tener’s diary

てねーるのブログ記事です

【ディズニー映画感想企画第13弾】『ふしぎの国のアリス』感想~とにかくカオスな萌えアニメ~

 ディズニー映画感想企画第13弾です。今回は『ふしぎの国のアリス』の感想記事を書こうと思います。前作『シンデレラ』から始まったディズニー第一期黄金期の2作目の作品ですね。これも、知らない人はほとんどいないレベルの有名作品でしょう。そんな『ふしぎの国のアリス』についてつらつら語っていきたいと思います。

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【基本情報】

実はディズニーと縁が深い?

 『ふしぎの国のアリス』は1951年にディズニー13作目の長編アニメーション映画として公開された作品です。原作はルイス・キャロル氏の有名な小説『不思議の国のアリス』です。ただしこの映画には、原作小説の続編である『鏡の国のアリス』の内容もいくつか混じっています。*1

 実は、ウォルト・ディズニー氏が1920年代にディズニー・スタジオを立ち上げた時、最初に作った短編アニメーションが『アリス・コメディ』というシリーズでした。この短編シリーズのストーリー自体はルイス・キャロル氏の小説とは全然関係ないのですが、その一話目のタイトルが"Alice's Wonderland"であり、明らかにルイス・キャロル氏の小説のタイトル(Alice in Wonderland)をもじって付けられたタイトルになっています。そのため、ウォルト・ディズニー氏にとってルイス・キャロル氏の小説『不思議の国のアリス』はある意味深い縁のあった作品とも言える訳です。

 そんな『アリス・コメディ』シリーズの時代から30年近く経った1951年に、今度はちゃんとその内容においてもルイス・キャロル氏の小説を原作にして映画『ふしぎの国のアリス』が公開された訳です。実際、このような縁もあったからなのか、ディズニー・スタジオではルイス・キャロル氏のこの小説の映画化の話が戦前から何度も企画されていました*2。しかし、今までの記事で述べて来た通り、第二次世界大戦中に長編アニメーションの制作は一旦ストップしてしまい、『ふしぎの国のアリス』の制作再開は戦後になるのを待たなければなりませんでした。*3


実は公開当時は不評?

 第二次世界大戦後になると、久しぶりの長編アニメーション作品として『シンデレラ』とほぼ同時期に『ふしぎの国のアリス』の制作も開始されました。こうして、『シンデレラ』公開の翌年には『ふしぎの国のアリス』も公開されたのですが、爆発的な大ヒットを遂げた前作『シンデレラ』と違って『ふしぎの国のアリス』はイマイチな興行成績となりました。

 その要因は色々考えられますが、『シンデレラ』のような感動的な王道ファンタジーを望んでいった当時の観客にとって、『ふしぎの国のアリス』の作風はちょっと異色すぎて受け入れられなかったのかもしれません。実際、あとで個人的感想の項でも述べますが『ふしぎの国のアリス』は人によって好みの大きく分かれる作風だと思います。

 当時の評論家からの評価もあまり芳しくありませんでした。また、原作好きからの批判も大きかったそうです。ディズニーの原作改変自体はこの作品以前にもしばしば行われていますし、『ふしぎの国のアリス』は他のディズニー映画に比べるとストーリー展開は比較的原作に忠実なほうなのですが、それにもかかわらず原作ファンからの批判の声は大きかったのです。そもそも原作『不思議の国のアリス』はディズニーによる映画化以前からかなり根強い人気があり、小説や映画などあらゆる文化に影響を及ぼしていたので、それだけ原作ファンの勢力も大きかったんですよね。だからこそ、「ディズニーの『ふしぎの国のアリス』は原作のイメージを台無しにした」という声も出るようになった訳です。*4

 このように公開当時には不評だった『ふしぎの国のアリス』ですが、ウォルト・ディズニー氏は『バンビ』失敗の時ほどのショックは受けていなかったっぽいです。というのも、当時のウォルト氏はアニメーション映画制作とは別の大きな計画に熱中していたからなんですよね。その計画とは、言わずと知れた「ディズニーランド」の建設です。カリフォルニア州アナハイムに最初のディズニーランドができるのはそれから4年後のことですが、この頃にはすでにその構想が始まっていて、ウォルト氏はその構想にかなり熱心だったんですね。





【個人的感想】

総論

 上でも述べましたが、『ふしぎの国のアリス』は人によって大きく好みの分かれる作風だと思います。これは原作からしてそういうところがあるので仕方のないことなんですけど、この映画ってストーリーがめちゃくちゃで意味が分からないんですよね。良くも悪くも非常に「カオスな作品」なんだと思います。このカオスな作風に嵌まれる人にとっては好きな作品になるし、そうでない人にとっては「良く分からん作品すぎて面白くない」という感想になるんだと思います。僕はどちらかというと後者のタイプです。

 まあ、『ふしぎの国のアリス』を見て「カオスすぎて意味わからん」と文句を言うのは、激辛料理が売りの店に行って「辛すぎる!」と文句を言うようなものなんですけどね。とは言え、激辛料理が苦手な人っていうのが確実にいるように、こういうカオスな作風が苦手な人もいる訳で、僕もその一人なんですよね。他のディズニー映画のような分かりやすいストーリーやテーマが全くないので、そういうのを求めている人にとってはイマイチに感じる作品だと思います。

 しかし、何度か見ているうちに「ドラッグに嵌まったような中毒性」を覚えるのも一方では事実です。僕はいまだに『ふしぎの国のアリス』に面白さを感じ取れないでいるのですが、その一方で「なんでなのか良く分かんないけど、たまに見返したくなるシーンがある」という感情も抱いているんですよね。カオスすぎるゆえの謎の中毒性があるという点でこの映画はドラッグみたいな作品だと個人的に思っています。


意味不明なカオスさ

 先述の通り、『ふしぎの国のアリス』のストーリーははっきり言って意味不明です。カオスです。大雑把にあらすじを言っちゃえば「アリスが不思議な世界に迷い込む夢を見る」というストーリーなんですけど、その夢の内容がとにかく意味不明なんですよね。「カオス」としか言いようのない作品になっています。それ故に好みは分かれます。

 この作品にはたくさんのキャラクターが登場するんですが、どいつもこいつもまともな会話が成立しないんですよね。双子のトゥイードルデダムとトゥイードルディーにしても、イモムシにしても、チェシャ猫にしても、マッドハッタ―にしても、アリスとの会話が全く噛みあってない。この点は人によってはストレス溜まる要因でもありますが、その意味不明な言葉の掛け合いには変な中毒性もあります。特に、僕はマッドハッタ―や三月ウサギたちとの会話に何とも表現しがたい感情を抱きます。決して面白くはないんですけど、意味不明すぎて突っ込み切れないそのシュールさがなぜか癖になる。そんなシーンなんですよね。


カオスゆえの不気味な怖さ

 『ふしぎの国のアリス』に関しては「子供の頃見て怖かった」という感想をしばしば聞きます。昔のディズニー作品に怖さを覚える現象は『ふしぎの国のアリス』に限らず『白雪姫』 や『ダンボ』などでも見られることですが、『ふしぎの国のアリス』は「一部シーンではなく全編に渡って怖い」という感想を良く聞く点で『ピノキオ』と似ています。

 しかし、『ふしぎの国のアリス』の怖さは『ピノキオ』ともまた少し別種に思えます。『ピノキオ』の怖さは画面の暗さと残虐なヴィランズたちにあったと思うのですが、『ふしぎの国のアリス』は「理屈の通じない意味不明な理不尽さ」が怖さの要因になってると思うんですよね。

 この作品って主人公のアリスがとにかく理不尽に怖い目に会いまくるんですよ。主人公が何度か酷い目に会うのは『ピノキオ』でもそうでしたが、『ピノキオ』の場合はピノキオが羽目を外したからという因果応報的な理由がちゃんと用意されていました。それに対して、アリスが酷い目に会う納得のいく理由はありません。というか、世界観が意味不明すぎるので理屈もくそもあったものじゃないです。それでもアリスは強い子なので中盤までは気丈な態度で乗り越えていくのですが、後半のシーンでは一度心が折れて泣いてしまいます。正直、アリスが可哀想です。

 しかも、『ピノキオ』ではジミニー・クリケットみたいにちゃんと主人公の味方となるキャラクターたちが付いているのに対し、『ふしぎの国のアリス』では主人公アリスに心の底から味方するキャラクターは皆無なんですよね。不思議の国に迷い込んだアリスに色んなキャラクターが関わるのですが、先述した通り誰ともまともな会話は成立しません。アリスの心強い味方となって彼女を支えてくれるような存在は誰もおらず、意味不明な不思議の国でアリスは一人ぼっちの孤独な状態で行動していくわけですね。

 それだけでなく、アリスを雑草扱いして追い出す花たちに始まり、すぐ怒って威圧するイモムシや、意地悪なからかいや悪戯を働くチェシャ猫、アリスの首を刎ねようとするハートの女王など、アリスを困らせるようなキャラクターもたくさん出てきます。そりゃあアリスが嫌になって泣くのも無理はないよ、という気持ちになります。

 こんなふうに、主人公のアリスが意味不明な世界で理不尽につらい目に会いまくるその不条理さは、確かに「不気味」に感じてもおかしくないと思います。不条理ホラーに通じるものがあるんだと思います。そういう不気味さが『ふしぎの国のアリス』にはあります。

 また、ディズニーにしてはそもそも残酷なシーンが多いっていう側面もあります。特に、「セイウチと大工の話」のオチはディズニーらしからぬ残酷さゆえに、子供の頃見てトラウマになった人が多いと思います。ハートの女王がトランプ兵の首を刎ねよと言って連行するシーンも、直接的な描写はされてないとは言えよくよく考えると結構残酷です。これらの残酷なシーンの存在もこの作品の怖さに繋がっているのだと思います。


音楽

 『ふしぎの国のアリス』も今までのディズニー映画の例に漏れず、ミュージカル映画になっているんですけど、この作品は特にミュージカル要素が強めです。というのも、他のディズニー映画に比べても劇中歌のシーンがめちゃくちゃ多いです。75分の上映時間の中で全部で17曲もの劇中歌が流れています。実際、映画を見てるとほぼ全ての登場キャラクターが何かしらの曲を歌っています。

 この点はミュージカル好きには堪らないほど魅力的ですね。僕もミュージカル映画好きなので、この点はかなり嬉しいです。僕は特に"The Unbirthday Song"や"The Caucus Race"、"All in The Golden Afternoon"、"Painting The Roses Red"辺りの曲が好きです。どれも聞いていてかなり楽しくなる曲です。

 世界観やストーリーは意味不明で不気味なのに、音楽のほうは聞いていて楽しくなるメロディが多いんですよねえ。そのチグハグさが、本作品のカオスさの要因の一つにもなっていると思います。

 オープニングで流れる"Alice in Wonderland"も名曲です。どことなくお洒落で落ち着くような曲調になっています。僕は、ディズニーランドなどでこの曲が流れてるのを聞くととても和やかな気持ちになれるんですよねえ。個人的にとても大好きな曲です。


アリスのビジュアル

 こういう感想を書くとドン引きされるのかも知れませんが、アリスの容姿ってディズニーのヒロインの中でもトップレベルに可愛いと思うんですよね。いわゆる日本の「萌え豚」好みの容姿をしてると思うんですよね、アリスって。その証拠に、ディズニーのアリスのデザインって今でも日本の色んなアニメやゲームや絵本でのデザインの原型になってるじゃないですか。*5

 アリスの容姿については原作の挿絵も含めていくつかのタイプがあるんですけど、その中でも特にディズニー版アリスの見た目は最も知名度が高いと思われます。その見た目の可愛さゆえに、日本でもアリスの格好がいわゆる「ロリータ・ファッション」に影響を与えることになったのでしょう。

 実際、僕自身もある種「萌え豚」的な嗜好の持ち主なので、アリスの容姿にはかなり魅力を感じるんですよね。ネットスラングを借りて言えば、アリスっていうのはかなり"ブヒ"れる―萌え(死後)を感じる―キャラなんです。そういう意味でこの『ふしぎの国のアリス』には萌えアニメとしての要素もあると僕は思います。アリスの容姿やその言動の可愛さに魅かれながら視聴するのも、また一つの楽しみ方だと思います。


結局良く分からない

 結局、僕は今でもこの『ふしぎの国のアリス』という作品に対する自分の感想が良く分かりません。「面白い名作」だとは決して思えないんですけど、ちょっと不気味で怖いカオスな作風に何とも言えない中毒性もあるので「見ていて退屈な作品」とも言えないんですよね。物語そのものが意味不明でカオスな作品なので、感想も結論がはっきりしないカオスなものになってしまうのかも知れません。決して好きではないし、上述した通り、不気味なカオスさは僕にとっては苦手に思える面もあるのですが、謎の中毒性も感じ取れなくもない、そんな不思議な作品ですね。

 あっ、音楽の楽しさとアリスの可愛さだけは素直に「見て良かった」と思えるので、その二つを楽しむ作品としてのみ見るのもありかも知れません笑







 以上で、『ふしぎの国のアリス』の感想を終わりにします。次回は『ピーター・パン』の感想記事を書こうと思います。それではまた。

*1:例えば、双子のトゥイードルダムとトゥイードルディーは原作では『鏡の国のアリス』のほうで登場するキャラクターです。

*2:ただし、ウォルト自身はそこまでこの小説の映画化に乗り気でなかったという話もあります。「アニメの主人公にするには原作のアリスは冷たすぎる」と思っていたそうです。

*3:なお、前作『シンデレラ』や次作『ピーター・パン』も『ふしぎの国のアリス』同様に、映画化の構想自体は戦前からあったのですが、結局どれも第二次世界大戦中の長編アニメーション制作中止で一旦お流れになり、これらの映画制作は戦後になってから再開されました。

*4:僕自身は個人的には原作破壊が悪いことだとは思ってないので、そういう方向での『ふしぎの国のアリス』批判にはあまり賛同できないですね。原作改変されてても映画として面白ければ構わないと思ってますし。

*5:例えば、老舗エロゲメーカーのアリスソフトでイメージキャラクターとして採用されているアリスは、明らかにディズニー版アリスの見た目が原型になっています。