tener’s diary

てねーるのブログ記事です

【ディズニー映画感想企画第42弾】『リロ・アンド・スティッチ』感想~暗黒期の例外的な成功作~

 ディズニー映画感想企画第42弾は『リロ・アンド・スティッチ』の感想記事を書きます。時期的には暗黒期の作品ではありますが、この作品はめちゃくちゃ大ヒットしてて知名度も高いので「暗黒期」っぽさはほぼ皆無でしょう。そんな『リロ・アンド・スティッチ』について語っていきたいと思います。

f:id:president_tener:20200810222853j:plain f:id:president_tener:20200810222918j:plain

【基本情報】

フロリダのスタジオにて

 『リロ・アンド・スティッチ』は2002年に公開された42作目のディズニー長編アニメーション映画です。原作は存在せず、ハワイのカウアイ島を舞台にしたディズニーの完全オリジナル作品です。この作品は、久しぶりにフロリダのスタジオにて制作されたディズニー長編アニメーションでもあります。

 以前、【ディズニー映画感想企画第36弾】『ムーラン』感想~一時的な復活の始まり~ - tener’s diaryの記事で書いた通り、かつてディズニーはフロリダのウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート内に新しいスタジオを作りそこで『ムーラン』を制作しました。本作『リロ・アンド・スティッチ』はこの『ムーラン』以来の「フロリダ製」の作品になります。基本的にウォルト・ディズニー・カンパニーの本社はカリフォルニア州バーバンクに位置しており、ほとんどのディズニー・アニメーションはそのバーバンクのスタジオで作られているのですが、『ムーラン』や『リロ・アンド・スティッチ』は例外的にフロリダのスタジオのほうで作られたんですよね。

 ちなみに、このフロリダ製のディズニー映画は『ムーラン』『リロ・アンド・スティッチ』『ブラザー・ベア』の3作しか存在しません*1。本作はそんな珍しい「フロリダ製」のディズニー映画の一つなんですよね。


新たなコンビの結成

 本作品の監督を務めたのはクリス・サンダース氏とディーン・デュボア氏の2人です。この2人は、この『リロ・アンド・スティッチ』の制作で初めて監督としてコンビを組んだのですが、彼らはその後アメリカのアニメーション映画界で有名な監督になります。後述の通りこの『リロ・アンド・スティッチ』はかなり大ヒットするのですが、そのことがきっかけでこのコンビはアニメーション映画界で名声を博するようになり、後にドリームワークスにて『ヒックとドラゴン』シリーズの監督も務めるんですよね。

 この『ヒックとドラゴン』もアメリカでは大ヒットしたため*2、この2人はアメリカのアニメーション映画界の新たな名監督コンビとしての地位を確立しました。『リロ・アンド・スティッチ』はディズニー、『ヒックとドラゴン』はドリームワークスなので、別物の作品として認識されがちですが、監督は実は同じ人なんですよね。今やクリス・サンダース&ディーン・デュボアの監督コンビは、第二期黄金期ディズニーのジョン・マスカー&ロン・クレメンツ監督コンビのような鉄板コンビとして知られています。そんな2人の初監督作品がこの『リロ・アンド・スティッチ』なんですよね。

コスパの良い傑作再び?

 この『リロ・アンド・スティッチ』は制作の段階において『ダンボ』のような作品を目指して作られたそうです。実際、映像面において本作品はかつてのディズニーの名作『ダンボ』を彷彿とさせるような点が見られます。しかし、本作品と『ダンボ』の共通点はそれだけじゃありません。以前、僕は【ディズニー映画感想企画第4弾】『ダンボ』感想~コスパの良い傑作~ - tener’s diaryの記事で、『ダンボ』のことを「コスパの良い傑作」と呼びました。実はこの呼称は『リロ・アンド・スティッチ』にも当てはまるんですよね。

 まず、『リロ・アンド・スティッチ』は当時のディズニーにしては比較的‟低予算”で作られた作品だったのです。『ターザン』や『ダイナソー』や『アトランティス 失われた帝国』など、1億ドルを優に超える制作費のディズニー映画が続いていた当時にしては珍しく、8000万ドルというわりと少なめの制作費で『リロ・アンド・スティッチ』は作られました。これは、『白雪姫』『ピノキオ』『ファンタジア』という金をかけた大作が続いていた初期ディズニーにおいて、珍しく『ダンボ』が比較的低予算で作られていたこととかぶります。

 そして、『ダンボ』も『リロ・アンド・スティッチ』も、そのような「当時にしては低予算」で作られたにも関わらずどちらも後世にまで残る大ヒット作品になったという点でも共通しています。つまり、どちらも「少ない制作費で大ヒット」という「コスパの良さ」を達成しているのです。


暗黒期の例外的成功とシリーズ化

 これまでの記事で述べて来た通り、2000年代のウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオは「暗黒期」と呼ぶべき状態に陥っていました。しかし、『リロ・アンド・スティッチ』はそんな暗黒期の時期に公開された作品にも関わらず、先述の通り例外的に大ヒットしています。当時としては結構な興行収入を稼ぎ出し、批評家や世間一般からの評価もかなり高めです。実際、本作品は前年からできたアカデミー賞長編アニメ映画賞にディズニー映画として初のノミネートを果たしています。前作『アトランティス 失われた帝国』がノミネートされなかったことを考えるとかなりの快挙でしょう。*3

 まさに「暗黒期らしからぬ例外作品」と言うべき『リロ・アンド・スティッチ』の商業的成功は、本作品のその後のシリーズ化を大きく推し進めました。VHSやDVDのみの販売ではありますが続編映画も何本か作られましたし、テレビアニメシリーズも制作されました。もっとも、ホームメディアやテレビアニメでスピンオフ続編が作られること自体はディズニー映画では珍しいことではなく、大抵の有名なディズニー映画ならそういう続編が何かしら作られています。しかし、『リロ・アンド・スティッチ』のスピンオフ展開はその中でも群を抜いて規模が大きい上、他のディズニー作品の続編に比べてもかなり圧倒的な人気を得ています。

 特に、『リロ・アンド・スティッチ』の続編として制作されたテレビアニメシリーズの『リロ・アンド・スティッチ・ザ・シリーズ』が結構な人気を得ていました。実際、このテレビアニメ版の主題歌"Aloha E Komo Mai"は『リロ・アンド・スティッチ』シリーズの代表曲の1つとしてかなり有名で、今でもディズニーランドなどのテーマパークで頻繁に耳にします。また、625号(ルーベン)やエンジェル、ハムスターヴィール博士など、オリジナルの映画版には登場していない、テレビアニメ版での登場キャラクターもディズニー系のテーマパークでたびたび姿を現すほどに人気があります。続編でしか登場しないキャラクターがここまで有名なディズニー映画なんて『リロ・アンド・スティッチ』ぐらいしかないですよ。

 さらに、日本ではなぜか舞台をハワイから沖縄に移した『スティッチ!』というテレビアニメシリーズも作られました。上述の『リロ・アンド・スティッチ・ザ・シリーズ』はあくまでもハワイが舞台のままだったのですが、ウォルト・ディズニー・ジャパン*4はその舞台を沖縄に移したうえでユウナという新キャラクターをリロに代わるスティッチの新たな相棒にした日本オリジナルのスピンオフ作品を創作したのです。こちらも日本で結構な人気を博し、それなりの話数がテレビ東京系列で放送されました。

 このように、『リロ・アンド・スティッチ』は数あるディズニー映画の中でも異様なほどにテレビアニメシリーズがたくさん作られて人気を得てたんですよね。それ以外にもこれらと関連したホームメディアやディズニー・チャンネル専門の続編映画も多数作られており、これら全てのスピンオフ作品を網羅するのはかなり大変です。全部完璧に網羅している人は相当なディズニー・オタクというか『リロ・アンド・スティッチ』オタクだと思います。それだけ大規模なスピンオフ展開がされるぐらいには、本作品は大人気コンテンツとなったんですよね。




【個人的感想】

総論

 はい、僕はこの『リロ・アンド・スティッチ』という映画がめちゃくちゃ大好きです。とにかく泣けるんですよね。個人的に、歴代ディズニー映画の中でも『ダンボ』などと並んでトップレベルに‟泣ける”映画の1つだと思います。僕はもともと涙もろい性格なんですけど、幼少期に初めて本作品を見たときはマジで涙が止まらなくて大泣きしたんですよね。それぐらい本作品は感動的でとても素晴らしい名作だと思います。2000年代の暗黒期の作品の中で、この『リロ・アンド・スティッチ』だけが例外的に大ヒットしたのも当然だと思います。それほどの名作です。個人的に歴代ディズニー映画の中でもかなり上位に入るレベルで大好きすぎる作品ですね。

 以下、どの点が名作だと思うのか詳細な感想を述べていきます。


意外とシリアスな作風

 『リロ・アンド・スティッチ』はかなり大ヒットした作品ではあるのですが、日本だとその流行り方のせいでちょっと誤解されがちなんですよね。なんとなく、スティッチのキャラクターが可愛いだけのキャラ萌えアニメだと思われている印象があります*5。しかし、実は本作品って結構シリアスで重めのテーマを扱ってるんですよね。文字通り「泣ける」映画なんですよ、これ。

 同じディズニー映画でも例えば『くまのプーさん』や『ジャングル・ブック』のような映画はわりと「泣ける感動要素」は薄くて「ほんわかする楽しいキャラ萌え特化映画」だと思いますが、『リロ・アンド・スティッチ』はそれだけじゃない感動要素がかなり強く出てるストーリーになってるんですよね。本作品の感動要素は『ダンボ』に近い部分があります。先述の通り、本作品はその制作において『ダンボ』のような映像を目指していたそうですが、映像面だけでなくストーリー面においても少し『ダンボ』を彷彿とさせる内容になっていると感じます。実際、僕は『ダンボ』並みにこの映画で泣きました。

 というのも、本作品の主人公であるスティッチの雰囲気とダンボの雰囲気が似てるんですよね。『ダンボ』は周囲から迫害されていたダンボが徐々に幸せになっていく物語ですけど、本作品のスティッチにもそういう要素があります。本作品はみんなから嫌われ迫害される孤独な存在だったスティッチが自分の居場所を見つけて幸せになっていく物語になっているんですよね。むしろ、スティッチの当初の境遇はダンボよりも孤独です。まだティモシーやジャンボという味方が最初から存在していたダンボと違って、当初のスティッチには誰も味方がいませんでしたからね。本当に文字通り完全に「孤独」な存在です。

 孤独な存在が居場所を見つけるまでの物語という点では本作品は『ノートルダムの鐘』にも近いかも知れません。そして、本作品は『リロ・アンド・スティッチ』というタイトルの通り、スティッチだけでなくリロも主人公なんですよね。このリロもスティッチと同様の孤独を抱えています。同世代のマートルたちとは上手く馴染めず仲間外れにされ、家では姉のナニと上手く行かず家庭崩壊気味になっている。本作品は、そんな2人の「孤独な者」同士が出会ってお互いに一つの家族としての絆を形成していくまでの物語なんですよね。その点で、非常に感動的なストーリーに仕上がっています。


オハナというテーマ

 本作品のテーマは「オハナ」です。作品内のキーメッセージとして、「オハナは家族。家族はいつもそばにいる」という名言が至る所で登場します。まさに、そのような大事な「オハナ=家族」をスティッチが見つけるまでの物語として、そして崩壊気味だったリロの「オハナ=家族」が修復するまでの物語として、本作品は描かれているのです。『リロ・アンド・スティッチ』のタイトルが示す通り、リロとスティッチの二人の物語を通してオハナの大切さを観客に認識させてくれる、そんな物語になってるんですよね。

 「家族」をテーマにした作品はディズニーでは鉄板中の鉄板です。「子供から大人まで楽しめる作品」を目指して、家族向けの作品を作り続けて来たディズニーにとっては王道ど真ん中のテーマでしょう。しばしば、多くのディズニー映画で「家族」の大切さがメッセージとして伝えられてきました。そして、この『リロ・アンド・スティッチ』はそんなテーマをまさに真正面から扱った作品です。その意味で、まさに「ディズニーらしい」作品だと言えるでしょう。本作品が多くのディズニーファンから高く評価されているのも納得です。


リロの孤独と家族

 先述の通り、本作品はリロとスティッチという二人の「孤独なはみだし者」同士の出会いの物語です。そのような物語を描くうえで重要となるのは、何と言ってもこの2人の抱える孤独という「心の闇」を上手く描写できているかどうかという点でしょう。本作品はこの点を見事にクリアしています。

 まず、リロのほうの孤独なのですがこれがかなりシリアスな演出のもとで描かれているんですよね。両親が交通事故で他界し、歳の離れた姉のナニが親代わりとしてリロの面倒を見るもリロは孤独感が解消されず暴走して家庭崩壊気味、というちょっと重い設定が丁寧に描かれています。先述した通り、本作品は意外とシリアスで重い作風なんですよね。この家庭崩壊の描写が、そういうシリアスで重いタイプのヒューマンドラマに良くあるようなリアルな描写になっています。

 まず、リロが孤独を感じるに至る過程の描写がとてもリアルなんですよねえ。彼女はフラダンスの学校でマートルたちから「変な子」として嫌われてるのですが、「あー、確かにこういう子って小学校とかだと嫌われて問題児扱いされるよねえ」という感じの描写になっています。その辺りのリアリティが結構エグいです。人によっては、小学校時代のトラウマを思い出して目を逸らしたくなるんじゃないかな。魚のパッジに与えるエサでナニと喧嘩し、それを貶したマートルにいきなり暴力を振るい、スクランプという不気味な人形を作り、ナニを家から閉め出し、黒魔術の本を参考にマートルたちに呪いをかける。完全に行動が「問題児」のそれです。小学校の頃にクラスに一人はこういう「変な子」いたなあ、と感じるリアルな描写になっています。そして、そんなふうに問題児扱いされて仲間外れなリロだからこそ、流れ星に新しい友達をお願いしたのでしょう。

 こんなふうに、スティッチと同じぐらい「孤独」で「仲間外れ」な存在としてリロも描写されているんです。そんなリロの孤独感の一番の原因は恐らく両親を事故で亡くしたことにあるのでしょう。リロもナニもともにオハナ(家族)の大切さを誰よりも分かってるにもかかわらず、両親を亡くし家庭運営が上手く行かず、福祉局の手によって残った家族も離れ離れにされそうな危機に陥っている。そんな「家庭崩壊の危機」の様子もかなりシリアスで重いんですよね。ここの悲劇的な描写が、終盤での大団円ハッピーエンドへのカタルシスに繋がるんだと思います。

 中盤で、ナニがハンモックの上でリロに"Aloha Oe"を歌うシーンがありますが、ここの悲しそうな演出が溜まりません。両親を亡くし残されたリロとナニの二人で一生懸命オハナを維持しようと頑張ってきたにも関わらず、離れ離れにならざるを得ない悲愴感でめちゃくちゃ悲しくなります。後述するように、この後のスティッチの行動も合わせてこの一連の展開は非常に感動的で、個人的にとても好きなシーンですね。胸が苦しくなって涙が止まらないシーンです。

 リロがスティッチに対して「乱暴するのは寂しいからなの?」と聞いていますが、これは恐らくリロ自身もそうだったってことなんじゃないでしょうか?彼女も両親が亡くなって寂しかったからこそ、構ってもらいたくて色々と「問題児」的な行動をとってきたんでしょう。観客にそう想像させてくれるようなセリフだと思います。こういうふうに、リロの抱える孤独と家庭崩壊の危機がかなりシリアスに悲劇的な雰囲気で演出されている点が本作品の魅力の一つだと感じます。


スティッチの孤独と成長

 そして、リロと同じく孤独な境遇なのがスティッチです。彼の心境の変化の描写も非常に秀逸に描かれているんですよね。ジャンバによって何でも破壊する凶暴なモンスターとして生み出されたにもかかわらず、自然しかないカウアイ島には壊すべきものが何もなくスティッチは虚無感を抱くことになります。そんなスティッチの様子を見たジャンバが「何もないっていうのはどういう感情なんだろう」と言いますが、このセリフにこそまさにスティッチの抱える孤独が現れていると言えるでしょう。破壊本能しかない嫌われ者のモンスターとして生み出されたスティッチは、まさに「空っぽ」の生物なんですよね。拠り所となる居場所が存在しない孤独な存在としてスティッチがしっかり描写されています。

 そんなスティッチがリロとナニの家庭に徐々に居場所を見出していく過程も秀逸に描かれています。そのキーアイテムとして『みにくいアヒルの子』の絵本が出てくるのも良い演出です。スティッチがこの童話の主人公に共感し、このアヒルの子同様に自分の「本当の家族」を探し求めるんですよねえ。スティッチがそのように感じる理由が、ジャンバの解説やその境遇の設定、みにくいアヒルの子への共感などを通して、丁寧に説得力を持って描写されてるんですよねえ。だから観客はスティッチに心の底から共感し同情し、感動することができるんですよね。

 中盤で、スティッチが自分のせいでリロの家族が崩壊の危機になったことに気付いたのか、「一緒に居ない?」というリロの誘いを敢えて断って彼女たちの下から去るシーンがあるじゃないですか。このシーンが本当に悲しいんですよね。リロからオハナの大切さを知ったからこそ、それが自分のせいで崩壊しかけてることに居た堪れない悲しさを感じます。そして、夜の森の中で『みにくいアヒルの子』のページを開いて「ボク、マイゴ」とスティッチが片言で呟くシーンがめちゃくちゃ泣けるんですよね。拠り所となる家族がいない「何もない」スティッチの境遇に同情してしまいます。先述の"Aloha Oe"のシーンからこの「ボク、マイゴ」のシーンまでの流れの演出は本当に秀逸で、僕は何度も見返してはここでずっと泣いています。それぐらい感動的な良いシーンだと思います。

 その後、夜が明けてスティッチとジャンバが遭遇した時に、ジャンバが「お前に家族はいない」という現実をスティッチに突きつけるシーンもめちゃくちゃ悲しいんですよね。スティッテはそんなジャンバから逃げて何とか自分の家族を見つけ出そうとリロのもとへ戻るんですが、この辺りで僕は完全にスティッチが大好きになってしまっているんですよね。スティッチの孤独と家族への渇望が丁寧に描写されています。

 本作品は凶暴な性格のエイリアンが改心していく物語とも言えるんですが、優しい心を取り戻して改心したというよりは、孤独な自分の新しい家族としてリロたち一家を見つけた結果成長した(心境が変化した)という感じなんですよね。上述の通り、スティッチの抱えている孤独と家族を見つけるまでの過程が丁寧に描写されているからこそ、彼の心境の変化も説得力あるものとして描けているんですよね。


感動的なシーンの数々

 本作品には感動的なシーンがたくさんあります。とにかく「泣ける」んですよね。先述した、"Aloha Oe"から「ボク、マイゴ」のまでの一連のシーンもその一つです。"Aloha Oe"のシーンに入る少し前に、スティッチがアヒルの家族の群れを見るシーンがあるんですが、ここも本当に泣ける。アヒルの家族を見て『みにくいアヒルの子』を思い出し、彼らアヒルと違って自分にはまだ家族がいないことを悲しむスティッチの心境がその表情から嫌というほど察せられます。その後の展開も上述の通り悲劇性に溢れていてとても泣けます。

 この悲しい展開があるからこそ後半の展開への感動がひときわ大きいものになるんですよね。例えば、ガントゥにリロが連れ去られて悲しむナニに対しスティッチが「オハナは家族」という本作の名言を言うシーンも感動します。家族の大切さを知ったスティッチが、ようやく見つけた自分の家族を取り戻すために行動を開始するんです。すごく良い展開だと思います。ガントゥの船からリロを助け出した時にもまた同じセリフを片言でスティッチが言うんですけど、そのカタルシスが快感ですね。スティッチがリロのもとへ帰ってきて彼女を救い出したことでようやくスティッチがリロたちの家族になれたって感じがします。

 そして、終盤のシーンではもう完全に涙腺が崩壊しました。スティッチが片言で「ボク、スティッチ」とリロが名付けてくれた名を銀河連邦議長に言い、リロとナニのことを「僕が自分で見つけた家族」と説明するシーンが本当に溜まりません。ようやくスティッチが自分の家族を見つけることができたんだと思うと胸が熱くなります。リロが、スティッチを買った時の権利書を見せてスティッチを取り戻そうとするシーンも良いですねえ。スティッチがリロからも家族として認められたんだと実感できて幸せな気持ちにさせてくれます。そして、議長の機転によってスティッチがリロとナニのもとで過ごすことが認められるという完全なるハッピーエンドに、見てる側も心の底から嬉しくなるんですよねえ。中盤の悲劇性溢れる展開が丁寧に描写されてたからこそ、この終盤のハッピーエンドでのカタルシスが大きいものになるんですよねえ。本当に良い話です。

 極めつけは、"Burning Love"の流れるエンディングでしょう。曲に合わせて、スティッチが新たなメンバーとして加わったリロたち家族のその後の幸せな日常風景が映し出されます。「あぁ、スティッチは自分の家族を見つけて幸せな毎日を歩んだんだなあ」と実感できる演出になっており、ものすごい後味の良い幸福感溢れるエンディングなんですよねえ。とても感動します。特に、リロの部屋に張られた写真が一枚ずつ映し出されるシーンが本当に素晴らしいです。それまで見知らぬ人の写真ばかりで飾られた壁が、家族との思い出の写真で溢れるようになる。その変化に思わず涙せずにいられません。そして、ラストに映るスティッチの写真で完全に涙腺が崩壊します。リロとナニや亡くなった両親たちの映る写真に合成するような形でスティッチの写真が配置されている様子は、スティッチが本当にリロたちの家族になったのだということを改めて実感させてくれる素晴らしい演出になっています。本当に感動的で涙がボロボロ溢れるような、文句なしの終わり方だと思います。ものすごく幸せな気分になる。


アクションシーン

 さて、やはりこれまでのディズニー映画の伝統らしく本作品にもアクションシーンが存在します。リロの家でのジャンバやプリークリーとの大乱闘や、ガントゥからのリロ救出作戦など、目まぐるしく変わる怒涛のアクションシーンは目が離せません。特に、終盤のアクションで、ハワイの大自然の中をジャンバとガントゥの宇宙船同士が駆け巡ったり、スティッチがリロ救出のためにガントゥの宇宙船に飛び移って暴れ回るシーンは爽快です。その後の、火口にトラックを突っ込んでその爆発で宇宙船までスティッチが飛んでいくシーンも含めて、全体的に爽快感があふれていて迫力あるアクションシーンになっていると思います。

 余談ですが、この終盤のアクションシーンって実は制作当初の予定から変更されているバージョンなんですよね。当初の案では、ジャンバたちの乗っている宇宙船は飛行機になっており、飛行機とガントゥの宇宙船とが街中で追いかけ合うシーンになっていました。この変更前と変更後の比較映像は、ネットを検索すると色々と出てくるので見てみると良いかも知れないです。というのも、この映画公開の約1年前に9・11同時多発テロが起きていますからね。飛行機で街中を駆け巡ってビルの外壁の一部を破壊したりするようなアクションは、あの事件を彷彿とさせるから変更せざるを得なかったそうです。

 まあ、見てる分には変更前でも変更後でもどちらも十分に見ごたえある面白いアクションシーンなので問題ないです。こういう見応えあるアクションシーンがちゃんと終盤で用意されているのも、やはり名作ディズニー映画の特長ですよねえ。


キャラクター

スティッチ

 本作品は登場キャラの描写もとても魅力的です。主人公のリロとスティッチの二人に関しては先述の通りそれぞれの悩みや心境の変化が丁寧に描かれていて、共感や同情のできる魅力的な登場人物に感じられるよう作られています。特に、スティッチの人気は本作品でもずば抜けているでしょう。実際、スティッチってとても可愛いんですよね。それは決して、映画を見ずにスティッチの見た目だけをアイテムとして楽しむ良くいるミーハー的な意味ではなく、映画内におけるスティッチの仕草・行動を実際に見て僕は「可愛い」と感じているのです。

 キャラデザが秀逸なんですよねえ。良く、本作品を見たことないから「スティッチって見た目が気持ち悪いのになんで人気があるの?」という疑問を投げかけられます。この疑問は半分正解で半分的外れでしょう。実際、スティッチは「マッド・サイエンティストによって作られた凶暴で醜悪なモンスター」という設定なので、それっぽく見えるように敢えて少し「気持ち悪い」見た目にデザインしてあります。ですから、映画を見ずにそのルックスだけでの第一印象として「気持ち悪い」という感想を抱くのはある意味当然のことなのです。

 しかしそんなルックスにも関わらず、そのスティッチが喋って動いてるのを見ると、途端に彼が可愛らしく見えてくるんですよね。いわゆる「キモ可愛い」とも違うんですよね。パッと見はキモいけど、映画を見ていくうちに徐々にその仕草の一つ一つが可愛らしく見える感じです。動いたり喋ったりしてるのと合わさるだけで本当に可愛らしく見えるようにデザインされています。このキャラクターデザインを生み出したのは天才的だと思いますね。この絶妙なバランスでキモさと可愛さが同居している独特なデザインが、スティッチのキャラ人気を支えてるんだと思います。

 砂のお城を一人ぼっちで作って落ち込んだり、片言で「ボク、マイゴ」と言ったり……もうスティッチの一挙手一投足全てが本当に可愛らしいんですよね。可愛いと観客が感じるような動作を徹底してスティッチにさせています。それが先述のスティッチの丁寧な心情描写と合わさることで、観客は自然とスティッチを応援したくなるんですよね。

リロ&ナニ

 先述の通り、本作品ではスティッチ同様にリロの描写もかなり丁寧にされていました。リアリティある「変な子」っぷりの描写が、リロの孤独をより一層際立たせるんですよね。リロのキャラクター描写については上ですでに述べたのでこれ以上は語りませんが、そんなリロの家族として登場する本作品の重要なキャラクターがナニです。ぶっちゃけ、ナニはリロとスティッチに次ぐ本作品の準主人公ポジションと言っても差し支えないレベルでしょう。

 両親がいなくなったことで必死にリロの親代わりを務めようと色々と頑張るもスティッチのせいで台無しにされ、家族崩壊の危機に瀕するナニの姿は、本作品中盤での悲劇性を一層強めています。福祉局にリロを取られないよう必死になるナニの姿が、彼女のリロへの依存ぶり、すなわち家族への依存ぶりを表していて、本作品のテーマをより強調させてくれるんですよね。福祉局のコブラから「離れて困るのはリロじゃなくて君のほうだろう」と言われる始末です。実際、それほどナニにとって「家族」が大切で必要不可欠な存在になってることが作品内の至る所でうかがえます。

 本作品は、スティッチが新しい家族を見つける物語でもありますが、それと同時にナニが家族崩壊の危機から立ち直るまでの物語でもあります。スティッチの来訪による諸々のトラブルで一度は崩壊の危機を迎えたリロとナニの家族は、しかし最終的には銀河連邦議長やコブラの粋な計らいなどのおかげで、もとの良い家族としてこれからも一緒にお互いに居続けることに収まりました。中盤での崩壊の危機の展開のハラハラ感と悲劇性があるからこそ、家族が崩壊せずに済んだラストの安心感と幸福感がより一層強くなるんですよねえ。ナニの境遇や心情に共感し同情することで、自然とそういう感動が生まれるようになっています。本当に良いキャラクターだと思います。

その他

 本作品の特徴として、根っからの悪人がほぼいないということが挙げられます。元凶のジャンバですら、マッド・サイエンティストではありますが間抜けで憎めないキャラに描かれています。根っからの悪人ではない感じです。そして、このジャンバとプリークリーのコンビは本作品におけるギャグ要員として良い感じに機能してるんですよね。この2人のコミカルな掛け合いが面白くて笑えます。プリークリーのほうもかなり変てこな性格のキャラクターで面白いんですよね。愛嬌のあるコンビです。

 その他にも、デイヴィッドやコブラ・バブルスなど印象的な脇役が本作品には多数登場します。デイヴィッドはナニのボーイフレンドであり、リロたち家族の良き理解者・味方ポジションですね。スティッチがエイリアンだと知っても大して驚かず気にしない大らかな性格の好青年って感じで好感の持てるキャラです。

 一方、コブラ・バブルスはリロを児童保護施設に引き取ろうとする福祉局員で、ナニにとってはある意味で「敵」のような存在ではありますが、彼は彼なりにリロのことを心配している保護者のような存在として描かれているんですよね。一見怖そうな見た目にもかかわらず、リロとナニたち家族の面倒をしっかり見る彼の姿はとても魅力的で良いキャラしています。ラストで彼が実は元CIAだったと明らかになるシーンも意外性があって、彼のキャラの魅力に繋がっていますね。個人的にかなり好きなキャラです。名脇役だと思います。

 あと、毎回アイスをこぼしてしまう可哀想なモブの男性キャラも個人的に好きですね。名前すらない完全なモブキャラなんですけど、彼が毎回アイスを落としてしまうギャグは天丼ギャグとして上手く機能しており、とても面白くて笑えます。良いコメディ担当だと思います。


映像

 本作品の映像面での大きな特徴として「水彩画」が背景に用いられていることが挙げられます。先述の通り、本作品は『ダンボ』のような作品を目指していましたが、その試みの一つが『ダンボ』のような水彩画背景の採用だったのです。水彩画を背景に用いたディズニー長編アニメーションって『白雪姫』や『ピノキオ』『ダンボ』などのごく初期の作品ぐらいしかないんですよね。そんな珍しい水彩画を『リロ・アンド・スティッチ』では約60年ぶりに採用したわけですが、その試みは完全に成功したと言えるでしょう。ハワイのカウアイ島の美しい自然が水彩画の力によってとても綺麗に描き出されているんですよね。一枚絵として見たくなるような素晴らしい映像美だと思います。

 個人的に、特に好きな映像美は"Hawaiian Roller Coaster Ride"が流れるシーンでの海の映像です。まあ、僕は海の映像がもともと好きなんですよね。このシーンでは、ハワイの美しい青い海と青空の下でリロたちがサーフィンを楽しむ映像が流れるんですが、いかにも「ハワイらしい」海の綺麗さにとても惚れ惚れします。ハワイらしい砂浜ビーチの美しい映像も綺麗ですしね。好きなシーンだなあ。美しい海とビーチの映像はオープニングの"He Mele NO Lilo"が流れるシーンでも最初に出てきますね。この辺りの映像は本当に綺麗で、純粋に水彩画芸術として優れた絵に感じます。まあ僕はあまり美術に詳しいわけではないのであくまでも素人目にはそう見えるってだけの話ですけどね。とにかく、僕にとってはそれぐらい綺麗で印象的な映像でした。


音楽

 本作品はミュージカルでこそないものの、かなり音楽要素が豊富な映画になっています。これまで『ダイナソー』『ラマになった王様』『アトランティス 失われた帝国』と3作も続けて劇中歌なしの非ミュージカル作品が続き音楽的には物足りなかったのとは対照的です。本作品ではかなりたくさんの印象的な劇中歌が出てくるんですよね。その点が第二期黄金期までのミュージカル全盛のディズニーを彷彿とさせ、高い満足度を与えてくれます。

 本作品の音楽を語る上で欠かせない存在が何と言ってもエルヴィス・プレスリー氏でしょう。言わずと知れたロックンロール界のキングです。本作品では、リロがプレスリーのファンだという設定のもとで、彼の既存曲を劇中でたくさん流しているんですよね。それらの曲が作品のBGMとして良い感じに機能してるんですよね。やっぱりロックンロールのレジェンドだけあって、プレスリーの曲って名曲がとても多いんですけど、それらの使いどころがとても上手い。全てが耳に残る名曲であり名シーンになっています。*6

 本作品で使われたプレスリーの曲は全部で7曲あるのですが、そのうち2曲"Burning Love"と"Can't Help Falling in Love"はプレスリー自身の声ではなく別のアーティストによるカバーになっています。この2曲のカバーも個人的にはかなり良アレンジだと思います。どっちのアレンジもめちゃくちゃ好きで、昔から何度も繰り返し聴いています。アップテンポでテンションが上がる"Burning Love"は、先述した感動的なエンディングシーンで効果的に使われており、聴くだけでリロやスティッチたちのその後の幸せな日常に思いを馳せて自然と涙が流れるような曲に仕上がっています。ボーカルがとても力強い声になってて、熱いロックンロールっぽさがより全面に出た曲に仕上がってるんですよねえ。良いアレンジです。特に終盤の曲の盛り上がりが好きです。この盛り上がる曲と一緒に、先述した感動的な写真が次々と映し出される演出が良いんですよねえ。涙を誘います。

 逆に、"Can't Help Falling in Love"のほうはとてもさっぱりした爽快感あふれる雰囲気の曲にアレンジされています。エンドロールで流れる曲として使われているのですが、確かに本作品のエンドロールにぴったりの曲になっています。本作品を見終わった後の幸せな気分の余韻に存分に浸れるような感じの雰囲気の曲なんですよねえ。僕はこの曲を一時期何度も聴いては、本作品の感動的なシーンを回想しその余韻に浸っていました。本当に「爽やか」な曲調のメロディなんですよね。それがかなり耳に残る。何度でも繰り返し聴きたくなる名曲だと思います。

 本作品にはプレスリーの既存曲だけでなく新たに作られたオリジナル曲も存在します。"He Mele No Lilo"と"Hawaiian Roller Coaster Ride"です。どちらも、本作品の舞台であるハワイらしさを感じさせる曲調になっています。"He Mele No Lilo"はオープニングで流れる曲で、ハワイ語の歌詞とハワイ風の曲調が心地よく耳に残る良曲に仕上がっています。特に、サビの盛り上がりがとても良いですねえ。ハワイアン音楽らしいのどかな空気で始まりつつも、サビではしっかり盛り上がり楽しい気分にさせてくれる、そんな名曲だと思います。

 もう一つのオリジナル曲"Hawaiian Roller Coaster Ride"は本作の曲としては恐らく一番有名でしょう。ほぼ代表曲みたいな扱いを受けています。実際、この曲もかなり耳に残る名曲なんですよねえ。先述したハワイの美しい海の映像美と共にこの曲が劇中で流れることで色々と感傷的な気分に浸らせてくれます。このシーンでは、スティッチが徐々にリロたち家族と打ち解けていく過程が描かれているんですよねえ。孤独なスティッチがリロやナニたちの家族団欒の光景に憧れて自分もそこに混ざろうとリロをサーフィンに誘うシーンを通じて、スティッチの心境の変化が丁寧に描かれている名シーンになっています。この曲は、そんな名シーンのBGMに相応しい名曲に仕上がっています。ハワイアンなのどかな曲調によってリラックスした気分になれる曲なんですよねえ。そんなリラックスした気分でこの曲を聞くからこそ、このシーンでのスティッチの心境の変化を微笑ましく思いながら見ることができるんですよね。曲自体もずっと耳に残るような印象的なメロディが備わっていて、本当に名曲だと感じます。何度でも聞きたくなります。

 このように、本作品は音楽面でも非常に満足度の高い作品に仕上がっています。この音楽面での良さも、本作品が暗黒期において例外的に大ヒットした要因の一つだと思います。なお、本作品は歌なしのBGMの部分もかなりクオリティが高いです。何と言ったって本作品の音楽制作には有名な作曲家のアラン・シルヴェストリ氏が携わっていますからね*7。そんな彼の素晴らしい技量による感動的で場面に合った名曲BGMが劇中のあちこちで流れているんですよねえ。それが良い演出として機能しています。


余談:スピンオフ作品の感想

 この記事はあくまでもディズニー長編アニメーション映画シリーズの感想記事なので、それ以外のところから出ているスピンオフの続編の感想などは普段書かないんですけど、本作品については例外的に続編の感想も少し述べようかなと思います。というのも、上のほうで述べた通り本作品はディズニー映画の中でもとりわけスピンオフ作品がやたら多い作品だからなんですよね。しかもそれらもわりとヒットした。なので、簡単に続編の感想も述べて行こうかなあと思います。

 本作品の続編ですが、沖縄を舞台にした『スティッチ!』以外は僕はおおむね好きです。特に、テレビアニメシリーズとして放送された『リロ・アンド・スティッチ・ザ・シリーズ』が面白いです。スティッチのイトコである試作品たちを見つけては彼らの居場所を見つけてあげるという一話完結のストーリーが、単体のコメディとして良く出来てて面白いんですよね。毎度毎度色んなタイプの試作品が現れては色んな騒動が巻き起こる話のパターンがある種の様式美となっていて良いです。「今回はどんな試作品が登場するんだろう?」と気になるような話作りができているんですよね。僕は、昔ディズニー・チャンネルでこの『リロ・アンド・スティッチ・ザ・シリーズ』を放課後に見ることが習慣になってました。それぐらい、このスピンオフシリーズは面白かったんですよね。プロローグの『スティッチ!ザ・ムービー』から始まり、テレビアニメシリーズの『リロ・アンド・スティッチ・ザ・シリーズ』を見て、最終回の『リロイ・アンド・スティッチ』に至るまでの流れは一度見ても損はないと思います。特に、テレビアニメの『リロ・アンド・スティッチ・ザ・シリーズ』がオススメです。まあ、オリジナルの最初の映画ほどの「涙が止まらないような感動要素」とかは続編にはそんなにないので、オリジナル版ほどには名作ってわけでもないんですけどね。それでも十分に面白いコメディとして良作には仕上がっています。主題歌の"Aloha E Komo Mai"もなかなかに楽しい名曲ですしね。

 一方で、同じテレビシリーズでも沖縄を舞台にした日本オリジナルの『スティッチ!』のほうは原作破壊がひどすぎるので僕はその時点で好きになれないですね。舞台をハワイじゃなく沖縄にするのも、スティッチの相棒をリロからユウナに変えるのも、あまりにも原作無視の改悪過ぎてもはや完全に別物のアニメです。別物のアニメとして開き直って見れば面白いのかもしれませんが、スティッチやジャンバやプリークリーなどのお馴染みのキャラが「オハナ=家族」であるはずのリロと一緒にいないという時点で違和感が強すぎるので、僕はまともに見ることができませんね。どうせ原作破壊するなら、キャラクターデザインをオリジナルのデザインとは似ても似つかないレベルにまで変えちゃえば、僕も完全に別物のアニメとして開き直って見ることができたんですけどねえ。中途半端にスティッチたちのキャラデザは温存するもんだから、アニメを見た時にリロがいないことへの違和感が凄まじく強くなるんですよね。まじで、原作の大事な設定を全てぶち壊してるんですよ、このシリーズ。好きになれないです。


感動的で泣ける名作

 以上、ここまで『リロ・アンド・スティッチ』の感想を述べてきましたが、とにかくこの話はとても感動的で泣ける良い話なんですよね。意外と重くて暗いシリアスなテーマを正面から扱ってちゃんと描写しているので大きく心を動かされます。それでいながら、要所要所の笑えるギャグ要素や迫力満点のアクションシーン、明るくのどかな音楽などが程良いバランサーになっており、話が過度に暗くなりすぎるのを防いでいる点も良いですね。シリアスなテーマでありながらも明るい気持ちでラストは幸福感の余韻に浸りながら見ることができる、そんな素晴らしい映画だと思います。

 ハワイのカウアイ島を舞台に選んだ点も上手く生きていたと思いますね。水彩画による自然風景の描写の魅力が存分に発揮されていますし、何よりこの南国風の「大らかな雰囲気」が作品全体のテーマのシリアスさを和らげてくれています。ハワイとSFエイリアンという一見アンバランスな世界観の融合も、この大らかな雰囲気のデザインのもとで違和感なく調和しているんですよね。スティッチやジャンバやプリークリー等のエイリアンがハワイに風景にあまり違和感なく溶け込んでいますからね。この辺りのバランス感覚も見事だと思います。

 と言う訳で、この『リロ・アンド・スティッチ』は大いに泣けて感動し、見ているだけで幸福な気持ちにさせてくれる非常にディズニーらしい名作だと思います。時期としては暗黒期の作品ではありますが、僕は黄金期の歴代ディズニー映画たちと比べても遜色ないどころか、全ディズニー映画の中でもかなり上位陣に入る名作だと思います。もう、小さいころから僕はこの映画があまりにも大好きで、何度繰り返し見ては何度涙を流したことか……。多すぎて数え切れません。ストーリーもテーマもキャラも映像も音楽も全てが大好きな作品ですね。








 以上で、『リロ・アンド・スティッチ』の感想記事を終わりにします。なんか、いつにも増して長文記事になってしまいました……。まあ、それだけたくさん語りたくなる大好きな作品なんですよね。次回は『トレジャー・プラネット』についての記事を書く予定です。それではまた。

*1:2020年8月現在での話です。

*2:ただし、日本ではそこまで流行りませんでしたので日本での知名度はやや低い作品です。

*3:なお、この『リロ・アンド・スティッチ』はノミネートこそされましたが受賞は惜しくも逃しました。この年のアカデミー賞長編アニメ映画賞受賞作品はジブリ映画『千と千尋の神隠し』でした。

*4:ウォルト・ディズニー・カンパニーの日本における現地法人です。

*5:恐らくそうした誤解の一因は、日本では主に女子高生の間でスティッチのキャラクターが「可愛いキャラ」として流行ったからでしょう。そして、映画を見ずに単なるスティッチの見た目や仕草だけを愛でるミーハーがたくさん現れたため、本作品を「そういう作品」だと勘違いする人が増えたんでしょう。

*6:完全に余談ですが、僕はこの『リロ・アンド・スティッチ』を幼少期に見て初めてエルヴィス・プレスリーの曲の数々を知りましたね。

*7:バック・トゥ・ザ・フューチャー』や『アベンジャーズ』シリーズなど数々の映画音楽の作曲を手掛けている超有名な作曲家です。