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てねーるのブログ記事です

【ディズニー映画感想企画第44弾】『ブラザー・ベア』感想~最後のフロリダ製の作品~

 ディズニー映画感想企画第44弾は『ブラザー・ベア』の感想記事を書こうと思います。これも一般的知名度は低いですが、ディズニーオタクの間ではわりと有名な作品ですね。そんな『ブラザー・ベア』について語っていこうと思います。

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【基本情報】

フロリダのスタジオの閉鎖

 『ブラザー・ベア』は2003年に公開された44作目のディズニー長編アニメーション映画です。原作は存在せず、ディズニーの完全オリジナル作品です。本作品は、『ムーラン』『リロ・アンド・スティッチ』に次ぐ3作目のフロリダ製の作品でもあります。これまで【ディズニー映画感想企画第36弾】『ムーラン』感想~一時的な復活の始まり~ - tener’s diary【ディズニー映画感想企画第42弾】『リロ・アンド・スティッチ』感想~暗黒期の例外的な成功作~ - tener’s diaryの記事で述べて来た通り、当時のディズニーは本社のあるカリフォルニア州バーバンクだけでなくフロリダ州オーランドのウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート内にもアニメーション制作スタジオを抱えており、そこで『ムーラン』や『リロ・アンド・スティッチ』などの作品を制作していました。この『ブラザー・ベア』も同様にフロリダのスタジオで制作された作品です。そして、この『ブラザー・ベア』の制作をもって、フロリダのスタジオは閉鎖してしまいます。

 この頃からウォルト・ディズニー・カンパニーは徐々に手描き2Dアニメーションからの撤退を始めていきます。フロリダのスタジオ閉鎖はそのような流れの一環でした。すでに、『リロ・アンド・スティッチ』以外は興行的に失敗続きで完全に暗黒期としか言いようがなかった当時のディズニー。そんな衰退し続けるディズニーとは対照的に、アメリカのアニメーション映画界ではピクサーやドリームワークス、ブルースカイなどの新興スタジオがフル3DCGのアニメーション映画で成功していってました。2000年代初頭当時は、ドリームワークスの『シュレック』シリーズ、ブルースカイの『アイス・エイジ』シリーズ、そしてピクサーによる『モンスターズ・インク』や『ファインディング・ニモ』など多数のフルCGアニメーション映画が次々と大ヒットしており、時代はもはや手描き2DからフルCGの時代へと移行したのだと多くの人は感じていました。もちろん、当時のディズニー経営陣も同様の考えを抱いていたはずです。そのため、この頃からウォルト・ディズニー・カンパニーは伝統的な手描き2Dアニメーションからの撤退を考慮に入れ始めたのです。『ブラザー・ベア』完成後のフロリダのスタジオ閉鎖はそのような当時のディズニーの意向の1つの現れだったと言えるでしょう。当時のディズニーは時代の流れを読んで、フルCGアニメーションへの移行を徐々に考え始めるようになっていったのです。

 この『ブラザー・ベア』は『リロ・アンド・スティッチ』ほどではないにしろ実はそこそこの興行収入を稼ぎました。2000年代暗黒期の作品の中では実は興行収入は高いほうなんですよね。しかし、その一方でRotten Tomatoesなどを見る限りアメリカでの評判は結構微妙です。賛否両論ある感じの評価になっています。そんな本作への評価も影響したのか、それともいずれにせよ時代の流れで避けられなかったことなのかは僕にはわかりませんが、ともかく本作の公開後すぐの2004年1月にディズニーはフロリダのスタジオ閉鎖を発表しました。2020年8月現在もフロリダのアニメーション・スタジオは閉鎖されたままになっており、そのためこの『ブラザー・ベア』が現時点では最後のフロリダ製のディズニー映画になっております。これ以降、フロリダではディズニー長編アニメーションは作られていません。


有名芸能人の参加

 本作では第二期黄金期のディズニー映画同様に多くの有名芸能人が参加しています。例えば主人公キナイの声優を務めたのは、有名な映画俳優のホアキン・フェニックス氏です。彼は映画『グラディエーター』などへの出演で当時新たなスター俳優として注目を浴びていました。最近だと映画『ジョーカー』で主演を務めたことでも知られていますね。そんなホアキン・フェニックス氏が本作で主演を務めたのです。また、同じく有名な映画俳優のマイケル・クラーク・ダンカン氏も本作で声優を務めています。彼もまた、映画『グリーンマイル』などへの出演で名の知られた俳優です。彼は、サーモン・ランのクマたちのリーダーであるタグの役を演じています。

 このような有名俳優の声優出演だけでなく、本作品では音楽においても有名芸能人が参加しています。フィル・コリンズ氏とティナ・ターナー氏です。フィル・コリンズ氏は以前『ターザン』においてもディズニーとコラボしていました*1。『ターザン』の大ヒットに味を占めたディズニーは、この『ブラザー・ベア』でも『ターザン』同様に劇中歌をフィル・コリンズ氏にたくさん歌わせる方針をとったのです。本作ではたくさんの劇中歌が歌われていますが、その全てにこのフィル・コリンズ氏が作詞&作曲として携わっています。フィル・コリンズという世界的に有名な歌手をディズニーはまたしても自社の映画に携わらせたのです。

 本作の劇中歌のほとんどはフィル・コリンズ氏が歌っているのですが、メインの主題歌とも言うべき"Great Spirits"だけはフィル・コリンズ氏ではなくティナ・ターナー氏が歌っています。"What's Love Got To Do With It"などの曲で知られ、ロックンロールの女王とも呼ばれるアメリカの超有名な歌手ですね。そんな彼女が、フィル・コリンズ氏の作った主題歌"Great Spirits"をオープニングやエンディングで歌っています。このように、『ブラザー・ベア』ではフィル・コリンズ氏とティナ・ターナー氏という2人の大物歌手がその音楽に関わっていたのです。





【個人的感想】

総論

 本作品も前作『トレジャー・プラネット』同様に「悪くはないけどあと一歩惜しい」という感想を抱く作品ですね。適度なシリアスさとコミカルさがバランス良くて、飽きずに最後まで見ていられるストーリーにはなっていますが、どことなく「小粒」感は否めないんですよね。細かいところで演出に難点があるのと、全体的に少し「地味」で盛り上がりに欠けるんですよね。そこが本作品の評価を少し落としているんだと感じます。ただ、個人的には実は前作『トレジャー・プラネット』よりは伝統的なディズニーらしさを感じるのでこの『ブラザー・ベア』のほうが好きだったりします。

 以下、詳細な感想を述べていきます。


ディズニーらしい動物もの

 『トレジャー・プラネット』や『アトランティス 失われた帝国』などちょっとディズニーらしからぬSF冒険もののアニメが続いていた中で、本作品は久しぶりに伝統的なディズニーの王道に回帰したように感じます。というのも、この『ブラザー・ベア』はそのタイトルが示す通り「動物もの」の作品なんですよね。動物キャラクターによる物語と言えば、『ダンボ』や『バンビ』以来ディズニーが何度も作って来た伝統的なスタイルに他なりません。実際、本作品の制作はディズニー映画『ライオン・キング』のヒットを受けて「同じように動物キャラ中心の物語でまたヒットさせたい」というモチベのもとで始まったそうです。『バンビ』『ライオン・キング』『ターザン』などを彷彿とさせるような「大自然の風景と可愛らしい動物キャラクター」の映像はこの『ブラザー・ベア』が従来のディズニーの王道に回帰してくれたのだと感じさせてくれます。

 本作の舞台は、まだマンモスがいた時代の大昔のアラスカです。アラスカの雄大な自然が背景に存分に描かれており、その映像美は「さすがディズニー!」と思わせてくれます。こういう雄大な自然風景は『ライオン・キング』や『ターザン』を通じて当時のディズニーが得意としてきた領域ですからね。前の記事で言ったように、『トレジャー・プラネット』のようなSF宇宙的な映像美も綺麗なんですけど、やっぱりちょっと世界観が従来の伝統的なディズニー映画っぽくないんですよね。それに対して、『ブラザー・ベア』の世界観は、アラスカの大自然とそこで暮らす動物たちということでかなり従来のディズニーらしさを感じさせます。キナイやコーダなど主要登場人物のクマたちも可愛らしい見た目ですからね。慣れ親しんだ「ディズニーアニメの動物キャラ」って感じの見た目です。こういうキャラデザの面でも従来のディズニーらしさを感じさせてくれる絵柄になっていると思います。

 これは完全に僕の個人的推測なんですが、この『ブラザー・ベア』が『アトランティス 失われた帝国』や『トレジャー・プラネット』よりも商業的にヒットした理由もここにあるんじゃないかなあと思います。つまり、当時の多くの消費者は「伝統的なディズニーらしさ」を求めており、『トレジャー・プラネット』や『アトランティス 失われた帝国』のようなSF冒険ものはそのニーズに合ってなかったということです。別方向で異色だった『ラマになった王様』がヒットしなかったのも恐らくそういう理由でしょう。それらと比較すると、『ブラザー・ベア』は当時の大衆の「ディズニー」イメージにわりと合致していたほうだったんだと思います。それが興行収入の差にも現れたんじゃないかなあと勝手に推測しています。まあ、あくまでも僕の推測に過ぎないので、確かな根拠とかあるわけじゃないんですけどね。


スピリチュアルなストーリー

 この『ブラザー・ベア』の舞台は太古の時代のアラスカの先住民の社会です。そういう世界が舞台だからか、わりと全体的にスピリチュアルな神話っぽさのある作品なんですよね。第二期黄金期で言うと『ライオン・キング』や『ポカホンタス』を彷彿とさせるようなスピリチュアルな雰囲気の漂う作品です。そもそも本作ではまさしく文字通り「グレイト・スピリット」が物語のキーとなっているわけですからね。まさにスピリチュアルな作風だと言えます。

 特に、『ライオン・キング』を彷彿とさせる部分が目立ってると感じますね。死んだ人や動物がスピリットとなってオーロラの中から現れ、まだ生きている者たちを導くという設定は、『ライオン・キング』で死んだムファサが上空から雲の形で現れシンバを導くシーンを彷彿とさせます。そういうちょっとスピリチュアルな超自然的現象が出てくる神話みたいな世界観のお話なので、そういうのがそんなに好きじゃない僕にとってはちょっとイマイチに感じる部分もあるんですよね。ただ、本作品は『ライオン・キング』のような壮大な神話っぽさとは違い、あくまでもキナイやコーダというミクロな人たちの物語なんですよね。『ライオン・キング』みたいに王国全体を揺るがす王位継承争いとかはないです。極めて小規模なスケール感のお話です。そこが本作品の長所でもあり短所でもあると思います。

 僕は、こういう小じんまりしたスケールの話であることが本作品の長所として生きている部分も大きいと思うんですよね。壮大な歴史叙事詩ではなく、平凡な一人の青年に起きた物語だからこそ共感しやすいし肩の力を抜いて見れる部分もあります。ぶっちゃけ、僕は壮大な神話っぽい過度にスピリチュアルな叙事詩を見せられてもちっとも興奮も共感もできずに退屈に思う性格なので、こういう『ブラザー・ベア』みたいな「敷居の低い物語」のほうが引き込まれるんですよね。スケール感が自身の身の丈に合ってるからこそ、登場人物たちに素朴に共感しながら見ることができます。


アクションシーン

 ただ、本作品はその小規模なスケール感ゆえに、一周回って「地味」な作品になってる部分もあると感じます。全体的に盛り上がりに欠けるんですよね。このどことなく漂う「地味」さは本作品のアクションの薄さにも一因があると思います。もちろん、今までのディズニー映画同様に本作品でもアクションシーンはたくさん投入されてるんですけど、なんというか、あまり迫力ないんですよね。本作で見所のあるアクションは、序盤のシトゥカと母グマとの死闘、キナイと母グマとの死闘の2つだけですね。というのも、序盤のアクションと比べると終盤のアクションは少し緊張感に欠けるんですよね。

 これは根本的に「人間とクマの戦闘」の非対称性ゆえのことだと思います。本作品のアクションシーンは基本的に人間とクマとの戦闘シーンしかないんですが、それって根本的にクマのほうが有利な戦いなんですよね。中盤で、クマのコーダ目線の視点を介して「クマにとっては人間もモンスターのように恐ろしい存在」であることを説明していましたが、個人的には「いや、そうは言ってもクマのほうが強いやろ」とは思ってしまいあまり共感できないんですよね。人間サイドが猟銃みたいなもっと威力の大きい武器を持っているならばともかく、時代設定的に当然そんなものはないので、人間サイドの持つ武器はせいぜい石槍なんですよね。これはもう根本的な時代設定からして変えようがない部分なのでどうしようもないんですけど、石槍程度じゃ依然としてクマのほうが強そうに見えるので、その非対称性が最後まで解消されないんですよね。

 だから、「人間とクマの戦闘」というアクションを見た時、序盤の人間視点のアクションだと「圧倒的強敵」であるクマとの戦いにハラハラドキドキするんですが、終盤は逆にクマ視点だからそこまでスリルを感じないんですよね。キナイとコーダを追いかける人間のデナヒがクマ視点だとあまり「強敵」っぽく感じないので、その点がアクションから緊張感を奪っています。

 あと、ぶっちゃけアクションのパターンが「人間とクマの戦闘」しかないので若干飽きるんですよね。この世界観だと迫力あるアクションってそれぐらいしかないのは分かるので仕方ないとは思うんですけど、どうしてもアクションシーンの引き出しの少なさを感じて物足りない気持ちになります。後述するように本作品はちょっと中盤でダレるんですけど、その度に歌を入れるかこの「人間とクマとの戦闘アクション」を入れるかでその盛り上がりの少なさを補っているんですよね。でも、ぶっちゃけアクションに関しては何度もクマと人間とのスリルある戦いばかり続くので、途中で見飽きちゃうんですよね。一番最後のキナイとデナヒが山の頂上で戦うシーンで「もう見飽きたよ」という気分になりました。

 また、最後のアクションに関しては終わらせ方もあまりにも唐突で、その点も少し難点だったと思います。デナヒとキナイ熊との戦闘中、何度もキナイやデナヒが死にかける危ないシーンがあったのにそこではシトゥカは現れず、最後にコーダが参戦したギリギリのタイミングで急にシトゥカが現れてキナイを元の姿に戻すんですよね。この展開が急すぎて悪い意味で驚きましたね。「えっ、こんな中途半端なタイミングでシトゥカ登場して大団円なの?!」とちょっと首を捻ってしまいました。戦闘の終わらせ方が雑すぎると感じてしまいますね。


盛り上がりに欠ける

 上のほうでもちょっと述べましたが、本作品は全体的に若干「盛り上がり」に欠けます。その一因は上述した通りアクションでの興奮要素が弱いところですが、ストーリー展開の仕方それ自体にもまた別の一因があると思います。本作品は中盤でちょっとダレるんですよね。具体的に言うと、キナイがコーダと出会ってサーモン・ランに向かうまでの一連のシーンです。途中でフィル・コリンズ氏の歌を入れたりデナヒとの戦いを入れたりすることで観客を飽きさせないように工夫してるのは分かるんですが、それでも基本的には起伏のない平坦な展開がひたすら続くのでどうしてもちょっと飽きるんですよね。

 もちろん、ここの尺を長くとることでキナイとコーダの交流の様子をじっくり描写できるというメリットはあります。その描写は本作品のメインテーマにも関わるわけで、その点でも必要なシーンだとは思います。ただ、それにしても少し長すぎます。キナイとコーダがのんびりと話しながら、特に大きなイベントもないまま(せいぜい途中でデナヒとの戦いがある程度)、サーモン・ランまで移動するだけの映像を延々と見せられてもちょっと退屈なんですよね。絵に動きがないんですよ。

 この『ブラザー・ベア』が公開したのと同年の2003年に、ピクサーの『ファインディング・ニモ』も公開されていますが、それと比べると本作品の欠点がより際立ちます。『ファインディング・ニモ』でもマーリンとドリーンが海を冒険しながらお互いに信頼関係を築いていくまでの過程が描かれていますが、その「海の冒険」シーンの間に色んなイベントが起きることで観客を飽きさせない展開になっているんですよね。サメやチョウチンアンコウに襲われたり、ウミガメの集団と出会ったり、クラゲの集団の中を通ったり、クジラに食べられたり……etcとこんな感じで色んなイベントが立て続けにマーリンとドリーの身に降りかかることで、映像的にも飽きないように工夫がされています。それに比べると、『ブラザー・ベア』でのキナイとコーダの道中は特に何も起こらないため単純に長くて退屈なんですよねえ。その違いだけが原因ではないと思いますが、当時『ブラザー・ベア』が『ファインディング・ニモ』ほどにはヒットしなかったのも納得します。

 『ブラザー・ベア』も『ファインディング・ニモ』みたいに道中でもう少しイベントを起こすか、あるいはサーモン・ランまでの移動シーンの諸々をもっとバッサリとカットするかしたほうが良かったんじゃないかなあと思います。例えば、罠にかかったキナイとコーダの最初の出会いでの会話や氷の洞窟の中での会話とかもっと短くできたんじゃないかなと思うんですよ。ヘラジカたちのギャグ要素満載の会話もそうです。そういう個々のシーンがいちいち長いんですよね。だから中盤で中だるみしている。


シリアスなテーマとバランス加減

 ここまで主に本作品の難点を述べてきましたが、それでも本作品には良いところもあります。実は、本作品も前作『トレジャー・プラネット』と並んでディズニーオタクの間では「隠れた名作」扱いをしばしば受けているのですが、その理由の1つは本作品の扱うテーマがわりとシリアスで重めのものだからなんでしょう。そもそもの設定からして重いですからね。主人公のキナイは、コーダの母グマを殺してるわけですからね。数多のディズニー映画の主人公の中でもダントツで重い罪の十字架を背負っているキャラでしょう。そういう重い設定とテーマによるメッセージ性に魅かれて本作品を好きになった人は多いと思います。

 その一方で、極端に作風が暗くなりすぎる事態は避けたかったのか、本作品では適度に明るいギャグ要素を投入することで、重いテーマとのバランスをとっているんですよね。ヘラジカのラットとトゥークなんかは明らかにそういうギャグ目的で入れたキャラでしょう。山彦に気付かないヒツジもそうです。こういうギャグ要素が適度な緩衝材となって、作品内の雰囲気を明るくしてくれてるんですよね。ただ、上述の通りこのギャグシーンも無駄に多すぎ&長すぎな気はするのでもう少し削っても良いんじゃないかなあとは思います。確かに、これらのギャグ要素は作品が暗くなるのを防ぐ効果は果たしました。そのバランス感覚は秀逸です。しかし、多すぎるがゆえに中盤の中だるみの一因にもなってるんですよね、これ。そこだけが残念です。

 とは言え、作品全体の雰囲気のバランス調整には成功していると思います。本作における「クマという異なる立場の生き物への理解や愛情」という難しくて重いメインテーマをきちんとシリアスに描き切ったうえで、なおかつ明るい雰囲気は維持してるのは本作の素晴らしい点でしょう。人によっては逆に「明るすぎてテーマとの違和感がある」と思う人もいるかもしれませんが、僕はこれぐらいのバランス感覚がちょうど良いと思っています。適度にコミカルな要素も入れつつシリアスで重いテーマをしっかりと描写するやり方は、前々作『リロ・アンド・スティッチ』にも通じるところがあります。同じ"フロリダ製"の作品だから似ているのかもしれませんね。


音楽

 先述の通り、本作品は『ターザン』同様にフィル・コリンズ氏がその劇中歌に携わっているだけあって音楽要素は豊富です。ミュージカル路線からの撤退が目立つ2000年代暗黒期のディズニー映画の中では珍しく劇中歌がそれなりにあるほうでしょう。前々作『リロ・アンド・スティッチ』も劇中歌はわりと多かったですし、これもフロリダ製つながりの特徴なんですかね?やはりディズニー映画は良質な音楽がたくさんあってこそだと思う僕みたいな人にとっては嬉しいことです。

 まず、テーマソングの"Great Spirits"からして良曲です。いかにもな先住民の曲っぽさのあるスピリチュアルな雰囲気のメロディが、本作品の舞台であるアラスカに合っていて素晴らしいです。ティナ・ターナー氏の力強い歌声もしっかりと響いて良い曲ですねえ。オープニングとエンディングの2回流れるんですが、本作品の主題歌としてはっきりと耳に残る良曲でしょう。

 アラスカ先住民っぽい雰囲気の曲としては、キナイが変身するシーンで流れる"Transformation"の曲も挙げないわけにはいきません。この曲ではフィル・コリンズ氏の作詞した歌詞をイヌイットの言語に翻訳しているそうです。そのイヌイットの言葉による歌詞や高い歌声がエキゾチックな雰囲気を醸し出してます。メロディもスピリチュアルな雰囲気がしっかり伝わるものになっていて素晴らしいです。歌と一緒に流れるオーロラの神秘的なアニメーション映像もめちゃくちゃ綺麗で、音楽と合わせて本作のスピリチュアルな作風を盛り上げてくれる良い演出になっていると感じます。

 また、"On My Way"や"Welcome"の曲も良いです。これらはフィル・コリンズ氏の歌声で作中で流れるんですが、どちらもかなり爽快な曲調です。聴いていてると爽快感溢れる爽やかな音楽が耳に残ります。フィル・コリンズ氏の歌声ってかなり力強いので、『ターザン』の時のように力強く感動的な雰囲気の強いバラードにぴったりなんですが、本作品の"On My Way"や"Welcome"のようにさっぱりした後味の曲にも合うんですねえ。同じフィル・コリンズ氏の曲でありながら『ターザン』の時とはまたちょっと違う雰囲気の曲なので楽しめます。良い曲ですねえ。

 一方で、フィル・コリンズ氏は『ターザン』の時同様に感動的なバラード曲も歌っています。"No Way Out"です。この曲はキナイがコーダに自身の過去の過ちを打ち明けるシーン、すなわち作品の山場となるシーンで流れましたね。ここは、ちゃんとその場面に合った悲愴感溢れる曲になっており良かったです。キナイとコーダの悲劇的な関係性が良く現れた名シーンだと思います。上述の通り本作はちょいちょいギャグ要素を入れることでコミカルな雰囲気も保っておきながらも、こういう山場のシーンでは"No Way Out"のような音楽による感動的な演出でちゃんとシリアスに決めています。そのバランス感覚が上手いですし、ここの悲劇的な雰囲気も良く演出されていると思います。

 あと、劇中では流れませんでしたがエンドロール時に"Look Through My Eyes"という曲も流れていますね。これもフィル・コリンズ氏らしい力強い歌声が特徴的なバラードです。『ターザン』の"You'll Be in My Heart"などを彷彿とさせるような、豪華で感動的で良い感じの余韻に浸れる素晴らしいエンディング曲でしょう。


エンドロール

 本作品では、今までのディズニー映画では見られなかった「エンドロール時のおまけ映像」が流れてるんですよね。これはぶっちゃけ同時期のピクサー映画の真似でしょう。『バグズ・ライフ』や『トイ・ストーリー2』、『モンスターズ・インク』など初期のピクサー作品では、しばしばエンドロール時にメタ的なNG映像集を入れていましたからね。ピクサーがアニメーション映画でこういう演出をしたことが当時わりとウケて流行ってたので*2、ディズニーも同じような手法を『ブラザー・ベア』で取り入れたんだと思います。

 『ブラザー・ベア』のエンドロール時のアニメーション映像はピクサーのそれとは違ってNGシーン集って感じではなく、単なる日常のギャグシーン集なのでその点での差別化はしていますね。これらのギャグシーンも、本編の作風が過度に暗くなりすぎるのを防ぐ役目を果たしていて良いと思います。ほのぼのとした気分で笑えて後味の良い気分に浸れるシーンになってると思います。

 ピクサーのNG集みたいなメタ的な演出も見られます。エンドロールが完全に終わった最後の最後でコーダが現れて「野生動物を傷付けてないよ」とアナウンスするシーンがそれです。このシーンも本作のギャグ要素の1つとして機能していて面白いです。こういうメタなギャグをエンディングに持って行くのはピクサーの真似ではあるんでしょうけど、ちゃんと他のギャグ要素同様に本作品全体の雰囲気のバランス調整を上手く果たしています。


良作だけど惜しい作品

 以上、ここまで本作品の良い点と悪い点を述べてきましたが、全体的に見て良作のほうだとは思います。僕は昔ながらの伝統的な動物ものが好きな保守的なディズニーオタクなので、実は前作『トレジャー・プラネット』よりもこっちの『ブラザー・ベア』のほうが好きなんですよね。盛り上がりの少なさや中盤のダレる展開など欠点もいくつかあるのですが、全体的にはわりと満足感を感じられる作品だと思います。先述の通り、シリアスなテーマとコメディ要素とのバランス感覚が秀逸なのが良かったんでしょうね。

 だからこそ、上で述べて来たような欠点をもう少しどうにかすれば、『リロ・アンド・スティッチ』と並ぶ暗黒期の救世主になれたんじゃないかと思うんですよねえ。そういう意味で「惜しい」作品だと思います。ディズニーの歴代のヒット作に並ぶような名作になれそうなポテンシャルは十分あったのにあと一歩及ばなかった、そんな作品だなあと感じます。

 全体的に地味で盛り上がりに欠けるので、もう少しインパクトのでかい感動的なシーンを増やしても良かったかもしれません。『リロ・アンド・スティッチ』と同じぐらいシリアスで重いテーマを扱ってるにもかかわらず、感動シーンの数は『リロ・アンド・スティッチ』よりも少ないですからね。もう少し中盤の中だるみするシーンを削って、その分を感動的な演出の目立つ展開に当てたほうが良かったのかもなあと思います。もっと『リロ・アンド・スティッチ』並みに涙を流したかったよ、僕は。そこまでの涙はこの『ブラザー・ベア』では出なかったです。そういう意味でもやはり「惜しい」なあと思いますね。








 以上で、『ブラザー・ベア』の感想記事を終わりにしようと思います。次回は『ホーム・オン・ザ・レンジ にぎやか農場を救え!』の感想記事を書く予定です。それではまた。

*1:詳しくは【ディズニー映画感想企画第37弾】『ターザン』感想~第二期黄金期最後の名作~ - tener’s diaryの記事を参照してください

*2:ちなみにアニメーションではなく実写映画でこういうことをした作品は、ピクサーよりももっと前に遡れます。主にジャッキー・チェン氏の映画で頻繁に行われていましたね。