tener’s diary

てねーるのブログ記事です

【ディズニー映画感想企画第35弾】『ヘラクレス』感想~カートゥーン風のコメディ作品~

 すみません。だいぶ更新間隔が空いてしまいました。しばらく色々と忙しかったもので……。ということで、ディズニー映画感想企画第35弾です。今回は『ヘラクレス』の感想記事を書く予定です。前2作とはまただいぶ方向性が変わっている作品ですね。そんな『ヘラクレス』について語っていきたいと思います。

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【基本情報】

新たな「異色作」

 『ヘラクレス』は1997年に35作目のディズニー長編アニメーション映画として公開されました。原作はギリシャ神話です。前々作『ポカホンタス』や前作『ノートルダムの鐘』で続いたディズニーの「大人向け路線」は本作品では消えています。この『ヘラクレス』では再び「大衆向けの単純エンタメ作品」としてのディズニーが復活しています。そういう意味で、ディズニーが第二期黄金期前半の路線に戻った作品だと言うこともできるでしょう。しかし、本作品も『ポカホンタス』や『ノートルダムの鐘』とはまた別の方向性で、第二期黄金期前半の作品群とも雰囲気の違う「異色作」となっています。

 監督は、『リトル・マーメイド』や『アラジン』でも監督を務めたジョン・マスカー&ロン・クレメンツのコンビです。久しぶりにこの2人のコンビが復活した本作品では、彼らの代表作である『アラジン』の作風を大いに真似た雰囲気になっています。ようは「チープなカートゥーンっぽい」作品になってるんですよね。しかも『アラジン』以上にコミカルなカートゥーンっぽさを強めています。

 というのも、絵柄がかなりカートゥーン的な雰囲気に変わってるんですよね。『アラジン』含む第二期黄金期前半の作品群に比べても「チープさ」を強く感じる絵柄になっています。この点で、本作品は『ポカホンタス』や『ノートルダムの鐘』のような「大人向け路線」とも、第二期黄金期前半の作品のような「王道ディズニーらしい豪華なファンタジー」とも少し違う独特な異色作となっています。商業的失敗のためなのか前作まで続いていた「大人向け路線」を本作品で完全にやめたディズニーは、その反動なのか『ヘラクレス』というかなり「カートゥーン」っぽい異色なディズニー作品を公開したのです。


衰退期の継続とタレント声優

 このように、新しいタイプの異色作として公開された『ヘラクレス』ですが、評論家からは前作『ノートルダムの鐘』同様にかなり高い評価を得ました。同じジョン・マスカー&ロン・クレメンツ監督の傑作『アラジン』のカートゥーンっぽいテイストを大いに増幅したディズニーの新しい試みは、評論家の間ではひとまず成功したと思われたのです。しかし、そのような好評はあくまでも評論家の間だけの話です。大人向けではない大衆向けを狙ったにも関わらず、大衆には受けなかったのです。

 『ヘラクレス』の興行成績は前作『ノートルダムの鐘』のそれをさらに下回る結果となってしまいました。『ポカホンタス』以降の右肩下がりの興行成績は今作でも継続したのです。実際、公開当時の日本のネットでの評判もすこぶる悪かったです。ただし、日本のネットでの不人気の原因には日本特有の理由もあります。というのも、本作品は日本語吹き替えを担当した声優がプロの声優ではなくタレントだったんですよね。

 具体的に言うと、主人公ヘラクレスの声はジャニーズのTOKIO松岡昌宏氏が、ヒロインのメグの声はアイドルの工藤静香氏が担当しました。宣伝目的でプロの声優ではない芸能人を採用するアニメ映画はディズニーに限らず日本では昔から良く見かけますが、ディズニージャパンもその風潮をとうとう取り入れてしまったのです。ネットにいる通気取りのアニオタってそういう「知名度目的で演技の上手くない素人タレントの声優起用」をめちゃくちゃ嫌うじゃないですか。それが日本のネットにおける評判の悪さの一因になってたんですよね。特に、ジャニーズ側の声優の演技が棒読みで酷かった点が、日本のネットでは大いに叩かれていました。

 そんな訳でネットでの評判は芳しくないうえ、興行的にも失敗作となってしまったこの『ヘラクレス』は、前2作同様にディズニーの衰退を象徴する作品となってしまったのです。




【個人的感想】

総論

 上述の通り、『ヘラクレス』は商業的には失敗し、日本のネットでも当初は叩かれていた印象の強い作品ですが、僕個人は普通にこの作品も好きなんですよね。公開当時も評論家の間だけでは好評でしたが、僕もそんな評論家たちとほぼ同意見です。普通に面白いエンタメ作品に仕上がってると思います。一昔前と違い、最近はネットでも本作品は再評価されてるようですが、僕もその風潮に完全に賛同しています。正直言って、この作品は普通に「面白い傑作」の部類に入りますよ。それにも関わらず不遇な扱いを受けすぎです。僕は結構好きな作品です。


アメコミヒーロー風の物語

 本作品はギリシャ神話が原作となっていますが、ディズニー伝統の原作改変によって、本来のギリシャ神話の内容とはだいぶ異なるストーリーに仕上がっています。本作『ヘラクレス』では、ギリシャ神話の有名な英雄(ヒーロー)であるヘラクレス伝説を現代風の「アメコミヒーロー物語」っぽくアレンジしてるんですよね。僕はアメコミヒーローが昔から好きなので、このアレンジがかなり好きなんですよね。

 この『ヘラクレス』はアメコミ作品にありがちな「ヒーローの苦悩と成長」をテーマの中心に据えた作品だと思います。単なる怪力だけでなく心の強さも兼ね備えた「真のヒーロー」として主人公ヘラクレスが成長するまでの過程を描いた王道ヒーロー物語になっており、それゆえに面白く見れるんですよね。

 良く言えば王道、悪く言えばぶっちゃけベタなヒーロー物語ではあるので、ものすごく面白いってほどでもないんですけど、テンポの良いストーリー展開に沿って主人公ヘラクレスの成長が説得力を持って描かれているので、安定感のあるクオリティには仕上がっています。普通に面白いアメコミヒーロー物語だと思います。


現代風の演出

 本作品の監督を務めたジョン・マスカー&ロン・クレメンツの2人は以前『アラジン』の監督も務めていました。そのせいなのか、この『ヘラクレス』でも『アラジン』と似たような演出がとられています。それは、「意図的に時代考証を無視した現代風の演出」です。『アラジン』ではジーニーというキャラクターに、舞台である中世アラビアらしからぬ現代風の格好や言動をさせてました。"Friend Like Me"のシーンがその典型例でしょう。『ヘラクレス』でもそのような「現代風の演出」が大いに採用されています。

 特に、それが分かりやすく表れてるのは"Zero to Hero"のシーンでしょう。ヘラクレスが人気者のヒーローに成り上がっていく過程を描いたこのシーンでは、古代ギリシャらしからぬ現代的な演出が至る所に表れています。その演出がコミカルで笑えるんですよねえ。ヘラクレスの人気者っぷりが完全に現代のハリウッドスターを彷彿とさせる描かれ方で笑えます。

 その後もヘラクレスはフィルのマネージメントの下で、古代ギリシャというよりは現代アメリカのショービジネスのような売りこみ方をしてますからね。こういう現代風の演出が本作品では『アラジン』以上に顕著なんですよね。そういう現代風の演出が「コミカルなカートゥーンっぽさ」に繋がってる。面白くて笑えます。


カートゥーン的な絵柄

 このようなコミカルな演出が本作品では至る所で見られるうえ、絵柄もかなりコミカルになっています。先述の通り、『ヘラクレス』の絵柄は第二期黄金期前半の作品と比べるとかなり雰囲気が違っています。本作のキャラクターのデザインは、第二期黄金期前半のディズニーらしいリアリティのある立体的な絵柄にはなっていません。どちらかというとカートゥーンっぽい絵柄になってます。

 本当にカートゥーンネットワークで放送されてそうなタイプの、デフォルメの激しい絵柄になっています。それゆえに、人によっては「チープな絵柄」に感じられ、その点も本作が批判される一因になってたと思います。しかし、絵柄こそ独特ではありますが今までのディズニー作品と比べて決して極端に「映像がショボい」訳ではないと僕は思います。

 例えば、中盤のメインであるヒドラヘラクレスの対決シーンや、ハデスの治める冥界の泉の様子など、CGなどを駆使した綺麗で見ごたえあるアニメーション映像がしっかりと本作品でも確認できます。確かに、前作『ノートルダムの鐘』ほどの感激するような映像美はないですが、今作『ヘラクレス』もディズニーのアニメーション技術の地力を見せつけるような映像にはなってると思います。

 まあ、そもそも僕はこういうカートゥーンらしいチープな絵柄も嫌いではないので、あまり気にならずに見ることがでたんですよね。ちゃんとこの絵柄でもアクションシーンは迫力あるものになってますしね。


テンポの良さ

 同じ監督による作品『アラジン』に見られたテンポの良いストーリー展開は『ヘラクレス』でも見受けられます。全体的に展開の進みが良い意味でスピーディーなんですよね。無駄に冗長に感じて中だるみするようなシーンは本作には見られないです。次から次へと新しい展開が起きるため、飽きずに見続けることができます。

 ヘラクレスの修行や彼が人気ヒーローになるまでの過程などがミュージカルソングを通してダイジェスト形式で飛ばされることで、スピーディーな展開が保たれてるんですよね。しかし、それでいながら決して駆け足にはなってないです。『アラジン』の時もそうでしたが、ジョン・マスカー&ロン・クレメンツ監督の作品はちょうど良いテンポで展開を進めてくれるストーリー作りが上手いんですよね。絶妙なさじ加減だと思います。


コミカルとシリアスのバランス

 『アラジン』と同じく『ヘラクレス』でも現代的なカートゥーンっぽいコミカルな演出が大いに目立つ作品です。しかし、それでいながらちゃんとシリアスなテーマも描いています。『アラジン』同様に「コミカルとシリアス」をともに上手くバランスよく両立させようとした作品だと言えるでしょう。ただし、『ヘラクレス』のシリアス要素は『アラジン』に比べると少々「薄い」気はします。シリアス度に対してコミカル度が占める割合は『アラジン』よりも上でしょう。それゆえに、確かに『アラジン』と比べると『ヘラクレス』は感動の薄い少々‟チープ”な作品になってると僕も思います。とは言え、決してシリアス要素が不十分な訳ではないです。あくまでも『アラジン』が凄すぎただけで、『ヘラクレス』もちゃんとそれなりに感動できる王道ストーリーに仕上がっています。

 先述の通り、本作品のシリアス要素(テーマ)は主人公ヘラクレスの「苦悩と成長」でしょう。生まれながらの怪力ゆえに周囲から邪険に扱われ自分のアイデンティティに疑問を感じたヘラクレスが、自身の本当の居場所を取り戻すために真のヒーローになることを目指す物語であり、そういう意味では王道のヒーロー物語になってると思います。メグとの恋愛を通して真のヒーローとしての心の強さをヘラクレスが獲得していく過程も、ベタではありますがちゃんと説得力のある描写になってます。

 終盤でヘラクレスとメグがそれぞれ自己犠牲でお互いの命を助け合ったシーンや、ヘラクレスがあれほど憧れた神の世界への移住をラストで拒否してメグと一緒に生きることを選ぶシーンなど、それなりに感動して没入できるようなドラマになっています。決してシリアス要素が不十分だとは僕は思わないです。

 それにもかかわらず、『アラジン』と比べるとやっぱり薄く感じちゃうのは、肝心のヘラクレスとメグの間に恋愛感情が芽生えるまでの描き方が不十分に感じるからだと思います。『アラジン』の"A Whole New World"や『美女と野獣』の"Beauty and the Beast"の歌のような、二人の間のロマンチックな恋愛感情を歌った曲が本作品にはないんですよね。"I Won't Say I'm in Love"が流れるシーンもあくまでもメグ視点での恋愛感情を歌っただけで、ヘラクレスのほうはいないですからね。ヘラクレスとメグのどちらもが恋に落ちる感情をロマンチックに歌い上げた曲やそのようなシーンがないことは、本作品のラブロマンスを物足りなくさせてると思います。

 ついでに言うと、本作品はヘラクレスがメグに惚れる理由が良く分からないんですよね。先ほど、ヘラクレスの成長が説得力を持って描かれてると言いましたが、それは恋愛感情が心の強さに繋がる終盤のシーンにおいてのことであり、そもそもそのきっかけである恋愛感情がヘラクレスに芽生えた経緯はいまいち良く分かりません。ぶっちゃけ、単なるヘラクレスの一目惚れに感じなくもないです。まあ、『白雪姫』や『シンデレラ』など大昔のディズニー映画でも恋愛感情が生じた理由は良く分からなくて一目惚れに近い描写がされていたので、その点では原点回帰なのかもしれませんけどね。

 とは言え、『美女と野獣』や『アラジン』などのように、男女それぞれがちゃんと恋愛感情を抱くまでの過程が丁寧に描かれていた第二期黄金期前半の作品と比べると、『ヘラクレス』のラブロマンス要素の描写は少々不十分だと思います。やっぱりちょっと「薄い」んですよね。恋愛要素が本作品の主要テーマである「ヘラクレスの成長」の重要な要因になってるにもかかわらず、その描写が『アラジン』と比べると薄い点は、本作品の大きな難点だと思います。


キャラクター

ヘラクレス

 主人公ですね。このヘラクレスのキャラに対してはしばしば「主人公にしては幼稚な若造にしか見えない」という批判を見かけます。確かに、中盤までのヘラクレスは持ち前の怪力だけを生かして人気者になって、少々調子に乗ってるように見えなくもありません(それでも決して悪い人ではないんですけどね)。彼がヒーローを志した動機も純粋に人助けしたいからというよりは、単に自分の居場所であるオリンポス山に戻りたかったからですしね。そういう点も含めて少し魅力に欠ける人物ではあります。

 でも、そういう描写がされるのもある意味当然で、そもそも本作品はヘラクレスの成長がテーマの一つですからね。中盤までは魅力に欠けていたヘラクレスがメグへの恋愛を経験したことで心の強さも獲得し、「真のヒーロー」として覚醒する物語がこの作品のメインストーリーです。だから、「真のヒーロー」になる前のヘラクレスのキャラが少々魅力に欠けるのは当然のことであり、その点を批判する気は僕にはないです。「真のヒーロー」となれたラストのヘラクレスは普通に魅力的なヒーローとして描かれていますしね。

メグ

 彼女のキャラクター設定はディズニーにしては色々と珍しいです。「過去に恋人のためにハデスに魂を売ったけど恋人に裏切られ男性不信になった」という設定のヒロインは今までのディズニー映画で見たことありません。(本人の意思ではないとは言え)悪役陣営に属するヒロインという設定もディズニーにしてはかなり珍しいでしょう。それゆえに、わりと新鮮で魅力的なヒロインになってるんですよね。

 そういう風に、ディズニーには珍しい陰気でネガティブないわゆる「ダウナー系」っぽいヒロインとして描写されているのですが、そんな彼女が次第にヘラクレスに心惹かれてピュアな恋心を育んでいく過程が微笑ましいんですよね。なかなかに魅力的なヒロインだと思います。ディズニーには今までいなかったタイプの新しいヒロインとしての魅力を十分に発揮させている良キャラでしょう。

フィル

 名前こそピロクテテス(愛称フィル)ですがどっちかというとケイロンですね、彼は。原作のギリシャ神話でヘラクレスのコーチを務める半獣半人のキャラクターはピロクテテスではなくケイロンのほうなのに、なんでこの映画では彼にピロクテテスという名前を当てたのでしょうか?僕もその理由は知らないです。

 まあ、とにかくフィルは主人公ヘラクレスの親友ポジションです。『アラジン』におけるジーニーの役回りに近いものがあります。時にヘラクレスに対し憎まれ口を叩くこともありながらも、なんだかんだでヘラクレスの親友として彼を支えるツンデレ的なおじさんですね。ディズニーには珍しく女に目がない好色家キャラでもあります。そういうところも含めて、どこかコミカルで面白いキャラになってるんですよねえ。

 ジーニーほどの強烈な個性はないのですが、十分に魅力的なキャラになってると思います。ラストでフィルの念願の夢が叶って、ヘラクレスの星座ができるのを喜ぶシーンは、見ててちょっと感動します。

ハデス

 この『ヘラクレス』において特に人気のあるキャラクターは、主人公サイドよりもどちらかというとヴィランズのほうでしょう。特に、ハデスのキャラに対するネットでの人気はかなり高い印象があります。ガストンやジャファーなどと並ぶ「コミカルな悪役」なんですよね、彼は。普段は温厚に振る舞おうとするも頻繁にすぐキレる素の性格が出てくる性格描写は『オリビアちゃんの大冒険』の悪役ラティガンを彷彿とさせます。そういう言動がコミカルでとても魅力的な悪役なんですよねえ。

 コミカルなキャラではありながらも決して間抜けキャラではなく、ヘラクレスを始末するためにあれこれと策略を張り巡らす狡猾さはあります。それにも関わらず、その企みの全てがヘラクレスによって阻止され毎回苦い思いをする不憫キャラでもあります。なんかバイキンマンみたいなやつです笑

 ハデスのそういうコミカルなキャラクター描写や言動が非常にツボにハマって笑えるので、この作品で一番の愛されキャラになってるんですよね。悪役ではあるけどどこか憎めない、そんなキャラになっています。僕も本作品ではハデスのキャラが一番好きですね。面白くて笑える良いギャグ要員の悪役です。

ペイン&パニック、運命の三女神

 ハデスの手下であるペインとパニックのコンビはディズニー・ヴィランズの手下に良くいるタイプの「間抜けなギャグ要員」になっています。ペインとパニックがハデスにしょっちゅう怒られるシーンは、漫才的な面白さがあって面白いです。本作品のヴィランズはハデスもペイン&パニックもどちらもコミカルなキャラクターとして描かれており、なかなかに魅力的なんですよね。

 また、端役ではありますが運命の三女神も個人的には好きなんですよね。一つの目玉を三人で共有してる設定が、子供の頃の僕には何となく魅力的に思えたんですよね。ギリシャ神話の原作に沿った設定ではあるんですが、彼女たちが糸を切って人の死を司る描写も好きですね。なんとなく記憶に残るインパクトの強いキャラです。

ミューズ

 個人的には、本作品でハデスと並んで好きなキャラクターたちですね。本作品の狂言回し的な役割を担っています。5人組でジーニーのような演出を見せる彼女たちの姿は面白くて、画面に釘付けになります。古代ギリシャらしからぬゴスペル歌手っぽいキャラクター描写がなされている点が良いんですよね。後述するように、彼女たちが歌うゴスペルが本作品の大きな魅力の一つになっていると僕は思います。


音楽

 本作品もディズニーの伝統にのっとりミュージカルになっています。第二期黄金期の常連作曲家であるアラン・メンケン氏が本作品でも作曲を務めてるだけあり、なかなかに聞き応えのある名曲が本作品でもたくさん登場します。中でも特に有名なのは主題歌の"Go the Distance"でしょう。『ポカホンタス』以降の第二期黄金期後半のディズニーソングの中では恐らく一番有名な曲だと言っても過言ではないと思います。とてもエモくて感動的で聞きごたえのある名曲なんですよね。特にサビでの盛り上がりが凄まじいんです。僕は小さい頃から何度もこの曲を聞いてはサビで大いに感動したものです。文句なしに、名曲中の名曲だと思います。音が本当に豪華で圧倒されるんですよねえ。

 また、本作は先述のミューズたちによるゴスペル曲が至る所で流れる点も特徴的なんですよね。ギリシャ神話の語りにゴスペル音楽を組み合わせるという発想がまず面白いです。これも上述した『アラジン』同様の「現代風な演出」の一環だと思うんですが、それが良い味を出してるんですよね。この作品のストーリーに対して感じるスピーディーなテンポのリズム感は、このミューズたちによるゴスペル風のミュージカルシーンの存在も一因になってると思います。

 オープニングの"Gospel Truth"がいきなりそのパターンですからね。ミューズたちが"Gospel Truth"の曲に合わせて、物語の背景説明をするシーンは面白いです。歌い手たちの声量のすごさにも圧倒されます。また、同じくミューズたちによる"Zero to Hero"もアップテンポでかなり楽しい曲だと思います。ヘラクレスが人気スター的なヒーローへと成り上がっていくシーンに見事に合った「現代的な演出」になってると思います。大好きです。

 エンディングで流れる"A Star Is Born"も良い曲です。"Zero to Hero"同様にミューズたちによるアップテンポな曲になっており、エンディングの「大団円」っぽさを演出するにふさわしい名曲だと思います。単に聞いてて楽しくなるだけでなく、ハッピーエンドが嬉しくなりちょっぴり感動する曲に仕上がっています。

 "Go the Distance"と並んで有名な曲は何といっても"I Won't Say I'm in Love"でしょう。メグの歌声に合わせてミューズたちが合いの手を入れるこの曲は、男性不信のメグに恋心が芽生えるまでの過程を歌った名曲です。メグの声を務めてるスーザン・イーガン氏の声量にも魅了されます。ロマンチックで耳に残る素晴らしいラブソングになってると思います。大好きです。

 その他の曲としては、"One Last Hope"もありますね。ヘラクレスをトレーニングするフィルのテーマソングです。若干耳に残りにくい曲ではありますが、何度か聞いてると楽しくなってくる良曲だと思います。どことなくちょっとレトロな雰囲気を感じる曲なんですよね。初期ディズニーの短編アニメーション時代を彷彿とさせるような曲想が良い味を出しています。


日本語吹き替え声優

 基本的に僕は字幕派なので、日本語吹き替え声優についての感想を書くことはないのですが、この作品については先述の通り日本語吹き替え声優が当時の日本のネットでの悪評の一因になってるので、軽く個人的感想を書こうと思います。やはり、しばしば言われてるように、TOKIO松岡昌宏氏の演技は酷いと僕も思います。主役ヘラクレスを演じているにも関わらずわりと棒読み的な演技なんですよね。感情が全く伝わってこないです。主役の棒読みセリフが終始気になるせいで、日本語吹き替え版はまともに見ていられないんですよね。ネットで叩かれてるのも当然だと思います。

 ただし、ヒロインのメグを演じる工藤静香氏の演技のほうはネットでの評判も悪くないです。同じくプロの声優ではない芸能人アイドルの採用にも関わらず、メグのネガティブな性格にふさわしい魅力的な声になってると思います。なかなかに可愛らしいヒロインに仕上がってます。その点で、日本語吹き替え版でのゲスト声優枠も必ずしもダメな点ばかりではないと思いました。

 まあ、それでもやはりヘラクレスの声がひどいことには変わりないんですけどね。よりにもよって肝心の主役のセリフが棒読みなのは、致命的な欠点でしょう。なので、僕は基本的にこの『ヘラクレス』を日本語吹き替えで見ることはオススメしないです。普通に、字幕版で見たほうが良いでしょう。英語版の声優さんは全然酷い演技じゃないので、普通に楽しんで見ることができるはずです。


『アラジン』の下位互換ではあるけど良作

 ここまで述べて来た通り、この『ヘラクレス』という映画は同じ監督による『アラジン』とかなり似ている部分がたくさんあります。コミカルな現代風演出の仕方やキャラクター配置やスピーディーなストーリー展開などなど、『アラジン』にも見られた特徴が本作品でも確認できます。しかし、先述の通り『アラジン』と比べるとコミカルとシリアスの割合のバランスが悪いため、『アラジン』よりも少々チープで感動の薄い作品になってしまっていると思います。そういう意味で、この『ヘラクレス』は『アラジン』の「下位互換」とも言うべき作品でしょう。

 また、映像面でもカートゥーン的な絵柄が目立ちすぎて、それまでのディズニー映画に見られたような見ごたえのある映像美はあまり感じられず、人によってはチープに見えるアニメーションにもなっています。それらの点が公開当時に本作品が不人気だった原因だと思います。

 しかし、あくまでも『アラジン』に比べると下位互換になってるというだけの話であって、決して駄作と断言できるほどつまらないとは僕は思えないです。コメディとしてはわりと良く出来ていて普通に面白いんですよね。『アラジン』同様に『ヘラクレス』もストーリー展開がスピーディーで上手いので最初から最後まで飽きずに見続けることができます。また、ヒドラやタイタン族との戦いなどアクションシーンも豊富で、その点でも第二期黄金期の他の作品に引けをとらないと思います。主人公ヘラクレスがしっかりと活躍しており、見応えのあるアクションシーンに仕上がってるんですよね。また、先述の通りアラン・メンケン氏作曲の音楽も名曲揃いでクオリティ高いです。

 これらの点を踏まえて、やはり僕は『ヘラクレス』も十分に良作だと思うんですよね。ものすごく感動するような作品ではないけれど、肩の力を抜いて楽しみながら視聴することのできる良質なコメディに仕上がってると思います。普通に面白くて好きな作品です。







 以上で、『ヘラクレス』の感想記事を終わりにします。前回よりも更新間隔がだいぶ空いてしまいましたが、しばらくはこれぐらい遅い更新ペースになってしまうと思います。申し訳ありません。
 次回は『ムーラン』の感想記事を書く予定です。それではまた。