tener’s diary

てねーるのブログ記事です

【ディズニーで学ぶアメリカの歴史と文化】第1弾:ニューオーリンズという街

 本日はいつも書いてるディズニー映画感想企画とは少し異なる趣旨の記事を書こうと思っています。今回の記事はディズニー関連ブログのアドベントカレンダーに参加させていただく形で書くものになります。

adventar.org

 上のアドベントカレンダーはもう何年もやってる毎年恒例の企画らしいのですが、僕自身はディズニー関連ブログを始めてからまだ日も浅いため今回が初参加となります。そこでツイッターで以下のアンケートを取って今回の記事の内容を決めました。

 ということで、この記事から新シリーズ【ディズニーで学ぶアメリカの歴史と文化】というものを始めたいと思っています。このシリーズはその名の通り、ディズニーを通してアメリカの歴史や文化について学んでいこうという趣旨のものです。そもそも、ウォルト・ディズニー氏自身が熱心なアメリカの愛国者でもあり、また世界にあるディズニーのテーマパークの多くはアメリカの歴史と文化を再現したエリアを持っています。かくいう僕自身も、ディズニーを通してアメリカ合衆国という国の歴史や文化に興味を持つようになった人です。そんなわけで、こういう趣旨の記事は以前からちょっと書きたかったんですよね。で、これを機に新シリーズを始めることを決意したわけです。

 それでは、さっそく新シリーズを始めていきたいと思います。


そもそもニューオーリンズとは?

 今回第一弾として取り上げる題材は「ニューオーリンズ」です。ニューオーリンズって何?と思ってる人もひょっとしたらいるかも知れませんので、簡単にご説明します。まあ、一言で言えば「アメリカ合衆国ルイジアナ州にある都市の名前」です。

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 上の地図を見てお分かりのように*1アメリカ合衆国の中でもわりと南のほうにある都市であることが分かるでしょう。ルイジアナ州やその周囲の州は「ディープサウス」*2と呼ばれる地域に当たり、その名の通りアメリカ合衆国の中でも特に‟ディープ”な「南部」っぽさが感じられる地域になっています。そのディープサウスの中でもルイジアナ州、特にニューオーリンズという都市は、かなり独特な歴史や文化を持つ都市です。そのため、ニューオーリンズは現在アメリカ合衆国の中でも屈指の観光都市となっています。





ディズニーで学ぶニューオーリンズ

 ここからはなぜニューオーリンズが独特な文化を持つ観光都市となっているのかについて、その歴史を紐解きながら明かしていきたいと思います。もちろん、単に歴史を解説してもディズニー関連ブログっぽくなくて面白くないので、ディズニーのコンテンツを絡めながら解説していくつもりです。


フランス領としての始まり

 まずは下記の画像をご覧ください。左の画像はカリフォルニア州アナハイムのディズニーランドにある「ニューオーリンズ・スクエア」というエリアの一角を撮った写真です。東京ディズニーランドアドベンチャーランドにもこれと全く同じ通り*3があるので、アナハイムのディズニーランドは知らなくてもこの写真には見覚えがある人もいるのではないでしょうか?

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 実は、この左の画像で映ってるディズニーランドのエリアは、ニューオーリンズ市内に実際にある「フレンチ・クオーター」という地域がモデルになっています。上記右側の画像がそれです。こうして見比べてみるとディズニーはこの「フレンチ・クオーター」というエリアを忠実に再現してることが分かりますね。

 このフレンチ・クオーターはその名の通り*4フランス文化が色濃く残る地域です。なぜ、この地域にフランス文化が色濃く残っているのかというと、もともとこのニューオーリンズはフランスの植民地として始まった街だからです。

 ニューオーリンズは1718年にフランスの植民地として建設された街です。当時のフランスの摂政を務めていていたオルレアン公の名前に因んで、フランス語で「新しいオルレアン」を意味する地名がこの町に付けられました。それを英語訳すると「ニューオーリンズ」という地名になるわけです*5。そして、このニューオーリンズは当時フランスがアメリカ大陸に持っていた広大な植民地である「フランス領ルイジアナ」地域の首都として栄えたのです。

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フランス領ルイジアナ

 上の画像で示された地域が当時のフランス領ルイジアナにあたります。ルイジアナという地名は当時のフランス王ルイ14世にちなんで名付けられた地名であり、現在のアメリカ合衆国ルイジアナ州の州名もこのフランス領ルイジアナに由来しています。上の図を見て分かる通り、現在のルイジアナ州を含むかなり広大な地域がフランス領だったんですね。そして、そんなフランス領ルイジアナの首都であったニューオーリンズは当初からフランス系住民が多く入植した街として栄えたわけです。

 その後、1763年にニューオーリンズ含むルイジアナ州の大部分はスペイン領になりましたが*6、スペイン領になった後も依然としてこの地域にはフランス系の住民が多く住み続けていました。特に、このスペイン領時代にはケイジャンと呼ばれるフランス系移民が現在のルイジアナ州南部に多く移住しました。彼らはもともとアカディア*7に入植していたフランス人だったのですが、この地域がイギリスに征服された結果彼らはこの地を去りスペイン領ルイジアナに逃げて来たのです。彼らを指す「ケイジャン」という名前は「アカディアの人」を意味する「アケイディアン」という英語が訛ったものです。

 このケイジャンの子孫は現在でもニューオーリンズやそこから少し離れたルイジアナ州南部*8に多く住んでいます。ニューオーリンズを舞台にしたディズニー映画『プリンセスと魔法のキス』にレイというホタルが登場しますが、実は彼もケイジャンをモデルにしたキャラとして設定されています。作中でレイはフランス語をしばしば話しますが、これは彼らケイジャンがフランス系だからなんですよね。

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プリンセスと魔法のキス』のレイ

 こうして、フランス領及びスペイン領時代を通してこのニューオーリンズという町ではフランス系住民が多数住み続け、フランス風の文化を育んでいったんですね。そして、上述のフレンチ・クオーターと呼ばれる地域はこの時代の建物が現在でも多く残っている地域なんですよね。まさにフランス風文化が残る地域というわけです。このスペイン領時代の後、1801年にはスペイン領ルイジアナは再びフランス領に戻ります*9


アメリカ合衆国による購入

 続いて以下の画像をご覧ください。これは1966年にアナハイムのディズニーランドにニューオーリンズ・スクエアというエリアがオープンした時に、この新エリアのバックグラウンドについてウォルト・ディズニー氏が解説している映像です。ディズニーランドのニューオーリンズ・スクエアはその名の通りニューオーリンズの街並みを再現したエリアですが、その宣伝に当たってウォルトはこのニューオーリンズアメリカ合衆国の領土になった重要な歴史的出来事である「ルイジアナ購入」について解説しています。

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ルイジアナ購入を解説するウォルト

 ウォルトが解説したこの「ルイジアナ購入」はニューオーリンズの歴史のみならずアメリカ合衆国の歴史全体においても重要な出来事です。この事件は、その名の通り1803年にアメリカ合衆国がフランスからルイジアナ地域を購入した事件を指します。先述した通り1801年にフランス皇帝ナポレオンはスペインからルイジアナを奪還し、この地域は再びフランス領になったんですけど、そのわずか2年後の1803年にナポレオンはこの地域をアメリカ合衆国に売却したんですよね*10

 上の画像でウォルトの後ろに映る地図の黄色い部分が、この時にフランスが売ったルイジアナ地域の領域です。見て分かる通り、めちゃくちゃ広大な地域なんですよね。それ以前のアメリカ合衆国の領土はこのルイジアナより東側の地域だけだったので、この「ルイジアナ購入」によってアメリカ合衆国は領土を2倍近く広げたわけです。まあ、この辺りの話は高校の世界史の授業とかでも習うので、多分知ってる人も多いと思います。

 こうしてニューオーリンズ含むルイジアナ地域はアメリカ合衆国の領土になり、1812年にはそのうちニューオーリンズを中心とする地域が現在のルイジアナ州という行政区画になりました。1812年米英戦争*11が起きると、ニューオーリンズは一時的にイギリスに占領されましたが、アメリカの軍人アンドリュー・ジャクソン将軍*12の活躍によってすぐにアメリカに奪還されました。なお、このアンドリュー・ジャクソン将軍はディズニーのテレビドラマ『デイビー・クロケット』シリーズの主要登場人物の一人でもあります。


ニューオーリンズの黒人たち

 ところで、ニューオーリンズを舞台にしたディズニー映画『プリンセスと魔法のキス』の主人公ティアナはディズニー初の黒人プリンセスとしても話題を集めました。このことからも分かるように、実は現在ニューオーリンズには黒人がかなりたくさん住んでいます。

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プリンセスと魔法のキス』のティアナ

 これはかつてニューオーリンズには奴隷制の歴史があったからです。上述の通り、ニューオーリンズアメリカ南部の中でも特にディープな「ディープサウス」と呼ばれる地域に位置しています。アメリカ南部では奴隷制が長い間続いていたことは有名ですがニューオーリンズもその例外ではありません。

 この地域の奴隷制は先述のフランス領時代やスペイン領時代から続いており、その期間にアフリカから多くの黒人が奴隷としてこの都市に連れてこられたのです。上述の通り1803年以降この地域はアメリカ合衆国の領土となりましたが、その後もこの地域の奴隷制はしばらく続きました。現在ニューオーリンズに住む黒人の多くはこれらの時期に奴隷としてアフリカから連れてこられた黒人の子孫になります。

 1861年に有名な南北戦争*13が始まると、ニューオーリンズを含むルイジアナ州はもちろん奴隷制を維持する奴隷州として南軍に所属しました。その後1865年に南北戦争で敗北したニューオーリンズでは奴隷制が廃止され黒人たちは一応の自由を獲得しました*14

 とは言え、その後も他の南部の州と同じようにニューオーリンズ含むルイジアナ州でも黒人たちは法的・社会的な人種差別を受けてきました。これらの州では、黒人を白人から隔離するような州法が多数制定されたのです。例えば、学校、レストラン、鉄道やバス、映画館……etcなど多くの施設が「白人用」と「黒人用」とに分けられていました。また、白人と黒人の間の結婚を禁じたり、試験や税金を課すことで黒人の投票権を奪ったりもしていました。これらの人種差別的な州法を総称してジム・クロウ法と呼び、アメリカの南部の州の多くではこのジム・クロウ法が制定されていたのです。ニューオーリンズのあるルイジアナ州もその例外ではありませんでした。

 ディズニー映画『プリンセスと魔法のキス』は1920年代のニューオーリンズが舞台ですが、史実では当時のニューオーリンズにはこのような人種差別的なジム・クロウ法がまだ残っていました*15。黒人たちはそんな人種差別を受けながらも、このニューオーリンズで独特の文化を生み出していきました。その中でも特に有名なのはジャズ音楽でしょう。

 有名な音楽ジャンルの一つであるジャズは、まだジム・クロウ法が残る20世紀初頭のニューオーリンズで生まれたと言われています。黒人音楽のラグタイムなどから発展して生まれたジャズは、ニューオーリンズの黒人と白人の間で広く演奏されるようになり、次第にニューオーリンズのみならずアメリカ合衆国全土で流行したのです。このジャズについてはディズニーとも絡めてまた後で詳述します。

 その後、1950年代から1960年代にかけて「公民権運動」と呼ばれる社会運動がアメリカで起きました。これは、黒人のローザ・パークスアメリカ南部のバスの白人優先席で白人に席を譲らなかったことがきっかけとなり、黒人のキング牧師などを指導者として始まった大衆運動の総称です。この運動は、上述のジム・クロウ法に代表される人種差別的な法制度や社会慣習の撤廃を目指してました*16。その結果、1964年公民権*17と1965年投票権*18アメリカで制定され、ニューオーリンズ含む南部諸州でのジム・クロウ法体制はようやく廃止されたのです。この公民権運動の結果、ニューオーリンズでの黒人に対する法的な人種差別はなくなり、そのまま現在に至っています。




ディズニーで学ぶニューオーリンズ文化

 ここまでニューオーリンズの歴史を簡単に解説してきましたが、そんな歴史のもとで育まれたニューオーリンズの代表的な文化について今度は解説していきたいと思います。ここも再びディズニーと絡めて解説していきます。


ニューオーリンズ料理

 ニューオーリンズは実はアメリカ合衆国でも屈指の「美食の街」として知られています。上述した通りニューオーリンズは植民地時代の歴史を通じてフランス文化の影響が強いのですが、フランスといえば世界でも屈指の美食大国ですからね。その文化的影響が強いニューオーリンズでは、フランス料理をベースにスペイン*19やアフリカ*20の料理や食材も混ざった独特の料理が発展したのです。

 『プリンセスと魔法のキス』の主人公ティアナがレストランを持つことを夢見る料理好きだったのにもそうした背景があるんですよねえ。実際、作中でティアナが作ってたガンボはニューオーリンズを代表する料理の1つです。茶色いスープにオクラを中心とする色んな食材が入った料理ですね。

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ティアナの作るガンボ

 作中でティアナはガンボを作る際に隠し味でタバスコを最後に入れていましたが、このタバスコも実はルイジアナ州で生まれた調味料なんです。タバスコはルイジアナ州に住んでいたエドモンド・マキルヘニーという人によって南北戦争終戦直後に発明され、今でもルイジアナ州に本社を置くマキルヘニー社が製造しています。ルイジアナ州ニューオーリンズに住むティアナが、その名物料理であるガンボを名物調味料のタバスコで味付けしたのには、そういう背景があるんですねえ。

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ティアナが提供するベニエ

 ガンボ以外の有名なニューオーリンズ料理だとベニエもあります。これも『プリンセスと魔法のキス』の冒頭でティアナが提供していました。ベニエもまたニューオーリンズ名物の有名なお菓子です。粉砂糖を上に大量にまぶしたドーナツ風の揚げ菓子ですね。ティアナがこのベニエに粉砂糖を大量に振りかけて提供するシーンが作中冒頭で描かれていますね。

 この他にもジャンバラヤやバナナズ・フォスターなど、ニューオーリンズには数々の美味しい料理があります。そのため、アナハイムのディズニーランドにあるニューオーリンズ・スクエアでもニューオーリンズ料理のベニエジャンバラヤなどがレストランで提供されています。下記の画像左は、実際に僕が今年3月にアナハイムのディズニーランドのニューオーリンズ・スクエアで食べたジャンバラヤです。

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 アナハイムではディズニーランド内だけではなくそのすぐ外にあるダウンタウン・ディズニーと呼ばれるディズニー所有のショッピングモールでもニューオーリンズ料理を堪能できます。このエリアにあるRalph Brennan's Jazz Kitchenという名前のレストランではジャズ演奏を聞きながら本格的なニューオーリンズ料理が楽しめます。上の画像右側は、同じく今年3月に僕が実際にそのレストランでニューオーリンズ料理を楽しんだときの写真になります。

 上のツイートは当時僕がそこのレストランを訪れた時のものです。残念ながら現在はコロナのせいで臨時休業中らしいですが、非常に素晴らしいレストランなので、ディズニーオタクの皆さんはまた営業再開した時にはぜひとも一度このレストランを訪れることをお勧めします。

 ちなみに、ニューオーリンズで親しまれている料理にはクレオール料理とケイジャン料理の2種類があります。両者は似てるところもありますが、対照的な特徴も持っています。例えば、上で挙げたガンボもクレオール風とケイジャン風の2タイプがあります。細かな違いは色々あるのですが、大まかに言うと、クレオール料理のほうがやや高級感があり、それに比べるとケイジャン料理はやや庶民派の料理として扱われることが多いです。


バイユーという自然

 アナハイムのディズニーランドでニューオーリンズ料理を提供してる有名なレストランとしてブルーバイユーというお店もあります。このレストランは日本の東京ディズニーランドにもありますね*21アナハイムでも東京でもこのレストランはディズニーランドのニューオーリンズを模したエリアにあるわけですが、それゆえに「ブルーバイユー」という店名が付けられているのです。

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ブルーバイユー・レストラン

 この店名のうち「ブルー」は普通に「青い」という意味の英語です。では、「バイユー」とは何か?これはアメリカ南部における流れのゆるやかな小川のことを指します。ニューオーリンズの近くのルイジアナ州南部にはこのようなバイユーを中心とする欝蒼とした湿っぽい森林地帯があるのです。『プリンセスと魔法のキス』でも主人公のティアナたちはカエルになってバイユーを探検していましたね。

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プリンセスと魔法のキス』で描かれたバイユー

 上の画像からも分かるように、このような幻想的な美しい森林の自然風景がバイユーでは見られるわけです。上のほうで挙げたブルーバイユー・レストランの内装の画像と見比べると、このレストランもまたバイユーの青く美しい自然風景を内装にて再現していることがうかがえます。だから、ブルーバイユーという店名がついてるんですね。ニューオーリンズ・スクエアにあるレストランだからこそ、ニューオーリンズ付近のルイジアナ州南部にあるバイユーの美しい風景を再現していたというわけです。


ジャズとサッチモの出身地

 先述の通りニューオーリンズはジャズ発祥の地としても知られています。黒人音楽の影響を受けてこの地で生まれたジャズはアメリカの代表的な音楽ジャンルとして世界的にも有名ですよね。『プリンセスと魔法のキス』でもミュージカル曲の多くがジャズ風の音楽だったのにはそういう理由があります。そのため、ニューオーリンズでは有名なジャズ・ミュージシャンが多数誕生しています。その中でも特に有名なのがルイ・アームストロング氏でしょう。

 「サッチモ」という通称でも呼ばれるこのルイ・アームストロング氏は"What A Wonderful World"などの曲で知られる伝説的なジャズ・ミュージシャンですが、彼もまたニューオーリンズ出身なんですよね。ジャズの発祥の地ニューオーリンズで生まれ育った黒人であるサッチモ氏はそこで若くしてジャズ音楽を学び経験しました。そして、その独特の歌声とトランペット演奏によってジャズ界の大御所ミュージシャンへと出世していったわけです。

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マークトウェイン号で演奏するサッチモ(画面中央)

 そんなサッチモですが1962年に実は"Disneyland After Dark"というディズニーのテレビ番組に出演してるんですよね。この番組でサッチモは、アナハイムのディズニーランドにあるアメリカ河を航行する蒸気船マークトウェイン号の中で自身のジャズ演奏を披露しています。後述する通り、蒸気船マークトウェイン号も実はまたニューオーリンズに関係する乗り物なんですよね。だから、ニューオーリンズ出身のジャズ・ミュージシャンであるサッチモ氏がここで演奏することになったのでしょう。

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サッチモ(左)とウォルト(右)

 この時の縁があったからなのか、サッチモ氏は1970年に"Disney Songs the Satchmo Way"というアルバムをリリースしています。このアルバムでは様々なディズニーソングをサッチモ氏が自らカバーして歌っています。このアルバムの制作はなんとウォルト・ディズニー氏が直々にサッチモ氏に依頼して始まったそうです。残念ながらウォルトはこのアルバムが完成する前に亡くなってしまったんですけどね。

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プリンセスと魔法のキス』のルイス

 このようにディズニーと縁の深いジャズ・ミュージシャンであるサッチモ氏もまたニューオーリンズ出身なのです。『プリンセスと魔法のキス』にルイスというワニが登場しますが彼もまたサッチモに関係しています。彼のルイスという名前はこのサッチモの本名ルイ・アームストロングに由来して付けられています。トランペット奏者である点もサッチモと共通していますね。


ミシシッピ川に面して

 ニューオーリンズミシシッピ川の河口に位置する街でもあります。ミシシッピ川アメリカ合衆国を流れる非常に大きな川であり、それゆえにアメリカの歴史や文化に多くの影響を与えてきました。19世紀アメリカではミシシッピ川を航行する蒸気船がしばしば重要な交通手段として使われていたからです。もちろん、ミシシッピ川の河口に位置するニューオーリンズにとってもそれは例外ではないです。

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ミシシッピ川

 実は、ニューオーリンズ発祥のジャズはしばしばこのミシシッピ川を通る蒸気船の中で演奏されたのです。実際、『プリンセスと魔法のキス』でもミシシッピ川を渡る蒸気船にティアナたちが乗り込むシーンがありますよね。史実でも、若き日のサッチモニューオーリンズミシシッピ川を渡る蒸気船の中でジャズを演奏していました。だから、そんなサッチモが先述の通りディズニーランドの蒸気船マークトウェイン号の中でジャズ演奏を披露したのは、ある意味で当然の演出ではあるんですよね。

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蒸気船マークトウェイン号

 というのも、ディズニーランドにある蒸気船マークトウェイン号はこの「ミシシッピ川を航行する蒸気船」をモデルにした船だからです。この船の名前の由来となったアメリカの作家マーク・トウェイン氏の小説『トム・ソーヤーの冒険』ではこのミシシッピ川が舞台として登場しています。そのため、ディズニーランドに流れるアメリカ河*22ミシシッピ川に該当すると言えるんですね。実際、東京ディズニーランドの開園直前の儀式ではこのアメリカ河にミシシッピ川の水が注がれました。

 まあ、マーク・トウェインの小説『トム・ソーヤーの冒険』はミシシッピ川に面する街が舞台とは言えニューオーリンズとは特に関係ないんですけどね*23。ただ、このミシシッピ川という重要な川がマーク・トウェインの小説で出てくるからこそ、「ミシシッピ川を航行する蒸気船」をモデルにした蒸気船マークトウェイン号をディズニーはテーマパークに作り、ミシシッピ川をモデルにしたアメリカ河にそれを設置したわけです。

 そして、ミシシッピ川を航行する蒸気船はマーク・トウェインの小説で舞台となっているミズーリ州だけでなく、ルイジアナ州ニューオーリンズにおいても重要な存在だったんですよね。ニューオーリンズ発祥のジャズはこの蒸気船で演奏されていたわけですからね。だから、アナハイムのディズニーランドではアメリカ河はトムソーヤ島だけでなくニューオーリンズ・スクエアの近くにも面しているのです。アメリカ河のモデルであるミシシッピ川もまたニューオーリンズに面していますからね。


ヴードゥーの街

 続いて下の画像をご覧ください。これは『プリンセスと魔法のキス』に登場するファシリエ(画像左)とママ・オーディ(画像右)ですね。この2人の黒人キャラクターはどちらも「ヴードゥーに長けている」という設定があります。そうです。ニューオーリンズではヴードゥー教信仰もまた有名な文化なのです。

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 ヴードゥー教はニューオーリンズやハイチ*24の黒人の間で主に信じられている民間信仰的な宗教です。もともとは西アフリカの民間信仰が起源なのですが、この地域の黒人が奴隷貿易によってハイチやニューオーリンズに連れてこられた結果、これらの地域で独自の信仰文化として発展したのです。ちなみに、ハイチもニューオーリンズと同じくかつてフランスの植民地だった歴史を持ち、フランス植民地時代の黒人奴隷の子孫が現在でも多数住んでいる国です。つまり、ヴードゥーは「旧フランス領の黒人奴隷たちの間で信仰され発展した宗教」と言うことができます。

 ヴードゥーキリスト教イスラム教のような体系化された教義を持ってないため、その特徴を一概に言うのは難しいのですが、フィクションの世界ではしばしば「黒魔術」「呪術」的な描かれ方をされますね。実際、『プリンセスと魔法のキス』でもファシリエやママ・オーディは魔術師のようなキャラとして描写されていました。そういう呪術っぽい要素がしばしば特徴として挙げられる民間信仰ヴードゥーなのです。余談ですが、ホラー映画などで現在すっかりお馴染みとなった「ゾンビ」は、もともとヴードゥー教において信仰されていた存在だそうです*25


もう一つの音楽ザディコ

 上述の通りニューオーリンズはジャズ発祥の地ですが、実はジャズ以外の音楽もニューオーリンズでは有名です。それがザディコと呼ばれる音楽です。ザディコはルイジアナ州ルイジアナクレオール語*26話者の間で主に発展した音楽です。アコーディオンを使うのが特徴として挙げられます。

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ザディコを演奏するレイ

 ジャズに比べると若干マイナーな音楽ではありますが、ザディコもまたこの地域のフランス系文化の一つとして知られる音楽ジャンルなのです。『プリンセスと魔法のキス』ではフランス系という設定のレイが"Gonna Take You Thare"というザディコ曲を歌っていますが、これにはそのような背景があったんですよね。このとき、レイはイモムシをアコーディオンに見立てて演奏していますが、これはアコーディオンを使うことがザディコの特徴だからなのでしょう。


ニューオーリンズマルディグラ

 ニューオーリンズに残るフランス文化の中でも忘れちゃいけないのがマルディグラ祭です。マルディグラとはもともとカトリックの祝日を指す言葉なんですが、それをお祝いするお祭りがフランス領時代にこのニューオーリンズで始まったんですよね。かつてこの地域がカトリック国フランスの植民地だった故の習慣ですね。

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プリンセスと魔法のキス』のマルディグラ

 このマルディグラのお祭りは『プリンセスと魔法のキス』でも取り上げられていましたね。あの映画で描写されてる通り、仮装してパーティしたり、豪華なフロートが多数出てくるパレードなどが繰り広げられたりします。祭りの期間はかなり長いのですが、特に終盤の2週間ほどはパレードなどが大いに盛り上がる時期らしいです。この時期*27には、毎年これを見るために多くの観光客が世界各地から集まります。ニューオーリンズアメリカ有数の観光地となっている理由の一つはまさにこの大規模なお祭りにあるわけなんですねえ。





 以上で、【ディズニーで学ぶアメリカの歴史と文化】第1弾を終わりにします。【ディズニー映画感想企画】だけでなく、こちらもまた気が向いたらシリーズ化するつもりなのでよろしくお願いします。と言いつつ、第2弾で何を書くかはまだ考えてないんですけどね笑

*1:左がアメリカ合衆国内におけるルイジアナ州の位置を示した地図で、右がルイジアナ州内におけるニューオーリンズの位置を示した地図です。

*2:日本語訳して「深南部」と呼ばれることもあります。

*3:ロイヤル・ストリートと呼ばれてるところですね。

*4:フレンチ・クオーターを直訳すると「フランスの地域」という意味になります。

*5:言うまでも有りませんが「ニュー」の部分が「新しい」を意味し、「オーリンズ」はオルレアンの英語読みです。

*6:当時ヨーロッパで起きていた七年戦争という戦争の結果によるものです。

*7:北米大陸の北東部海岸の地域を指す地名です。かつてフランスの植民地でしたが1763年以降は戦争の結果イギリス領になりました。

*8:アケイディアナと呼ばれる地域です。

*9:当時のフランス皇帝ナポレオンがスペインにルイジアナ返還を迫った結果です。

*10:当時ナポレオンはヨーロッパでの戦争に忙しく、そんな中でこの地域を無理して防衛するよりは売った金を戦費に当てた方が得だと判断したかららしいです。

*11:その名の通り、イギリスとアメリカの間で起きた戦争です。

*12:後にアメリカの第7代大統領になる人でもあります。

*13:有名な戦争なので改めて解説するまでもない気がしますが、ようはアメリカ合衆国が北部と南部に分かれてぶつかった戦争です。一部例外を除き奴隷制が当時すでにほぼ廃止されていた北部に対し、ルイジアナ州含む南部の多くでは奴隷制が当時まだ残っていました。結果として南部の側が敗れ、戦後は南部を含めたアメリカ合衆国全土で奴隷制が廃止されることになりました。

*14:なお、ニューオーリンズは他の南部の地域と比べると、奴隷制廃止前から自由黒人がわりと多かったそうです。奴隷制が廃止される前でも一部の白人奴隷主は個人的に奴隷を解放して自由人にすることはありました。ニューオーリンズはそういう解放奴隷の自由黒人が以前から一定数いたんですよね。

*15:ただし、あの映画ではそのような当時のジム・クロウ法や人種差別については一切描写されていません。まあ、ディズニー映画は史実を余すことなく描写した正確なドキュメンタリー映画とはそもそも違うので、僕はジム・クロウ法の描写が皆無でも全然かまわないと思ってますけどね。

*16:人種差別反対デモを行ったり、人種隔離してるレストランへの座り込み運動を行ったりしていました。

*17:学校やレストランなどの施設や企業の雇用などにおけるあらゆる人種差別を禁じた法律です。

*18:選挙の投票におけるあらゆる人種差別を禁じた法律です。

*19:もちろん、上述した通りこの地域が一時期スペイン領だったことに由来します。

*20:上述した通り、この地域にアフリカから連れてこられた黒人奴隷の子孫が多いことに由来します。

*21:カリブの海賊のアトラクションの隣にあるレストランです。

*22:ディズニーオタクの皆さんならご存知の通りトムソーヤ島に面しています。

*23:この小説の舞台は、ニューオーリンズのあるルイジアナ州ではなくもっと北のミズーリ州です。ミシシッピ川はかなり長い川なのでミズーリ州にも流れています。

*24:カリブ海の島にある国です。

*25:ただ、ゾンビに関してはどちらかというとニューオーリンズよりも主にハイチのほうでの信仰っぽいです。

*26:ルイジアナクレオール語とはフランス語をベースに発展した言語の一つです。上述の通りルイジアナ州はかつてフランス領だったので、こういう言語を話す人々が一定数存在したんですね。

*27:年によってずれるのですがだいたい2月前後になります。