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てねーるのブログ記事です

【ディズニー映画感想企画第43弾】『トレジャー・プラネット』感想~52年ぶり2度目の映画化~

 ディズニー映画感想企画第43弾は『トレジャー・プラネット』の感想記事を書こうと思います。これも暗黒期ゆえ一般的には知名度の低い作品ですが、ディズニーオタクの間では意外と有名な作品でもあります。そんな『トレジャー・プラネット』について語っていこうと思います。

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【基本情報】

52年ぶりの『宝島』映画化

 『トレジャー・プラネット』は2002年に43作目のディズニー長編アニメーション映画として公開されました。原作は、イギリスの作家ロバート・ルイス・スティーヴンソンの有名な冒険小説『宝島』です。スティーヴンソンの『宝島』はかなり有名な童話であり、昔から色んな人によって映像化されたりパロディに使われたりしていますね。そんな有名な童話をディズニーはアニメーション化したのです。有名童話のアニメ化は『三匹の子ぶた』や『白雪姫』などごく初期の頃からディズニーが手掛けてきたことであり、そういう意味では本作品は久しぶりに「ディズニーの伝統的な王道への回帰」と言えなくもないのかもしれません。

 実は、ディズニーがスティーヴンソンの『宝島』を映画化したのはこの2002年が初めてではありません。そこから52年も遡った1950年にも実は『宝島』というタイトルの‟実写”映画としてディズニーは本作品を映画化していました。ディズニーと言えばアニメーション会社のイメージが強いですが、第二次世界大戦後直後のウォルト・ディズニー氏はアニメーション制作からは少し離れて、『南部の唄』や『わが心にかくも愛しき』などのような実写映画の制作に少し傾倒していました。『宝島』もそんな当時のウォルトの実写志向の中で生まれた実写映画でした。

 しかも、それまでのディズニーの実写映画は『南部の唄』にしても『わが心にかくも愛しき』にしてもアニメーションのシーンがある「実写+アニメーション」の融合映画でしたが、『宝島』はディズニー初の完全な「全編実写」の映画でした。ディズニーがアニメーション皆無の完全に実写のみの映画を作り、しかもそれをヒットさせたことで*1、当時の一部のディズニーファンの間から「ディズニーはもうアニメーションを捨てるのではないか」と危惧されたそうです。まあ過去の記事で述べて来た通り、実際はこの同年の『シンデレラ』のヒット以降、ディズニーは長編アニメーションのほうでも第一期黄金期を迎えるので、その心配は杞憂に終わったんですけどね。

 本作『トレジャー・プラネット』はそんな52年前のディズニー実写映画『宝島』を今度はアニメーションのみの映画として映画化した作品なんですよね。とは言え、先述のようにスティーヴンソンの『宝島』はすでに色んな映像化がディズニー以外の手によってなされてますし、ディズニー自身も52年前に実写で映像化してます。だから差別化を図ったのかどうかは僕には分かりませんが、この『トレジャー・プラネット』は原作『宝島』そのままの映像化にはなっていません。舞台を昔のイギリスからSF的な宇宙に変え、海洋冒険ではなく宇宙冒険にしたんですよね。なので、『宝島』の原題"Treasure Island"の"Island"(島)の部分を"Planet"(惑星)に変えた"Treasure Planet"というタイトルにしたんですよね。邦題の『トレジャー・プラネット』もそれをカタカナ表記にしただけです。*2


力の入った制作

 この『トレジャー・プラネット』は当時のディズニーにとってかなりの力作でした。まず、本作の監督を務めたのは第二期黄金期において『リトル・マーメイド』や『アラジン』などの数々の名作を手掛けてきた黄金コンビであるジョン・マスカー&ロン・クレメンツです。そもそもこの作品は、この2人の名監督コンビがかなり昔から暖めてきた企画なんですよね。2人は早くも1985年には『リトル・マーメイド』と一緒に本作の企画をディズニーに提案していました。しかし、『リトル・マーメイド』と違ってこの『トレジャー・プラネット』制作のほうはディズニーの上層部から拒否されてしまいました。その後も2人は諦めずに何度も本作品の制作を提案するも悉く断られるという有様でした。それでも2人は諦めずにディズニーと交渉を続けた結果、1995年にようやくディズニーからもOKを貰い、『ヘラクレス』の完成後にこの『トレジャー・プラネット』の制作を開始することを認められたのでした。

 このように、『トレジャー・プラネット』はジョン・マスカー氏とロン・クレメンツ氏の長年の悲願だったんですよね。そのためなのか、本作品の制作にはかなりの年月と制作費がかけられました。特にその制作費は凄まじく、当時ディズニーアニメーション史上最高額の1億4000万ドルもの予算がかけられました。それ以前のディズニーアニメーション史上最高額だった『ターザン』の制作費1億3000万ドルを上回るお金が、この『トレジャー・プラネット』制作のために費やされたんですよね。それだけ熱の籠った作品だったということでしょう。


商業的な大失敗

 さて、このようにかなりの力を入れて制作された『トレジャー・プラネット』ですが、あろうことか興行的にはかなりの失敗作になってしまいました。興行収入は全く振るわず、莫大な制作費を完全に下回ってしまいました。つまり、映画の興行収入だけ見れば完全に赤字です。ディズニー長編アニメーションが赤字を記録したのは恐らく1985年の『コルドロン』以来です*3。莫大な制作費をかけたにも関わらず商業的には大失敗に終わったという点では、かつての『バンビ』や『眠れる森の美女』を彷彿とさせます。

 前作『リロ・アンド・スティッチ』が低予算にもかかわらず商業的に大成功した「コスパの良い傑作」であり、その点で『ダンボ』と似ていることは前の記事で述べました。とすると、その次作『トレジャー・プラネット』の商業的失敗は、『ダンボ』の次作『バンビ』と似ているんですよね。『バンビ』も当時ウォルト・ディズニー氏がかなりの制作費と年月をかけた力作だったにもかかわらず興行的には大失敗してしまいました。「低予算で大成功」した『リロ・アンド・スティッチ』の次に「大規模な予算で大失敗」した『トレジャー・プラネット』が来た流れは、同じく「低予算で大成功」した『ダンボ』の次に「大規模な予算で大失敗」した『バンビ』が来た流れと見事に類似しています。約60年前と同じような現象が起きたわけですね。

 こうして、『トレジャー・プラネット』の商業的大失敗によって2000年代のディズニーの暗黒期はさらに深刻化したのでした。実際この『トレジャー・プラネット』がコケたからなのか、この頃にはウォルト・ディズニー・カンパニー自体も会計的な評価減による損失を被っています。そんなわけで、ディズニーの暗黒期はまだまだ続いていくのでした。

 ただ、本作品は商業的にはこのように大失敗したにもかかわらず、評論家やディズニーオタクからの評価は意外と悪くないんですよね。特に、ディズニーオタクの間からはいわゆる「隠れた名作」扱いされている作品の1つなんですよね。『きつねと猟犬』とかと同じような感じで、「世間での知名度は低いけど実は名作なんだよ」と本作品を褒めたたえるディズニーオタクを今まで多数見かけてきました。そういう扱いを受けている作品でもあるんですよね、この作品は。




【個人的感想】

総論

 上述の通り、この『トレジャー・プラネット』って商業的には大失敗した作品にもかかわらずディズニーオタクからの評判は良いです。ただ、僕は正直言って「そこまで名作かなあ?」と首を捻らなくもないんですよね。確かに、『アトランティス 失われた帝国』などと比べるとちゃんとストーリーは面白いし良く出来ています。『ポカホンタス』以降の第二期黄金期後期のディズニー作品と同程度の作品のクオリティはあると思います。でも、僕は個人的にそこまで本作品には嵌まれないんですよねえ。ここまで商業的に大コケするほど酷い駄作とは思いませんが、「隠れた名作」として持ち上げるほど凄いとも思えない。「中の上」ぐらいの作品だという印象です。

 以下、詳細な感想を述べていきます。


ストーリー

 本作のストーリーは基本的に原作の『宝島』と概ね同じです。主人公ジム・ホーキンスのもとに偶然逃げて来たビリー・ボーンズの持っていた宝の地図をもとに宇宙を大冒険するというストーリーです。宇宙海賊フリントの伝説や、彼の宝を狙う悪役のジョン・シルバー、フリントの元部下でトレジャー・プラネットの番人を務めるベンなど、原作『宝島』と同じような設定の登場人物が多数出演し、大まかなプロットや展開もほぼ原作通りです。途中途中の細かい展開などで違いは見られますが、おおよその部分においては『宝島』の舞台を海から宇宙に変えただけと言えるでしょう。

 本作は「冒険もの」の作品です。伝説の宝を求めて危険な海や謎だらけの島を冒険するスリルが本作では良く表れています。スリル満点の冒険要素は前々作『アトランティス 失われた帝国』でもありましたが、本作品でも超新星爆発のシーンなど、迫力満点の冒険アクションシーンはあちこちで見られます。フリント船長の宝の在処であるトレジャー・プラネットに着いてからも、ベンのおぼろげな記憶と地図をもとに宝の在処を探す冒険ミステリー的要素が存分に用意されています。

 『アトランティス 失われた帝国』では尺が足りずに駆け足過ぎる展開だったためにこれらの冒険要素がいまいちきちんと入ってこないという欠点がありましたが*4、本作『トレジャー・プラネット』ではその欠点は多少解消されてマシになっています。駆け足で説明されたせいでちっとも興味を引かれなかった古代アトランティス文明の謎と違って、フリント船長の宝を巡る伝説については最初から分かりやすく丁寧に説明されていたため、視聴者置いてけぼりにはなっていなかったです。多分、アトランティス文明と違ってそんなに背景が無駄に複雑ではないからでしょう。伝説的な大海賊フリントの財宝がどこかに眠っているというだけのわりとシンプルな設定ですからね。


ジョン・シルバーという男

 そして、原作『宝島』のストーリーにおいて一番の魅力が何と言ってもジョン・シルバーという男の独特なキャラクター設定でしょう。このジョン・シルバーは『宝島』において主人公ジム・ホーキンスと対立する悪役でありながら、どこか憎めない魅力を合わせ持つ、そんな複雑な人物描写がなされています。ぶっちゃけ、事実上の準主人公ポジションと言っても過言でないレベルで目立っています。

 本作『トレジャー・プラネット』においてもそのようなジョン・シルバーの描写はおおむね踏襲されています。宝を手に入れるためなら手段を選ばない悪党でありながらも、根っからの悪人ではなく、主人公ジムの世話を焼く一面も見せる、そんなキャラクターとして描写されています。このようなジョン・シルバーの複雑なキャラクター描写が本作の魅力としてしばしば取り上げられています。実際、僕も彼のこのような描写はなかなかに独特で面白いと思います。

 主人公ジム・ホーキンスにとって、ジョン・シルバーは親のような役割を果たしているんですよね。ジムの成長を手助けし、彼に様々なアドバイスをくれる存在として描かれている。まさに、彼の部下たちが言うようにジムに情が移ったのでしょう。それゆえ、終盤では長年の夢だった宝を手放してジムの命を助けたりしている。で、ジムのほうも敵対しながらも完全にはジョン・シルバーのことを憎めず、最終的にはシルバーの逃亡を見逃したりしています。こんなふうにジムとシルバーの関係が、敵対関係でもあり親子関係でもあるという、なかなかに複雑で魅力的な関係になっているんですよね。そこは確かに面白いポイントだと思います。

 このように、ジョン・シルバーとジム・ホーキンスの複雑な関係性が本作品では序盤から丁寧に描かれているんですよねえ。"I'm Still Here"の曲に合わせてジムがシルバーから色んなことを学び二人の間に絆がちょっとづつ芽生えていくシーンは特に印象深い名シーンでしょう。その後も、アローの死に責任を感じて落ち込むジムを慰めたりして、少しづつジムに情が移っているシルバーの様子がはっきりとうかがえるような描写になっています。

 あと、ジョン・シルバーが殺人という最後の一線を越えていない点は評価できますね。本作品は、結構ドンパチした銃撃戦アクションがあって登場キャラも途中で何人か死んでるんですが、そのどれもがジョン・シルバーが直接殺害したわけじゃないですからね。アローだって部下のスクループがシルバーの命令を無視して勝手に殺したわけで、シルバーが殺した訳じゃないです。それどころか、シルバーがジムに銃を向けるも結局は撃つのを躊躇うシーンまであります。このように、シルバーを人殺しとして描かないことで、彼を「根っからの悪人ではない」と観客に判断させていると感じます。親子のような関係を築いたジムを躊躇なく殺してしまえるような冷酷さはシルバーにはないのだということがうかがえます。


若干の掘り下げ不足

 本作のこのようなジョン・シルバーの複雑なキャラ描写は非常に素晴らしいのですが、その一方でだからこそ「あと一歩惜しい」と思う部分もあるんですよね。というのも、『アトランティス 失われた帝国』ほどではないにしろ、本作品に対しても僕は若干の尺不足とそれによる掘り下げ不足を感じるのです。本作品を僕が「中の上」程度と感じた一因もその点にあります。

 本作品のメインテーマであるジム・ホーキンスとジョン・シルバーの絆はとても良く描けているのですが、「えっ、この部分の詳細な説明はないの?」と思っちゃうところが若干あるんですよね。具体的には、シルバーの過去が挙げられます。なぜシルバーはフリント船長の宝を見つけることを長年の夢として追うように至ったのか、なぜシルバーは身体の一部を失いサイボーグとなったのか、などの説明が不十分なんですよね。昔シルバーに何かあったことを中途半端に仄めかされただけで詳細な説明がないものだから気になって仕方がない。

 いっそ最初からこれらの要素には作中で一切触れないならばそれもありだとは思うんですよね。作品内で最初から全く描かれていなければ、「あー、今回はそういう部分は描かない作品ってことなのね」と納得できるんですが、本作では中途半端に仄めかす描写だけはあるものだから詳細が気になってしまうんですよね。"I'm Still Here"の流れた後の、ボートでジムとシルバーが語り合うシーンで、ジムがシルバーの過去に何があったのかについてちょっと尋ねてたじゃないですか。ああいうふうに仄めかすシーンを入れた割には、いまいち的を射ていない曖昧模糊とした回答しかシルバーから返って来なかったじゃないですか。その後も、シルバーが昔からフリントの宝を探すのを夢見ていたことを仄めかすセリフこそ何度か出てきますが、その詳細は最後まで語られないままなんですよね。そこがモヤモヤする。

 しかも、この点はジョン・シルバーという本作の準主人公の魅力にダイレクトに関係する部分なので、しっかり掘り下げた方が良かった点だと思うんですよね。根っからの悪人ではないシルバーが、なぜフリントの宝にこんなにも執着し、その結果悪行にも手を染めるようになったのか、そういう点まで上手く掘り下げて描写することができれば、シルバーの魅力も一層増したかもしれません。もちろん、尺の関係でそこまで描くと長くなりすぎるので敢えて省くという選択もアリだとは思います。でも、それならば中途半端に仄めかさずに潔くバッサリと説明を全部カットしたほうが良かったですね。どちらにも振り切れていない中途半端さが逆に引っ掛かります。


アニメーション映像

 本作品は莫大な制作費をかけただけあって、映像面でのクオリティはなかなかに高いです。宇宙を舞台にしたSFらしい綺麗な宇宙空間や星の映像が至る所で見られます。CG技術を存分に使っているであろうことがうかがえます。そして、これらの美しい映像を生かした迫力満点のアクションシーンが本作にはたくさんあるんですよね。

 例えば、先述の超新星爆発のシーンや終盤にトレジャー・プラネットから脱出を図るシーンなどがそうです。特に、崩壊しかけるトレジャー・プラネットからジムの活躍で脱出を図る終盤のアクションシーンは、ディズニー映画らしい見所あるスリル満点のアクションになっていると言えるでしょう。このシーンでは、ジムがソーラー・サーフィンで激しいアクションをする様子が見られるんですよね。ジムによるソーラー・サーフィンのアクションは本作の序盤でも流れており、どちらもかなり迫力ある映像が見られるんですよね。まるで、見てる自分もジムと一緒にソーラー・サーフィンをしているかのような気分になる臨場感溢れるアクション映像は圧巻です。

 本作では、『ターザン』の時にも出て来たディープ・キャンバスという新技術が使われており*5、その結果として立体的な美しい背景映像や臨場感あふれるアクションシーンが実現されています。莫大な制作費をかけただけあって、映像クオリティは申し分ないと言えるでしょう。


音楽

 ミュージカル要素が薄まっていった2000年代暗黒期のディズニーの傾向に違わず、本作品も劇中歌はめちゃくちゃ少ないです。"I'm Still Here"しかないです。その唯一の劇中歌である"I'm Still Here"のシーンは先述の通り素晴らしいです。曲も良い感じのBGMとして機能しており耳に残ります。そこそこの良曲だと思います。

 ただ、個人的に本作品はこの劇中歌よりも歌なしのサントラ部分のほうが好きです。本作品の歌以外のBGMはジェームズ・ニュートン・ハワード氏が手掛けています。彼は映画音楽の作曲家として超有名な人で、ディズニー映画だと以前『ダイナソー』の音楽も彼が手掛けていましたね。そんな彼の手によるオーケストラ構成の迫力満点のBGMはかなり良いです。特に、終盤でのアクションシーンの音楽が素晴らしいですね。爆発するトレジャー・プラネットから無事脱出した時に流れるこの音楽はまさにクライマックスって感じの感情を抱かせてくれる名曲に仕上がっていると思います。


世界観とデザイン

 本作品はSF宇宙が舞台なのですが、それでいながらやや「レトロ」感のあるデザインになっています。これは、原作『宝島』の時代設定(多分18世紀の海賊時代)にも少し寄せたからなのでしょう。星を移動する宇宙船が帆船になっていたり、街中の建物もどことなく一昔前の建築になっていたりします。

 ぶっちゃけ、本作品がイマイチ流行らなかった原因の一つってこのデザインにあるんじゃないかなあと思うんですよね。妙に「18世紀」っぽさのあるSF世界観は、前々作『アトランティス 失われた帝国』同様にスチームパンクっぽさを感じさせてくれて*6、そういうのが好きな人には響くんでしょうけど、ちょっとディズニーっぽくないです。このディズニーらしからぬ独特なSFデザインが見る人を選んだんじゃないかなあと感じます。僕個人も、そんなにスチームパンク系の世界観とかが好きなほうでもないので、本作品のデザインにはそこまで魅かれませんでしたね。


キャラクター

 本作品のメインキャラはジム・ホーキンスとジョン・シルバーの二人でしょう。この二人の複雑な関係性が本作品のメインテーマでもあります。このうち、主人公ジム・ホーキンスのキャラクターについてはかなり丁寧にその背景まで含めて描写されていたと思います。幼い頃は元気な良い子だったのに、父親が家を出て行ったことがきっかけになったのか、思春期になるとやさぐれて非行に走ったりするようになったという設定が、序盤までのシーンでしっかり描写されています。そして、"I'm Still Here"のシーンではジムの心情描写や彼の抱える悩みがちゃんと歌われています。この辺りの思春期特有の複雑で扱いにくい心情の表現はまあまあ上手くできてると思います。ジムの繊細な性格が良く伝わってきます。そんなジムがシルバーの手助けによって一人前に成長していく過程がその後に描かれています。この描写も丁寧で良く出来てると思います。

 ジョン・シルバーについても、準主人公らしい魅力的なキャラとして描かれています。この点は先述した通りです。まあ、上でも述べた通り、シルバーの過去について中途半端な説明に終わってたのは惜しいと思いましたけどね。ちなみに、本作品のジョン・シルバーは原作『宝島』での設定をSF風にアレンジした箇所がいくつかあります。例えば、原作でビリー・ボーンズが彼の特徴として挙げた「片足」は本作では「サイボーグ」になっています。また、原作でのシルバーのトレードマークとでも言うべきペットのオウム「フリント」は、本作では「モーフ」という謎の生物に変わっています。このモーフはディズニー作品に良くいるタイプの可愛い動物キャラらしい行動を見せてくれます。なかなかに魅力的なマスコット的キャラクターとして機能しています。結構可愛いです。

 その他のキャラクターもドップラー博士やアメリア船長など、いつものディズニーらしい個性豊かなキャラクターが並んでて良かったです。どの登場人物もみんなそれなりにキャラが立っていたと思います。そのうえで、あくまでもメインのキャラであるジムやシルバーの描写を邪魔するほどには目立たず、ちょうど良い塩梅のキャラ描写がだったと思います。

 ところで、本作品の登場キャラの1人であるベンが日本の漫画『21エモン』のゴンスケというキャラクターに似ていると公開当時に日本のネットで騒がれていましたが、ぶっちゃけ僕はそんなに似ていないと思います。似てると言えば似てなくもないですけど、この程度のデザインの類似なんて人型ロボットを描こうとしたならば当然に起きうる範囲の類似としか思えないですね。結構、細かい違いはたくさんありますし、そんなに騒がれるほど似てないですよ。というか、ゴンスケじゃなくて『スター・ウォーズ』シリーズのC-3POにも似てると言えば似てます。逆に言えば、その程度の類似性でしかないですけどね。良く良く見ればゴンスケC-3POに見えなくもないなあという程度の類似性です。似ていない部分も多々見つかるようなデザインにはなっています。


あと一歩惜しい作品

 ここまで本作品の感想を述べましたが、確かに本作品を「隠れた名作」として評価するディズニーオタクが多いのは分かります。同じSF冒険モノという点で、全体的に雰囲気が前々作『アトランティス 失われた帝国』に似てるんですが、クオリティ面では完全にその上位互換です。この『トレジャー・プラネット』ではジム・ホーキンスとジョン・シルバーの親子‟的”関係のみにテーマの焦点を絞ったことで、『アトランティス 失われた帝国』の時の欠点を概ね解消しています。本作品では、『アトランティス 失われた帝国』に見られたようなテーマの詰め込み過ぎやそれによる尺不足を感じることはほとんどありませんでした。メインキャラが最初から最後までジムとシルバーのみに限られてすっきりしていた上、背景となるフリント船長の伝説などもそんなに複雑でも情報過多でもなく分かりやすかったですからね。

 とは言え、上で述べたようにジョン・シルバーの過去については中途半端な掘り下げ不足が目立ちました、その点がやはり惜しいと思います。また、やっぱり僕は前作『リロ・アンド・スティッチ』ほどの感動は本作には抱かなかったんですよねえ。やりたいことも分かるし、ストーリーにそこまで大きな穴もないんですけど、あと一歩「心に響く何か」が足りないんですよね。プラスアルファで強く魅かれる要素がないように思えるんですよねえ。エンタメとして無難にまとまってはいるけど、それ以上のものではないと感じるような普通さがあります。自分でもなんでそう感じるのか上手くその理由を言語化できないのでもどかしいし、好きな人には申し訳ないんですけど、とにかく何故か僕にはそう感じるんですよね。そういう意味で「中の上」みたいな雰囲気の作品だとやっぱり思っちゃいます。








 以上で、『トレジャー・プラネット』の感想を終わりにします。次回は『ブラザー・ベア』についての感想記事を書こうと思います。それではまた。

*1:日本ではやや知名度が低いので意外かもしれませんが、この『宝島』は1950年当時にイギリスで商業的に結構な成功を収めました。

*2:余談ですが、『宝島』の舞台を宇宙に変えたSF作品自体は『トレジャー・プラネット』以前にもあったらしいです。ドイツやイタリアでそういうテレビドラマが過去に放送されたことがあったそうです。

*3:「恐らく」と言ったのは、『コルドロン』の後に公開された『ビアンカの大冒険 ゴールデン・イーグルを救え!』の制作費が謎だからです。僕の手元にある資料だとなぜかこの作品だけ制作費が分からないので、誰か知っている人いたら教えてくれると嬉しいです。

*4:この点は【ディズニー映画感想企画第41弾】『アトランティス 失われた帝国』感想~暗黒期の象徴的作品~ - tener’s diaryの記事で述べた通りです。

*5:ディープ・キャンバスについては【ディズニー映画感想企画第37弾】『ターザン』感想~第二期黄金期最後の名作~ - tener’s diaryの記事でも説明したのでそちらも参照してください。

*6:厳密なことを言うと、スチームパンクと言った場合は19世紀のヴィクトリア朝以降のデザインを取り入れたSFを指すのが普通なので、18世紀風の帆船デザインなどが出てくる本作品はスチームパンクと呼ぶべきではないんですが、まあここではスチームパンクを「現代より前の近代」風のデザインのSFのことだと大雑把に捉えて便宜的にそう呼んでいます。