tener’s diary

てねーるのブログ記事です

【ディズニー映画感想企画第34弾】『ノートルダムの鐘』感想~大人向け路線の成功と失敗~

 諸事情で更新間隔がしばらく空いてしまいましたが、ディズニー映画感想企画第34弾です。今回は『ノートルダムの鐘』の感想記事を書こうと思います。これも第二期黄金期前半の作品に比べればやや知名度が劣るとは言え、それなりに有名なほうの作品の一つでしょう。最近は舞台となったノートルダム大聖堂の大火災という痛ましい事件が起きたために再び話題に上ることが多くなった気がします。
 そんな『ノートルダムの鐘』について語っていきたいと思います。

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【基本情報~大人向け路線再び~】

 『ノートルダムの鐘』は34作目のディズニー長編アニメーション映画として1996年に公開されました。原作は、フランスの有名な文豪ヴィクトル・ユーゴー氏の小説『ノートルダム・ド・パリ』です。日本だとヴィクトル・ユーゴーの小説は『レ・ミゼラブル』が取り立てて有名な印象がありますが、『ノートルダム・ド・パリ』もユーゴーの作品の中ではわりと有名なほうです。

 本作品は前作『ポカホンタス』に引き続き「大人向け路線」に走ったディズニー映画として知られています。第二期黄金期の立役者であったプロデューサーのジェフリー・カッツェンバーグ氏は、前作『ポカホンタス』や今作『ノートルダムの鐘』を通して、完全な「大人向け」の作風をディズニーで新しく試すことを狙ったのです。なお、前の記事で述べた通り、その指導者のカッツェンバーグ氏自体は、本作品の完成前の1994年にCEOのマイケル・アイズナー氏との対立がきっかけでディズニーを退社しています。

 前作『ポカホンタス』同様に本作品も「大人向けの新しい作風」と「伝統的なディズニーらしさ」を上手く折衷させ、「ディズニーの新しい挑戦」を見せつける作品となりました*1。しかし、前作『ポカホンタス』同様に、いやそれ以上に、本作品は興行的に失敗してしまいました。観客の多くはディズニーの新しい大人向け路線な作風を望まなかったのです。前作『ポカホンタス』で落ち込んだ興行収入は、今作『ノートルダムの鐘』でさらに下がってしまい、ディズニーの商業的衰退が続いてることを証明する残念な結果となってしまったのです。

 しかし、前作『ポカホンタス』が評論家の間でも賛否両論だったのとは対照的に、今作『ノートルダムの鐘』は評論家の間ではかなり高く評価されました。商業的には失敗してしまいましたが、評論家などの玄人受けは非常に良い作品となったのです。その高い評価は現在まで続いています。そのため、この『ノートルダムの鐘』は当時の商業的には「失敗作」ではありますが、今ではそれなりに再評価され「ディズニー第二期黄金期の名作の一つ」として扱われている印象があります。ようは、ディズニーオタクの間ではいわゆる「隠れた名作」扱いされがちな作品としてかなり有名なんですよね、これ。最近はもはや「隠れた」とは言えないぐらいには知名度上がったと思えるほどですし。





【個人的感想】

総論

 はい、ということで上述の通りこの作品は玄人受けが非常に良い作品なのですが、僕もかなりの名作だと思いますね。別に、玄人ぶるつもりは毛頭ないですが、『ノートルダムの鐘』は前作『ポカホンタス』に見られたいくつかの難点を克服したうえで、大人向けのシリアスなテーマとディズニーらしいハッピーエンドとを上手に融合させた、ものすごくクオリティの高い名作に仕上がっています。しかも、映像や音楽のクオリティもものすごく高いです。『リトル・マーメイド』や『美女と野獣』などの第二期黄金期前半の名作と比べても遜色ない作品だと思います。かなり好きです。以下、詳細な感想を述べます。


良い意味で「暗い」

 これは原作のヴィクトル・ユーゴー氏の作風がそもそもそうなのですが、本作品はどこか「暗い」雰囲気の強いディズニー映画となっています。原作『ノートルダム・ド・パリ』に限らず『レ・ミゼラブル』とかもそうですけど、ユーゴー氏の小説って暗くて重い内容を扱ってる部分が大きいじゃないですか。それをアニメ化したディズニー版のこの『ノートルダムの鐘』も原作のそういう重くて暗い雰囲気を継承してるんですよね。

 15世紀フランスにおける、異形への迫害とか拷問とか差別みたいな重い話題を本作品でもしっかり扱っています。しかも、それらの内容と一緒に流れる絵や音楽の雰囲気も厳かでわりと暗めな感じです。でも、暗黒期の作品とは違ってこの暗さがマイナス要因にはなっていないんですよね。というのも、この暗さはちゃんと意味のある暗さだからでしょう。本作品のシリアスで重いテーマを説得力をもって描くために必要な暗さになっています。

 この良い意味で「暗い」雰囲気が、本作品の物語に重厚感を増してるんですよねえ。これは演出の上手さによる面も大きいと思います。重厚感あるシリアスな骨太ミュージカルって感じの魅せ方がとても上手いです。


息を呑むオープニング

 その演出の上手さが特に際立っているのがオープニングだと思います。ここは本当に厳そかで重苦しくて、それでいながら重厚感のある名シーンだと思います。「これからものすごいミュージカル映画が始まるんだ」と期待させてくれます。まず、"The Bells of Notre Dame"の 曲からして素晴らしいです。第二期黄金期の音楽はかなり豪華なものが多いですけど、この曲の豪華さはその中でもずば抜けています。オープニングの「圧巻」さでは『ライオン・キング』と並んでディズニーの双璧を成すと思いますね。

 盛大な音楽とともに、ノートルダム大聖堂をバックに1482年のパリの街並みを映し、クロパンの狂言回し的な語りへと入る。その一連の流れが無駄なくて引き込まれるんですよね。そして主人公カジモドの生い立ちを語る回想シーンへと移るんですけど、ここの引き込まれ具合も凄まじいですね。こういう序盤の「背景説明」のシーンって、例えば今までのプリンセスものだと「フェアリーテイル風」のナレーションになってたりするんですけど、本作品ではしっかりとアニメーションによるミュージカル映像でそれが展開している。このミュージカルシーンが素晴らしく良く出来てるので、自然と内容も頭に入って来るんですよね。

 特に、悪役フロローが登場してからの怒涛の展開は息をつく暇もありません。終始、画面に釘付けになります。フロローが馬に乗ってカジモドの母親を追いかけるシーンの映像はものすごく迫力満点でハラハラします。その後のノートルダム大聖堂の石像たちに怯えるフロローの演出も上手いんですよね。アニメーション特有の、石像たちが比喩的に表情を見せる演出もできたはずなのに*2、あえてそれをやらずに一切動かない石像の目だけを映す演出が本当に上手だと思います。フロローが恐れる「ノートルダムの目」らしい恐怖感あふれる映像になっています。

 そして、オープニングのクライマックスにあたる、ノートルダムの鐘が一斉に鳴り響くシーンの迫力もすごいです。前々作『ライオン・キング』で動物たちが一斉に王を祝福するオープニングを彷彿とさせる豪華さです。何度でも繰り返し見たくなるような圧倒的な迫力の名オープニングだと思います。大好き。


盛り上がりの多いストーリー展開

 同じく大人向けを意識した前作『ポカホンタス』では中盤まで少々盛り上がりに欠ける展開が続き、そこがちょっと難点であることを指摘しました。しかし、本作品はそのような前作の欠点を完全に克服しています。序盤から盛り上がる展開が次々と立て続けに起こるので、見ていて退屈することはほとんどないんですよね。

 楽しげな祭りのシーンや、フロローに抗議してその結果彼から逃げ回るエスメラルダのシーンなど、なかなかに動きの激しいアクションシーンが前半の時点から用意されています。しかも、ただ単にアクションが続くだけでなくちゃんと起伏のある展開にしてくれてるんですよね。例えば、カジモドが外の世界へ憧れて祭りへ参加し、実際に祭りではしゃぐ前半の楽しいシーンから、急に町中の人々によって虐められるシーンへの落差の描き方が素晴らしいです。こういう緩急のある飽きさせない展開の描き方には感心させられます。その後エスメラルダがフロローから逃げ回った末にノートルダム大聖堂に籠城するまで追い込まれるなど、すでに中盤の時点でハラハラさせる展開は用意されてるんですよね。

 フロローがパリ中を火の海にしてエスメラルダを探し出すシーンも素晴らしいです。ものすごく緊張感のある「ピンチ」って感じがします。こういうハラハラと手に汗を握るようなピンチのシーンを描き出す上手さが本作品では際立っているんですよね。このシーンはフロローの残虐さも良く表現されていて、ユーゴー原作らしい「怖さ」や「暗さ」が良く表れたシーンなんですよね。


ノートルダム大聖堂らしいアクション

 そして、この『ノートルダムの鐘』が前作と比べてもう一つ素晴らしい点は、第二期黄金期前半の作品に勝るとも劣らない名アクションシーンがたくさんあることなんですよね。前作『ポカホンタス』では盛り上がるアクションの不足という欠点がありましたが、本作品はその欠点も克服してます。

 ノートルダム大聖堂という実在するパリの名所を舞台にしたアクションシーンの数々は本当に感心します。ちゃんと「ノートルダム大聖堂」が舞台であることに意味のあるアクションになってるんですよね。このアクションシーンは上手いです。かなり序盤の段階から、カジモドがノートルダム大聖堂の壁や屋根などを身軽に動き回るアクションを見せてくれてます。カジモドによるこの「パルクール」風のアクションの映像的面白さも本作品の魅力の一つだと思うんですよね。見ていて飽きない面白いアクション映像になっています。

 そして、本作品ではこの「ノートルダム大聖堂」を熟知したカジモドだからこそ出来る独特のアクションやバトルが至る所で現れます。"Out There"の曲とともにそのアクション技術を見せつけた主人公カジモドは、その後フロローの包囲網を掻い潜りノートルダム大聖堂からエスメラルダを逃がしたり、終盤でフロローに捕まって処刑されかけるエスメラルダを助けたりする際にも、そのアクション技術を生かしています。この「主人公ゆえの活躍」の魅せ方が本当に上手いです。素晴らしいアクションだと思います。

 特に、終盤での「ノートルダム大聖堂」を舞台にしたカジモドの戦いは圧巻です。終盤に全くアクションがなかった『ポカホンタス』とは違い、本作品では第二期黄金期前半のディズニー映画の伝統に乗っ取り終盤の迫力満点のバトルシーンが描かれています。この点が素晴らしいんですよねえ。ノートルダム大聖堂の鎖を引きちぎるカジモドの迫力にはかなり圧倒されます。その後、カジモドがエスメラルダを颯爽と助け出し「聖域」を大声で主張するシーンもかなり好きですね。印象に残る名シーンです。

 そして、その後ノートルダム大聖堂を知り尽くしたカジモドならではの籠城戦の魅せ方も良いです。フィーバスやパリ市民の活躍もしっかり描きながらも、あくまでも主人公カジモドがノートルダム大聖堂ならではの戦い方を生かして大いに活躍しています。だからこそ、最後にカジモドが英雄としてパリの人々から称えられる展開も自然な流れとなっているんですよね。ちゃんとカジモドの活躍が説得力をもって描けている。


迫害されし者へのエール

 上記のような盛り上がる展開とともに本作品は「大人向け路線」らしい重いテーマもきっちり描いています。本作品のテーマはかつての『ダンボ』と同じく「異端者への迫害」でしょう。異形ゆえにフロローによって長い間ノートルダム大聖堂に閉じ込められ、たまに外に出たものの人々から恐れられ迫害されてしまうカジモド。そんなカジモドが幸せをつかむまでの物語となっています。僕はこういうテーマにめちゃくちゃ弱くて『ダンボ』でも何度も泣いたので、当然この『ノートルダムの鐘』でも大いに感動させられましたね。

 この作品のヒロインであるエスメラルダは、そのような「差別」や「迫害」に断固として抗議する優しくて正義感の強いヒロインであり、だからこそ魅力的なキャラになってるんですよね。また、フィーバスもカジモドとちょっと仲悪くなりながらも、一緒にエスメラルダ救出のためにカジモドと共闘するなど、あくまでもカジモドを「怪物」ではなく対等な「人間」として見ていることが伝わるキャラとなっています。

 このように、主人公を「怪物」として恐れ迫害するのではなく、対等な「人間」として接するエスメラルダやフィーバスのような正義感に溢れた人間も本作品にはたくさん登場します。そして、そういう人達の存在にも助けられながらも、「迫害されし者」だったカジモドは最終的に「自分の力で」活躍したことで、最後にはパリの人々からも迫害されずに認められるようになるんですよね。そのカジモドの活躍を見せるために、終盤の目を見張る怒涛の戦闘シーンが描かれてる面もあるんですよね。ちゃんと王道を踏まえた上手いストーリー展開になっています。なので感動する。


好きな人と結ばれなくても良い

 個人的に、『ノートルダムの鐘』が画期的な点はこの点だと思うんですよね。しばしば「恋愛物語」「ラブロマンス」を描くことが多いディズニー映画において、本作品は初めて主人公に決定的な失恋を味わわせた作品だと言えるでしょう。主人公カジモドはヒロインのエスメラルダに恋するんですが、このエスメラルダはカジモドではなくフィーバスを恋愛相手として選ぶんですよね。主人公が明確に失恋してる。この点で、本作品は今までの「好きな人と結ばれてハッピーエンド」なディズニー映画とは違う少しビターな展開になってると言えるでしょう。

 しかも、主人公は報われない恋だと分かっていながらも愛するエスメラルダのために終始奮闘するんですよねえ。この健気さが泣けます。途中で、フィーバスやガーゴイルたちと喧嘩して彼女を助けるのを拒んで拗ねるシーンもあるんですが、結局はエスメラルダ救出のために動くことを決意するんですよね。なかなかに魅力的な主人公だと思います。

  それにもかかわらず主人公は最後までエスメラルダとは結ばれないので、人によっては悲しい終わり方に見えるかもしれません。しかし、それでも本作品はあくまでも「ハッピーエンド」で終わってるんですよね。カジモドはエスメラルダとの恋こそ成就しませんでしたが、それでも終盤ではエスメラルダやフィーバスだけでなくパリ中の市民からも「英雄」として歓迎されることで、きっちりとカジモドにとっては「ハッピーエンド」となっている。今までノートルダム大聖堂の中に閉じこもり人々から「怪物」として恐れられていたカジモドがようやくみんなから「人間」として認められた、とても感動的な終わり方です。このエンディングは後述する演出の上手さも相まって本当に感動的なんですよねえ。失恋をするなど悲しいこともありながらもようやくカジモドが人並みの幸せを掴んだラストの展開には涙せずにはいられません。

 「好きな人と結ばれること」以外の「ハッピーエンド」のあり方をディズニーが意識的に描いた点で、本作品はかなり画期的だと思いますし、ディズニーのそのような新しい試みは十分に成功していると僕は感じました。ちゃんとカジモドに感情移入したうえで「あー、本当に良かったねえ。めでたしめでたし」って言いたくなるような幸せな終わり方に描けています。それまでのカジモドの健気な心優しい行動がきっちりと報われてるからこそ、「想い人と結ばれないビターエンド」でも決して「バッドエンド」にはなってない。かなり好きな終わり方ですねえ。


育ての父との決別

 本作品の悪役はカジモドの育ての父フロローです。実は、ディズニー映画では昔から「親子の対立」特に父子の確執を描いたことが何度かあったのですが*3、どの作品でも最終的に父子は和解しています。それに対して、『ノートルダムの鐘』ではカジモドの育ちの父であるフロローを明確に「悪役」として描いています。この点も新しいです。

 ただし、フロローはあくまでもカジモドの「実の父親」ではなくて「育ての父」なので、その点では従来の父子対立とも違うと言えます。それでも本作品は、それまで育ての父フロローの言いなりになっていたカジモドがエスメラルダとの出会いを通してフロローに明確に反抗するように至るまでの過程を描いた物語になっています。その点で「子の自立と反抗」も本作品のもう一つのテーマであると言うことができると思います。

 実際、この作品では至る所でカジモドがフロローの言いつけに従うべきかどうか悩み葛藤するシーンが描かれています。序盤の「祭りに出かけるか否か」で悩むシーンもそうですし、後半の「エスメラルダを助けに行くべきか否か」で悩むシーンもそうです。終盤、ノートルダム大聖堂に鎖でつながれた時もカジモドは悩み落ち込みます。しかし、いずれのシーンにおいても結局カジモドはフロローの命令に背くことを選んでるんですよね。このように、本作品では「カジモドを縛り付ける毒親」としてフロローを描くことで、そこからの子の自立を描いた作品になっています。特に、処刑寸前のエスメラルダを見てやる気を出したカジモドが鎖を引きちぎるクライマックスが僕は好きです。カジモドがフロローへの反抗を決めた最後の名シーンです。

 その後、カジモドがフロローに対して「外の世界は残酷だと言ったが本当に残酷なのはあんただ!」と啖呵を切ったシーンも印象的ですね。カジモドがフロローと決定的に決別したことを示す名シーンです。こういう「親の支配からの子供の自立」というテーマも僕は好きなので、かなり好感を持って見れましたねえ。

 最終的に、「本当の‟怪物”はカジモドではなくフロローだった」という結論に物語が落ち着いてるのも良いですね*4。人と怪物を分けるのは見た目ではなく心の在り方なんだという第二期黄金期らしいテーマを、カジモドとフロローの対決を通して良く描いてるんですよね。こういうテーマは『美女と野獣』にも通じるところがあり、本作品はその点でも第二期黄金期前半の流れを汲んだ作品だと言えると思います。


キャラクター

カジモド

 本作品の主人公です。「見た目は怪物だけど優しい心の持ち主」であるという、王道の「魅力的な主人公」として描写されています。この『ノートルダムの鐘』も基本的にはカジモドを中心的な主人公として描く物語であり、だからこそ視聴者は常にカジモドに感情移入しながら見られるようになります。上述の通り、この作品は、内気でフロローには面と向かって逆らえない性格だったカジモドがフロローと決別して反抗するまでの成長を描いた物語でもあるんですよね。

 それゆえに彼の性格は、非常に人間味溢れる描き方がされています。単に「優しい」というだけでなく、フロローに逆らえない「気弱さ」などの欠点も描いている。また、恋敵のフィーバスとちょっと喧嘩するなどお茶目な面も持ち合わせている。そういう魅力的な主人公として設定されてるんですよね。そんなカジモドが終盤の戦いでは文句なしの「英雄」としての活躍を見せるから格好良いんですよね。良い展開です。

エスメラルダ

 本作品のヒロインです。かなり正義感と慈悲の強いキャラクターとして描かれています。自分もジプシーとしてフロローに追われ迫害される身でありながら、自分以外の「迫害されし者」を思いやり彼らを救おうとする優しさを持っています。かなり強かで逞しいタイプのヒロインですね。フロローになかなか逆らえないカジモドと違い、登場時からフロローに面と向かって喧嘩を売るなど威勢の良いキャラとして描いています。こういうふうに、主人公とは対照的な部分もあるヒロインとして描かれてる点が良いんですよね。

 そんなエスメラルダに惚れたからこそカジモドは、やがてエスメラルダ同様にフロローに反抗するようになったんだと思います。カジモドの自立を促すキャラとして良く描けています。また、冒頭で述べたようにエスメラルダ自身はあくまでもカジモドを恋愛対象としていないところも良いんですよね。エスメラルダが祭りの際にカジモドを助けたのも決して恋愛対象だったからではなく、あくまでも彼女の「正義感」に基づくものだったんですよね。そういう「博愛主義的な聖人」としての魅力を持ち合わせたヒロインなんですよね、エスメラルダは。良いキャラだと思います。

フィーバス

 カジモドの恋敵であり、実は原作では「不誠実な男」だったんですけど、本作品ではエスメラルダと並ぶ「良心」として描かれています。ちょっと軟派なところもあるけど、あくまでもエスメラルダや市井の人々を救うために勇敢な行動をとるなど、エスメラルダ同様に正義感溢れる人物として描かれています。だからこそ、エスメラルダとフィーバスはお互いに惹かれ合う訳で、二人の間の恋愛の芽生えも自然な展開になっています。ちゃんとフィーバスとエスメラルダが恋に落ちる理由が描写されてるからこそ、カジモドの失恋も不自然な流れではなくなってるんですよね。丁寧に物語を作れていると感じます。

 また、カジモドと一緒にエスメラルダ救出に向かう道中でカジモドとちょっと喧嘩するなど、カジモドとの関係は「喧嘩しつつも最終的には仲の良い」微笑ましいものになっています。二人のこの微笑ましい関係性も僕は好きですね。

クロパン

 実は一部界隈にやたらファンの多いキャラクターです。二次創作系のファンアートなどでやたらクロパンが取り上げられているのを良く見る気がします。正直言うと、僕はクロパンにそういう方面での魅力を感じる気持ちにはあまり共感できないのですが、確かになかなかに魅力的で印象的な「狂言回し」キャラになっています。

 作品内の至る所で流れるクロパンの歌が良い味を出してるんですよねえ。その歌によるナレーションはものすごく臨場感をそそります。そのため、『ノートルダムの鐘』の何とも言えない良さを感じる「文学的風味」を演出する必要不可欠なキャラクターに仕上がってると思います。

ガーゴイル

 本作品のコメディ担当です。下手すると作品全体の雰囲気が暗すぎてしまいがちなこの作品において、その暗さを緩和し、第二期黄金期前半のディズニー作品らしい明るさを加味する役割を果たしているキャラクターだと思います。「このガーゴイルたちのせいで作品のシリアスな雰囲気が損なわれた」と不満に思う人も中にはいるようですが、僕はこのぐらいの「コメディ要員」を入れるのは全然ありだと思います。

 ガーゴイルたちは基本的にカジモドとしか話さないので、エスメラルダやフロローなど他のキャラもいる重要シーンでのシリアスな雰囲気はきっちり保たれてますしね。下手に作品が暗くなりすぎるのを防ぎ、適度に笑いと明るさをもたらしてくれる素晴らしいギャグキャラだと思います。本作品はこういう「シリアスの暗さとコメディの明るさ」のバランスの取り方がわりと上手いほうだと思います。ガーゴイル3体ともそれぞれに個性的なキャラ設定がなされてるので、しっかりと観客の印象にも残ります。

フロロー

 本作品の悪役です。「神の名の下に正義を実行する」系の悪役であり、今までのディズニー映画には見られないやや新しいタイプの悪役だと思います。良く言われるように、フロローは自身の行いをあくまでも正義だと思い、その考えの下でジプシーたちを汚らわしい悪魔だと思い迫害したんですよね。「あくまでも自分は清い存在だと思いこむ真っ黒な悪人」としての描写の仕方がとてもリアルで上手なんですよね。フロローはかなり魅力的なキャラに仕上がっています。だからこそ、今でもフロローをディズニー・ヴィランズの中でも特に好きなキャラとして挙げる人が多いんでしょう。実際、フロローはその人気ゆえか、わりとディズニーのテーマパークで見かけることの多い「ディズニー・ヴィランズ」の一人だと思います。

 そんなフロローの持ち歌"Hellfire"は、ジプシーを汚らわしい存在として嫌いながらも、なぜかそんなジプシーの女であるエスメラルダに心を奪われている自分の中の矛盾に葛藤する心情が描かれている名曲です。フロローの行動動機が良く分かる歌詞なんですよね。結局フロローは自分の歪んだ性的欲望を正当化するために、エスメラルダを悪魔認定して彼女を退治することこそが正義だと思いこもうとしたんだということが良く分かる名シーンです。本当に、独特で個性的な名悪役だと思います。


キリスト教要素

 この『ノートルダムの鐘』はキリスト教的な要素を隠すことなく全面に出した点でも新しい作品だと思います。ディズニー映画において昔のヨーロッパを舞台にした作品は数あれど、当時のヨーロッパ社会における重要な要素であるキリスト教を描いた作品は今までなかったんですよね。まあ、この作品はそもそもユーゴーの原作からしキリスト教要素が存分に描かれているので、ディズニー版でもキリスト教的な考えが存分に描かれるのは当然ではあるんですよね。

 オープニングで司祭がフロローの罪を糾弾し「ノートルダム大聖堂の聖人の目」をフロローが恐れるシーン、エスメラルダがノートルダム大聖堂で"God Help the Outcasts"を歌って神に祈るシーン、フロローが"Hellfire"を歌い神の前で罪を恐れるシーン……などなど、登場人物の多くがキリスト教的な価値観の下で様々な感情を抱いてることがうかがえるシーンが本作品にはたくさんあります。それらのシーンが、本作品の舞台である「15世紀後半のフランス」らしさを非常に強く実感させてくれるとともに、作品全体の重厚な雰囲気を強める効果も担ってるんですよね。

 こうやって、各々のキャラクターが抱える悩みを「信仰上の問題」と絡めて描いてるからこそ、演出も自然と宗教的なものになるんですよね。先述した、オープニングでフロローを見下ろす「ノートルダム大聖堂の聖像の目」の演出はその最たる例でしょう。"God Help the Outcasts"のミュージカルシーンでも似たような演出が使用されています。「動かない聖像やステンドグラスの宗教画」の前で怯えたり祈ったりする人々のアニメーションを描くことで、キリスト教信仰に生きる人々の様子をすごくエモい感じに描いています。素晴らしい演出だと思います。


映像技術のすごさ

 これらの演出を支えてるのが映像美でしょう。この『ノートルダムの鐘』はディズニー第二期黄金期前半の映像美の一つの頂点に達したと言っても過言ではないと思います。特に、この作品の中心的舞台であり中心キャラクターでもあるノートルダム大聖堂の映像はとにかく「圧倒的」としか言いようがないです。ノートルダム大聖堂の外観も内装もとにかく全てが異様なまでに迫力のある「存在感」を放っています。まずオープニングの時点で、パリの街並みの中で堂々と聳え立つノートルダム大聖堂の外観に圧倒されます。終盤の戦闘シーンで炎を吐き出すノートルダム大聖堂の外観も同じく「圧巻」です。そして、エンディングでは再びパリの街並みに聳え立つノートルダム大聖堂の映像が映し出されて圧倒されるんですよねえ。すごい好きな映像です。

 ノートルダム大聖堂の内部や個々の外壁等の映像も素晴らしいです。特に"Out There"の歌に合わせてカジモドがノートルダム大聖堂内のあちこちを巡る映像は何度でも繰り返し見たくなる美しさがあります。ガーゴイルの雨樋や光の差し込む美しい鐘など、とにかくエモい気分になります。そのノートルダム大聖堂から見えるパリの景色もまた美しいんですよね。

 その他にも、本作品は炎や光などの上手な映像演出なんかも至る所で見られ、「まさにディズニーの映像技術の結晶だ」という感想を抱きます。前作『ポカホンタス』では、見る人を選ぶ抽象アートっぽい絵柄が採用されていましたが、本作品では第二期黄金期前半の作品の絵柄を正統な方向で進化させた「CGを駆使したリアリティのある立体的かつ写実的なアニメーション映像」が採用されています。この点でも前作『ポカホンタス』の難点を克服してると思います。それゆえに、ものすごくエモい映像美を味わえる作品となっています。


音楽

 前作『ポカホンタス』に引き続き、今作『ノートルダムの鐘』でも毎度お馴染みアラン・メンケン氏が作曲を担当しています。それ故に、どの曲もかなり聴きごたえのある名曲になってると思います。特に、圧倒されるのはオープニングの"The Bells of Notre Dame"でしょう。先述した通り、豪華なオープニング映像と演出にふさわしい、厳かで聴きごたえのある音楽が流れます。本当に何度でも耳に残るような惚れ惚れとする曲です。この曲はエンディングでも再びrepriseされますが、その演出もまた感動的で圧倒されるんですよね。オープニングとエンディングで似た映像と音楽を使う演出は前々作『ライオン・キング』でも行われてましたが、この『ノートルダムの鐘』でもその演出はかなり上手く成功してたと思います。おかげでエンディングの感動をより一層高めてくれました。

 "Out There"はカジモドの外へ出たいという願いを歌った爽やかな曲想が印象的な曲です。この爽やかな曲想とともにノートルダム大聖堂の上からパリを見下ろすカジモドの映像は本当に爽快感あふれるシーンだと思います。この曲もめちゃく好きです。メロディがはっきりと耳に残る曲になってるのが良いんですよね。

 "Topsy Turvy"はカオスなパリの祭りをそのまま体現したかのような、カオスで愉快な曲になっています。『ふしぎの国のアリス』を彷彿とさせるカオスな祭りの様子は何度か見てると癖になります。曲もとても楽しげでコミカルな曲に仕上がってるんですよね。良曲だと思います。

 "God Help the Outcasts"はエンドロールでも流れるとても感動的な歌です。キリスト教的なテーマがかなり前面に出た歌詞であり、曲想も少し教会音楽っぽいです*5エスメラルダの「聖人」っぷりや慈悲の心が良く表れた良い曲だと思います。透き通るような歌声がかなり聴き心地良いんですよねえ。癒されるしエモい気分に浸れる名曲です。エンドロールでこの曲が流れるシーンではボーカルが消え、代わりにオーケストラの豪華な演奏が味わえます。こちらもとてもエモくて、エンドロールの余韻に浸れる良い音楽だと思います。

 "Heaven's Light" もかなりエモくて、ちょっとロマンティックな気分になれる曲です。エスメラルダに対するカジモドの恋心がうかがえる良い曲です。終盤で鐘の音がなるところも良いです。なお、この曲はカジモドの失恋シーンでもrepriseされていますが、こっちは失恋に沈むカジモドの悲哀が描かれており、同じ曲でもとても悲壮感にあふれる印象を与えます。ロマンティックにも聞こえるし、悲しくも聞こえる曲になってる点が上手いんですよね。良い曲です。

 その"Heaven's Light"から続けて流れるのがフロローのヴィラン・ソングである"Hellfire"でしょう。ここもキリスト教的な内容が大いに含まれた歌詞になっており、暖炉の炎のアニメーション映像の演出が上手いんですよね。燃え盛る暖炉の火が地獄の業火に見えてくる映像の魅せ方が素晴らしいです。音楽も、その映像に合わせた豪華で力強い曲になってるんですよね。この曲のサビは、オープニングで流れた"The Bells of Notre Dame"の冒頭のフレーズでも使われており、本作品のシリアスで暗く重い雰囲気を強めてくれる厳かなサビだと思います。とても聞きごたえのある名曲です。"Be prepared"などと並んでこの曲を歴代のディズニー・ヴィランズ・ソングの中で上位に選ぶ人が多いのも納得のクオリティです。聞いてるだけでフロローの罪の意識に引き込まれるマジの名曲です。

 "A Guy Like You"は本作の「明るさ要素」を担当する曲になっています。ちょっとモダンなフランス音楽っぽさを感じさせるイントロから始まるこの曲は、ガーゴイルたちのコミカルで現代的な演出も相まって、楽しげでちょっとロマンティックな曲に仕上がっています。メロディーもなかなかにキャッチーなものに仕上がってるので、何度か口ずさみたくなる良曲だと思います。

 "The Court of Miracle"はまたもクロパンによる曲で、カオスでちょっと恐ろしげな曲となっています。こういう髑髏とか縛り首みたいな中世ヨーロッパならではの「暗さを感じさせる小道具」が出てくる点にも本作品の特徴があると思います。リズムは楽しげでコミカルなんだけど、どこか緊張感を抱かせる曲想になっていて、その点が作品内のこのシーンの雰囲気にも合ってるんですよね。

 エンドロールのみで流れる"Someday"も聞きごたえのある声量が特徴的な素晴らしいバラードに仕上がっています。エンドロールの余韻に浸ることのできる名曲だと思います。こういう感動的でエモい曲をエンドロールに持っていく手法はディズニーでもすっかり定着し、素晴らしい名曲が毎回ちゃんと選ばれるようになりましたね。真剣に聞きほれてしまう好きな曲です。


「大人向け」路線の完成形

 ということで、本作品はここまで語ってきたように、ストーリーもテーマもキャラクターも映像も音楽も演出も全てが良く出来ていて完璧なんですよねえ。前作『ポカホンタス』で見られた欠点も今作品ではほぼ克服し、大人向け路線のディズニー映画としては完全に前作の上位互換に仕上がってると思います。興行的にはいまいちな結果に終わってしまいましたが、決して第二期黄金期前半の作品と比べても見劣りすることのない、かなりクオリティの高い作品だと思います。少なくとも僕はかなり大好きな作品ですね。







 以上で『ノートルダムの鐘』の感想を終えます。久しぶりの更新となってしまいましたが、しばらくはこんな感じで更新間隔がちょっと空くかもしれません。申し訳ありません。次回は『ヘラクレス』の感想記事を書く予定です。それではまた。

*1:ノートルダムの鐘』における伝統的なディズニー要素としては、前作『ポカホンタス』同様に「ミュージカル路線」と「有名タレントの採用」の二点が挙げられます。ミュージカル要素においては今作でもアラン・メンケン氏が作曲を担当しています。有名タレントの採用という点では、『ゴースト/ニューヨークの幻』などで主演を務めた有名な女優デミ・ムーアなどが声優を務めています。また、映像についても第二期黄金期前半の作品のような立体感のある絵柄に戻っており、前作『ポカホンタス』で見られた独特な絵柄は姿を消しています。

*2:それこそ終盤のフロローの死亡シーンではそういう演出をしていました。

*3:例えば『ピーター・パン』や『メリー・ポピンズ』はその典型例ですし、第二期黄金期だと『リトル・マーメイド』や『アラジン』でもそういう描写がありました。

*4:直接的にその結論を語らず、オープニングとエンディングでそれぞれ仄めかすようなナレーションをクロパンにさせてる点も上手い演出です。

*5:実際の教会音楽には詳しくないのであくまでもイメージですけど……。