tener’s diary

てねーるのブログ記事です

【ディズニー映画感想企画第49弾】『プリンセスと魔法のキス』感想~第三期黄金期の始まり~

 ディズニー映画感想企画第49弾です。今回は『プリンセスと魔法のキス』の感想記事を書きたいと思います。この作品は日本でこそややマイナーですが、アメリカでは第三期黄金期ディズニーの代表作の一つとしてめちゃくちゃ有名です。そんな『プリンセスと魔法のキス』について語っていきたいと思います。

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【基本情報】

久しぶりのプリンセス

 『プリンセスと魔法のキス』は2009年に公開された49作目のディズニー長編アニメーション映画です。原作は、アメリカの作家E.D.ベイカー氏による子供向け小説『カエルになったお姫様』(原題は"The Frog Princess")です。そして、この原作の小説自体もグリム童話の『かえるの王さま』のパロディ的な話になっています。つまり、本作『プリンセスと魔法のキス』自体もグリム童話『かえるの王さま』に基づいた話であると言えます。そう。本作は童話原作の作品ってことになるんですよね。しかも、そのタイトルから容易に察せられるように「プリンセス」が主人公の物語です。久しぶりに「童話原作のプリンセスもの」をディズニーがアニメ化したというわけです。

 「童話原作のプリンセスもの」のディズニー映画と言えば、第1作の『白雪姫』に始まり『シンデレラ』『眠れる森の美女』『リトル・マーメイド』『美女と野獣』などすでにたくさん例があります。そして、多くの人にとって「童話原作のプリンセスもの」はディズニー映画の主流イメージになっているものです。まあ、実はディズニー映画のうち「童話原作のプリンセスもの」ってそんなに圧倒的多数派というほど多くはないんですけど、それでも世間一般では「ディズニー映画と言えば童話原作でプリンセスが主人公」という印象が強いのも事実です。つまり、「童話原作のプリンセスもの」というのは世間一般のイメージする「ディズニー映画の伝統」とも言えるわけで、そんな伝統路線に本作は久しぶりに回帰したんですよね。

 これまでの記事で見て来た通り、2000年代暗黒期のディズニー映画はわりと「従来のディズニー映画らしくない」奇を衒った作風の作品が多く、「童話原作のプリンセスもの」のディズニー映画は10年以上公開されていませんでした。いわゆる「西洋の童話原作のプリンセス主人公の作品」ということならば『美女と野獣』以来なので約18年ぶりですし、もっと広く非西洋圏の物語も含めた「ディズニー・プリンセスが登場する作品」でカウントしても『ムーラン』以来*1なので約10年ぶりです。それぐらい久しぶりに、ディズニーは伝統的な「童話原作のプリンセスもの」路線に回帰したのです。

 これまでの記事で述べて来た通り、本作もいわゆる「ラセター体制」下で作られた作品であり、この体制の当時の特徴の1つとしてこのような「伝統回帰」の姿勢が挙げられます。「ディズニーの王道を外れた作品」ばかりを2000年代暗黒期に作って衰退してしまった当時のディズニー・アニメーションを立て直すため、ジョン・ラセター氏の加入後のディズニーではこのような「ディズニーの伝統・王道への回帰」が図られたという訳です。個人的に、このような「伝統回帰」の姿勢こそがこの後の第三期黄金期におけるディズニー躍進の一因なんじゃないかなと思っています。


本格的なミュージカル路線への回帰

 「童話原作のプリンセスもの」路線への回帰という点以外にも、本作には様々な「伝統回帰」の要素があります。例えばミュージカル路線への回帰もその一つです。ディズニー映画のミュージカル路線は、短編アニメーションの時代に始まり1950年代の第一期黄金期や1990年代の第二期黄金期においても導入された、まさしく「ディズニー映画の伝統・王道」とも言える要素になっています。

 しかし、これまでの記事で見て来た通り2000年代暗黒期のディズニー映画の多くはミュージカル要素の少ない作品でした。劇中歌が1~2曲程度(作品によっては0曲)しかなく、非ミュージカル作品と言って差し支えない作品が多かったのです。この時期にも『リロ・アンド・スティッチ』や『チキン・リトル』のように劇中歌が比較的多い作品も一部ありましたが、それらの作品でも劇中歌を歌っているのは作品内のキャラクターではなく、その点で『白雪姫』や『美女と野獣』のようなタイプの「ブロードウェイ風ミュージカル」とは異なっていました。『白雪姫』『シンデレラ』『リトル・マーメイド』『美女と野獣』など、歴代の有名なディズニー映画ではどれも登場キャラクター自身が劇中歌を歌っていましたからね。2000年代暗黒期の作品で登場人物自身が歌うミュージカルシーンがあったのは『ホーム・オン・ザ・レンジ にぎやか農場を救え!』と『ラマになった王様』ぐらいでしょう。その2作についても劇中歌の数はそんなに多くなかったですしね。

 しかし、本作『プリンセスと魔法のキス』ではなんと劇中歌が7曲も存在します。しかもかつてのディズニー映画の名作たち同様に登場キャラクター自身が歌う劇中歌となっています。つまり、本作はディズニー映画の伝統的な要素である「ブロードウェイ風ミュージカル」路線に本格的に回帰したわけです。この点でも本作は「伝統回帰」の作品だと言えるでしょう。

 ちなみに、本格的なミュージカル作品である本作の音楽制作を担当したのはランディ・ニューマン氏です。彼は"Short People"などの曲で知られるアメリカの有名な歌手です。1995年に『トイ・ストーリー』の主題歌"You've Got A Friend in Me"を歌って以降は『バグズ・ライフ』『モンスターズ・インク』『カーズ』など数多くのピクサー映画の音楽制作に携わり、ピクサー御用達の作曲家としても知られていました。そんなランディ・ニューマン氏が今回はピクサーではなくウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオのほうの音楽制作に携わったのです。

 実は当初の予定ではランディ・ニューマン氏ではなくアラン・メンケン*2が音楽制作に携わる予定だったのですが、この少し前の2007年に公開されたディズニーの実写映画『魔法にかけられて』でアラン・メンケン氏が作曲を担当したばかりのため、同じような音楽の繰り返しになることを恐れたジョン・ラセター氏はアラン・メンケン氏以外の人に音楽を担当させようと考えたそうです。そんな訳で、ピクサー出身のジョン・ラセター氏はピクサー御用達の作曲家のランディ・ニューマン氏を本作の音楽制作に携わらせたのです。


手描き2Dアニメーションの復活

 「プリンセスもの」「ミュージカル作品」という点以外にも本作の伝統回帰要素はあります。それが「手描き2Dアニメーションの復活」です。【ディズニー映画感想企画第45弾】『ホーム・オン・ザ・レンジ にぎやか農場を救え!』感想~懐古趣味に溢れた作品~ - tener’s diaryの記事で述べた通り、2004年の『ホーム・オン・ザ・レンジ にぎやか農場を救え!』を最後にウォルト・ディズニー・カンパニーは手描き2Dアニメーションからの撤退を発表しました。実際、2005年の『チキン・リトル』以降のディズニー映画ではフル3DCGの作品が続いています。しかし、2006年にジョン・ラセター氏がウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオの制作担当のトップに就任すると*3、彼はこの決定を覆させて伝統的な「手描き2Dアニメーション」をディズニーに復活させたのです。

 手描き2Dアニメーションからのディズニー撤退時にディズニーを去っていたアニメーターたちの多くをラセター氏は改めて呼び戻し、『ホーム・オン・ザ・レンジ にぎやか農場を救え!』以来の5年ぶりとなる手描き2Dアニメーション作品を『プリンセスと魔法のキス』で実現したのです。さらにジョン・ラセター氏は、当時すでにディズニーを退社していたジョン・マスカー&ロン・クレメンツのコンビを再び呼び戻して本作の監督にしました。彼らは『リトル・マーメイド』『アラジン』『ヘラクレス』『トレジャー・プラネット』などの監督を務めたディズニーの大御所監督コンビで、第二期黄金期の立役者の一員として当時知られていました。そんな彼らをジョン・ラセター氏は再び呼び戻したわけです。こうして、本作は『トレジャー・プラネット』以来7年ぶりのジョン・マスカー&ロン・クレメンツの監督コンビによる作品となりました。


新しい要素も

 これまで述べて来た通り、本作はラセター体制の「伝統回帰」路線が強く出た作品でした。しかし、その一方で本作には伝統とは違う「新しい要素」もあります。その1つとして、舞台が昔のヨーロッパ風の世界ではなく1920年代のニューオーリンズに設定されていることが挙げられるでしょう。「ヨーロッパの童話原作のプリンセスもの」でありながら、舞台がヨーロッパではなくアメリカ国内で、しかも1920年代というわりと近現代の時代設定がなされています。舞台となったニューオーリンズはもともとアメリカのディープサウスを代表する有名な観光地として知られていますが、ディズニー的にはアナハイムのディズニーランド内のエリアの一つ「ニューオーリンズ・スクエア」*4のモデルとなった都市としても有名です。つまりアナハイムのディズニーランドを訪れている人にはお馴染みの都市でもあるんですよね。本作はそんなディズニーオタクお馴染みの都市を舞台にした作品なわけです。

 また、1920年代のニューオーリンズが舞台ということもあって本作は黒人プリンセスが主人公なのですが、その点も本作の新しい点として主にリベラル系の人から本作がしばしば注目される一因となりました。非白人のディズニー・プリンセスはこれまでもポカホンタスやムーランなどが存在しますが、黒人のプリンセスが主人公のディズニー映画は本作が初です。というか、黒人が主人公のディズニー長編アニメーション映画自体、本作が初めてです*5。それゆえに、ディズニーが新たに黒人主人公の物語を作ったのだという点に注目する声は当時から多く聞こえました。


あと一歩惜しい興行収入

 これまで見て来た通り、本作は様々な「伝統回帰」姿勢といくつかの「新しさ」を交えた結構な力作でした。ジョン・ラセター氏率いる新体制のウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオは本作が大ヒットすることを期待していました。しかし、本作はディズニーが事前に予想していたほどの興行収入は稼げませんでした。と言っても、2億ドルを優に超す興行収入を稼いでるので2000年代暗黒期のディズニー映画たちと比べると十分に「ヒット」したと言える水準なんですけどね。あくまでも「期待していたほどの特大ヒットではなかった」というだけの話であって、興行的には十分「成功作」と言える売り上げを達成しています。

 本作の興行収入がそこまででもなかった理由として、ディズニー側は公式に2つの理由を推測して発表しています。1つ目の理由は、本作の公開から約1週間後に公開されたジェームズ・キャメロン監督の映画『アバター』が爆発的にヒットしたせいで、そちらに客を奪われたからというものでした。本作と同時期に公開されたこの『アバター』は、当時世界中の歴代全ての映画の興行収入ランキングで1位を獲得したほどですからね*6。そんな歴史的大ヒット作と公開時期がかぶってしまったのは運が悪かったと言えるでしょう。

 もう1つの理由は「タイトルにある‟プリンセス”という単語のせいで女の子向けだと思われ男性客から敬遠された」というものです。この分析が果たして正しいのかは僕には判断できませんが、とにかくそのような分析をしたディズニーはその反省を生かして、その後のディズニー映画のタイトルを「プリンセス」っぽく感じさせないようなものに変更しました。具体的には、"Rapunzel"を"Tangled"*7に、"The Snow Queen"を"Frozen"*8に変更しました。


第三期黄金期の始まり

 ディズニー側が期待していたほどではなかったとは言え、本作『プリンセスと魔法のキス』は十分に高い興行収入を稼ぎました。しかも、Rotten Tomatoesの点数などからもうかがえる通り本作はかなり高い評価を批評家や一般観客から受けています。実際、その評価の高さゆえに本作はアカデミー賞の長編アニメーション部門にノミネートされています*9。さらに、アカデミー賞の歌曲賞にも本作の劇中歌が2曲ノミネートしました*10

 そのため、現在アメリカでは後の『塔の上のラプンツェル』や『アナと雪の女王』並みに有名なディズニー作品として知られています。そう、本作ってアメリカでは普通にめちゃくちゃ有名なんですよね。日本では依然として『プリンセスと魔法のキス』の知名度ってやや低いんですが、アメリカではディズニーのテーマパークで本作のキャラクターが頻繁に登場しているぐらいには有名です*11。日米間での知名度の差がかなり大きいディズニー映画の1つだと言えるでしょう*12興行収入こそ「期待以下」ではありましたが、それでもその後のアメリカのディズニーランドやディズニーグッズなどでの本作の露出度の多さも考えると、アメリカでは本作は十分に大ヒットしたと言っても過言ではないでしょう。

 それぐらいヒットしたため、しばしばこの『プリンセスと魔法のキス』からディズニーは「第三期黄金期」を迎えたと言われています*13。この『プリンセスと魔法のキス』以降のウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオは『塔の上のラプンツェル』や『アナと雪の女王』や『ズートピア』などのヒット作を次々と連発していき、まさに「黄金期」と言うべき繁栄を取り戻すことになるからです。『シンデレラ』公開に始まる1950年代の第一期黄金期や『リトル・マーメイド』公開に始まる1990年代の第二期黄金期に引き続き、三度目の黄金期をディズニーは迎えることになるのです。そんな2010年代のディズニー第三期黄金期の始まりとしても本作は知られているんですよね。




【個人的感想】

総論

 さて、この『プリンセスと魔法のキス』ですが僕も文句なしの名作だと思います。第三期黄金期の始まりを告げるに相応しい傑作でしょう。僕らの知っている昔ながらの感動的な王道ディズニー映画がようやく帰って来た!そんな気分にさせてくれる映画です。上で述べて来たような「伝統回帰」の点が、僕みたいな保守的なディズニーオタクにとってはかなり嬉しいんですよねえ。そのうえで適度に新しい要素を入れることで陳腐さもしっかり回避しています。「核となる部分の伝統を維持したうえで新しいアレンジを加える」というのが第三期黄金期のディズニー作品の特長だと僕は思っているのですが、本作もそのような作品に仕上がっています。そこが素晴らしいんですよね。

 以下、詳細な感想を述べていきます。


王道のラブロマンス

 本作は「童話原作のプリンセスもの」のディズニー映画として、ディズニーの古典的名作を彷彿とさせるような王道要素があります。『白雪姫』『シンデレラ』『眠れる森の美女』『リトル・マーメイド』『美女と野獣』などなど歴代の「プリンセスが主人公」のディズニー映画では、王道というべき「ラブロマンス」要素が必ずありました。本作もその例に漏れずティアナとナヴィーンのラブロマンスが一つのテーマになっています。

 そもそも真正面からラブロマンスを扱ったディズニー映画自体がかなり久しぶりですからね。第二期黄金期ではほぼ全ての作品において主人公の恋愛描写が描かれていたのに対し、2000年代の暗黒期では主人公の恋愛要素が皆無の作品が圧倒的多数だったんですよね。そんな中でこの『プリンセスと魔法のキス』は久しぶりに王道の恋愛要素を描いてくれて、第二期黄金期の伝統にディズニーが回帰してくれたことを実感させてくれるような作品になってるのです。僕のような保守的な懐古厨ディズニーオタクにとってはそれだけでもう感無量なんですよね。

 本作はそのラブロマンス要素がきちんと王道風に描けています。ティアナとナヴィーンという最初は正反対の性格でいがみ合ってばかりだった二人が仕方なく一緒に冒険をするはめになり、その旅の過程の中で次第にお互い魅かれ合うようになるという展開は、ベタではありますがそれゆえにいつ見ても安心できる王道の面白さがあります。こういう王道な恋愛ストーリーが好きな自分にとって本作のストーリーは実に素晴らしいんですよね。後述する通り、ティアナとナヴィーンのキャラ設定がまたそれぞれ良く出来ているので、その二人が恋愛関係に発展するまでの展開もきちんと自然な流れに感じられるんですよね。だから、正攻法の上手な王道ラブストーリーって感じで見ることができます。


セルフパロディと王道

 本作は色々な意味で「伝統回帰」の作品ではありますが、その一方でそのような「ディズニーの伝統」を揶揄するようなセリフや展開が作品内で頻繁に出てきます。このディズニーによるセルフパロディ演出は本作の少し前に公開された実写映画『魔法にかけられて』を彷彿とさせます。しかし、そういうある種の「自虐ネタ」を展開しながらも最終的には従来のディズニーの伝統や核となる精神を肯定するような展開に落ち着くところが素晴らしいんですよね。

 ようは、アンチ・ディズニーの逆張り屋が主張しがちな「ディズニー批判」を敢えて自虐的に作品内で取り上げつつ、これらの主張に反論するようなストーリーを展開していくことで最終的には「それでもディズニーの王道って素晴らしいでしょ」という流れに持って行くわけです。言うならば「逆張りに対する逆張り」としての「王道の再評価」を行っているわけです。「伝統回帰」が特徴の本作らしい展開だと言えるでしょう。

 具体的には、例えば主人公ティアナのキャラがそうです。序盤から彼女はグリム童話の『かえるの王さま』の話を聞いて「カエルになんかキスしたくない」という感想を言っています。典型的な「プリンセスもののファンタジー」に憧れるシャーロットとは対照的な性格として描かれているんですね。さらに彼女は「星に願うだけでは夢はかなわない。努力しないと」という思想を持ち、「恋愛なんか後回し」と考えています。「星に願う」という部分は完全に『ピノキオ』のパロディですし、恋愛になんかかまけてられないと言うティアナの考えは従来のディズニー映画のラブロマンスに対するアンチテーゼのように感じます。実際、そのような意図を明確に持って描いてるのだろうと思います。

 そんな「アンチ・ディズニー」的な考えの持ち主だったティアナが、ママ・オーディの言う「必要なこと」すなわち「愛」の大切さに気付きナヴィーンと恋愛関係に至るわけですねえ。そういうふうに、本作は「愛」という「ディズニーの伝統的王道テーマ」に対する「逆張り逆張り」を通してその伝統を再評価するつくりになっているわけです。こういう展開が僕みたいな保守的なディズニーオタクにとってはたまらなく嬉しいんですよねえ。

 その他にも、「王子様とお姫様のキスで魔法が解ける」という設定や「時計の鐘が鳴る深夜0時までが期限」という設定など、本作は「世間のイメージするディズニー映画のお決まり」を敢えて意図的に取り入れているところがあります。そういう従来のディズニーの「王道」を敢えて取り入れたうえでそれを意図的にちょっと崩した変化球にしています。「深夜0時の期限」にはギリギリで間に合わないし、「キス」も1回目の時点では魔法は解けませんでした。しかも、終盤にはティアナもナヴィーンもカエルのまま生きていくことを受け入れた状態で2人ともカエルのまま結婚しだします。こういうちょっと「変化球」的な展開を挟みながらも、最終的には「キスで二人とも人間に戻る」という王道のハッピーエンドで終わらせてくれるのが素晴らしいんですよね。

 他にも、魔術師の悪役ファシリエが「この世を支配するのは魔術じゃなくて金だ」と敢えて言うシーンも、世間のイメージする「ディズニーあるある」の一つである「魔法」要素へのセルフパロディ的なネタになっています。こういう「セルフパロディ」的な小ネタは『アナと雪の女王』などその後の第三期黄金期のディズニー作品でしばしば見かける特徴でしょう。ディズニーの伝統を理解してるからこそ、敢えてそれを茶化してネタにする手法が上手いんですよね。感心します。


キャラクター

 本作はディズニーの伝統を感じさせてくれるような、それでいながら新しさも少し感じさせてくれる、そんなキャラクター描写が全体的になされています。メインの2人も脇役も悪役も全てが理想的なんですよねえ。以下、個々のキャラについて語っていきます。

ティアナ

 本作の主人公でありメインヒロインです。先述したように少し「アンチ・ディズニー」的な考えを持ちながらも、「夢に向かってひたむきに頑張る主人公」って感じで好感度の高い性格が設定されています。夢を見ながらひたむきに頑張る姿勢はシンデレラのような往年の王道プリンセスを彷彿とさせつつも、「恋愛なんか興味ない」という姿勢が伝統的なディズニー・プリンセスともまた少し違っていて新鮮味のあるキャラ付けになっています。そういう「王道要素」と「新しい要素」を兼ね備えたプリンセスだと言えるでしょう。

 先述の通り、そんな「恋を知らない」彼女が最終的にはナヴィーンと王道のラブロマンスを育むストーリーが素晴らしいんですよねえ。伝統と新時代の折衷という感じのキャラ設定がなかなかに魅力的であり、第三期黄金期にふさわしい理想的なディズニー・プリンセスだと思います。伝統的なディズニー・プリンセスと比べた時に分かるティアナの「新しい点」としては、彼女もまた「欠点のある存在」として描かれている点も挙げられるでしょう。本作は、上述の「アンチ・ディズニー」的な「恋愛軽視」思想を持つティアナが、「必要なこと」としての「愛」を見つけるまでの成長物語でもあるんですよね。

 プリンセスが愛を育むディズニー映画は今までもたくさんありましたが、実はプリンセスが人間的な意味での「成長」を遂げるディズニー映画は本作が初だと思うんですよね*14。白雪姫もシンデレラもオーロラもアリエルもベルもジャスミンも、みんな登場当初から性格や思想はわりと一貫して完成されているキャラです。一方、本作はティアナを「必要なこと(愛)の大切さにまだ気付けていない未熟な少女」として描いていて、そんなティアナが「愛」を知って成長していく過程が描かれているわけです。このように、プリンセスを「成長の余地がある」欠点のある人間として描いた点が本作の魅力の一つであり、それゆえにティアナが非常に「人間味あるキャラ」に感じられるんですよね。素晴らしいです。

ナヴィーン

 本作のプリンスです。このプリンスのキャラもわりと今までのディズニー映画では見かけない新しいタイプですね。王家の人間ではありながらも軽薄な遊び人の放蕩息子として親から勘当されているというキャラ設定がなされています。このように、プリンセスのティアナだけでなくプリンスのナヴィーンのほうも「成長の余地のある」欠点のある未熟な人間として描かれているわけです。本作はティアナだけでなくそんなナヴィーンの成長物語でもあるわけですね。

 プリンス側が成長する物語はこれまでも『美女と野獣』や『アラジン』などの例がありましたが、ナヴィーンはビーストやアラジンともまたちょっと違うタイプのキャラなのでそこが新鮮に感じて良いんですよね。軟派でチャラい性格の怠け者だったナヴィーンがティアナに恋することで「愛」というものの大切さを知り、彼女のためにひたむきに頑張ろうと成長する展開には王道的な感動があります。本作はティアナもナヴィーンもともに「愛」を学ぶ成長物語になってるんですよね。まさに、ディズニーのプリンセスものの伝統である「ラブロマンス」の要素を中心的なテーマに据えた物語だと言えます。そこが非常に素晴らしいです。

ルイスとレイ

 本作の名脇役キャラです。間抜けなギャグ要員のルイスと有能でロマンチストのレイのコンビは、『リトル・マーメイド』のセバスチャンとフランダーのコンビのような名脇役だと思います。人間に交じってジャズを演奏することに憧れるワニのルイスは本作のコミカル要素を担当するキャラであり、良い感じの笑いをもたらしてくれます。こういうコメディ担当がいると空気が適度に和むので良いですねえ。

 一方で、レイは夜空の星をエヴァンジェリーンという名のホタルだと思って恋するロマンチストなホタルです。ティアナとナヴィーンをママ・オーディのところまで案内したり、ファシリエの悪だくみに気付いて首飾りを奪ったりと、かなり有能な活躍をしてくれています。しかも、最後にはファシリエに踏みつぶされて亡くなってしまうというなかなかに悲劇的なキャラでもあるんですよね。それまでの彼の活躍ぶりや協力の様子がしっかり描写されているからこそ、彼の最期に泣けるんですよねえ。ディズニー映画で主要なキャラが死んだ例はそれまでもいくつかあったとは言え、初めて見た時はレイの死はなかなかに意外で衝撃度が高かったです。死んだレイが星となってエヴァンジェリーンの隣に並んだかのように見える演出も情緒があって素敵です。感動します。

 また、ルイスとレイはそれぞれ「ニューオーリンズ」舞台の作品らしいキャラ設定がなされています。その点も素晴らしいです。ルイスはニューオーリンズ発祥の音楽であるジャズが大好きなワニという設定ですし、レイもフランス語訛りの言葉を話すケイジャン*15っぽいキャラ設定がなされています。後述するように、こういう「舞台設定を生かした魅力」も本作にはあると思うんですよね。なお、余談ですがルイスとレイの名前はそれぞれルイ・アームストロング*16レイ・チャールズ*17からとられているそうです。

ファシリエ

 本作の悪役です。本作はこの悪役のキャラもめちゃくちゃ良いんですよ。久しぶりに正統派の「ディズニー・ヴィランズ」の一人って感じのキャラなんですよね。彼は歴代の有名なディズニー・ヴィランズ同様に邪悪な‟魔術師”としての要素を持ち合わせています。しかも、動機が純粋なる金目当てという同情の余地のなさや妙に小物臭い言動の数々など、第二期黄金期の有名ディズニー・ヴィランズたちを彷彿とさせるキャラになっています。具体的には、ジャファーやスカーに近いキャラだと思います。細かな手つきの動作などの仕草が妙にエロく感じる点もジャファーやスカーを彷彿とさせますね。

 しかも、アースラやスカーなど第二期黄金期のディズニー・ヴィランズ同様に彼は自身のヴィランズ・ソングも歌っているわけで、そういうところにも「伝統的なディズニー・ヴィランズ」っぽさを感じます。今までの黄金期ディズニー映画の特長の1つである「魅力的な悪役」が本作で再び返ってきた点も、本作を第三期黄金期の始まりとして位置付けるに相応しい理由の1つでしょう。こういう伝統回帰の点が僕には嬉しく感じるんですよね。

 しかも、それでいながら歴代のディズニー・ヴィランズとはそれなりに差別化した描写がされているので、決して二番煎じなキャラにはなっていないんですよねえ。例えば、ファシリエの影が本体から独立して自由に動く設定は、今までになかった新しい絵的な面白さを本作のアクションに提供しています。なお、話が若干ずれますけど、この自由に動く影の設定って能力バトルものの作品で出てきたらわりと強キャラになりそうな便利能力だなあと僕は思ってたりします笑。

その他脇役

 ママ・オーディのキャラもなかなかに面白いですね。本作のメインテーマである「必要なこと」をティアナとナヴィーンに教える重要キャラになっています。ちょっと剽軽なふるまいをするけど含蓄ある言葉を教えてくれる「人生の教師」的なポジションとして、きちんと観客の印象に残るキャラになっています。

 そして、個人的に本作でかなり好きな脇役がシャーロットですね。王子との恋を夢見る金持ちのお転婆お嬢様という彼女の設定はティアナと対照的なキャラになっており、ともすれば「嫌な奴」キャラとして描写されそうなものなのに、本作では敢えてそういう描写はせずにティアナを思いやる良き親友として善玉ポジションに彼女を据えています。とても意外性があって良かったです。『名探偵コナン』の鈴木園子みたいな立ち位置なんですよね、彼女って。ディズニー映画にこういう「園子」的なキャラが登場するのは地味に新鮮味を感じたので良かったです。わりと好きなキャラですねえ。


ニューオーリンズという舞台

 先述の通り本作の舞台は1920年代のニューオーリンズです。ニューオーリンズと言えばアメリカを代表する観光地の一つであり、本作にはそんなニューオーリンズの「観光プロモーションビデオ」的な面白さもあるんですよね。僕は本作を見る度にいつも、めっちゃニューオーリンズに旅行したくなります。

 例えば、ガンボ*18ベニエ*19といった代表的なニューオーリンズ料理の数々、この地の名物となっているお祭りニューオーリンズマルディグラ*20ミシシッピ川の蒸気船*21、バイユー*22の幻想的な風景、街を走る路面電車*23……etcなどなど、本作では観光地ニューオーリンズの魅力がたくさん描かれています。

 そして、後述するミュージカル要素でも本作はニューオーリンズっぽさを全面に出しています。何と言ってもニューオーリンズは「ジャズ」発祥の地として知られていますからね。本作の劇中歌のうちいくつかはそんなニューオーリンズらしくジャズ風の曲として流れています。ルイスのジャズ好き設定もニューオーリンズが舞台だからこその設定ですしね。

 また、ファシリエやママ・オーディの使うヴードゥー*24の魔術もまたニューオーリンズらしい要素です。ディズニー映画のプリンセスもののファンタジーにおいて「魔法」が出てくるのは良くあることであり本作もその伝統に乗っ取っているのですが、本作はその伝統的な「魔法」要素をヴードゥーにすることで、ニューオーリンズらしさを演出し他のディズニー作品と差別化しています。ここでもニューオーリンズという舞台の魅力を感じさせてくれます。


繰り返しの技法

 前の記事【ディズニー映画感想企画第48弾】『ボルト』感想~第三期黄金期の復活の兆し~ - tener’s diaryにて「繰り返しの技法」が前作の魅力の一つになっていたと述べましたが、本作でもその技法の上手さは健在です。伏線の張り方が上手くなったのは本作も含めた第三期黄金期のディズニー作品の特長ですねえ。

 例えば、カエルになったナヴィーンが「ヌルヌルじゃなくて粘液だ」と言うシーンが前半にあります、後半でのファシリエとの対決の際に再びティアナが同じセリフを言うんですね。しかもこのシーンでは、中盤のシーンでナヴィーンやティアナが虫を食べようとして行った「カエルらしい行為(舌を伸ばす)」を再びティアナが行い、それがファシリエ打倒に繋がっています。こういうふうに、前半で出された要素を後半にもう一度繰り返し出すという「伏線回収」の仕方が上手いんですよね。本作の魅力の一つだと思います。


アニメーション映像

 本作はディズニーにおいて5年ぶりの手描きアニメーションです。その映像のクオリティは非常に高いです。かつての第二期黄金期の名作の絵たちと比べても全く引けをとらない映像が本作では見られます。例えば、バイユーの自然の映像なんかかなり美しいです。綺麗な水の映像表現などに「さすがディズニーだなあ」と感心します。『ライオン・キング』や『ターザン』などで美しい自然の映像を表現してきたディズニーだからこそ成せる芸当でしょう。とても綺麗なバイユーの映像に感動します。

 他にもニューオーリンズの街並みやキャラクターデザインなども非常に伝統的なディズニーらしさを感じさせる絵になっており、「第二期黄金期のクオリティが戻った」と安心させてくれます。クオリティの高い綺麗なアニメーション映像が非常に滑らかにぬるぬると動く動画は、まさにディズニーの伝統的な十八番ですからね。僕は懐古厨のディズニーオタクなのでとても嬉しくなります。

 本作のアクションシーンは若干地味なんですが、それでもこの高クオリティのアニメーション映像のおかげで満足できるレベルの映像に仕上がっています。バイユーでワニの群れから逃げるシーンや、カエルを捕まえようとする三人組の猟師から逃げ回るシーンなど、目まぐるしく動くアクション映像のクオリティに感心します。個人的に、影の魔物が登場するアクションシーンが好きですね。先述したように、影の動きが絵面的に面白いんですよね。新鮮なアニメーション映像になっていて見応えがあります。


音楽

 先述の通り、本作は久しぶりにがっつりミュージカル要素があります。劇中歌もかなり豊富で、「ミュージカル映画としてのディズニー映画」が好きな僕みたいな人にとってはそれだけ満足度がだいぶ高くなります。しかも、どの曲も本作の舞台であるニューオーリンズらしさを感じさせてくれるんですよねえ。その点でも名曲揃いです。以下、1曲ずつ見ていきます。

Down in New Orleans

 オープニングとエンディングで流れる名曲ですね。アカデミー賞の歌曲賞にノミネートされただけあってかなりの名曲だと思います。オープニングではドクター・ジョン*25が、エンディングではアニカ・ノニ・ローズ氏*26がそれぞれ歌っており、どちらの歌声も素晴らしいです。ドクター・ジョン氏の歌声は渋くて格好良いし、アニカ・ノニ・ローズ氏の歌声は声量が凄まじくて感動するんですよね。

 僕はブラスの音が大好きなんですけど、この曲のブラスはもう最高ですね。エンディングでルイスが演奏しているトランペットの音とかすごく好きです。そして、イントロなどで鳴り響くピアノの音もお洒落なんですよねえ。トランペットやトロンボーンなどの大きく響く音とピアノの落ち着いた音が良い感じに調和しています。聴いていて楽しくなる名曲だと思います。

Almost There

 こちらもアカデミー賞歌曲賞にノミネートされた曲です。こっちはピアノの音がさっき以上にお洒落に響くタイプのジャズです。ティアナの歌うテーマソングなんですが、やっぱりアニカ・ノニ・ローズ氏は歌が上手いですねえ。はっきりと耳に残る声量の凄さに圧倒されます。隠し味の飾りみたいな感じでちょいちょい入って来るブラスの音も結構好みです。落ち着いた気分にさせてくれる名曲ですねえ。

 この曲が流れるシーンでは映像の画風が少し変わりちょっと平面的なモダンアートっぽくなっていますが、この演出も僕は好きです。曲自体がちょっとレトロモダンな雰囲気がするので、この絵柄がそうした曲の雰囲気に合ってるんですよねえ。このアールデコ風の映像は、実際に1920年代に活躍した画家アーロン・ダグラス氏の絵を参考にしたらしいです。どこか懐かしさを感じさせるレトロモダンでお洒落な良い絵だと思います。曲のお洒落さと合わさってなかなかの名シーンに仕上がってます。

Friends on the Other Side

 本作のヴィランズ・ソングです。本作では久しぶりにがっつり正統派のヴィランズ・ソングが出たんですよねえ。個人的に、ディズニー・ヴィランズの歌う曲としてはアースラの"Poor Unfortunate Souls"やスカーの"Be Prepared"に並ぶ名曲だと思います。ファシリエを演じる俳優のキース・デイヴィスの歌声が渋くてエロくて格好良いんですよねえ。声量も凄まじくて感心します。

 曲自体もヴードゥーの魔術っぽい不気味さが全面に漂っていてすごく好きです。特にこの曲の後半部分は、「カラフルで賑やかなのにめちゃくちゃ不気味」な雰囲気になっていて、それがすごく良いです。"Transformation Central"とファシリエが叫びながらヴードゥーの儀式を実行していくシーンは、曲・映像ともにすごく盛り上がる怪しさがあってかなり印象的です。同じような曲と映像が劇の終盤にてファシリエが死ぬシーンでも流れますがこちらも同じような不気味さがあって癖になるシーンです。

When We're Human

 ルイスと一緒にバイユーを冒険するシーンで流れる曲ですね。この曲は劇中でルイスの吹くトランペットの音がすごく良いんですよねえ。このトランペットを実際に吹いているのはあのテレンス・ブランチャード氏です。彼は数々の映画音楽に携わったニューオーリンズ出身の有名なトランぺッターで、そんな彼の吹くトランペットの格好良い音色がこの曲では存分に聞こえてくるんですよねえ。このトランペットの音に合わせて一緒に流れるナヴィーンのウクレレも良いです。ストリングの心地良い音がすごく好みです。トランペットの音同様に楽しくなる音だと思います。

 このシーンではこの楽しいジャズ曲に合わせて、先述したバイユーの美しい自然風景のアニメーション映像が映し出されているんですよねえ。この映像と音楽の組み合わせによりバイユー冒険の楽しさが全面に感じられる名シーンに仕上がってると思います。

Gonna Take You There

 レイの歌うザディコ曲です。ルイジアナ州はジャズだけでなくザディコという音楽ジャンルも有名ですからね*27ケイジャン風の蛍のレイが芋虫をアコーディオンに見立てて演奏するこの曲は、少し短いですが楽しさと懐かしさを存分に感じさせてくれる良曲になっています。一緒に映し出される夜のバイユーの幻想的な映像もまた素晴らしいです。

Ma Belle Evangeline

 ティアナとナヴィーンのダンスシーンで流れるロマンチックな曲です。『シンデレラ』しかり『美女と野獣』しかり、ディズニー映画のプリンセスものにおいてロマンチックなダンスシーンは欠かせないですからねえ。この曲もなかなかにロマンチックで幻想的な曲になっています。前の曲と並んで夜のバイユーの幻想的な曲に合っている曲です。

 この曲に合わせて流れるダンスシーンは従来のプリンセスものと違って、カエルの姿のままダンスするという絵的に珍しい映像になっています。その視覚的な目新しさがまた面白いんですよね。カエルならではの大ジャンプや水中での動きも交えたダンスがちゃんとロマンチックな雰囲気のもとで映し出されています。

Dig a Little Deeper

 ママ・オーディのテーマソングですね。これはめちゃくちゃアップテンポで盛り上がる名曲でしょう。曲の終わりにちょっと歌うアニカ・ノニ・ローズ氏の声量が相変わらず凄まじくて感動します。あと、この曲は低音のベース音が隠し味的な感じで良い働きをしてくれてる点も好きですね。ついベースの音に注目してしまいます。それとドラムの音もかなり目立っていて好きです。聴いてるだけでとにかく楽しくなるような名曲なんですよね。

 一緒に流れるアニメーション映像も伝統的なディズニー映画のミュージカルシーンに通じる賑やかな映像になっていてとても楽しいです。ママ・オーディと一緒にたくさんの動物たちが踊りまくる映像は豪華さや賑やかさを感じさせてくれてます。特に、曲の終盤クライマックスに流れる映像が綺麗で僕は好きですねえ。たくさんのガラス瓶がイルミネーションみたいにキラキラ光っていて、ディズニーの培ってきたアニメーション技術の神髄を感じる美しい映像に仕上がっています。素晴らしいです。

Never Knew I Needed

 これはミュージカルシーンで流れる劇中歌ではなく、エンドクレジットのところでのみ流れた曲ですね。この曲はあのニーヨ氏*28が歌っています。個人的にこの曲もかなり好きなんですよねえ。ニーヨ氏の歌声がすごくエモくて素晴らしいです。正統派なポップスのバラードって感じの曲で聞きごたえあります。本作のような王道ディズニー映画の鑑賞後のロマンチックな気分にぴったりな名曲だと思います。


黄金期の始まりに相応しい名作

 ここまで述べて来たように、本作は「プリンセスもの」「本格ミュージカル」など伝統的なディズニー映画の要素を存分に感じさせてくれるとともに、今までのディズニー映画とは少し違う新しい要素も入れてくれています。そのバランス加減が素晴らしく、しかもその試みがきちんと成功しています。文句なしの名作と言えるでしょう。単に新しい奇抜なことだけを試していた2000年代暗黒期とは違い、ちゃんとディズニー・アニメーションの伝統を意識してその伝統に回帰したうえでトッピング程度に新規性を少しプラスするという姿勢が見えただけで僕はもう嬉しくなっちゃいましたね。

 もちろん、本作には若干の難点もなくはないです。例えば、良く言われる欠点としては「カエルの姿のシーンが長すぎる」という点が挙げられるでしょう。確かに、ティアナもナヴィーンも劇中の大部分をほぼカエルの姿で映ってるんですよね。ぶっちゃけカエルってビジュアル面で敬遠する人がわりと多いので*29、カエルのシーンが多いのはその点で損をしてるでしょう。実際、ディズニーが当初期待していたほどの興行収入を本作が得られなかった一因はそこにもあるんじゃないかなと僕は思っています。まあこれは完全に僕の憶測に過ぎないのでちゃんとした根拠があるわけではないですけどね。

 とは言え、その程度の欠点なんか全く気にならないぐらいには本作はかなりの名作だと僕は思います。王道のラブロマンスを全面に感じさせてくれるストーリー、魅力的な登場キャラクターの数々、ニューオーリンズという舞台設定の魅力、名曲揃いの音楽と懐かしの正統派ミュージカル要素、往年の輝きを感じさせる高クオリティのアニメーション映像……などなど、本作には十分に魅力的な要素が多すぎます。そんなわけで、本作はまさに「第三期黄金期」の始まりを告げるに相応しい名作中の名作だと言っても過言ではないでしょう。個人的にはかなり大好きな作品の一つですね。






 以上で『プリンセスと魔法のキス』の感想記事を終わりにしたいと思います。次回は『塔の上のラプンツェル』の感想記事を書く予定です。それではまた。

*1:まあ『ムーラン』の主人公ムーランは作品内の設定ではプリンセスじゃないんですが、現在のディズニー社による公式見解ではムーランも「ディズニー・プリンセス」扱いされているので一応含めます。

*2:『リトル・マーメイド』を始め第二期黄金期以降のディズニー音楽作曲を多数担当したディズニー御用達の作曲家です。

*3:この経緯については【ディズニー映画感想企画第47弾】『ルイスと未来泥棒』感想~新たなる体制の始動~ - tener’s diaryの記事も参照してください。

*4:カリブの海賊」や「ホーンテッドマンション」などのアトラクションがあるエリアです。

*5:黒人が主人公のディズニー映画ということならば本作以前にも『南部の唄』や『ホーンテッドマンション』などの実写映画がありますし、脇役として黒人が登場した長編アニメーション映画も『アトランティス 失われた帝国』などの例がこれ以前にあります。

*6:なお、その後『アベンジャーズ/エンドゲーム』が『アバター』の興行収入を抜いたため、2020年10月現在の世界歴代映画興行収入ランキングでの『アバター』の順位は2位になっています。

*7:邦題は『塔の上のラプンツェル』です。

*8:邦題は『アナと雪の女王』です。

*9:ただし受賞は逃しました。この年の受賞作は『カールじいさんの空飛ぶ家』でした。なお、前作『ボルト』も長編アニメーション部門でノミネートされていました。

*10:ただしこちらも受賞は逃しています。この年に受賞したのは『クレイジー・ハート』でした。

*11:僕も2020年の3月にアナハイムのディズニーランドに行ってきましたが、そこのショーやパレードやグッズやキャラグリなどに本作のキャラクターが頻繁に登場しているのを目にしました。その登場頻度は『ふしぎの国のアリス』や『リトル・マーメイド』や『アラジン』など往年の名作とほぼ並ぶレベルだったと記憶しています。

*12:なお、日本での知名度が低いというのはあくまでも非ディズニーオタクも含めた一般的な知名度においての話であり、日本でもディズニーオタクの間では本作はめちゃくちゃ有名です。むしろディズニーオタクの間では「常識」扱いされがちな作品ですらあります。

*13:前の記事【ディズニー映画感想企画第48弾】『ボルト』感想~第三期黄金期の復活の兆し~ - tener’s diaryでも述べましたが、本作ではなく前作『ボルト』や次作『塔の上のラプンツェル』を第三期黄金期の開始時点として扱う人もいます。

*14:プリンス側が成長を遂げる作品ならばこれまでも『美女と野獣』や『アラジン』などの例がありました。

*15:ケイジャンとはニューオーリンズやその周辺地域に住んでいるフランス系の人々を指す呼称です。ニューオーリンズを中心とするルイジアナ地域はかつてフランス領だったので、今でもその名残でフランス系住民が一定数いるんですよね。

*16:ニューオーリンズ出身の伝説的なジャズ・ミュージシャンですね。「サッチモ」のあだ名でも知られています。更なる余談ですが、彼はウォルト・ディズニー氏から依頼を受けてジャズ風にアレンジしたディズニーソングのアルバムを出したことがあります。そういう点でディズニーともちょっとした縁のある人です。

*17:ソウル・ミュージックのパイオニアとして知られるアメリカの有名なミュージシャンです。

*18:劇中でティアナの得意料理として登場していたオクラのスープです。実際にニューオーリンズの名物料理の一つです。

*19:ティアナがウェイトレスとしていたレストランで提供されていたお菓子です。これもニューオーリンズの名物料理です。

*20:劇中に登場したあの祭りです。仮装したり山車で練り歩いたりするお祭りで、リオのカーニバルなどと並ぶ世界の有名な祭りの一つです。

*21:ナチェズ号などが有名です。ニューオーリンズに流れるミシシッピ川を航行する蒸気船は実際に今でもこの地の観光名物の一つになっています。なお、世界中のディズニーテーマパークにある蒸気船マークトウェイン号もこのミシシッピ川の蒸気船がモデルになっています。

*22:ニューオーリンズ郊外に広がる湿地帯のことです。劇中ではルイスやレイやママ・オーディと出会った場所ですね。実際、あの辺りはワニの生息地としても有名です。

*23:この路面電車も実際にニューオーリンズの観光名物として知られています。

*24:ヴードゥーとは元々は西アフリカで信じられた民間信仰・宗教の一種であり、奴隷貿易を通してハイチやニューオーリンズの黒人社会にも伝わりました。ヴードゥー教と言えばゾンビが出てくる宗教としても有名ですね。

*25:ニューオーリンズ出身の有名なジャズ・シンガーです。

*26:ティアナの声を演じている俳優です。

*27:ルイジアナ州ルイジアナクレオール語話者の間で主に発展した音楽ジャンルの一つです。ルイジアナクレオール語とはフランス領時代のこの地域でフランス語から発展した言語のことです。そんなフランス領時代にルーツを持つ人々の間で発展した音楽がザディコです。アコーディオンを良く用いるのがこの音楽の特徴ですね。

*28:アメリカの超有名な歌手ですね。自身が歌うだけでなく他のミュージシャンに楽曲提供したりと、音楽プロデューサー的な活動も目立つ人です。

*29:主人公のティアナ自身もカエルが苦手という設定でしたしね。