tener’s diary

てねーるのブログ記事です

【ディズニー映画感想企画第15弾】『わんわん物語』感想~初の完全オリジナル作品~

 今後は更新間隔が空くかもしれないと言いましたが、この記事だけはすぐ書けちゃったので更新します。

 ということで、ディズニー映画感想企画第15弾です。今回は『わんわん物語』について書こうと思います。スパゲッティを介したキスシーンが超有名な映画ですね。そんな『わんわん物語』について語っていこうと思います。

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【基本情報】

初めて尽くしの作品

 『わんわん物語』は1955年に15作目のWDAS長編アニメーション映画として公開された作品です。原作はありません。そう、原作はないんです。これまでのディズニー長編アニメーション映画は、童話や小説など何かしら原作が存在していました。しかし、この『わんわん物語』はディズニーの完全なオリジナルストーリーです。原作は存在せず、ディズニー・スタジオのメンバーによってストーリーが考え出されました。ディズニー長編アニメーション映画において完全なオリジナルのストーリーによる作品はこの『わんわん物語』が初です。*1

 構想自体は前3作と同様に戦前からあったのですが、制作開始はだいぶ遅れて戦後の1950年代頃からになります。後述するように、この頃のウォルト・ディズニー氏は他の仕事も大量に抱えており、この作品の制作自体にはあまり関われなかったようです。とは言え、全く制作にノータッチだった訳ではなく、例えば主人公の一匹である雑種犬の名前を「トランプ」に決めたのはウォルト氏の案だったそうです。

 この作品はディズニー初のオリジナル作品というだけでなく、ディズニー初のシネマスコープの映画でもありました。ようはスクリーンの縦横比が変わり、今までの作品よりもだいぶ横長なスクリーンでのアニメーション作成となったのです。それ故に、『わんわん物語』の制作費や制作期間は当初の予定をだいぶ上回ってしまったそうです。

 なお、この作品から配給がブエナ・ビスタ*2に変わっています。それ以前のディズニー映画は、基本的にRKO*3に配給を頼んでいたのですが、この作品以降はディズニー内で配給も行うようになったという訳です。


第一期黄金期の絶頂期

 そんな初めて尽くしの試みの下で作られた『わんわん物語』は、1955年に公開されると見事にヒットし、かなり良い興行成績を達成したそうです。『シンデレラ』『ピーター・パン』に引き続き、第一期黄金期3作目の商業的成功を達成したことで、ディズニーの第一期黄金期はここでその頂点を極めたと言えるでしょう。僕は、まさしくこの頃がディズニー第一期黄金期の絶頂期だと思っています。

 というのも、『わんわん物語』が公開したこの時期はアニメーション映画以外の面でもディズニー社は成功を重ねていたからです。特に、その中でも最も大きいのがディズニーランドの完成でしょう。『わんわん物語』公開と同じ年の1955年に、カリフォルニア州アナハイムにディズニー初のテーマパークである「ディズニーランド」がようやく開園したのです。現在、ディズニーのテーマパークは世界中にいくつかありますが、その第一号が完成したのがこの頃だったのです。

 この頃のウォルト・ディズニー氏は、この全く新しいタイプの遊園地の建設にかなり夢中だったらしく、それ故にアニメーション映画制作だけに構っていられないほどの忙しさだったのです。さらに、当時のウォルト氏は「ディズニーランド」の建設のみならず、当時アメリカの家庭に普及し始めていたテレビ事業にも関わり始めていたのです。

 この頃のディズニーはいくつものテレビ番組を放送してます。『わんわん物語』公開の前年である1954年からは、当時建設中のディズニーランドの宣伝番組である『ディズニーランド』や、アメリカ史の有名人物を主人公にした実写ドラマ『デイビー・クロケット*4などが放送されどちらも莫大な視聴率を稼ぐ人気番組となりました。さらに、『わんわん物語』の公開年である1955年には『ミッキーマウス・クラブ』というバラエティ番組も放送されます。この番組のオープニングソング『ミッキーマウス・マーチ』はミッキーのテーマソングとして今でもかなり有名でしょう。この番組は日本でも放送されました。これらの他にもたくさんのテレビ番組をディズニーは放送していました。

 このように、『わんわん物語』の公開した1955年前後のディズニーはまさに繁栄の絶頂にあったわけです。長編アニメーション映画はヒットしまくり、新しいタイプの遊園地「ディズニーランド」も作られ、さらには人気テレビ番組までも放送し始める……まさに「黄金期」と呼ぶに相応しいと僕は思います。ディズニーは、映画産業のみならず遊園地事業やテレビ事業などあらゆるエンターテインメントを手掛けるようになったわけです。

 『わんわん物語』も、そんな当時のディズニー繁栄の一端を担った作品であると言えるでしょう。




【個人的感想】

総論

 この作品は「面白い」です。面白くて「ほっこり」します。これまでのディズニー作品に比べると、派手なシーンがないためいささか盛り上がりに欠ける気もしなくないんですが、だからこそとても上質な王道ラブロマンスに仕上がっています。地味だけど決して退屈はしないし、むしろ面白くて癒される作品になっています。


ちゃんとした恋愛物語

 この映画は、‟お嬢様育ちの血統書付きの飼い犬”レディーと‟自由奔放な雑種の野良犬”トランプという二匹の犬の恋物語になっています。その恋物語が主にレディ視点で展開します。そういう意味で、この作品の主人公はレディなのですが、そのお相手となるトランプのほうもしっかりと魅力的なキャラに仕上がっています。そう、この点が『わんわん物語』の見どころなんですよね。

 今までのディズニー映画でも『白雪姫』や『シンデレラ』などラブロマンス要素はありましたが、これらの作品は「王子様のキャラが空気である」という難点があったんですよね。だから、「王子様とお姫様との恋物語」として見るには弱い作品になっていました。*5

 これらの作品とは違い、『わんわん物語』のレディとトランプはどちらのキャラクターも「空気」にはなっていないんです。しっかりと個性があり感情豊かなキャラクターとして描かれています。だからこそ、この二匹の恋物語に熱中して見ることができるんですよね。つまり、『わんわん物語』は「ちゃんとしたラブロマンス」がメインテーマとして描かれている作品なんです。そこが素晴らしい。


レディ視点の成長物語でもある

 この映画は恋愛映画であると同時に、レディ視点での成長物語でもあります。物語は終始ほぼレディ視点で展開します。序盤では、飼い犬としてプレゼントされたレディが飼い主のディア夫妻に可愛がられながら成長するシーンが描かれますが、このシーンのレディがとても可愛らしくて魅力的なんですよね。飼い主のジムやダーリングもついついレディを甘やかしてしまうぐらいにはレディのことを可愛がっているのが伝わります。こういう幸せそうなシーンは見てるだけで癒されますね。ほっこりする。

 でも、こういう癒されるようなシーンが延々と続くのではなく、ちゃんと起伏のある展開が用意されるんですよね。その一つがダーリングの妊娠であり、トランプとの出会いであり、さらには赤ん坊の誕生なんですよね。こういう風に、それなりにスピーディーに展開が進んでいくので、決して退屈して飽きてしまうような物語にはなっていないです。

 それぞれの場面でレディの心情がちゃんと描写されていて、知らず知らずのうちにレディに感情移入しちゃうんですよねえ。そこが素晴らしいです。飼い主に少し邪険にされたことで不安に感じたり、新たに誕生した赤ん坊を愛おしく思ったりとレディの感情表現が豊かで可愛らしいです。


セーラおばさんとサイ&アム

 この映画の悪役(?)ですね。前半まででレディに感情移入できるようしっかり物語が進んでくれたからこそ、中盤からセーラおばさんに邪険に扱われるレディに心から同情できるようになるんですよねえ。そういう意味でも、やはりこの作品はストーリーの作り方がしっかりしていて上手い良作なんだと思います。

 そして、そんなセーラおばさんの飼い猫サイとアムも有名ですね。この猫たちは典型的な「猫かぶり」キャラで、飼い主のセーラおばさんの前では良い顔するけど、裏では悪さしまくるクソ猫です。この二匹のテーマソングである"The Siamese Cat Song"はアジア風のエキゾチックな音が耳に残る名曲だと思います。音楽がアジア風なのは恐らくこのネコがシャムネコだからなんでしょうけど、その独特な曲調が僕は結構好きです。

 それにしても、このサイとアムだけでなく、『シンデレラ』のルシファーや『ふしぎの国のアリス』のチェシャ猫など、第一期黄金期のディズニー作品のネコにはろくな奴いないですね。当時のディズニーはネコに何か恨みでもあったのかとツッコミたくなるぐらいです笑


トランプとの交流

 口輪を付けてくるセーラおばさんのもとから逃げたレディがトランプと出会い彼に助けられることで二人の交流が深まっていきます。家から出たことない世間知らずのお嬢様のレディが、野良犬トランプの案内で町の色んなところを知るこのシーンは『ローマの休日』を彷彿とさせます。動物園で、トランプの作戦にすっかりノリノリで協力するレディがこれまた可愛らしくて魅力的です。

 こういうシーンがしっかり描かれているからこそレディだけでなくトランプの個性もしっかり際立ち、「空気」にならずに済んでるんでるんですよね。レディに対してトランプが野良犬の自由さを自慢気に語るシーンは、ベタではありながらも二人の対照的な個性をしっかり描写できています。面白いです。


Bella Notte

 ところで、『わんわん物語』もディズニーお決まりのミュージカル映画なのでたくさんの名曲が流れます。先述の"The Siamese Cat Song"もそんな名曲の一つです。しかし、そんな『わんわん物語』の音楽の中でも特に有名なのがやはり"Bella Notte"でしょう。この音楽が流れる中でレディとトランプがスパゲッティを食べてキスするシーンは、この映画を代表する屈指の名シーンとしてかなり有名ですね。この曲を歌うイタリアン・レストランの主人トニーとジョーのコンビも僕はめっちゃ好きです。こいつらがレディとトランプの恋を盛り上げてくれるんですよ。良いコンビですよ、ホント。

 そして、スパゲッティを食べた後のレディとトランプは夜の街でデートするんですよねえ。その間もずっと"Bella Notte"が流れてるんですけど、この音楽の良さと映像の綺麗さのお陰で、このシーンはとてもロマンティックです。僕もこんなロマンティックな雰囲気の中でデートがしたいなあと子供の頃からずっと憧れ続けていました。


恋愛物語の王道

 これらのシーンを通して、知らず知らずのうちにレディとトランプの間に恋心が芽生え始めてることが観客にしっかりと伝わるんですよね。彼女を自由な野良犬の世界に勧誘しようと必死なトランプがとても魅力的で良いキャラしてます。でも、その後はすれ違いが起きるんですよねえ。一度恋に落ちた二人がひょんなことからすれ違って痴話喧嘩を起こすのは、恋愛物語のあるあるですが、この作品でもしっかりとそういうシーンがあります。

 トランプのせいで保健所に捕まりしかもそこでトランプの女性遍歴を聞いてしまったレディがトランプに愛想をつかすシーンは、甘酸っぱいラブコメの王道展開を見てるような気分になります。ラブコメ好きとしてはこういうすれ違いシーンがしっかりあるのは嬉しいですねえ。見ごたえのある恋愛物語の王道展開をしっかりと踏襲していることで、『わんわん物語』は良質な恋愛物語へと仕上がってるわけです。

 すれ違った二人が最後はやっぱりお互いに和解して結ばれるシーンも良いですねえ。ここで、前半部に登場した赤ん坊の存在がカギとなってるのも上手いです。トランプが赤ん坊をネズミから守ったことで二人の関係は修復したわけで、そう言う意味では前半の赤ん坊誕生のシーンも決して物語の展開上ムダなシーンではないということなんですよね。本当に、良くできた恋愛物語です。

 終盤で、ディア夫妻がレディの訴えにちゃんと気付きトランプを保健所から救って上げる展開も良いですね。ああ、ちゃんとこの夫婦はレディのことを大切に思ってるんだなあというのが伝わり、ほっこりした気持ちになります。


たくさんの犬たち

 ここまで、レディ、トランプ、ディア夫妻、セーラおばさん、サイとアム、トニーとジョーなど『わんわん物語』の魅力的なキャラクターたちを挙げてきましたが、この作品には他にもたくさんの魅力的な犬が登場します。特に、忘れてはならないのはジョックとトラスティでしょう。ちょっとボケ老人っぽさのあるコミカルなトラスティと、レディをしっかり支えてくれる頼れるおじいさん的な存在であるジョック。そのどちらもが魅力的なキャラクターになってます。彼らはどちらもレディのことを心底思いやってるんですよね。そういうの伝わる展開が随所にあり、そこが本当に素晴らしいです。

 一方で、レディを思いやる反面トランプには途中まで厳しく当たるのですが、彼への誤解が解けた終盤では彼を助けるために怪我するほどの活躍をするんですよね。こういうベタだけどちゃんとキャラの魅力が引き立つ王道シーンを入れてくれるのが素晴らしいです。僕はジョックとトラスティのこの老犬コンビが大好きです。

 他にも、保健所にてたくさんの犬が登場します。特にペグのキャラが僕は好きですね。大人っぽい頼れる姉御肌な犬なんですよねえ。彼女が保健所で歌う"He's a Tramp"もお洒落なジャズっぽい曲調が心地良い名曲です。


手堅く作られた王道ラブロマンス

 この映画はとにかく手堅く恋愛物語の王道を踏襲したストーリー展開になっています。だからこそ、面白い恋愛映画に仕上がってるんですよね。ちゃんとレディとトランプ二人の感情に寄り添えるような展開を要所要所で用意してくれるので、飽きずに最後まで見続けられ、ラストのハッピーエンドにしっかりと癒される、そんな良質なラブロマンスになっています。

 そういうわけで、『わんわん物語』はとても手堅く作られた王道ラブロマンスって感じの作品であり、ラブロマンス好きならばきっと気に入る作品なんじゃないでしょうか。僕は気に入っています。






 以上で、『わんわん物語』の感想を終わりにします。次回は『眠れる森の美女』の感想を書こうと思います(と言ってもいつ更新できるかは不明ですが……)。それではまた。

*1:短編アニメーションのオリジナル作品はこれ以前にもありました。

*2:ディズニー社の映画配給部門の名称です。2019年8月現在はウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズに名称が変更しています。

*3:ディズニーとは完全な別会社で、ディズニー作品に限らずたくさんの有名なハリウッド映画の配給を担っていた会社です。

*4:デイビー・クロケットはメキシコからのテキサス独立戦争の際にアラモで戦死した実在の人物で、アメリカでは有名な歴史的英雄の一人です。

*5:もちろん、これらの2作品の主な見どころは、『白雪姫』なら小人たちとの交流、『シンデレラ』ならいつか夢が叶うことの素晴らしさや動物たちのアクションシーンなど、ラブロマンス以外のところにあるので、ラブロマンス要素が弱くても全然構わないし名作であることには違いないんですけどね。