tener’s diary

てねーるのブログ記事です

【ディズニー映画感想企画第53弾】『アナと雪の女王』感想~第三期黄金期の絶頂期~

 申し訳ありません。最近忙しくてすっかり更新が遅れてしまいました。ディズニー映画感想企画第53弾です。今回は『アナと雪の女王』の感想記事を書きたいと思います。まあ、この映画はもはや「有名」とかいうレベルすら超える超特大メガヒット作品でしょう。今やほぼ「一般常識」と言えるレベルの作品になってると言っても過言ではない気がします。そんな‟化け物”級のコンテンツである『アナと雪の女王』について語っていきたいと思います。

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【基本情報】

伝統回帰路線の継続

 『アナと雪の女王』は2013年に公開された53作目のディズニー長編アニメーション映画です。原作はアンデルセン童話の『雪の女王』です。そう、ヨーロッパの童話が原作なんです。これまでの記事で述べてきた通り、第三期黄金期のディズニーは「伝統回帰」路線を取り、その一環として『プリンセスと魔法のキス』や『塔の上のラプンツェル』などの「ヨーロッパの童話を原作とするプリンセスもの」の作品を制作してきていました。本作もそんな「伝統回帰路線」の延長線上に位置付けられる作品と言えるでしょう。伝統的なディズニー作品のイメージとして良く挙げられる「ヨーロッパの童話原作のプリンセスもの」という要素を本作でも踏襲したわけです。

 しかも、本作はもう一つのディズニーの伝統である「ミュージカル要素」もがっつり取り入れています。前作『シュガー・ラッシュ』こそ例外でしたが、それまで『プリンセスと魔法のキス』『塔の上のラプンツェル』『くまのプーさん』と3作続けて「ミュージカル作品」を作り続けて来た第三期黄金期ディズニーは、本作でもその路線を踏襲したというわけです。

 このように『アナと雪の女王』は「童話原作のプリンセスもの」「ミュージカル作品」というディズニーの伝統路線を2つも踏襲した作品なのです。そのような作品は第三期黄金期のディズニーでは『プリンセスと魔法のキス』や『塔の上のラプンツェル』に続いて3作目です。こんなにも伝統要素を踏襲した作品を次々と公開していたことからも、当時のディズニーが「伝統への回帰」を目指していたことが強くうかがえますね。


クリス・バックジェニファー・リー

 本作の監督はクリス・バック氏とジェニファー・リー氏です。このうちクリス・バック氏は長い間ディズニーのスタジオで務めてきた経歴がある人物で、1999年にはディズニー映画『ターザン』の監督を務めたこともありました。しかし、彼はその後ディズニーを離れソニー・ピクチャーズに移籍していました*1。2008年、そんなクリス・バック氏に対してジョン・ラセター*2はディズニーへ戻るよう説得したのです。それを受けてクリス・バック氏は当時自分が構想を練っていたいくつかの作品アイディアをジョン・ラセター氏に見せました。そのアイディアのうちの1つが、アンデルセン童話『雪の女王』のアニメ化だったのです*3

 こうしてクリス・バック氏の監督のもとで『アナと雪の女王』の制作が進められました。そして脚本にはジェニファー・リー氏が参加しました。彼女は前作『シュガー・ラッシュ』の脚本にも携わっていた人物です。そんな彼女は本作の脚本を務めただけでなく、クリス・バック氏と共同で本作の監督も務めるようになりました。本作の制作初期段階での彼女の活躍が評価された結果だそうです。このクリス・バック氏とジェニファー・リー氏のコンビはのちに作られる続編『アナと雪の女王2』でも監督を務めています。


ロペス夫妻の参加

 上述の通り、本作は『プリンセスと魔法のキス』や『塔の上のラプンツェル』と同様にかなり本格的なミュージカル映画として作られました。そんな本作のミュージカル曲の作曲を担当したのがロバート・ロペス氏とクリスティン・アンダーソン=ロペス氏の夫妻です。【ディズニー映画感想企画第51弾】『くまのプーさん』感想~最後の手描き2Dアニメーション~ - tener’s diaryの記事でも述べた通り、このロペス夫妻は2011年公開の『くまのプーさん』でも劇中歌の作曲を担当していましたが、そんな2人が本作『アナと雪の女王』でも作曲を担当することになったのです。

 この夫妻は本作で"Let It Go"を始めとする数々の名曲を作曲したことで一気に名声を上げました。のちに『リメンバー・ミー』や『アナと雪の女王2』でも作曲を務めたこの夫妻は、まさに第三期黄金期のディズニー御用達の作曲家と言えるでしょう。第二期黄金期以降のディズニーではアラン・メンケン氏がディズニー御用達の作曲家と活躍していましたが、ロペス夫妻は彼に続く「次世代」の‟ディズニー御用達作曲家”と言えます。本作はそんな夫妻のミュージカル曲が大量に詰まった作品でもあるんですよね。


歴史的な大ヒット

 本作『アナと雪の女王』は2013年に公開されると、商業的にものすごい大ヒットを記録しました。その興行収入は12億ドルを超え、当時の歴代アニメーション映画史上最高額を記録しました*4。それ以前までのディズニー長編アニメーション映画史上のトップ売り上げを記録していた1994年の『ライオン・キング』の興行収入(約9億7000万ドル)を優に超える大ヒットぶりです。

 さらにアニメーション映画だけでなく歴代の全ての映画の世界興行収入ランキングにおいても本作は当時5位を記録しました*5。このように、本作はまさに「歴史的ヒット作」と言うべきレベルの大成功を収めたわけです。

 もちろん批評家からもかなり高い評価を受けました。その証拠に、本作はディズニー映画として初めてアカデミー賞の長編アニメ映画賞を受賞しました。これまでも『リロ・アンド・スティッチ』や『プリンセスと魔法のキス』などのディズニー映画がこの長編アニメ映画賞にノミネートされたことは何度かありましたが、いずれも受賞にまでは至っていませんでした。そんな念願の「受賞」をディズニーは本作で初めて達成したのです。

 さらに本作は主題歌"Let It Go"でアカデミー賞の歌曲賞をも受賞しました。ディズニー映画の主題歌がアカデミー賞歌曲賞を受賞したのは1999年の『ターザン』以来14年ぶりのことです。また、その他にアニー賞で長編作品賞を含む複数の部門で受賞したり、ゴールデングローブ賞でもアニメ映画賞を受賞したりするなど、本作は数々の受賞の栄誉を獲得しています。

 このように、本作は商業的にも批評的にも歴史的大成功を収め、第三期黄金期のディズニー作品の中で最も有名な作品となりました。アナやエルサなどの本作キャラクターはディズニーのテーマパークのショーやキャラグリなどで頻繁に登場してますし、本作の主題歌"Let It Go"も至るところで流れています。それまでも『塔の上のラプンツェル』や『シュガー・ラッシュ』のヒットでその復活と黄金期の開始を決定付けてきたディズニーですが、この『アナと雪の女王』ではさらなる桁違いの大ヒットを記録したわけです。その流行ぶりはディズニーオタクや映画オタクの間だけに留まらず、世界中で「社会現象」と言っても過言ではないレベルの大流行を引き起こしました。まさに「第三期黄金期の絶頂期」にあった映画と言えるでしょう。




【個人的感想】

総論

 はい、まあ『アナと雪の女王』はあまりにも有名すぎる化け物級のコンテンツですからね。わざわざ僕がここで感想を書くまでもなく、色んな人が色んな感想を書いてることでしょう。本作はあまりにも有名すぎて日本のネット界隈(特に2chなど)だと逆張り的に過小評価されてるように思えますが、僕はこれだけ大ヒットするのも納得の良作だと思います。確かに、内容にはいくつかの難点もあるんですよね。でも、その一方で褒めるべき点もかなり多いので、全体的な評価としては十分に面白い良作だと感じます。

 前半におけるがっつりミュージカルの演出や映像と終盤での捻り方が共に長所としてしっかり機能してるんですよね。しかも、「愛とは何か」という直球の王道らしいテーマを正面から扱ってくれた点も素晴らしいです。変化球を交えて見せながらもテーマは王道というのが、まさに「新しい古典」らしくて良いんですよね。

 以下、詳細な感想を述べていきます。


王道テーマ

 本作はかなりメッセージ性がはっきりしています。明らかに「真実の愛とは何か」を本作の最重要テーマとして描いてるんですよね。このテーマはいかにも‟ディズニーの王道らしい”テーマと言えるでしょう。古典的名作と言われるディズニー映画、特に「ヨーロッパの童話原作のプリンセスもの」においては、ラブロマンス要素が必ずと言って良いほど入っていました。『白雪姫』も『シンデレラ』も『リトル・マーメイド』も『美女と野獣』も、「プリンセスとプリンスのラブロマンス」要素が多かれ少なかれ含まれています。第三期黄金期のプリンセスものである『プリンセスと魔法のキス』や『塔の上のラプンツェル』もそうでした。

 このような「恋愛」要素というのは当時のディズニーにおいてまさに‟伝統”と言うべき要素でした。そんなディズニーの伝統である「愛」について、本作は改めてそれを正面から問うようなテーマを扱ったんですよね。その点で、本作も第三期黄金期の「伝統回帰路線」の延長線上にあると言えるでしょう。しかし、本作はそのテーマの描き方について単なる「伝統の踏襲」以上のものを見せてくれています。

 というのも、本作は「真実の愛」を何も「男女の恋愛」だけに限らないと明確に述べてるんですよね。ラストでアナの氷漬けの身体を救ったのはアナとクリストフとの間の恋愛ではなくアナとエルサの間の姉妹愛になっています。アナを救えるような「真実の愛」は必ずしも今までのディズニー映画で中心的に描かれてきたような男女の恋愛に限らなくても良いんだ。姉妹の愛もまた「真実の愛」たり得るんだ。そういうことを明確に伝える作品であると言えるでしょう。

 もちろん、今までのディズニー映画でも恋愛以外の愛の形が描かれていなかったわけでは決してありません。「家族愛」や「同性同士の友情」などもまた多くのディズニー映画で描かれてきたことです。そういう意味では、本作で扱ったテーマは必ずしも「画期的」でもなければ、ましてや「伝統的なディズニー映画の否定」でもありません。保守的なディズニーオタクの中には本作のテーマの描き方を「ディズニーによる伝統否定」だと感じて批判する人もいますが、この点については僕は同意できかねます。僕もわりと保守的なほうのディズニーオタクなので、古いディズニー映画を否定する言説が嫌な気持ちは分かります*6。しかし、少なくとも本作に関して言えば必ずしも過去のディズニー映画を全否定してる映画だとは言えないでしょう。

 本作はアナとクリストフの間の恋愛を否定してる訳ではなく、それ以外にも愛の形はあり得るということを提示したにすぎません。そして、プリンセスもの以外のディズニー映画においては、いやプリンセスもののディズニー映画においても、以前から「家族愛」等の「別の形の愛」を描いてはいるんですよね。ただ、プリンセスもののディズニー映画では今まで「別の形の愛」よりも「男女の恋愛」のほうがあくまでもメインで描かれていたので、本作ではそこに対してちょっとした捻りを入れてみたということでしょう。伝統を踏まえた恋愛要素を存分に描いたうえで最後にちょっと捻った展開を入れるという本作のストーリーはなかなかに面白い試みであり感心します。


セルフパロディと自虐ネタ

 ただ、一方で本作には確かに少し「ディズニー映画の伝統の否定」ともとられかねない部分もなくはないです。というのも、本作はセルフパロディ的なネタを挟んでいるからです。具体的には、本作は「出会ってすぐに恋に落ちる」という旧来のディズニー映画のお決まり展開を否定気味に揶揄するような展開になってるんですよね。アナとハンスが出会ったその日のうちに結婚の約束までしたことをエルサもクリストフも共に非難しています。実際ハンスは後に悪役だったと分かるわけで、エルサやクリストフの発言は正しかったのだと言わんばかりの展開になっています。

 このように、本作はディズニーの王道プリンセスものの伝統をセルフパロディ的に揶揄する自虐ネタが仕込んであります。こういうディズニーのセルフパロディは何も今作が初めてではなく、『魔法にかけられて』や『プリンセスと魔法のキス』でもありました。特に、「出会って一日で結婚の約束」展開の否定ネタは『魔法にかけられて』でも見られたことであり、そういう意味ではやや二番煎じに感じなくもないです。

 本作が『魔法にかけられて』と違うのは、アナが出会って一日で恋に落ちた相手であるハンスが実際は悪役だった点でしょう。『魔法にかけられて』でジゼルが最初に恋に落ちた相手であるエドワード王子は別に悪人ではなかったですからね。その点で、本作のほうが従来のお約束展開に対する否定の度合いが一層強いと言えるかもしれません。本作からは「相手のことを良く知らないまま安易に結婚の約束なんてすると悪い男に騙されるぞ」というある種の教訓を感じ取れます。実際、アナはハンスという悪い男に騙されてたわけですからね。

 この点においては、本作を「古典的ディズニー映画の伝統否定」と感じて嫌う保守的なディズニーオタクの言い分も理解できます。まあ、僕個人はこの程度のセルフパロディなら些細な点であんまり気にならないので構わないですけどね。ここが本作のメインテーマの部分ではないですし、ぶっちゃけ「出会って一日で恋に落ちるのは安直じゃない?」という本作のメッセージ自体は普通に一理ある正論だと思うので納得できますしね。

 しかも、本作はなんだかんだでちゃんと「ディズニーの王道の肯定」も行ってくれています。『魔法にかけられて』や『プリンセスと魔法のキス』でもディズニーの王道を揶揄しながらも最終的には「逆張り逆張り」的な感じでディズニーの王道たるテーマを肯定するエンドになっていましたが、本作にもその特徴は当てはまります。本作は少し捻った「逆張り」的な形で見せながらも、結局は「真実の愛」というディズニーの王道テーマを正面から扱い肯定する内容になってるんですよね。そこが本作の素晴らしいところであり、保守的なディズニーオタクとして個人的に気持ちの良い部分だと思います。


主人公アナへの好悪

 本作はダブル主人公っぽく宣伝されてもいますが、実質的なメインの主人公は明らかにアナです。しばしば言われてるように本作はこのアナというキャラが一部の人からはいまいち人気ないんですよね。かくいう僕自身も初見時はアナのことがあんまり好きになれませんでした。実際、一部の観客がアナに対してそう感じるのは当然のことで、恐らく制作サイドも半ば意図的にアナのことをかなりお転婆で子供っぽい「未熟さ」の目立つキャラクターとして描いてるんですよね。そして、本作のストーリーはそんな「未熟」なアナの成長物語として描かれています。だから、登場当初のアナは世間知らずでお転婆で考えなしに行動しまくるような「成長の余地のある」キャラとして意図的に描かれてるんですよね。

 「真実の愛」が何かも知らずハンスみたいな男に騙されちゃうようなアナが、本作での冒険を通してオラフから「真実の愛」について教わり成長するというストーリー展開になってるわけです。そして、最終的にアナは自分こそが「真実の愛」の主体的な体現者として行動します。ここが本作のストーリーにおける重要なポイントでしょう。それまでのアナの言動は「エルサは私を愛してる」「クリストフは私を愛してる」といった感じでかなり受け身前提の発言なんですよね。あくまでも自分を愛する側ではなく愛される側の存在とみなしていて、それゆえにちょっと我が儘で傲慢なキャラだなあという印象をどうしても抱いてしまいます。そんなアナがラストでは自分から身を挺してエルサを助ける行動をとることで、「愛される側」ではなく「愛する側」へと変化してるんですよね。ここに来てようやくアナに対する好感度が上がります。

 そういうふうに本作はアナの成長物語という形で描かれているので、前半においてアナの好感度が低く思えるのはある意味で狙い通りではあるんですよね。とは言え、本作はそのアナへの好感度の低さがラストのクライマックス直前まで長く続きすぎたことが一つの欠点にもなっています。ラストに入るまでのかなり長い時間の間アナのお転婆さに対してストレスを感じ続けながら視聴するはめになるんですよねえ。しかも、本作はアナの成長物語ということが終盤に入らないと分かりにくい作りになってるうえ、ラストでのアナの成長をもってしても中盤までのアナの欠点は完全には解消されていません。

 アナのすぐ感情的になってキレやすいところ*7やエルサの悩みをちゃんと理解できずいささか無神経に見えるところなど、これらのアナの欠点がラストで完全に解消されたような描写は特にありません。そのせいで、アナの無思慮で短絡的でお転婆なこの性格がどうも好きになれないという意見もちょいちょい散見されるんだと思います。僕はそこまで極端にアナのことを嫌ってはいませんが、ちょっと苦手意識を抱いちゃうキャラではあるなあとは感じました。根が悪い子じゃないのは十分に分かるので、嫌いってほどではないんですけどね。


サプライズ・ヴィランの描き方

 本作のキャラ描写についてもう一つ難点を挙げるとすればやはりヴィランの描写だと思います。本作ははっきり言って悪役にあんまり魅力がないです。本作の悪役ハンスもいわゆる「サプライズ・ヴィラン」の一種です*8。しかし、前作『シュガー・ラッシュ』のサプライズ・ヴィランの描き方がかなり秀逸な伏線を張り巡らされていたのとは対照的に、本作のサプライズ・ヴィランの描き方ははっきり言って雑すぎると思います。ここは、上述のアナのキャラ以上に本作における大きな欠点だと感じました。

 サプライズ要素の種明かしシーンが唐突すぎるんですよね。終盤でハンスが実は悪役だったと種明かしをするシーンがあるんですが、それまで特にそういう伏線とかが描写されてるわけでもないのであまりにも唐突すぎます。確かに驚きはしますが、どちらかというとこれは悪い意味でのサプライズ要素でしょう。「まんまと騙されたぜ!」ってすっきりするようなミステリー的どんでん返しではなく、単に急展開すぎて呆気にとられてるだけといった感じの展開です。

 そもそも種明かしに至るまでのハンスの行動がいささか不自然であんまり納得できないです。なんであのタイミングでいきなりアナに自分の本性をバラしたのかがまず良く分からないですからね。いやまあ、あのままアナとキスしても彼女の凍った心臓が溶けなければどっちみちバレてた気はしますが、もう少し誤魔化しようはあった気がするし、アナの死を完全に確かめないままいきなりエルサを殺そうとするのも不自然に感じます。また、それまでの彼の行動にも疑問が残るんですよね。最初からエルサやアナを殺して王国を手に入れるつもりだったのなら、途中まであんなに命がけでエルサを捕まえに行ったりウェーゼルトン公爵の手下による暗殺行動を止めたりしないほうがむしろ良かったんじゃないかなと思っちゃいいます。

 まあ、こんなのは些細な矛盾点なので別に構わないっちゃ構わないのですが、そういう小さな矛盾点さえも気になってしまうのは何よりもハンスのキャラ変化の唐突さと彼の悪役としての魅力のなさに起因するんだと思います。前半までのハンスの格好良くて勇敢で完璧な王子様キャラと、後半以降の悪役とバレてからのハンスのキャラが完全に別物すぎて、彼のキャラクター性というか個性を上手くつかみきれないんですよね。一貫したキャラクター性というものをイマイチ感じ取れないです。歴代のディズニー・ヴィランズに感じるような圧倒的な悪役としての個性をハンスには全く感じず、それどころかどことなく人間味のないキャラに感じます。物語の展開のためだけに動かされているような不自然な行動が目立つようにも見えます。

 なお、監督兼脚本のジェニファー・リー自身が「ハンスは周囲の人物の心象を映し出す鏡である」と述べているので、このようなハンスのキャラの掴みにくさは制作サイドもある程度は意図したものであったんでしょう。ハンスに一貫した人間性を感じ取れないのはある意味当然で、そもそも彼の行動はそのシーンごとの周囲のキャラクターの心象を反映したものにすぎないからなんですよね。だから、物語全体を通して見た時に彼のキャラには一貫性が感じられないのです。そういう意味では制作サイドの意図通りではあったと思うのですが、そもそもそういう意図を選んだ時点で失敗だと僕は思っちゃいましたね。そんなふうにハンスのキャラを設定したせいで、従来のディズニー・ヴィランズのような「魅力的な悪役」が本作には不在となってしまいました。悪役としてはイマイチ物足りない魅力のハンスのキャラに不満を覚えながら僕は本作を鑑賞していましたね。


その他のキャラクター

 これまで述べて来たように、アナとハンスのキャラ描写には若干の不満はあるのですが、その他のメインキャラクターについては従来のディズニー映画に負けず劣らずなかなかに魅力的なキャラクターとして描けていたと思います。以下、それぞれのキャラクターについて見ていきます。

エルサ

 まず、アナと並ぶ本作の準主人公エルサについては良く描けていると感じます。プリンセスではなくクイーン(女王)キャラがメインになるのって、これまでのディズニー映画じゃ『白雪姫』ぐらいしかなかったですし、『白雪姫』の女王は悪役でしたからね。本作のエルサは悪役ではないので*9、その点ですでに珍しいです。

 しかも、お転婆で無思慮なアナとは対照的にエルサは内気で悩み多いキャラとして描かれています。近年のディズニー映画はポリコレを意識した結果「自立した強い女性キャラ」ばかりになったと言う人も多いですが、少なくともエルサの描写に関してはその指摘は全く当てはまらないでしょう*10。エルサは明らかに「悩み」を抱えて弱気になっている悲劇のヒロイン的ポジションのキャラであり、本作は「真実の愛」を知って成長したアナがそんなエルサを救う物語になってるんですよね。

 制御不能の謎の超能力のせいで周囲を傷つけないよう自分を抑え込んでたというエルサの境遇とそれによる悩みは今までのディズニー映画ではあまり見ないタイプですが、エルサの境遇に観客側が強く同情しやすいような設定として上手く機能していると感じます。だから、見てる側もエルサのほうに悩みに強く共感できるんですよね。その結果、そんなエルサの悩みに全然寄り添えてない中盤までのアナの行動のウザさが余計に際立っている面もあるんですけど。

クリストフとオラフ

 クリストフはアナの真の恋人キャラですね。これはかなり等身大のキャラですごく好感が持てます。「普通で地味だけどなんだかんだで良いやつ」みたいな素朴な人間味が良く表れたキャラになってるんですよね。前半までのハンスみたいな完璧超人キャラとは違い、アナに対して軽く嫌味を言ったりちょっと間抜けな言動をとったりするようなところもありつつ、でも根は良いやつだということが伝わるようなそんなキャラになっています。典型的なティーン向けのラブコメ漫画の男主人公にいそうなタイプって感じもします。良いキャラしてます。

 オラフも歴代ディズニー映画における名脇役に肩を並べることのできるキャラでしょう。セバスチャンやルミエールやジーニーなどのように、コミカルさとシリアスさを兼ね備えた名脇役でしょう。クリストフとスヴェンを間違えたま覚えるなど、登場当初はわりとギャグ要素担当のキャラだったのですが、単なるギャグ要員だけには留まらず、終盤ではアナに「真実の愛」を教える重要な役割を担っているところが彼の魅力を何倍にも引き上げてくれています。そもそもオラフっていうのはアナとエルサが幼少期に作った雪だるまに由来してるんですよね。そんな「アナとエルサの姉妹愛の象徴」とも言えるオラフがアナに「真実の愛」とは何かを教え、最終的にアナとエルサは「姉妹愛」によって救われるという本作のストーリー展開は非常に上手いです。オラフが単なるコメディ要素だけでなく本作のメインテーマにも関わる重要キャラとして機能していることが良く伝わる展開になっています。まさに本作に必要不可欠な名脇役と言えるでしょう。


舞台設定と映像美

 本作の舞台は北欧のノルウェーをモチーフにしたアレンデールという架空の王国です。そのため、本作では北欧ノルウェーらしさを感じさせてくれる美しい映像が至るところで見られます。アレンデールの街並みからしてそうです。ベルゲンやオスロなどノルウェーの代表的都市にインスピレーションを受けてデザインされたというだけあって、ノルウェーのお洒落で素朴で小ぢんまりとした雰囲気を感じさせる綺麗な建造物の数々が再現されています。また、フィヨルドやオーロラのようなノルウェーならではの自然風景の描写も秀逸です。この辺りはディズニーの映像技術の凄さを感じさせてくれますね。ノルウェーの美しく壮大な自然風景が良く描かれています。

 映像美以外の点でも、トロールやトナカイやサウナが登場したりして北欧らしさを感じさせてくれるような演出が本作ではなされています。後述する音楽要素なども本作の舞台設定に上手く合致した演出として機能しています。こういう風に世界観に合った演出の多さや秀逸さも本作の魅力の一つでしょう。

 さらに、本作の映像美を語る上で何と言っても欠かせないのが「氷や雪の映像の綺麗さ」でしょう。まず、オープニングで映し出される雪の結晶の美しい光沢、"Frozen Heart"のシーンで描かれているリアリティある氷の描写、エルサの魔法によって放たれる氷の綺麗な色彩など、当時のディズニーの最新のCG技術がうかがえる美しい映像になっています。特に"Let It Go"のシーンで描かれるエルサの氷の城の映像は圧巻と言うほかありません。クリスタルのような輝きを放つ氷の城の質感が素晴らしすぎます。何度見てもうっとりするような幻想的な氷の映像に仕上がっています。

 この氷の色彩や質感の多様さもまた素晴らしいんですよね。"Frozen Heart"のシーンでの氷は表面に凹凸が感じられリアリティある自然界の氷っぽく描かれている一方、エルサの作った氷の城は完全にツルツルした精巧なガラスのような質感になっています。一口に氷と言っても色んなタイプの氷をディズニーのアニメーション映像は表現できているわけです。中盤に、氷の城でエルサがウェーゼルトン公爵の部下に殺されかけるアクションシーンでは城の氷がちょっと光り輝くような黄金色っぽい色彩になっていますけど、これもまた氷の表現の多様さを感じられます。ちゃんとアクションシーンの緊迫感に合った氷の映像が再現されてるんですよね。

 アクションシーンにおける雪の映像表現もまた素晴らしいです。これまでの名作ディズニー映画の例に漏れず本作でも終盤に圧巻のアクションシーンがあるわけですが、そのアクションシーンにおける吹雪の映像が凄まじいんですよね。アナを救おうと駆けつけるクリストフに襲い掛かる雪崩や崩壊する船の迫力にひたすら圧倒されます。凍った湖に亀裂が入るシーンの映像などもかなりリアリティある自然描写になっていて画面に終始釘付けになります。迫力あるアクションシーンに合った素晴らしい雪の映像表現だと言えるでしょう。


豊富なミュージカル要素

 上述の通り、本作はロペス夫妻作曲の劇中歌が大量に詰まったゴリゴリのミュージカル映画になっています。特に前半までのシーンでめちゃくちゃたくさんの曲が流れます。ディズニー映画においてミュージカル要素は昔から伝統要素の一つですが、本作はその中でも特にミュージカル要素の強いほうの作品であると言って過言ではないでしょう。本作におけるミュージカルの要素の占める割合は『美女と野獣』に匹敵するレベルだと思います。劇中歌の数がめちゃくちゃ多い上に、ミュージカルシーンの上映時間も多めです。

 ぶっちゃけ、本作が歴史的大ヒットを遂げた要因の半分以上はこのミュージカル要素の魅力にあると僕は思ってます。それぐらい本作におけるミュージカル曲は名曲尽くしで素晴らしいです。第二期黄金期において『美女と野獣』がディズニーの王道ミュージカル映画としての一つの頂点に達してたように、第三期黄金期における『アナと雪の女王』も‟ミュージカル映画”の頂点の一つとして記録されるべき映画だと言えるでしょう。

 そういう意味で、本作におけるロバート・ロペスとクリスティン・アンダーソン=ロペスの夫婦の功績はやはり偉大と言うほかないでしょう。ミュージカル曲のクオリティの高さがヒットの大きな要因になったという点で、本作は『リトル・マーメイド』や『美女と野獣』などの第二期黄金期前半のディズニー映画の名作たちと通じるところがあります。


音楽

 上述の通り、本作にはたくさんのミュージカル曲が劇中歌として流れています。以下、各曲の魅力について語っていきたいと思います。

Vuelie

 オープニングで流れるエキゾチックな曲ですね。この曲はロペス夫妻の作曲ではなく、ノルウェーの作曲家フローデ・フェルハイム氏が作曲したものです。サーミ人*11の伝統的な民謡スタイルである「ヨイク」にインスピレーションを受けて作られたこの曲は、もともと本作の公開以前から作られてリリースされていた曲だそうで、それを本作のオープニング曲としてディズニーは改めて使用したのです。

 異国情緒あふれる独特な曲調がしっかりと耳に残る良曲でしょう。"Na na na heyana"と流れる歌声は非常に耳障りの良い声で、聴いてるだけで癒されるような気分になります。この曲は終盤でもまた流れていますが、こちらも場面の雰囲気に合った良い演出になっています。アレンデールの雪が溶けていく神秘的な光景にこの曲の曲調が見事に合っています。

Frozen Heart

 氷売りの人たちの力強い歌声が特徴の良曲ですね。最初は氷を切り出す音と男たちの歌声のアカペラから始まり、徐々にインストの音色が加わっていく感じが良いですね。この曲もさっきの"Vuelie"と同じくかなりエキゾチックな雰囲気の曲となっています。オープニングの"Vuelie"に続いてこの曲がすぐに流れることで、全体的にオープニングが異国情緒あふれる感じに演出されてるんですよねえ。北欧ノルウェーの異国文化っぽさを感じさせてくれる素晴らしい音楽演出だと思います。

Do You Want to Build a Snowman?

 本作の曲の中でも特に有名なほうの一つでしょう。クリスティン・ベル氏*12の歌声が心地よく響く名曲です。タイトル同様に"Do you want to build a snowman?"と歌うアナの歌声がかなりはっきりと耳に残るキャッチーなメロディになっています。曲の前半部分で流れるピアノの音色が個人的にかなり好みです。爽やかな感覚を抱かされるピアノの音だと思います。

 この曲に合わせて、アナとエルサの不遇な前半生がしっかりと分かりやすい形で描かれているんですよね。曲に合わせてストーリーがしっかりと進行していく様はまさに骨太ミュージカルらしい演出だと言えるかもしれません。本作のストーリーにおいてミュージカル要素がどれだけ大きな割合を占めてるかがはっきりとうかがえる曲の一つだとも言えるでしょう。

For the First Time in Forever

 "Let It Go"に次ぐ本作の代表曲と言っても過言ではないでしょう。完全に個人的な自分語りになりますが、僕はこの曲を大学入学したばかりの頃の文化祭で演奏して楽しんだ思い出があります。実際、この曲はかなり演奏しがいのある名曲なんですよね。オーケストラ編成の豪華な音色と、いつまでも耳に残るキャッチーなメロディが本当に完璧としか言いようがない名曲だと思います。特に、ストリングスの音が全体的にエモくて大好きです。

 姉と久しぶりに会えることに気分ウキウキのアナと、久しぶりに人前に出ることに不安いっぱいのエルサとの対比が良く表れた曲になっています。この曲は中盤のシーンでもまたrepriseされるのですが、ここでも対照的な気分のアナとエルサの掛け合いが良い感じのメリハリとなって曲を盛り上げてくれているんですよね。クリステン・ベルイディナ・メンゼル*13の歌声が良い感じにハモっていて圧巻なんですよねえ。二人のキャラの対比が良く表現された曲だと思います。

 またこの曲では歌詞において「扉を開ける」ということが重要なキーワードとして強調されています。この前の"Do You Want to Build a Snowman?"のシーンでエルサがずっと扉を閉ざして閉じこもっていたこととの対比になっているんですよね。本作では、この後もしばしばこの「扉の開閉」が本作のメインテーマにも関わる重要なメタファーとして登場します。そのキーワードをしっかりと視聴者に印象付けてくれるような歌詞がこの曲ではしっかりと書かれているわけです。その点も素晴らしいです。

Love Is an Open Door

 アナとハンスのデュエット曲ですね。上で述べた「開いた扉」というキーワードがこの曲の歌詞でも何度も繰り返されています。何と言ってもサビやタイトルにも入ってるぐらいですからね。そして、この曲もめちゃくちゃ気持ち良い曲なんですよねえ。聞いてるだけでちょっと楽しくなってくるようなそんな曲です。ちょいちょい入るギターっぽい音色*14とアップテンポなリズムがとても癖になります。結構好きな曲ですね。

 そう言えば、これって一応悪役のハンスが歌っているという点ではヴィランズ・ソングになるんですかね?その割にはヴィランズ・ソングとしてこの曲が挙がることってあんまりないんですよね。上述の通りハンス自身があまり魅力的な悪役として目立ってない上に、これはハンスだけでなくアナも歌っているデュエット曲なので、あんまりヴィランズ・ソングとして取り上げられることがないのかもしれないです。

Let It Go

 本作で一番有名な代表曲中の代表曲であり本作の主題歌ですね。というか、第三期黄金期のディズニーソングの中で、いや、全ディズニーソングの中で一番有名な曲と言っても過言ではないでしょう。実際この曲はめちゃくちゃクオリティの高い名曲で、アカデミー賞歌曲賞を受賞したのも納得の出来だと思います。一回聞いただけで完璧に耳に残るような印象的で圧巻とも言うべき曲調はまさに本作を代表する主題歌に相応しいと感じます。こんなにはっきりと聞きごたえのある旋律を作れるなんて、ロペス夫妻の実力の凄さに改めて感動しますね。

 エルサを演じてるイディナ・メンゼル氏の凄まじい声量にとにかく圧倒されるんですよね。このイディナ・メンゼル氏はこれまでも『レント』などの有名なミュージカルに出演して名声を獲得してきた大御所ミュージカル女優なんですが、その経歴の重みを十分に感じさせてくれるような歌声を披露していくれていますね。特に、終盤のサビに至る歌声の声量がとにかく凄まじいとしか言いようがないんですよね。

 ところで、この曲は良く言われてるように公開当初は宣伝のせいで誤解されて伝わった曲でもあるんですよね。そのせいで、実際にこの映画を見た人たちから「えっ、これってこんな曲だったの!?」という驚きの声が当時はネットなどでしばしば散見されました。というのも、日本語では「ありのままの」という歌詞に訳されてその部分が特に強調されて当時の予告CMなどで流れていたため、この曲を「ありのままの自分で良いんだと奮起させてくれる前向きな自己肯定ソング」だと勘違いしてた人が結構いたんですよね。

 でも、実際に映画を見れば分かる通り、この曲はむしろエルサがこれまでの全ての責任を放り投げて自暴自棄になった心境を歌ってるんですよね。今までの苦労が全て失敗に終わったことで完全にヤケクソになって開き直ったエルサが「私はもう一人で自分勝手に生きるんだ」と宣言する歌詞であり、上述のような自己肯定メッセージソングではないんですよね。その部分で予想を裏切られたことにがっかりした人も当時は散見されたのですが、僕自身はあんまりそういう方面での期待を元々していなかったってのもあって、あんまりがっかりはしていないですね。この曲の音楽としてのクオリティがそれで損なわれるわけじゃないですからね。

 実際、この曲がテレビCMや街中のBGMなど至る所で流れまくって完全に社会現象とも言うべきブームを巻き起こしたからこそ、本作は大ヒットした面もあるでしょう。制作当初の脚本ではエルサは悪役として設定されてたのにもかかわらず、エルサのテーマソングであるこの曲が完成した時あまりにも主題歌に相応しい名曲すぎてヴィランズ・ソングには向いていないと思われたために、エルサの悪役設定を消し脚本を大幅に作り替えたという逸話があるぐらいです。実際、これらの逸話に納得するぐらいの名曲だと僕も認めざるを得ません。

 この曲はエンドクレジットのシーンでも再び流れますが、こっちはこっちで劇中のやつとはまた違う感じにアレンジされていて聞き応えがあります。こっちはイディナ・メンゼル氏ではなくデミ・ロヴァート氏*15が歌っていますね。21世紀の今どきのポップスっぽい感じで、これはこれで耳に残る名曲になっています。イディナ・メンゼル氏のバージョンもデミ・ロヴァート氏のバージョンもどっちのアレンジも僕は好きですね。

Reinder(s) Are Better Than People

 多分、本作の劇中歌の中では一番地味な曲かもしれないです。クリストフが歌うシンプルな短い曲ですね。リュートを弾きながら歌うクリストフの歌声は、地味ながら心地よく響き子守唄代わりになる良さがあります。旅する吟遊詩人が歌ってるような情緒を感じさせてくれます。

In Summer

 オラフのテーマソングですね。オラフ演じるジョシュ・ギャッド*16の明るい歌声がコミカルで心地よい良曲でしょう。ちょっとお洒落な雰囲気も感じさせるのどかな曲調になってるんですよねえ。曲のラストで流れるジョシュ・ギャッド氏のたっぷりの声量がうかがえる歌声が特に好きです。良い感じに盛り上がりを与えてくれています。

Fixer Upper

 これも"In Summer"と同じくコミカルな雰囲気で楽しくなるタイプの曲ですね。トロールたちの楽しい合唱って感じで僕は結構好きな曲ですね。裏で入るインストも全体的に好みの編成です。特に序盤のアップテンポなリズムがとても癖になりますね。本作の劇中歌の中ではやや地味なほうですが僕はわりと気に入っていて良曲だと思っています。


音楽の力の凄さを感じさせる名作

 ここまで述べて来たように、『アナと雪の女王』はまさにミュージカル映画としての頂点に立つ名作だと言えるでしょう。主題歌の"Let It Go"のみならず、"Do You Want to Build a Snowman?"や"For the First Time in Forever"など数々の名曲が本作のミュージカル要素を大いに盛り上げてくれています。この音楽の力に、ディズニーの持つ技術力による氷などの美しい映像表現が加わることで、本作の演出は完璧としか言いようがない水準に達しています。

 そのうえでストーリーにはアナやハンスのキャラクター描写などの面で若干の難点は感じるものの、「真実の愛」という王道テーマをちょっと捻った形で見せるやり方がとても秀逸で良質なストーリーに仕上がってると言えるでしょう。『アナと雪の女王』はそういう点でディズニーの「新しい古典」とも言うべき地位を確立しました。「ヨーロッパの童話が原作のプリンセスもの」「ブロードウェイ風の本格ミュージカル作品」というディズニーの伝統はあくまでもしっかりと維持したうえで、その王道たるテーマ「真実の愛」の中身に従来の伝統たる「男女の恋愛」とは別個の答え「姉妹愛」を付け足す新しさも兼ね備えた作品が本作です。まさに「伝統と革新の両立」を特徴とする第三期黄金期のディズニーらしい名作だと思います。本作が歴史的大ヒット作となったのも納得の出来ですね。






 以上で、『アナと雪の女王』の感想を終わりにします。次回は『ベイマックス』の感想記事を書く予定です。それではまた。

*1:彼は移籍先のソニー・ピクチャーズで『サーフズ・アップ』というアニメーション映画の監督を務め、それなりに高い評価を受けていました。

*2:当時のウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオの制作関係のリーダー的ポジションにいた人です。詳しくは【ディズニー映画感想企画第47弾】『ルイスと未来泥棒』感想~新たなる体制の始動~ - tener’s diaryの記事を参照してください。

*3:なお、これ以前にもディズニーでは『雪の女王』の映画化企画は過去何度か持ち上がっていますが全てお蔵入りになっています。本作『アナと雪の女王』に直接つながる企画はこのクリス・バック氏の構想から始まりました。

*4:その後『アナと雪の女王2』と2019年超実写版『ライオン・キング』に抜かされたため、2020年11月現在は歴代アニメーション映画史上3位の興行収入となっています。

*5:2020年11月現在はその後多数の作品に抜かされたため、歴代16位の世界興行収入となっています。

*6:いわゆる「ポリコレ」なんかを僕が嫌うのも主にそういう理由です。

*7:アナのこの性格による無思慮な行動のせいで雪男を無駄に挑発してクリストフたちを命の危機に陥らせています。

*8:サプライズ・ヴィランについては【ディズニー映画感想企画第47弾】『ルイスと未来泥棒』感想~新たなる体制の始動~ - tener’s diary【ディズニー映画感想企画第52弾】『シュガー・ラッシュ』感想~異色のピクサー風作品~ - tener’s diaryの記事でも解説を書いてるのでそちらを参照してください。

*9:余談ですが制作当初の予定ではエルサは原作の『雪の女王』通りに悪役として登場させるつもりだったそうです。その後、紆余曲折あって最終稿の段階では結局エルサは悪役じゃなくなりました。

*10:ついでに言うと、『塔の上のラプンツェル』に関しても僕はその指摘は当てはまらないと以前【ディズニー映画感想企画第50弾】『塔の上のラプンツェル』感想~第三期黄金期の本格化~ - tener’s diaryの記事で述べました。

*11:ノルウェー含むスカンディナビア半島北部に住む先住民族です。なお、本作に登場するクリストフもサーミ人という設定になっています。

*12:本作でアナの声を演じているアメリカの有名な女優です。

*13:エルサの声を演じてるアメリカの女優です。ブロードウェイ出身のミュージカル俳優としてこれまでも名を馳せてた有名人です。以前ディズニー映画『魔法にかけられて』に出演した経験もあります。

*14:ひょっとしたらリュートの音かもしれません。リュートとギターの音色の違いは僕には聞き分けられないので分からないです。

*15:アメリカの有名な女優兼歌手です。かつてディズニー・チャンネルの『キャンプ・ロック』や『サニー with チャンス』などの作品に出演した経歴がある、ディズニー・チャンネル育ちの芸能人の一人ですね。

*16:アメリカの有名な俳優です。のちに実写版『美女と野獣』にル・フウ役で出演したりもします。