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【ディズニー映画感想企画第50弾】『塔の上のラプンツェル』感想~第三期黄金期の本格化~

 ディズニー映画感想企画第50弾です。今回は『塔の上のラプンツェル』の感想記事を書きます。この映画は文句なしの超有名作品でしょう。しばらくマイナーなディズニー映画が続いてしまって良く分かんなかったという人も本作はさすがに名前を聞いたことあるんじゃないでしょうか。第三期黄金期のメジャー級ヒット作の一つですね。そんな『塔の上のラプンツェル』について語っていきたいと思います。

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【基本情報】

「伝統回帰」路線の強化

 『塔の上のラプンツェル』は2010年に公開された50作目のディズニー長編アニメーション映画です。記念すべき50作目の作品ということで、本作のオープニングではそのことを示す「50」の数字が全面に映し出されています。原作はグリム童話の『ラプンツェル(髪長姫)』です。そうです。またしてもグリム童話が原作です。前作『プリンセスと魔法のキス』に引き続き、本作でもグリム童話を原作とする「プリンセスもの」の作品をディズニーは作ったのです。

 前の記事【ディズニー映画感想企画第49弾】『プリンセスと魔法のキス』感想~第三期黄金期の始まり~ - tener’s diaryで述べた通り、前作『プリンセスと魔法のキス』ではディズニーの伝統的要素への回帰が試みられました。その路線は本作でも継続して行われたのです。すなわち本作も「童話原作のプリンセスもの」「本格的なミュージカル要素」などの伝統要素を存分に含んだ作品として作られたわけです。しかも、その伝統回帰路線はある意味で前作『プリンセスと魔法のキス』以上に強化されています。

 例えば、前作『プリンセスと魔法のキス』では「童話原作のプリンセスもの」作品という伝統要素は残しつつも、舞台を昔のヨーロッパではなく1920年代のニューオーリンズに設定し初の黒人プリンセスを主人公に据えました。また、「本格的ミュージカル」という伝統要素を入れつつも、作曲者はディズニー御用達の作曲家アラン・メンケン氏ではなくピクサー御用達の作曲家ランディ・ニューマン氏でした。このように、前作『プリンセスと魔法のキス』では「伝統要素」と「新しさ」が折衷していた部分もありました。

 それに対して本作『塔の上のラプンツェル』は伝統要素がより一層強くなっています。例えば、本作の舞台はかつての『白雪姫』や『シンデレラ』や『眠れる森の美女』などと同様にファンタジー色あふれる「昔のヨーロッパ風の世界」であり、プリンセス含む登場人物たちも絵本などでイメージされがちな昔ながらの「フェアリーテイルの登場人物」像に近い姿の白人として描かれています。これだけでも本作は世間一般の抱く伝統的な「ディズニーのプリンセスもの」のイメージに忠実に沿っていることがうかがえると思います。

 しかも、本作ではミュージカル曲の作曲をアラン・メンケン氏が担当しています。『リトル・マーメイド』『美女と野獣』『アラジン』など、第二期黄金期の数々の名作ミュージカルの作曲を担当したディズニー御用達の作曲家である彼が本作のミュージカル曲の作曲に携わったのです。まさに、「第二期黄金期以来の伝統的なディズニー・ミュージカル」が完全に帰ってきたと言っても過言ではないでしょう。このように、本作は前作『プリンセスと魔法のキス』から始まったディズニーの伝統回帰路線をより一層強化した形で継続したのです。


手描きかCGか

 本作はもともとグレン・キーン氏*1が考案していた企画であり、当初は彼が監督を務める予定でした。しかし、グレン・キーン氏は体調不良を理由に監督を辞退し*2、代わりにバイロン・ハワード氏とネイサン・グレノ氏の2人が監督を務めました。このうちバイロン・ハワード氏は以前『ボルト』の監督を務めた経験のある人です。のちには『ズートピア』の監督も務めており、第三期黄金期を代表する監督の一人だと言えるでしょう。

 この制作体制のもとで本作はフル3DCG作品として作られました。先述の通り本作はディズニーの伝統要素をほぼ完全に踏襲していますが、「非伝統的」な「新しい要素」も全くないわけではないです。その一つがフル3DCGアニメーションとして作られている点でしょう。と言っても、これまでの記事で見てきた通りすでに『チキン・リトル』以降のディズニー長編アニメーションはフル3DCGに移行してはいますけどね。

 そのようなフル3DCGへの完全移行の流れを前作『プリンセスと魔法のキス』で断ち切り伝統的な手描き2Dアニメーションを復活させたディズニーですが、本作『塔の上のラプンツェル』は再びフル3DCGアニメーションの作品として公開されています。グレン・キーン氏はもともと本作を伝統的な手描き2Dアニメーションとして作りたかったそうですが、フル3DCGにして欲しいという要求を当時のスタジオから受けて討論の末に3DCGで作られることが決まりました。しかし、その際にただのフル3DCGにするのではなく、ディズニーの伝統的な手描き2Dアニメーションの美しさをCGで再現することをキーン氏は要求しました。これは当時の技術では非常に困難で大変な試みでした。

 特にグレン・キーン氏がこだわって苦労したのは主人公ラプンツェルの長い髪の表現です。この髪の質感をキーン氏の要望通りに仕上げるために非常に多くの試行錯誤が重ねられました。最終的に2010年3月*3にDynamic Wiresと呼ばれるソフトを開発したことで、何とか目標通りの髪のアニメーション映像をCGで表現することに成功しましたが、そこに辿り着くまでにかなり多くの制作期間が費やされたのでした。


史上最高額の制作費

 上述の通り、本作の制作では従来の伝統的な手描き2Dアニメーションの世界をフルCGで再現することが目指され、その実現のために莫大なコストがかけられました。その結果、本作の制作費は2億6000万ドルにのぼりました。この金額は、2020年10月現在、歴代のディズニー長編アニメーション映画の中で最大の制作費となっています。本作以前までディズニー史上最大の制作費だった『トレジャー・プラネット』ですら1億4000万ドルしか制作費がかかっていないことを考えると、本作がものすごく莫大なお金をかけて作られた作品であることが実感できるでしょう。

 それどころか、2020年10月現在、この『塔の上のラプンツェル』は非ディズニー作品も含めた歴代全てのアニメーション映画と比べても一番高い制作費を誇っています。つまり、「最もお金のかかったアニメーション映画」としてディズニー史どころかアニメーション史上においても意義の大きな作品となっているわけです。


ディズニーの完全復活

 莫大な制作費がかけられた本作『塔の上のラプンツェル』ですが、商業的にはその莫大な制作費を十分に回収して余り有るほどのヒットを達成しました。それどころか、第二期黄金期前半の水準に並ぶレベルの歴史的大ヒットを記録しています。本作の興行収入は5億9000万ドルを超し、この金額は『美女と野獣』や『アラジン』などの興行収入を優に超しています。2000年代暗黒期のディズニー作品が2~3億ドル台の興行収入で「成功作」扱いされていたことを考えると、本作の興行成績は文字通り「段違いの大ヒット」であることが実感できるでしょう。

 2010年の公開当時、ディズニー長編アニメーション映画の歴代興行収入ランキングで『ライオン・キング』に次ぐ2位の興行収入を本作は達成したのです*4。本作のこの歴史的な大ヒットによって、ディズニー・アニメーションは2000年代の長い暗黒期から完全に抜け出して復活したのです。もちろん、それ以前からも『ボルト』や『プリンセスと魔法のキス』でその兆しは少し見えていましたが、本作『塔の上のラプンツェル』の段違いのヒットによってディズニーの「第三期黄金期」は本格化したと言えるでしょう*5。この後、ディズニー長編アニメーションの華々しい繁栄が本格的に続いて行くことになります。


タイトルを巡るあれこれ

 前の記事【ディズニー映画感想企画第49弾】『プリンセスと魔法のキス』感想~第三期黄金期の始まり~ - tener’s diaryでも述べた通り、前作『プリンセスと魔法のキス』の興行収入が微妙だった原因を「プリンセスという単語のせいで女の子向けだと思われたため」だと考えたディズニーはその反省を生かして本作のタイトルを変更しました。もともと、本作は原作のグリム童話と同じ"Rapunzel"というタイトルで公開される予定でした。しかし、プリンセスの名前を全面に押し出すタイトルだと前作と同じようなことが起きるのではないかと恐れたディズニーは、本作のタイトルを"Tangled"*6に変更したのです。一方、邦題のほうは主人公「ラプンツェル」の名前を含んだうえ、それに「塔の上の」という修飾語句を付け足した『塔の上のラプンツェル』というタイトルになりました。

 この原題と邦題はどちらも、それぞれ別の理由ではありますが一部から批判に晒されています。実際僕もこのタイトルは邦題も原題もともに若干イマイチだなあとは感じます。原題は抽象的な単語すぎてフワフワした良く分かんない感覚を感じさせるし、邦題はあまりにもジブリっぽい*7タイトルでディズニーらしさを感じられません。正直に言うと僕は原題も邦題もどちらも変に捻らずに"Rapunzel"『ラプンツェル』のままにしておい欲しかったなあと思ってますね。

 まあ、変更前のタイトルのままでも本当にこれだけのヒット作になれたのかどうかまでは僕には判断不可能なので、ディズニーによるこのような経営判断が間違っていたとまでは言いませんけどね。あくまでも僕の個人的な好みとしては、元のシンプルな"Rapunzel"というタイトルのほうが分かりやすくて好きだったというだけの話です。とは言え、そもそも僕は作品の中身さえ良ければタイトルのセンスの良し悪しはそこまで気にならないので、このことで本作の評価が大きく揺らぐことはないんですけどね。




【個人的感想】

総論

 はい、もう、言うまでもなく本作は名作中の名作に決まっていますね。上述の通りディズニーの伝統への徹底的な回帰をしてくれた本作を、保守的なディズニーオタクの僕が好きにならないわけがないです。ストーリーもキャラクターも音楽も映像も全てが素晴らしいとしか言いようがないです。若干の難点もなくはないのですが、そんなの全く気にならないほどに素晴らしすぎる作品です。本作が歴史的大ヒットを遂げたのも納得の出来だと思います。めちゃくちゃ大好きな作品です。

 以下、詳細な感想を述べていきます。


王道のラブロマンス

 上で述べて来たように、本作は久しぶりの直球王道ど真ん中の「プリンセスもの」なんですよね。前作『プリンセスと魔法のキス』に引き続き王道のプリンセスものらしく、主人公ラプンツェルとフリン・ライダーのラブロマンス展開こそが本作のストーリーのメインテーマとなっているんですよね。こういうド直球の恋愛物語を作ってくれたという点だけでも、保守的なディズニーオタクとしては嬉しくてたまりませんね。

 素晴らしい恋愛ストーリーのための条件として、プリンセスとプリンスのそれぞれのキャラがしっかり立っていることが挙げられると思いますが本作はその条件をしっかり満たしています。特に、主人公ラプンツェルのキャラ設定と描写が良いです。詳細は後述しますが「強さと弱さの両方を抱えるキャラ」になっているんですよね。そして、それに対するフリン(ユージーン)のほうも同じく強さと弱さが見えるキャラになっている。そんなラプンツェルとフリンがお互いを救うor成長させる形で恋に落ちる展開になってるんですよね、本作は。

 前作『プリンセスと魔法のキス』でも「プリンセスとプリンスの両方それぞれの成長物語」になっている点を重要なポイントとして指摘しましたが*8、本作でも似たような点は見られます。ラプンツェルはフリンの手助けのおかげで長年の夢だった外の世界について知ることができました。一方で、フリンもラプンツェルと出会ったことで今までの軽薄な泥棒生活から足を洗い本当に愛すべき大切な人を見つけることができました。

 このように、ラプンツェルもフリンもお互いに出会い愛し合うようになったことで従来の生活から変化し成長することができたわけです。「愛が二人の人生を新しいものに変えた」という本作の展開はまさにラブロマンスを真正面から称賛したストーリーだと言えるでしょう。しかも、2人の成長過程に関して前作『プリンセスと魔法のキス』ではママ・オーディという導き手がいましたが、本作ではそういう外からの導き手も存在しません。完全にラプンツェルとフリンの2人だけの冒険の中で、2人はそれぞれお互いに成長し恋心を発展させていくのです*9。そのため、前作以上に「ラブロマンスの効果」がはっきり分かりやすく目立っている展開になっていると思います。


ラプンツェルのキャラ描写

 個人的に本作が特に素晴らしいのは主人公ラプンツェルのキャラ設定だと思います。先述したように彼女は「"強さ"と"弱さ"の両方を持つプリンセス」なんですよね。しばしば「最近のディズニーのヒロインは"強い女性"キャラばかり」だという噂を聞きます。しかし、本当にそれだけでしょうか?少なくとも、本作の主人公ラプンツェルに関しては単なる「強さ」だけを強調した描かれ方はしていません。むしろ、「強さ」と同じぐらい彼女の「弱さ」もはっきりと描写されているんですよね。そこが素晴らしいんです。

 確かに、本作の予告動画やポスターなどにおいてもラプンツェルはフライパンを武器にしフリンにも物怖じしない勝ち気でお転婆な「強い女性」として描かれており、恐らくディズニー側もある程度はそう思われることを狙って宣伝したのでしょう。これは「プリンセス」色が強すぎたせいで前作『プリンセスと魔法のキス』は思ってたより売れなかったのだという反省*10を生かしてのことだと思います。「今まで通りの"お淑やかなプリンセス"がメインの作品じゃないんですよ」とディズニー側はアピールしたかったのでしょう。

 しかしそんなディズニーの宣伝意図とは裏腹に、実際の本作のストーリーにおけるラプンツェルはむしろ適度に「弱さ」もある「普通のティーンの女の子」として描かれています。もちろん、宣伝で使われてたようなフライパンや長い髪を武器にしてアクションする「強さ」の象徴シーンも本作にはちゃんと描かれてるので、何も当時のディズニーが宣伝詐欺だったというわけではないです。しかし、僕は本作の宣伝ポイントをそのようなラプンツェルの「強さ」描写だけに留めるのは、本作品の本当の魅力のうちの片面にしか注目していないような宣伝だと感じます。本作におけるラプンツェルの魅力は「強さ」だけでなくむしろ「弱さ」の描写にもあると言えるでしょう。

 先述のように本作をラプンツェルとフリンの成長物語として捉えるならば、むしろそんな「弱さ」も抱えていたラプンツェルがその弱さを克服して完全に強くなっていくその「成長」の過程こそが本作のメインストーリーでもあるんですよね。具体的には、ラプンツェルと母ゴーテルの関係がそうです。前半までのラプンツェルは母親のゴーテルに強く反抗することができず弱気な態度になってしまうキャラとして描かれてるんですよね。こここそがラプンツェルの「弱さ」の部分です。そして、その弱さの克服こそが本作のメインテーマの一つでもあるんです。

 つまり、本作はラプンツェルがフリンと出会って外の世界を冒険していくうちに強くなっていき‟母”ゴーテルに反抗することを覚えるまでの成長物語でもあるんですよね。「今まで親の言いなりだった子供が精神的に成長して親に初めての反抗をする」という展開は古くから色んな物語で頻繁に描かれていますが、本作もそのパターンの物語になっています。実際、本作ではラプンツェルの反抗シーンが2回も山場として描かれています。1回目は"Mother Knows Best(Reprise)"の曲が流れるシーン、そして2回目は終盤にラプンツェルが全ての真相を知るシーンです。この2回に渡ってラプンツェルはそれまでの「弱気」な自分から抜け出し、はっきりと自分の意思でゴーテルに反抗するようになるんですよね。まさに、本作の見所というべきシーンの一つでしょう。

 そしてこれらのシーンでのカタルシスを演出するためにも、前半では母ゴーテルに対するラプンツェルの「弱さ」をはっきり描く必要があるんですよね。実際、前半のシーンではラプンツェルは母親の前で自信なさげにモゴモゴと口籠った喋り方しかできず、明らかに「親に逆らえない気弱な娘」として描かれてました。そんな彼女が最後にはゴーテルへの反抗をはっきりと強気な態度で顕わにするからカタルシスを感じられるんですよねえ。良いストーリー展開だと思います。


キャラクター

 本作にもやはり魅力的なキャラクターが多数存在します。実はメインで動いているキャラクターの数はそんなに多くないんですけど、だからこそそれぞれの登場人物がしっかりと個性的な性格で目立っているんですよね。以下、それぞれの登場キャラクターについて順に見ていきます。

ラプンツェル

 本作の主人公です。上で述べた通り、強さだけでなく克服すべき弱さも合わせ持ったキャラとして描かれてるのが素晴らしいんですよね。もちろん、フリンや酒場の荒くれ者たち相手には勇敢な態度で臨む「強さ」もちゃんと描かれています。でも、その一方で母親には逆らえない気弱なキャラでもあるというギャップが彼女の魅力になってるんですよね。親には怖くて逆らえないけど外の世界を夢見て恋に恋するお転婆なところもある「等身大の女の子」って感じの描写がラプンツェルの魅力だと思います。ラプンツェルが強すぎも弱すぎもしない普通の女の子だからこそ、そんな彼女が最終的に成長して母に反抗できるようになる展開にカタルシスを強く感じられるんですよね。良いキャラだと思います。

 あと、ちょっと話が変わりますがぶっちゃけラプンツェルの見た目がかなり可愛いです。ラプンツェルってわりと日本の萌えオタ好みの見た目だと思うんですよね。目がクリッとして大きいうえに顔は童顔で可愛らしいという、かなり萌えキャラ的な可愛さを持ったキャラクターデザインになっていると思います。そういう点も彼女の魅力と言えますね。

フリン・ライダー

 本作のプリンス側です。と言ってもアラジンなどと同じく元々はプリンスじゃなくて泥棒です。泥棒なのにプリンセスと出会って恋に落ちるという設定も、泥棒の時のチャラい態度や身のこなしも含めてどことなくアラジンを彷彿とさせるキャラなんですよね、彼って。でも、アラジンの二番煎じにならないようにちゃんと差別化されたキャラ付けもなされています。アラジン以上にわりとドジでコミカルなキャラとして描かれてるんですよね。本作のアクションシーンなどではフリンが結構頻繁に酷い目に会ってて、それがちょっとしたギャグとして機能してます。そういうコミカルなところも彼の魅力ですね。

 彼もまた今までのディズニー映画のプリンスと同じく、どこか欠点があって「成長の余地」がある存在として描かれています。そもそも登場当初のフリンは明らかに欲深くて軽薄なお調子者のナルシストのキャラとして描かれてますからね。しかも泥棒というね。そんな欠点だらけのお尋ね者の泥棒フリンがラプンツェルと出会って恋に落ちたことで徐々に改心していき、フリンではなくユージーンとして生きるように成長するんですよね。本作はラプンツェルだけでなくユージーンの成長物語にもなっているというわけです。こういうふうにお互いに影響し合うことでそれぞれが成長する形での恋愛の発展って美しいですよねえ。本作はそんな素晴らしい恋愛物語が描かれています。

 あと、このフリンの見た目もかなりのイケメンです。フリンのキャラデザは、ディズニー・スタジオ内の女性スタッフが集まって「一番イケメンだと思う男性像」について徹底的に議論しまくった結果生まれたそうです。女性スタッフたちによるこの「ホット・マン会議」*11によって、「女性の好む最強のイケメン」としてデザインされたのがこのフリンなのです。そんな会議の末に決まっただけあって、確かにこのフリンの見た目は男性の僕から見てもかなりのイケメンだと感じます。ナルシストになるのも納得のルックスの良さです。

パスカルとマキシマス

 本作の名脇役アニマルたちですね。本作の動物キャラはパスカルもマキシマスも喋らないので、よりリアルな動物らしい仕草が出ていて可愛らしいんですよね。パスカルはお茶目なところもありながらも地味に有能なキャラとして描かれてるのが良いですねえ。荒ぶるマキシマスを手懐けたり、終盤ではゴーテルを塔から突き落としたりする活躍を見せてくれています。こういう有能なペットキャラは好きです。

 そして、僕の一番のお気に入りはマキシマスですね。フリン追跡に熱心な正義感の強い馬という設定がたまりません。フリンと犬猿の仲にもかかわらず、終盤ではラプンツェル救出のためにフリンと協力するという展開もめちゃくちゃ熱くて好きです。彼とフリンのこのコミカルな仲の悪さが萌えるんですよねえ。とても良い魅力的な馬キャラだと思います。

ゴーテル

 本作のディズニー・ヴィランですね。前作のファシリエに引き続き、本作でもプリンセスものらしい正統派のディズニー・ヴィランが出てきたのは嬉しいですねえ。このゴーテルも、第二期黄金期のディズニー・ヴィランズと同様に自身のテーマソングを作中で歌ってます。その点も魅力的なヴィランとしての高評価ポイントです。『シンデレラ』のトレメイン夫人や『白雪姫』の女王を彷彿とさせるような「ヨーロッパの童話に出てくる悪女」っぽい見た目になっています。こういうところでもディズニーの伝統回帰を感じて嬉しくなるんですよねえ。

 その一方で、ゴーテルはある意味でとても「現代的」なキャラ付けがなされた悪役でもあります。ようはゴーテルって「毒親」タイプのヴィランなんですよね。「あなたのためなのよ」という口実のもとでラプンツェルへの過干渉&過保護ぶりを発揮するその‟毒親”ぶりがとてもリアルなんですよねえ。「あー、現実にもこういう毒親って存在するよねえ」という感じのかなりリアリティあるキャラクター描写がなされています。昔のヨーロッパが舞台のファンタジー風の世界観ながら、このゴーテルのキャラはわりと現代社会の毒親を風刺したような設定になっていますね。そのリアリティある悪人っぷりが悪役としての彼女の魅力に繋がってるんですよねえ。

 ディズニーは昔から本当にこういう「現実にもいそうなリアリティある嫌な奴」の描写が上手いです。そういう悪役こそがディズニー映画の魅力に一つでもあると思います。ゴーテルをここまでリアリティある毒親として描いてるからこそ、それに支配されるラプンツェルの「弱さ」もまたリアリティあるものとして描けているんですよねえ。こういう毒親に精神を支配されて逆らえなくなっている家庭って現実にありそうだよなあと思えるリアリティが表現できています。

 実は、本作と似たようなタイプの構図の親子像を以前にも『ノートルダムの鐘』でディズニーは描いています*12。フロローとカジモドの関係は、ゴーテルとラプンツェルの関係に近いものがあります。実際、どちらも「外の世界は残酷だ」という口実で子供を縛っているわけですからね。こういう現実にもいそうな「毒親」に対する反抗こそが両者に共通するテーマでもあります。

 しかし、その一方で二番煎じにならないような差別化もちゃんとなされています。フロローは「(誤った)正義感に溢れる父親」として描写されてたのに対し、ゴーテルは「(偽りの)愛情あふれる母親」として描いてますからね。ゴーテルは「ラプンツェルのためを思って」という口実のもとでラプンツェルを縛るわけで、そういうふうに「嘘の愛情」による精神的支配を行う毒親タイプの悪役というのはディズニーでは本作が初めてでしょう。その点で新しいタイプの個性的なヴィランだと言えます。名悪役だと思います。

酒場の荒くれ者たち

 見た目は怖いけどラプンツェルと同じく純粋な夢を見ている人たちという設定が、いかにも「王道ディズニー映画の登場人物」って感じがしてすごく好きなキャラたちです。やっぱりディズニー映画というのは夢を見ることの素晴らしさを大いに肯定してこそですからね。彼らの歌う"I've Got a Dream"はそんなディズニー映画らしい王道メッセージを伝えてくれる素晴らしい歌詞になっていますし、そんなメッセージを歌う彼らのキャラクターもまた素晴らしいです。その王道メッセージを見た目とのギャップ萌えとともに伝えてくれてるのがまた良いんですよねえ。

 終盤のアクションシーンで再び彼らが登場した展開も上手いなあと思います。マキシマスに呼ばれてフリン救出のために王国の処刑場に駆けつける彼らの登場にはちょっとした感心を覚えます。ちゃんと前半での彼らの登場が終盤での再登場の伏線になっているんですよね。これまでの記事でも述べた通り、こういう伏線の張り方の巧みさはラセター体制に入ってからのディズニー映画の特長でしょう。本作でもその巧みさは存分に発揮されています。ユニコーンのような小道具の使い方*13が上手いですもの。


王道らしいシーンの魅せ方

 本作は伝統的なディズニー映画の王道と言われている「ヨーロッパの童話原作のプリンセスもの」として、その伝統的イメージにふさわしいシーンを多数見せてくれているんですよね。「ああ、いかにも昔からのディズニー映画らしいシーンだなあ」と感じさせてくれるシーンの演出方法が上手いんですよね。そこも本作の魅力の一つと言えるでしょう。

 例えば、オープニングのナレーションがそうです。本作は絵本を開くという方法*14こそとっていませんが、それに近い「朗読」風の口調のナレーションで物語が始まっています。ナレーション担当のフリンの軽薄な喋り方によってちょっと「現代風」にアレンジされてこそいますが、それでも古風な昔ながらの伝統的なディズニー映画のオープニング演出を踏襲しているのがうかがえる入り方になっています。こういうナレーションによる入りはかつての黄金期のプリンセスものディズニー映画でしばしば見られた方法であり、それを踏襲しているところに本作の「伝統回帰」姿勢を感じますねえ。

 また、終盤のフリンが生き返るシーンも伝統的なディズニー映画らしいシーンです。『白雪姫』や『ピノキオ』や『美女と野獣』などの終盤のシーンにすごく似ています。一度亡くなったと思われた人物に奇跡が起きて蘇る感動のシーンはこれらの作品でも出てきましたからね。そのような過去何度もやっておりその効果は保証済みの「絶対に感動するシーン」を本作でも入れたというわけです。やはり、長年の実績がありますからね。本作でもその効果は十分に発揮されたと言えるでしょう。ゴーテルに刺されて死んだと思われたフリンがラプンツェルの涙によって奇跡が起きた結果生き返った終盤のシーンは、ベタではありますがそのベタさゆえにやはり何度見ても感動します。こういう王道の感動シーンはやはりいつ見ても素晴らしいですからねえ。

 この終盤のシーンでは悪役ゴーテルが死ぬシーンも流れますが、ここも往年のディズニー映画を彷彿とさせる「伝統的」な映像になっています。『白雪姫』や『美女と野獣』や『ノートルダムの鐘』など、悪役が最期に高いところから落ちる展開はディズニー映画ではお馴染の展開ですからね。本作でもその伝統を踏襲して悪役のゴーテルは最期に塔から落ちています。こういうところにも本作の伝統回帰の姿勢を感じて僕は嬉しくなるんですよねえ。


アクションシーン

 やはりディズニー映画の名作には見応えあるアクションシーンが欠かせません。本作もかなり素晴らしいアクションシーンがたくさん見れました。アクションシーンの豊富さという点でも本作は黄金期の再来を感じさせてくれる作品だと言えるでしょう。しかも、そのアクションシーンの映像はディズニーの最新のCG技術のおかげでかなりクオリティの高いものに仕上がってるんですよね。

 まず序盤からしていきなり緊張感ある名アクションシーンが見られます。フリンとスタントン兄弟が城からティアラを盗みだし衛兵たちに追われるアクションが展開されていますからね。堅牢と聳え立つお城の背景映像や目まぐるしく動く衛兵たちとのチェイスシーンなどなど、なかなかに見応えのあるアクションの映像が見られます。

 また、中盤でも衛兵たちとの戦闘シーンが見られます。ダムの近くで繰り広げられる怒涛のアクションシーンは何度見ても目を見張る凄さです。短剣を銜えたマキシマスとフライパンを持ったフリンの変てこな戦闘も面白いですし、ラプンツェルの長い髪を生かしたターザンのようなアクションも見応えあります。そして、最後にはダムの決壊による怒涛の洪水の映像が映し出されます。この洪水の映像が本当に圧巻なんですよねえ。CG技術による美しい水の映像の効果もあって、かなり迫力のある洪水の映像になっています。素晴らしいアクションシーンでしょう。

 終盤のアクションもこれまた素晴らしいです。ラプンツェル救出のために酒場の荒くれ者たちやマキシマスの協力で処刑場からフリンが逃走するシーンですね。荒くれ者たちと衛兵たちとの戦闘シーンはコミカルなギャグ要素も混じってて面白いです。また、フリンを乗せたマキシマスが空中をジャンプしたり街中を駆け巡るアクション映像は迫力満点でかなり見ごたえがあります。衛兵の大群が押し寄せる映像が緊迫感を高めていますし、その緊迫感の中でマキシマスが大きくジャンプする様はまさに圧巻と言うべき映像に仕上がっています。良質なアクションシーンだと思います。


音楽

 前作『プリンセスと魔法のキス』同様、本作もかなりしっかりした本格的なミュージカルになっています。先述した通り、何と言ってもアラン・メンケン氏が作曲を担当していますからね。本当に第二期黄金期を彷彿とさせるようなブロードウェイ風の王道ミュージカル曲が目白押しとなっています。以下、各曲の感想を述べます。

When Will My Life Begin?

 オープニングでラプンツェルが歌う曲ですね。めちゃくちゃ爽やかな名曲だと思います。爽快な朝の雰囲気に相応しく心地良い気分にさせてくれる曲調です。個人的に、何度でも繰り返し聴きたくなるタイプの曲ですね。というか、僕は一時期この曲をめちゃくちゃ頻繁に聞いていました。バッキングで流れるギターの音がめちゃくちゃ好みなんですよねえ。こういう爽やかな雰囲気のギターは好きです。

 この曲はRepriseでまた流れますが、このReprise版の曲も好きです。オープニングで流れた時とはまたちょっと曲の雰囲気が変わっていて、より壮大で感動的な雰囲気になっています。ブラスやストリングスの音が加わってオーケストラ風の構成になったことで、とても豪華な音色になっているんですよね。ラプンツェルの新しい旅立ちを彩るにふさわしい豪華でワクワクする名アレンジだと思います。こっちのバージョンもまた好きですねえ。

Mother Knows Best

 ゴーテルが歌う本作のヴィランズ・ソングです。ヴィランズ・ソングにもかかわらず恐ろしい雰囲気は感じず、むしろ優しい子守唄のような雰囲気の曲に仕上がっています。木管やストリングスの音がわりと優しく響いてるからなんでしょう。それゆえに、まさに「毒親」にふさわしい曲なんだと思います。「愛情あふれる母親」像を演じることでラプンツェルを縛るゴーテルらしい、「母親の愛情」を感じさせるような雰囲気の曲になっているんですよねえ。本作のテーマに合致した上手い演出だと思います。

 この曲もまた後のシーンでRepriseが流れますが、こちらは最初に流れた時とは違ってかなりヴィランズ・ソングらしいおどろおどろしい雰囲気の曲に仕上がっています。ゴーテルの声を演じているドナ・マーフィー氏の声量が凄まじいんですよね。彼女は元々ブロードウェイのミュージカルで活躍していた女優なのですが、「さすがブロードウェイ出身!」と思わせてくれるような声量です。いかにも悪役らしい不気味で恐ろしい声がこの歌で存分に発揮されています。ヴィランズ・ソングに相応しい良アレンジだと思います。

I've Got a Dream

 酒場の荒くれ者たちが歌う楽しげな雰囲気の名曲ですね。先述したように、王道ディズニーらしく夢を見ることを全面肯定してる歌詞が良いですね。曲自体もかなりアップテンポで楽しい雰囲気が耳に残るキャッチーな名曲に仕上がっていると思います。こういう大勢で歌う感じの曲は良いですよねえ。曲の終盤にかけての盛り上がりが僕は特に好きですね。僕は"When Will My Life Begin?"と同様にこの曲も昔良く聞いていました。聞いてるだけで晴れやかな気分になれる曲ですからね。

Kingdom Dance

 これは歌ではないんですけどね。王国の城下町に辿り着いたラプンツェルとフリンが街中を観光し、街の人々と一緒にダンスするシーンで流れていた曲です。このケルト音楽っぽい曲調が本作の「童話の世界の中世ヨーロッパ風の街並み」にすごく合ってるんですよね。特に曲の終盤にかけて徐々に盛り上がる感じがとても良いです。楽しく感じられる良曲だと思います。

I See the Light

 本作の劇中歌の中でも一番有名な曲でしょう。実質的なテーマソングに近いですね。アカデミー賞の歌曲賞にノミネートされただけあってかなりの名曲です。同じくアラン・メンケン氏の作曲した"Beauty and the Beast"や"A Whole New World"を彷彿とさせるような、ディズニーの王道プリンセスものに相応しいとても感動的な美しい雰囲気の曲に仕上がっています。

 本当に幻想的で美しい曲なんですよねえ。ラプンツェルとフリンがそれぞれ交互に歌った後に合唱するという構成も、ディズニーの王道ラブロマンスらしくて素晴らしいです。"A Whole New World"と並ぶディズニーを代表する名デュエット曲だと言っても過言ではないでしょう。後述するように、この曲が流れるシーンはアニメーション映像もめちゃくちゃ綺麗で素晴らしいので、その相乗効果も相まってかなり感動的かつ印象的なシーンになっています。本当に素晴らしい名シーンになっていますし、この曲もその名シーンを彩るに相応しいかなりの名曲でしょう。とにかく心の底から感動する名曲中の名曲です。

Healing Incantation

 黄金の花の魔法を使うために劇中で何度も流れる歌ですね。いかにもな「魔法の呪文」っぽさを感じさせるミステリアスで神秘的な雰囲気の曲になっています。その歌によってラプンツェルの髪が金色に輝くアニメーション映像もまた綺麗なんですよね。映像と歌の両方が合わさって神秘的かつ幻想的な雰囲気を上手く演出してくれています。素晴らしいです。

Something That I Want

 これは劇中で流れるミュージカル曲ではなくエンドクレジットのシーンで流れる曲ですね。歌っているのはアメリカのロック歌手のグレイス・ポッター氏で、この曲に関しては作曲もアラン・メンケン氏ではなく彼女が行っています。これもかなりキャッチーで耳に残る名曲なんですよねえ。今風のポップス曲って感じでなかなかに楽しい曲です。サビのメロディがとても好きで何度でも繰り返し聴きたくなります。ちょいちょい入るシンセの音が僕は好みですね。


アニメーション映像

 本作は大量の制作費をかけただけあって3DCGの映像がめちゃくちゃ綺麗です。上述した通り、本作の制作では特にラプンツェルの長い髪の表現について何度も試行錯誤して独自のソフトまで開発したそうですが、その甲斐あって彼女の髪は適度なデフォルメとリアルさが調和した完璧な質感を表現できてると思います。かなりリアルなツヤのある美しい金髪として描けているんですよねえ。これだけリアリティある髪の質感を3DCGで表現するディズニーの映像技術には心の底から感心させられますね。

 そして、本作のシーンの中でも特に美しい映像が映し出されているのはやはり"I See the Light"のシーンでしょう。この曲の前後で映し出されるスカイランタンの映像がもう途轍もなく綺麗なんですよね。国王夫妻のランタン点灯に合わせて町中から一斉にランタンの光が溢れてきて空を覆う光景はあまりにも幻想的でうっとりします。このスカイランタンの映像って実際にアジアの各地で行われている似たような祭り*15がモデルになっているのですが、アジアの祭りがモデルなのにも関わらずこのフェアリーテイル風のヨーロッパの世界観にめちゃくちゃ合ってるんですよねえ。夜空に浮かぶ無数のランタンの光に包まれながら主人公2人が"I See the Light"を歌うこのシーンは、映像も音楽もともにかなりロマンチックで美しいとしか言いようがないんですよねえ。歴史に残るレベルの幻想的な名シーンでしょう。


王道の素晴らしさを教えてくれる名作

 以上、ここまで『塔の上のラプンツェル』について褒めちぎる感想を書いてきました。とは言え、本作も若干の難点はなくはないです。一部のストーリー展開の仕方がやや雑で、第三期黄金期の他の作品に見られたようなwell-madeさを本作は少し損なっています。具体的には、ラプンツェルが全ての真相を知る終盤のシーンの唐突さなどがそれに当てはまります。何の伏線もなく、黄金の花の不思議な魔法パワーで急にラプンツェルが自身の生い立ちの真相を知る展開は、ちょっと唐突で雑な山場の作り方かなあという気はします。終盤にフリンが生き返るシーンも同様に説明不足な感じはしました。確かに感動はしましたが、なんで髪が切られた後でもラプンツェルの涙だけでフリンが生き返ることができたのかは良く分からないままです。

 このように本作はストーリー上に若干の突っ込みどころはあるのですが、しかしそんな些細な欠点など気にならなくなるぐらいには本作は名作なんですよね。この『塔の上のラプンツェル』はとにかくこれでもかというほどに「伝統的なディズニー映画の王道」要素をたっぷり詰め込んでいます。そしてそのど真ん中直球の王道さゆえに、本作は第三期黄金期の中でも屈指の名作と言うべき作品になってるんですよねえ。

 しばしば第三期黄金期のディズニー映画の特徴として「ポリコレに準拠した革新性」「現代に合わせた価値観のアップデート」を挙げる人がいます。しかし、僕はむしろ逆の面も大きいと思っているんですよね。前作『プリンセスと魔法のキス』や本作『塔の上のラプンツェル』を見てると、むしろこれらの作品に見られる「伝統回帰」要素こそが第三期黄金期のディズニー復活の主な原因じゃないかと僕は思います。革新性よりも保守性こそがヒットの要なんだと感じます。それまでの2000年代暗黒期ディズニーが変に捻った作風の作品ばかりを作ったせいで衰退したことを考えれば、やはりディズニー作品に求められてるのは本作のような「伝統的な王道の素晴らしさ」なんでしょう。

 昔のヨーロッパを舞台にしたプリンセスもの、ストレートなラブロマンス、第二期黄金期のような素晴らしいミュージカルソングの数々、圧巻されるような幻想的で綺麗なアニメーション映像……etcこれら全ての「王道」要素が本作の魅力に繋がってるんですよねえ。本作が興行収入的にものすごく大ヒットしたのも納得の出来です。本作『塔の上のラプンツェル』は、ディズニーが長年培ってきた伝統的な王道テーマがいかに素晴らしいものだったのかを今一度僕らに再確認させてくれるような作品だと言えるでしょう。そういう意味でも僕はこの『塔の上のラプンツェル』はめちゃくちゃ大好きな作品なんですよね。第三期黄金期のディズニーの完全復活を告げるに相応しい、文句なしの素晴らしすぎる名作です。






 以上で『塔の上のラプンツェル』の感想を終わりにします。次回は『くまのプーさん』の感想記事を書こうと思います。それではまた。

*1:『リトル・マーメイド』のアリエルや『美女と野獣』のビーストなどを描いてきたディズニーの大御所アニメーターです。

*2:この後、キーン氏は監督ではなく制作総指揮という役職を担当することになりました。

*3:本作の公開が2010年11月なのでわりとギリギリの時間ですね。

*4:なお、その後『アナと雪の女王』や『ズートピア』などに興行収入で抜かされたため、2020年10月現在の歴代ディズニー長編アニメーション映画の興行収入ランキングでは本作は7位となっています。

*5:そのため、本作を第三期黄金期の開始時点に位置付ける人もいます。

*6:髪の毛や紐などが「こんがらがっている」「絡まっている」状態を意味する英単語です。

*7:はっきり言って、『崖の上のポニョ』とタイトルが似過ぎています。

*8:詳細は【ディズニー映画感想企画第49弾】『プリンセスと魔法のキス』感想~第三期黄金期の始まり~ - tener’s diaryの記事を参照してください。

*9:もちろん、パスカルやマキシマスのような影から支える名脇役はいましたけどね。

*10:詳細は【ディズニー映画感想企画第49弾】『プリンセスと魔法のキス』感想~第三期黄金期の始まり~ - tener’s diaryの記事を参照してください。

*11:ホット・マンというのは英語でイケメンに対して良く使う呼称です。最強のイケメンを決めるために開かれたこの会議はホット・マン会議と呼ばれていました。

*12:詳細は【ディズニー映画感想企画第34弾】『ノートルダムの鐘』感想~大人向け路線の成功と失敗~ - tener’s diaryの記事を参照してください。

*13:終盤のシーンで、処刑場に似合わないユニコーンの模型が置かれてることにフリンが気付くことで、あの酒場の荒くれ者たちがフリン救出にやって来ていることを匂わせる仕掛けになっていました。

*14:『白雪姫』や『シンデレラ』のような昔のプリンセスものディズニー映画でとられていたオープニングの演出です。

*15:例えば、タイのコムローイ祭りや台湾の平渓天燈祭などが有名ですね。