです。これは日本限定のローカライズなので、本国アメリカで上映されたバージョンではこの曲はエンドクレジットのシーンで流れていません。

 他にも、本作ではエンディングの演出も日本上映版で変更されています。アメリカで上映されたバージョンには存在してたラストのセリフ及びタイトルロゴが日本で上映されたバージョンでは変わっているのです。この変更についてはネット上のディズニーオタクの間でかなり賛否両論の議論がありました。本作は邦題や日本での宣伝もかなりローカライズされており、エンディングの演出のローカライズもそれに合わせたゆえのことでした。

 具体的には、アメリカでの本作の原題は"Big Hero 6"*6ですが、日本ではそれを『ベイマックス』という邦題に変更しました。タイトルからヒーローという言葉がなくなったことで、アメコミヒーロー映画であるということが日本では伝わりにくくなったと言えるでしょう。さらに、アメリカではアメコミヒーローものであることを強調した宣伝がなされていたのに対し、日本ではどちらかというと本作を「泣ける映画」として宣伝しその感動要素を強調した広告戦略がとられました。

 もっとも、邦題が原題と大きく異なるディズニー映画は本作に限らず今までもたくさんありましたし*7、日本向けに宣伝の雰囲気を大きくローカライズ変更した事例も今まで良くありました*8。しかし、『ベイマックス』に関してはそのローカライズに合わせて上述の通り作品の中身であるエンディングまで変えてしまったため、日本のファンの間でかなり物議を醸す事態へと発展したのです。この点については僕も色々と思うところがあるので、後で個人的な意見を詳述します。

 なお、余談ですが本作はその他にも日本向けマーケティングの一環として日本の漫画版『ベイマックス』が連載されました。本作の前日譚を描いた特別読み切りが『週刊少年マガジン*9に掲載され、さらにマガジンの増刊号『マガジンSPECIAL』で本作のコミカライズ版が連載されました。わざわざ日本向けのコミカライズを作り日本の大手漫画雑誌で掲載した辺りからも、本作が日本向けのマーケティングにわりと力を入れていたことがうかがえるでしょう。日本が舞台で日本人が主人公である本作だからこそのことなんでしょうね。


第三期黄金期の継続

 本作『ベイマックス』も第三期黄金期の他のディズニー作品と同様に商業的に大成功を収めました。前作『アナと雪の女王』ほどの興行収入には達しなかったものの、本作も約6億6000万ドルという莫大な興行収入を稼ぎ出しています。依然としてディズニーは第三期黄金期の繁栄を謳歌していたのです。

 批評家からの評価も好評で、アカデミー賞の長編アニメ映画賞を受賞しました。ディズニー長編アニメーション映画がアカデミー賞の長編アニメ映画賞を受賞するのは前作『アナと雪の女王』に引き続き本作で2回目です。このように、本作は商業的にも批評的にも十分な名声を獲得し、第三期黄金期の作品として相応しい評価を得たわけです。




【個人的感想】

総論

 はい、本作『ベイマックス』についての感想ですが、僕はこの作品がかなり好きですね。やっぱり僕はこういう王道ド直球なアメコミヒーローものが大好きなんですよねえ。本作はヒーローものとしての王道テーマをしっかりと扱っている点が素晴らしく、それゆえになかなかに感動的な泣けるストーリーに仕上がっています。アメコミヒーロー映画ということでちょっとディズニー映画っぽくなさもありますが、実は扱っているメインテーマはかなりディズニーらしいと思うんですよね。また、ラセター体制下の第三期黄金期ディズニー作品らしく伏線回収等がかなり秀逸なwell-madeなストーリーになっている点も本作の魅力の一つでしょう。ストーリーだけでなく、アクション豊富なCG映像もまた素晴らしいです。

 以下、詳細な感想を語っていきます。


ヒーローものらしいテーマ

 上述の通り、本作はマーベルのアメコミが原作のヒーローものです。主人公ヒロを中心とするビッグ・ヒーロー・シックスというヒーローチームが誕生するまでの物語になっています。僕はアメコミヒーロー映画が大好きな人なので、アメコミヒーローの王道たるテーマを真正面から扱ってくれてる本作はそれだけでとても愛せるんですよねえ。

 本作は「人を救うこと」というヒーローの中心的役割を真正面から伝えるような内容になっています。多種多様なアメコミヒーローが世の中にはたくさんありますが、やはりアメコミヒーローの王道とも言うべき役割は「人助け」に他ならないでしょう。本作は、主人公ヒロが兄タダシの想い「人助け」を受け継いだことでヒーローへと成長していく、そんな成長物語になっています。「人助け」というヒーローの基本的行動指針の大切さを伝える本作は、まさに王道のヒーローものらしいテーマを描いてると言えるでしょう。

 本作は、この王道テーマを表現するために「ベイマックス」というロボットをキーアイテムに用いています。‟人を助ける”ためのロボットとしてベイマックスをタダシが作ったにも拘わらず、中盤までのヒロはそんなタダシの遺志を理解せずにベイマックスを復讐のための戦闘マシーンに改造しちゃうんですよね。しかし、最終的にヒロはちゃんとタダシがベイマックスに託した思いを理解し、「人助け」というタダシの遺志に沿った行動をとるようになります。このように、「ベイマックス」という重要キャラクターを通してヒーローにとって必要な理念をヒロがきちんと理解し成長していく様子が本作では秀逸に描かれており、そこが本作の大きな魅力になっていますねえ。


繰り返しの技法と自己犠牲

 しかも、ベイマックスがタダシの遺志を継いだロボットであることを表すために、本作では「自己犠牲」という要素を最初と最後とで繰り返し使っています。まず、前半でタダシが自分の身の危険を冒してまでキャラハン教授を助けに行ったシーンが描かれています。一方、終盤でヒロもキャラハンの娘を救うために装置の先の異次元世界へと危険を冒して飛び込んでいきます。

 この2つのシーンは見事に相似形になっています。ヒロは、終盤でタダシと同じく「誰かが助けないと」というセリフを吐いて人助けに向かうわけです。しかも、この時ヒロが助けようとしたのはかつてタダシが助けようとしたキャラハン教授の娘です。このように、この2つのシーンはかなり似たような要素を多分に含んでおり、それゆえに「自分の身を危険に冒してでも人助けをする」というヒーローの基本理念が改めて強調されて伝わるような作りになっているんですよね。

 このような「繰り返しの技法」を用いたストーリー作りは第三期黄金期のディズニー映画で過去何度も見られた特徴ですが*10、本作ではそれが特に上手く機能しています。本作のメインテーマを強調するためにその技法が使われているんですよねえ。しかも、「自己犠牲」で人を救うという行動を終盤でベイマックスにとらせることで、この「繰り返しの技法」はより一層際立っています。

 というのも、前半のシーンでタダシはキャラハンを救うために文字通り自分の身を犠牲にして、結果として亡くなってしまうわけですが、同じようにベイマックスもラストで自分の身を犠牲にしてヒロとアビゲイルを救うんですよね。どちらも自己犠牲精神を発揮して人助けに向かっているわけです。自分が完全に異次元に取り残されてしまうのにもかかわらずヒロたちを救おうとするベイマックスの自己犠牲精神は、前半で描かれたタダシの自己犠牲精神に通じるものがあり、ベイマックスがタダシの遺志を受け継いだロボットだと改めて実感できるような描写になっています。「自己犠牲」要素を通してタダシとベイマックスの共通点を繰り返し描き強調し、そうすることで「人助けの大切さ」をメインテーマとしてはっきり観客に伝えるような構成になっているのでしょう。良く出来たストーリーです。


テクノロジー礼賛

 本作は明らかにテクノロジーを褒めたたえるような内容になっています。ビッグ・ヒーロー・シックスのメンバーはほぼみな工科大学の学生であり*11、主人公ヒロもロボット工学の天才児という設定になっています。マイクロボットやベイマックスなど、タダシやヒロによって開発された最新のロボットが本作では大いに活躍し目立っていますし、ビッグ・ヒーロー・シックスの他のメンバーも各々の得意とする科学技術を駆使して戦闘しています。まさに、最先端のテクノロジーこそが本作ではメインの要素として機能してるんですよね。

 ヒロたちビッグ・ヒーロー・シックスはそんな科学技術を人助けのために使うヒーロー集団として描かれているのです。このような本作の「テクノロジー礼賛」姿勢は、本作が日本を舞台とする作品だからでもあります。実際、本作の監督を務めたドン・ホール氏*12は、「西洋の文化ではテクノロジーは敵対する悪として描かれてきたが、日本では逆にテクノロジーはよりよい未来のための道筋と捉えられており、この映画でもその考えを踏襲している」と述べています。「科学技術立国ニッポン」というイメージは今でも日本の対外的イメージとして根付いていますが、そのイメージを踏襲したようなテーマが本作でも描かれているということでしょう。

 僕も学生時代は工学部に在籍してた人なので、本作で描かれているこのような前向きなテクノロジー観にはとても強く共感できます。本作はヒーローの基本的行動指針である「人助け」の大切さを説くだけでなく、その人助けはテクノロジーの発展によって達成できるというメッセージも込められてるように感じます。亡きタダシは最先端のロボット工学研究を通してベイマックスというロボットを人助けのために開発し、ヒロたちビッグ・ヒーロー・シックスの面々もまた各々のテクノロジー研究を駆使して最新アイテムを開発し、「ヒーロー活動」という名の人助けのためにそのアイテムを用いてるのです。このように、「人のためになるテクノロジー」という考え方は、工学部出身である僕個人の考えにも非常に合致してるので、それだけで嬉しくなるんですよねえ。

 ところで、監督は本作のこのような‟テクノロジー礼賛”要素の原因を日本文化に帰していましたが、僕はそれだけではない‟ディズニーらしさ”もここから感じられます。確かに、上述の通り本作は日本人を主人公とする日本が舞台の作品であり、数々の日本的要素が盛り込まれています。監督自身も言ってるように、本作のテクノロジー賛美もそのような日本的要素の演出の一つとして当然捉えるべきではあるでしょう。しかし、このようなテクノロジーの賛美って実はかつてのウォルト・ディズニー氏の思想にもとても近いと思うんですよね。

 だって、ウォルト・ディズニー氏もまた常に最新のテクノロジーを追いかけ続け、自身の作るアニメーションやテーマパークにその最新のテクノロジーを次々と積極的に取り入れてきた人じゃないですか。カラーアニメーションやオーディオアニマトロニクスなど、ウォルトがいち早く取り入れて来た最先端テクノロジーの例は数えきれません。また、カルーセル・オブ・プログレ*13を通して、ウォルトはテクノロジーがいかに人類の生活を豊かにしてきたのかを伝えました。これらのことから容易に察せられるように、ウォルトもまたテクノロジーを人のために役立つものとしてかなり肯定的に捉えていたのでしょう。

 これは個人的な自分語りになりますが、僕が大学生時代に工学部に入った背景には、こういうウォルトのテクノロジー礼賛思想に影響を受けてたからという面もあります。昔からディズニーオタクとしてウォルトの生き様を追いかけていた僕は、テクノロジーに対するこういう楽観的な見方が自然と身についてたんですよね。だからこそ、本作でもテクノロジーに対するそのような肯定的思想が見られてとても嬉しかったんです。

 本作はアメコミヒーロー映画ということで、従来の伝統的なディズニー映画っぽくないという意見も時折耳にします。確かに、僕も本作はディズニー映画にしては珍しいタイプの作風だとは思います。しかしその一方で、本作は「テクノロジーを人の役に立つ存在として肯定的に捉えている」という点において、ウォルトの抱いていた思想に通じる非常にディズニーらしい作品であるとも言えるでしょう。僕は、一人のディズニーオタクとして本作のこのような‟ディズニーらしい”テクノロジー楽観論をとても好ましく思いますね。


感動要素とローカライズ

 上でも述べましたが、本作は日本ローカルでの宣伝方法について一部で物議を醸しだしました。本作の日本での宣伝はかなり「泣ける感動的作品」であることを強調し、逆に本作がアメコミヒーロー映画であることをあまり見せないような宣伝になっていました。そのため、この宣伝方法を「看板に偽りあり」とみなして非難する人も一部にはいました。

 しかし、僕は彼らと考えを異にします。僕は本作の日本ローカルでの宣伝方法に関してはわりと許容できると思っている立場です。一部の人たちみたいにこの件でウォルト・ディズニー・ジャパンを強く非難する気は僕にはないです。というのも、日本での宣伝の仕方もあながち間違ってはいないんですよね。だってこの映画は実際わりと「泣ける要素」満載の映画ですもん。本作は明らかにお涙頂戴シーンを作品のメインシーンに持ってきてますからね。だから、本作を「泣ける映画」として宣伝するウォルト・ディズニー・ジャパンの広報戦略はそんな「看板に偽りあり」というほどでは決してないです。

 実際、本作はかなり「泣ける映画」でもあるんですよね。僕は相変わらず涙腺が弱い人なので本作を見ては何度か泣きました。特に、タダシのベイマックス開発の様子の映像をヒロが見る中盤のシーン、ベイマックスが自分の身を犠牲にしてヒロを救い出す終盤のシーン、ヒロがベイマックスを改めて蘇らせて再会するラストのシーン……これらのシーンがやっぱり泣けますね。

 本作はタダシの形見としてのベイマックスとヒロとの間の絆がメインテーマの1つとして描かれており、だからこそベイマックスとヒロとの関係性の変化を通して、観客を上手く感激させるようなシーンが描けてるんですよね。それまでのベイマックスとヒロとの絆が深まる過程がしっかりと中盤までで描かれているからこそ、終盤でのベイマックスとの別れからの再会までのシーンがしっかりと泣ける感動的なシーンに仕上がっているわけです。

 そう考えると、本作の邦題が『ベイマックス』になってるのも大きくは外していないと思われます。もちろん、原題の"Big Hero 6"とはタイトルの意味するところが少し違ってきますが、本作において実際ベイマックスが重要キャラなのは間違いないでしょう。本作は、主人公ヒロがベイマックスを通してタダシの想いである「人助け」の大切さを学び、ベイマックスとの絆を深めながらヒーローとして成長していく、そんな物語になっています。明らかにベイマックスが本作のメインテーマの鍵を握る重要アイテムとして機能してるんですよね。なので、本作のタイトルを『ベイマックス』としても大きく間違いってはいないと僕は思いますね。

 そもそもこの手の邦題ローカライズは本作に限った話じゃないですし、本作の邦題は上述した通り本作の内容にそれなりに合致しているので、他のディズニー映画の邦題に比べても特にダメというほどのものではないでしょう。この点に関しては目くじら立てて非難するほどのローカライズだとは僕は思いません。


エンディングの日本ローカライズ

 ここまで本作の日本向けローカライズに関してそこそこ擁護意見を述べて来た僕ですが、特に本作において物議を醸した日本ローカライズはエンディングの内容でしょう。邦題を原題の"Big Hero 6"から『ベイマックス』に変えたものだから、それに合わせてエンディングを日本上映版では大きく変えるはめになりました。アメリカ本国で上映された本作のエンディングでは、最後にヒロが"Who are we?"というセリフを言い、それに合わせてビッグ・ヒーロー・シックスのメンバー全員の集合した映像*14が映し出され、その後に"Beg Hero 6"のタイトルロゴが大きく映し出されるという流れになっています。

 しかし、日本では最後に映し出されるタイトルの文字を『ベイマックス』に変えてしまったため、ヒロの"Who are we?"(僕たちは誰?)というセリフに対する答えとしては噛み合わなくなったんですよね。だって、ヒロやゴーゴーたちは「ベイマックス」ではないですもの。もとのタイトル"Big Hero 6"だったら、「私たちは誰?」というセリフに対する答えとして成立するのに、タイトルを変えちゃったものだから、その受け答えが成立しなくなってしまいました。そのため、日本上映版では辻褄を合わせるために、吹き替え版では"Who are we?"のセリフを「ベイマックスと共に」というセリフに変え、字幕版では"Who are we?"のセリフを全カットするという変更を加えました。

 この変更が当時大きく物議を醸したのです。で、この変更に関しては僕もちょっと擁護できないなあと思います。というのも、作品そのものの内容とはあんまり関係ない外部の宣伝方法などが弄られるならばともかく、日本版とアメリカ版とで作品の内容そのものが違うというのはちょっと困りものでしょう。特に、吹き替え版だけならまだしも字幕版を変えたのはやり過ぎな気がするんですよね。僕もそうですが、吹き替え版よりも字幕版を好んで見る層っていうのは、できる限り本国で上映されたオリジナルのバージョンを見たいと思うから字幕を見るわけです。それなのに、本国上映版で存在してたセリフをカットするという仕打ちを受けたら満足度は当然下がるでしょう。これじゃあわざわざアメリカに行って映画を見ない限り日本に住む僕らは完全なオリジナルのバージョンを見れないことになります。本国オリジナル版と同じものを観れると期待して字幕版を観たのに、実は違うものだったなんて分かったら完全に期待外れも良いところです。

 以上の理由で、僕は本作のエンディングについての日本ローカライズにはわりと否定的な感想を持っています。ただ、今回のエンディング改変はそれでもかなり些細な変更に留まってくれてはいるので、できればやって欲しくはないですけどギリギリ許容できなくもないかなあとも思わなくもないです。まあ、この辺りは程度問題ですかね。これ以上あまりにも大きな変更を加えすぎるとさすが日本ローカライズ版への評価を大きく落とさざるを得ませんが、この程度ならばごくごく小さな減点に留まるという感じです。もちろん、どちらにせよ減点箇所には変わりないので、できればこういう変更はないほうが望ましいんですけどね。


ミステリー仕立てのストーリー

 本作でもサプライズ・ヴィラン*15が登場するのですが、このサプライズ・ヴィランの描き方はわりと上手いです。少なくともどんでん返しに唐突さを感じた前作『アナと雪の女王』のサプライズ・ヴィランよりは上手く描かけてると思います。ミステリー的なストーリーの作りがとても上手いんですよねえ。ちゃんとしたミステリー作品を読んでるかのような正統派なミスリードと伏線を作ってくれています。

 具体的には、謎の仮面の男「ヨウカイ」の正体を巡って上手くミステリーが組み立てられています。まず、序盤でマイクロボットを複製する謎の仮面の男ヨウカイを登場させて、観客に「謎」を提示してくれています。そして、中盤ではその正体は恐らくクレイだというミスリードまで観客に与えます。このミスリードの与え方が上手いんですよね。ヨウカイがアジトにしていた島でクレイがかつて実験していた映像を見せることで、彼が犯人だというミスリードを観客により強く確信させるような仕掛けになっています。

 だからこそ、そのすぐ後でヨウカイの正体が実はクレイでなくキャラハンだと分かったときのサプライズがより強くなるんですよね。しかも、前作『アナと雪の女王』での種明かしと違って、単なるサプライズ目当てのどんでん返しに終わらず、しっかりと伏線を張り巡らしてあるので真相に納得感が出ています。前半での爆発事故のシーン、マイクロボットというキーアイテムの機能、クレイのかつての実験で行方不明になった女性……etc。これらが全て伏線となってちゃんと事の真相に説得力を与えてくれてるんですよね。

 「なるほど。キャラハン教授はマイクロボットによってあの爆発事故を生き延び、そのマイクロボットを使ってクレイへの復讐をするつもりだったのだ」ということが分かるようなストーリー展開になっています。この一連の真相にこれといった不自然さは感じられず、その点で前作よりは秀逸なミステリー的どんでん返しになっているなと感じました。次作『ズートピア』もそうなんですが、この頃のディズニー作品はこういう秀逸なミステリー仕立てのストーリーがかなり目立つ作品になっていますね。特に本作『ベイマックス』と次作『ズートピア』はそれが顕著です。ちゃんとしたミステリー風のwell-madeなストーリーがこれらの作品の魅力の一つになっています。


ヴィランのキャラ設定

 ついでに言うと、本作はヴィランのキャラ設定もまた秀逸だと思います。ちゃんと本作のメインテーマに沿ったヴィランになってるんですよね。というのも、本作のヴィランであるキャラハンは、まさに闇堕ちした時のヒロとそっくりのキャラになっているからです。

 本作のメインテーマは上で述べたように「人助け」というタダシの想いに集約されるでしょう。そして、そのテーマの裏返しとしてヒロが中盤まで行おうとしてた「復讐のために人を傷つける行為」を本作は明確に否定しています。そう考えた時、キャラハンの行動もまた「復讐」が目的でありその目的にためにクレイを殺そうとしていたという点で、キャラハンは中盤のヒロの写し鏡のような存在になってるんですよね。

 娘を失った悲しみから復讐に燃えそのためにクレイを殺そうとしたキャラハンの行動は、兄タダシを亡くした悲しみから復讐に燃えキャラハンを殺そうとした中盤までのヒロにそっくりです。本作はそんなヒロやキャラハンの行為を否定し、タダシが行おうとしていた人助けの大切さを説いています。だからこそ、復讐に目が眩んだキャラハンを悪役として描いてるんですよね。本作の核となるメッセージを伝える上で相応しい悪役のキャラ設定だと思います。


迫力あるアクション映像

 本作はまたアニメーション映像の面でも大きな魅力を持っています。「良いディズニー映画には良いアクションシーンが付き物」というのは以前から僕が何度も繰り返し言ってきたことですが、本作は歴代ディズニー映画の中でも特にアクションシーンが豊富なほうです。何と言っても本作はアメコミヒーロー映画ですからね。ヒーローものに相応しいド派手なアクションシーンが存分に堪能できる仕様になっています。

 まず序盤からしてタダシのバイクに乗ってロボットファイターたちから逃げるアクションシーンが見られますからね。その後も、廃工場でのマイクロボットからの逃走シーン、埠頭でのマイクロボットから車で逃げるカーアクションシーン、パワーアップしたベイマックスに乗ってサンフランソウキョウの街を飛び回るシーン、島でのヨウカイとの戦闘シーン、クレイ社のビル前でのキャラハンとのラストバトル……etcなどなど、様々なアクションシーンが本作では堪能できます。

 これらのアクションシーンがどれもかなり迫力満点で見応えあるんですよねえ。特に、マイクロボットの動きが個人的にかなり秀逸だと思います。小さなロボットが複数集まって自由自在に形を変えられるという設定は、かなり戦闘アクションに向いてるんですよね。マイクロボットの生み出す多種多様なアクションが本作の戦闘シーンをかなり面白い映像に仕上げてくれています。マイクロボットのおかげで視覚的な新鮮さのあるアクション映像を生み出してくれてるんですよね。かなり迫力ある良質なアクション映像になっていて素晴らしいです。


その他映像面と日本らしさ

 本作はアクション以外のアニメーション映像も素晴らしいです。本作の映像面で特に注目すべきはベイマックスのキャラ造形でしょう。本作の制作ではHyperionという新しいソフトウェアが開発され、このソフトウェアによってベイマックスの透き通った輝きを持つCG映像を可能にしました。実際、ベイマックスのビニル肌からうっすらと透ける光の感じが非常にリアルなんですよね。ディズニーの最新のCG技術を用いて、素晴らしくリアリティのある映像を実現できてると思います。

 また、本作はサンフランソウキョウの街並みの映像もまた綺麗で素晴らしいです。サンフランシスコらしさを感じさせる路面電車*16や大きな橋*17が描かれてる一方で、日本っぽさを感じさせる五重塔や提灯や鯉のぼりなども多く出てきて、それらが違和感なく上手く調和してるんですよね。

 特に、中盤でベイマックスに乗ったヒロがサンフランソウキョウの街を飛び回るシーンがありますが、この時に映し出されるサンフランソウキョウの映像がめちゃくちゃ綺麗です。夕日に輝く雲とサンフランソウキョウの街並みのコントラストが非常に綺麗で幻想的な映像を生み出してくれています。うっとりするような眺めです。ラーメン屋の屋台や寿司職人のでかい人形や日本風家屋など、日本っぽさを感じさせるアイテムもこの時にしっかりと映し出されていて、本作の「日本舞台っぽさ」を上手く演出してくれています。

 本作ではサンフランソウキョウの街の風景映像以外にも日本っぽさを感じさせる演出が至るところで見られます。主人公のヒロやその兄タダシだけでなく序盤に登場するロボットファイターのヤマなど、日本風の名前を持つ日本人キャラクターが本作には何人か登場します。モチという名前の三毛猫のペットが登場するのも、本作の日本らしさの演出の一環でしょう*18。また、日本語表記の広告や装飾などを本作の背景では多く見かけますが、これも本作における日本らしさの演出になっていますね。

 他にも、ヨウカイ*19の装着していた仮面が歌舞伎マスクと呼ばれていたり、ベイマックスを戦闘マシーン化する改造をヒロが施す際に空手を参考にしていたりと、日本っぽさを感じさせる演出が本作ではかなりたくさん見られます。それらの演出によって、本作ではエキゾチックな日本っぽい世界観を存分に感じられるようになっています。こういう世界観に関する演出の豊富さも本作の魅力の一つでしょう。


音楽

 本作はミュージカル作品ではありません。そのため、本作には劇中歌は"Immortals"の1曲しか流れません。この"Immortals"はアメリカの有名なバンドグループであるフォール・アウト・ボーイが歌っており、かなりシンセっぽい雰囲気が目立つ格好良い良曲に仕上がっています。この曲はビッグ・ヒーロー・シックスのメンバーがそれぞれ自分たちの技術を生かしてヒーロー用のアイテムを開発するシーンで流れるんですが、電子音の目立つロックっぽい曲調が本作のハイテク感溢れる作風に見事に合致してるんですよね。

 この曲はエンディング後のクレジットシーンでも再び流れますが、ここの演出もまた素晴らしいんですよね。クレジットシーンで映し出されるアメコミ風のイラストとこの曲の格好良いロックっぽさが良い感じに合っています。サンフランソウキョウの日本っぽさとサンフランシスコっぽさを感じさせる街並みがアメコミ風イラストで改めて描写される演出も好きですねえ。

 また、このエンドクレジットのシーンでは、上述した通り日本上映版‟のみ”ですがAI氏の"Story"という曲が"Immortals"の後に流れてます。この曲は、さっきまで流れてた"Immortals"とは打って変わってかなりしっとりした感動的なバラード曲になっています。この日本ローカライズに関してもネットだと賛否両論ありますが、僕はこれに関しては良い演出だと思うのでアリだと感じます。

 上のほうでも述べましたが、本作は日本の宣伝で強調されてた「感動」要素も十分に兼ね備えた作風になってると僕は思ってるので、その感動要素を補強するような"Story"の曲をエンドクレジットで流す演出は、本作の作風にもぴったり合う良い演出だと思いますね。この曲のおかげで僕はしんみりした後味の良さを感じながら本作の視聴を終えることができました。泣ける映画としての本作の魅力を高めてくれる良曲ですねえ。僕は涙もろいのでこの曲が流れたシーンでもがっつり泣きました。


あらゆる面で僕好みの名作

 ここまで本作『ベイマックス』の感想を述べてきましたが、やはり僕は本作も文句なしの名作だと思いますね。何と言っても本作はかなり僕好みの要素が多いんですよねえ。まず、アメコミヒーローものが大好きな僕にとって、「人助け」を強調する本作の王道ヒーローものらしいテーマは非常に心を鷲掴みにさせられました。また、日本らしさとディズニーらしさを共に感じさせる本作のテクノロジー賛美思想も、工学部出身の僕の思想に見事に合致していて非常に好ましいです。このように、本作はまずそのメインとなるテーマの部分で非常に僕の好みに合っているんですよねえ。

 しかも、ストーリーの構成がミステリー仕立てになってる点も非常に僕好みです。ミステリーが大好きでwell-madeなストーリー作りに強く魅かれがちな僕としては、本作の上手く出来たミステリー仕立ての謎解き展開には感心させられました。また、アメコミヒーローものの映画に付き物なアクションシーンも僕の大好物であり、本作はそのようなアクションシーンが非常に豊富だったのでその点も嬉しかったです。涙もろい僕にとっては感動シーンでがっつり泣かせてくれる演出になってた点も良かったですね。

 そんなわけで本作はかなり僕好みの作品であり、かなりの名作だと僕は思ってますね。本作もまた第三期黄金期ディズニーの名作群に入れるに十分相応しい作品でしょう。僕はめちゃくちゃ大好きです。







 以上で『ベイマックス』の感想記事を終わりにします。次回は『ズートピア』の感想記事を書く予定です。それではまた。

*1:以下、MCUと略します。

*2:マーベル・コミックやマーベル・スタジオなどのマーベル系列会社全てを束ねている親会社です。

*3:フレッドの父親としてラストに登場した男性の声を務めています。

*4:余談ですがこの主人公ヒロの声を演じたライアン・ポッター氏も日系アメリカ人だそうです。

*5:『ハピネス』などの曲で知られる日本の有名な歌手です。

*6:原作となったアメコミと同じタイトルです。

*7:ビアンカの大冒険』『オリビアちゃんの大冒険』『塔の上のラプンツェル』『アナと雪の女王』『シュガー・ラッシュ』……etcなどなど、挙げればキリがありません。これらは全て原題が邦題と大きく異なるディズニー映画です。

*8:例えば『塔の上のラプンツェル』の宣伝もアメリカのと日本のとでは結構違っています。

*9:言わずと知れた日本の超有名な漫画雑誌です。

*10:第三期黄金期のディズニー作品において「繰り返しの技法」がいかにうまく使われてきたかについては【ディズニー映画感想企画第48弾】『ボルト』感想~第三期黄金期の復活の兆し~ - tener’s diary【ディズニー映画感想企画第49弾】『プリンセスと魔法のキス』感想~第三期黄金期の始まり~ - tener’s diaryの記事を参照してください。

*11:正確には、フレッドだけは違いますが。

*12:以前『くまのプーさん』(2011年版)の監督を務めた人でもあります。

*13:ウォルトが1964年のニューヨーク万博で出すために開発し、現在はフロリダのウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートに置かれてる有名なアトラクションです。科学技術の発展の歴史を紹介する内容のアトラクションになっています。

*14:この記事の上のほうで張り付けてる画像のうち2枚目がそれです。

*15:サプライズ・ヴィランの定義については【ディズニー映画感想企画第47弾】『ルイスと未来泥棒』感想~新たなる体制の始動~ - tener’s diaryの記事で説明してるので、そちらを参照してください。

*16:サンフランシスコに実際あるサンフランシスコ・ケーブルカーという有名な路面電車がモデルだと思われます。

*17:サンフランシスコに実際あるゴールデン・ゲート・ブリッジという有名な橋がモデルだと思われます。

*18:当然、「モチ」という名前は日本語の「餅」に由来していると思われます。なお、余談ですが、実はこのモチという飼い猫キャラクターについては製作段階でロボット化するアイディアが何度も持ち上がっていたそうです。日本の有名キャラクターであるドラえもんにあやかった猫型ロボットを登場させたかったかららしいのですが、結局このアイディアは紆余曲折の末に最終的に却下されました。

*19:当然ですが、ヨウカイという名前も日本語の「妖怪」に由来してると思われます。