tener’s diary

てねーるのブログ記事です

【ディズニー映画感想企画第51弾】『くまのプーさん』感想~最後の手描き2Dアニメーション~

 ディズニー映画感想企画第51弾です。今回は『くまのプーさん』の感想を書こうと思います。このシリーズ自体はかなり有名ですが、この2011年版の映画自体はちょっと影が薄いかも知れません。まあ、Twitterなどで本作のとあるシーンの画像がやたらネタ用画像として使われてるので、本作を見たことない人でもあの画像だけは見たことあるかも知れないですが*1。そんな『くまのプーさん』(2011年版)について語っていきたいと思います。

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【基本情報~最後の手描き2Dアニメーション~】

 『くまのプーさん』は2011年に公開された51作目のディズニー長編アニメーション映画です。原作はイギリスの作家A・A・ミルン氏による同タイトルの児童小説です。もちろん、ディズニーがこのシリーズをアニメ化したのは2011年が初めてではありません。最初にアニメ化したのは本作公開から45年も遡った1966年の短編アニメーションですし、長編アニメーションとして最初に公開されたのも1977年のことです*2。その後もディズニーはテレビシリーズやビデオソフトや短編映画などでも何度もこのシリーズをアニメ化しており、本作はそんなディズニーがまた改めて長編アニメーション映画としてこのシリーズをアニメ化した作品なのです。監督を務めたのはスティーブン・アンダーソン氏*3とドン・ホール氏*4です。

 そんな2011年版『くまのプーさん』は最後の手描き2Dアニメーションのディズニー映画でもあります*5。『プリンセスと魔法のキス』で手描き2Dアニメーションの復活を宣言したディズニーは*6、それに続く手描き2Dアニメーションの作品として本作を制作したのです。しかし、この本作の制作を終えた後のディズニーは2020年10月現在まで手描き2Dの長編アニメーション作品を作っていません。満を持して復活した手描き2Dアニメーション作品の『プリンセスと魔法のキス』が期待未満の興行収入だったことが恐らく原因だと僕は推測していますが、確かなことは僕にも分かりません。

 とにかくこの『くまのプーさん』が現時点でのディズニー最後の手描き2D長編アニメーションなのです。本作は奇しくもそんな歴史的境目を印づける作品となったわけですが、それにも関わらず第三期黄金期の作品の中ではちょっと影が薄いです。そもそも他の作品と違って上映時間も短めですし*7制作費も長編にしてはかなり安いので、どちらかというと短編や中編アニメーションに近い規模の作品と言えます。そのため公開規模も小さくて、当時はそんなに大きく話題になることもなくひっそりと公開された感じでした。ディズニーの手描き2D長編アニメーションはそんな状態の中でひっそりと終了したのでした。




【個人的感想】

総論

 以前【ディズニー映画感想企画第22弾】『くまのプーさん 完全保存版』感想~ほのぼの癒される短編集~ - tener’s diaryの記事でも述べた通り、僕はこのディズニー版『くまのプーさん』シリーズがかなり好きな人なので、本作も十分に楽しむことが出来ました。やっぱり、このシリーズはとにかく「ほのぼの」とした作風がすごく素敵で癒されるんですよねえ。しかも、2011年の作品だからといって変に現代風にアレンジするような真似はせず、45年前から始まるこのシリーズの特徴をちゃんと忠実に踏襲した内容になってるから嬉しいんですよね。伝統を重んじる保守的な姿勢がはっきりと表れてると感じられて素晴らしいです。昔ながらの『くまのプーさん』シリーズの特徴である「ほのぼのさ」などが本作でもしっかり表現されています。昔からこのシリーズが好きな僕にとっては非常に喜ばしいことです。


踏襲される伝統

 上で述べたように、本作はこの『くまのプーさん』シリーズの伝統をしっかりと踏襲した演出が至るところで確認できます。1977年の前作『くまのプーさん 完全保存版』でも見られたような「優しすぎる世界」はこの2011年版でも健在です。本シリーズの世界観って本当に良い意味で「脳味噌お花畑」なんですよね。登場キャラクターの誰にも悪意が見受けられず、ひたすらほのぼのとしていて癒されるような展開が続きます。本当に素晴らしいです。

 また、このシリーズの特徴だったメタ演出も本作では健在です。ナレーターが作品内の登場キャラクターと会話したり、絵本の一部であることを示唆するような演出が至るところで見られたりします。特に、「絵本の一部」であることを自覚させるようなメタ演出はこのシリーズの大きな特徴ですからね。絵本の文字が実体を持ってキャラクターにぶつかったりするシーンが本作では何度も見られます。こういうところでも本作は前作『くまのシリーズ 完全保存版』以来の伝統をしっかり踏襲しようという姿勢が垣間見れてとても微笑ましい気持ちになれるんですよね。素晴らしいです。


ほのぼの笑えるストーリー

 このような伝統を踏襲してくれたおかげで本作は「ほのぼのコメディ」としてとても癒される内容になっております。プーのハチミツ探し、イーヨーの尻尾探し、クリストファー・ロビンの失踪などといった要素を物語全体の軸に据えて展開させながら、ほのぼの笑えるギャグ要素をちょいちょい挟んでくれてるのが本作の魅力なんですよね。

 このシリーズの特徴として「登場人物がみんなちょっと抜けてる」という点が挙げられます。主人公のプーはもちろん、お調子者のティガーも、臆病なピグレットも、賢そうな雰囲気のオウルさえも、みんなどこか抜けててとぼけた言動をしばしば見せます。その奇天烈な言動っぷりがほのぼの笑えるギャグ要素として良い感じに機能してるんですよねえ。とても癒されます。

 例えば、みんながクリストファー・ロビンの手紙の内容を勘違いして「スグモドル」という架空の怪物の存在を生み出した展開なんか、いかにも『くまのプーさん』シリーズっぽい可笑しさで笑えます*8。ちょっとクスッとなるようなそういうギャグがまさに本作の魅力なんですよねえ。そして、そんなギャグに本作の優しすぎる世界観が見事にマッチしていて、ほのぼのと癒される作風に仕上がっています。登場人物の誰一人として悪意がない世界なので、彼らの抜けた行動を見てもどこか憎めないんですよね。むしろ癒されます。本当に良い作風です。


アニメーション映像

 本作はまたアニメーション映像においても『くまのプーさん 完全保存版』以来の伝統を踏襲しています。キャラクターデザインが昔の頃とほとんど変わってないんですよね。唯一の例外としてクリストファー・ロビンの見た目だけは1977年のバージョンから大きく変わっていますが、それ以外のキャラクターの見た目は昔のバージョンとおおよそ同じと言って差し支えありません。変に現代風のデザインに合わせようとして同シリーズの昔のバージョンから大きく絵柄を変えるアニメ作品ってたまにあるじゃないですか。そういうのが本作の絵にはあまり見受けられなくて、昔ながらの伝統的な『くまのプーさん』シリーズの絵をほぼそのまま再現してるからこそ嬉しくなるんですよねえ。ちゃんと昔からのこのシリーズのファンのことを考えた作品になっていると感じます。

 しかしその一方で、ちゃんと最近のCG技術などはしっかり取り入れており「古臭さ」は感じさせないような絵柄にもなっております。影のつけ方やキャラクターの立体感、ハチミツのリアルな質感の描き方などで、ちゃんと「2011年の作品だなあ」というのは分かるような描き方がされています。特に、"Everything Is Honey"のシーンでのハチミツの描き方が最高でしたね。こういう液体の映像表現の綺麗さはディズニーアニメーションの魅力の一つですよねえ。かなり綺麗で幻想的なハチミツの海の表現に、ディズニーのアニメーション描写技術の底力を感じますね。素晴らしい。


音楽

 本作も伝統的なディズニー映画を踏襲してミュージカル要素が豊富な作品に仕上がっています。前作『くまのプーさん 完全保存版』も名曲の宝庫でしたが本作もそれに負けないぐらいたくさんの名曲で溢れています。何と言っても本作の音楽を担当したのはロバート・ロペス氏とクリスティン・アンダーソン=ロペス氏ですからね。この夫婦はのちに『アナと雪の女王』シリーズや『リメンバー・ミー』などの劇中歌の作曲も手掛けており、21世紀の新たなディズニー御用達の作曲家とでも言うべき人たちです。本作はそんな彼らの素晴らしい作曲が堪能できる作品でもあるわけです。

 しかも、どの曲もかなり『くまのプーさん』らしい曲に仕上がってるんですよね。1977年のバージョンで流れた名曲たちと同じような印象を抱かせてくれる曲に仕上がっています。作曲者は当時と違う人なのにもかかわらず*9当時の『くまのプーさん 完全保存版』の中で流れていても違和感ないような曲調なんですよね。

 例えば、序盤で流れる"The Tummy Song"はプーの可愛らしさが全面に出た楽しげな曲に仕上がっています。アップテンポな曲にもかかわらず、どことなくのんびりした雰囲気も感じられる不思議な曲です。本作のほのぼのとしたオープニングの雰囲気に見事に合っています。次に流れる"A Very Important Thing to Do"もそんな感じの曲です。この曲も少しアップテンポなんですが、そのアップテンポでリズミカルなメロディがのどかな空気を感じさせる童謡のような雰囲気を醸し出してくれています。

 次に流れた"The Backson Song"は本作の代表曲の一つでしょう。「スグモドル」という架空の怪物のテーマソングですね。ちょっと恐ろしいけど本気で怖くはなくむしろ笑えるコミカルな雰囲気がクセになる名曲です。メロディがキャッチーでかなり耳に残ります。思わず口ずさみたくなるタイプの曲ですね。

 一方でティガーの歌う"It's Gonna Be Great"はちょっと耳に残りにくい音楽ですね。なんかメロディが歌というよりはセリフそのままっぽすぎるんですよね。その点でちょっと微妙な曲だとは思います。ただ、それでも中盤からの盛り上がりの部分は聞いてて楽しくなる曲に仕上がっていると感じます。

 "Everything Is Honey"は先述の"The Backson Song"と並ぶ本作の代表曲でしょう。ここのミュージカルシーンは先述した通りアニメーション映像も素晴らしいです。そのアニメーション映像に合わせて流れる曲もかなり楽しくて愉快な雰囲気のする名曲です。曲の入りの部分で流れる美しいコーラスも素晴らしいですし、サビの部分のキャッチーなメロディも素晴らしいです。しかもかなり歌いやすい曲なので、思わず口ずさみたくなるような魅力もあります。なお、この曲のフレーズはエンディングで流れる"Pooh's Finale"でもほぼそのまま使われています。そのため、この"Pooh's Finale"のほうもかなりの名曲になっていますね。

 そして、本作の音楽を語る上でロペス夫妻と並んで忘れてはならない人物としてズーイー・デシャネル氏の存在も挙げるべきでしょう。彼女はアメリカの有名な歌手であり、本作の劇中歌や主題歌をいくつか歌っています。まず彼女はオープニングで"Winnie the Pooh"を歌っています。この曲は前作『くまのプーさん 完全保存版』でも使われた超有名曲であり、このシリーズの代表曲とも言うべき曲です。そんなディズニー史上の名曲を2011年版の本作で彼女がまた改めて歌ったんですよねえ。聞いてるだけでかなり癒される素晴らしい歌声だと感じます。

 彼女は先述した"A Very Important Thing to Do"や"Everything Is Honey"などの劇中のミュージカル曲でもその歌声を提供しています。さらに、エンドクレジットでは名曲"So Long"を歌っています。この曲だけはロペス夫妻ではなくズーイー・デシャネル氏自身が作曲した曲です*10。この曲はグラミー賞の映像メディア部門にノミネートされただけあってなかなかの名曲でしょう。本作のミュージカル曲に共通するような童謡っぽさもしっかり残しつつ、現代風のポップスとしても良い曲に仕上がっています。サビのメロディが耳に残りやすいものに仕上がっているうえに、かなりほのぼのとする雰囲気の曲調でもあるんですよね。個人的にめっちゃ好きなタイプの曲です。


懐かしの名作

 以上、ここまで『くまのプーさん』の感想を述べてきました。本作は上映時間も短いうえに地味なのでどうしても感想記事としてのボリュームはやや少なくなってしまいましたが、しかしそれでも本作はディズニーの伝統的な『くまのプーさん』シリーズの良さを2011年に再び忠実に再現した文句なしの良作であると言えるでしょう。ほのぼのと癒される本作の「優しい世界」にはどこか懐かしさを感じさせられます。第三期黄金期の作品の中ではぶっちゃけダントツで地味な作品ではありますが、これも立派に第三期黄金期の作品の中に並べられるだけのクオリティはあると思います。

 映像も音楽もストーリーもキャラクターも全ての面でかつての1977年版『くまのプーさん 完全保存版』の特徴を踏襲しており、このシリーズの魅力が存分に詰まっている作品と言えますからね。保守的な懐古厨ディズニーオタクとしてはそれだけで嬉しくなります。しかも、僕は以前【ディズニー映画感想企画第22弾】『くまのプーさん 完全保存版』感想~ほのぼの癒される短編集~ - tener’s diaryの記事でも述べたように、このディズニー版『くまのプーさん』シリーズがもともと大好きでしたからね。そんな昔ながらの名作の雰囲気に改めて浸らせてくれる懐かしの名作だと思います。好きな作品です。





 以上で、『くまのプーさん』の感想を終わりにしたいと思います。次回は『シュガー・ラッシュ』の感想記事を書く予定です。それではまた。

*1:この記事のサムネにもしているこの画像です。訝し気な顔で手紙を読むプーさんの顔が面白いのか日本のTwitterで良く見かけますね。

*2:詳細は【ディズニー映画感想企画第22弾】『くまのプーさん 完全保存版』感想~ほのぼの癒される短編集~ - tener’s diaryの記事を参照してください。

*3:ルイスと未来泥棒』の監督を以前務めた人です。

*4:のちに『ベイマックス』の監督を務めたことでも知られる人です。

*5:2020年10月現在での話です。

*6:詳細は【ディズニー映画感想企画第49弾】『プリンセスと魔法のキス』感想~第三期黄金期の始まり~ - tener’s diaryの記事を参照してください。

*7:60分程度の上映時間しかありません。

*8:スグモドルに関しては、エンドクレジット終了後に本物が登場した展開も良かったですね。あのオチは面白くて笑えました。

*9:ちなみに、『くまのプーさん 完全保存版』の作曲を務めたのは、ウォルト・ディズニー氏晩年にディズニー御用達の作曲家として名を馳せたあの有名なシャーマン兄弟です。

*10:正確に言うと、オープニングで流れた"Winnie the Pooh"も作曲はロペス夫妻では当然ありません。この曲はもっと昔からこの『くまのプーさん』シリーズで使用されている曲ですからね。先述した通りシャーマン兄弟が作曲した曲です。