tener’s diary

てねーるのブログ記事です

【ディズニー映画感想企画第7弾】『三人の騎士』感想~戦時下の救世主~

 ディズニー映画感想企画第7弾は『三人の騎士』についてです。恐らくこの時期の「短編集形式のディズニー映画」の中では一番有名な作品だと思います。この時期の「オムニバス形式のディズニー長編アニメーション」6作品のうち日本でディズニー公式版のDVDで販売されているのはこの『三人の騎士』だけです。*1

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【基本情報~『ラテン・アメリカの旅』の続編~】

 『三人の騎士』は第二次世界大戦中の1944年に7作目のディズニー長編アニメーション映画として公開された作品です。戦時中のディズニー・スタジオは完全に「アメリカ政府御用達のプロパガンダ映画制作所」と化し、前作『ラテン・アメリカの旅』も政府の依頼を契機に制作されたものであることは前の記事で述べました。この作品も、アメリカ政府に気に入られた前作『ラテン・アメリカの旅』の続編として、またもやアメリカ合衆国ラテンアメリカ諸国との親交を深めることを目的として制作された映画です。

 しかし、『三人の騎士』は単に政府に気に入られただけでなく一般大衆にも気に入られた作品でもありました。第二次世界大戦中という時代状況にも関わらずかなり良い興行成績を収めたのです。また、アメリカ合衆国内だけでなく、この映画の舞台となったラテンアメリカ諸国でも好評だったそうです。『ピノキオ』『ファンタジア』『バンビ』と興行的に芳しくない状態が続いていたディズニー・スタジオにとって『三人の騎士』は久しぶりに成功した‟ヒット作”であり、まさに「戦時下の救世主」と言える作品だと思います。

 余談ですが、当時フランクリン・ルーズヴェルト政権下でラテンアメリカ外交を担当していたネルソン・ロックフェラー氏は、戦後ウォルト・ディズニー氏に「ウォルトのお陰でラテンアメリカ諸国との親交が深まった」といった内容の感謝の手紙を送ったそうです。



【個人的感想】

総論

 個人的なこの作品に対する感想は「プラスマイナスでほぼゼロに近いプラス」というものですね。部分的には魅力的なシーンもあるんだけど、微妙な箇所も結構ある作品です。どちらかという僕は前作『ラテン・アメリカの旅』のほうが好きですね。とは言え、この作品も魅力的なシーン自体はあったので、全く退屈な作品というほどでもないです。以下、そういう感想を抱いた理由を詳述します。


全体の構成

 この『三人の騎士』は基本的には短編集なのですが、全体を貫くストーリーも一応あるのでこの頃の作品にしては少し長編っぽくもあります。本作では、前作『ラテン・アメリカの旅』でドナルドダックが出会ったホセ・キャリオカからプレゼントが届き、そのプレゼントを通して個々の短編の物語が展開されるという構成になっています。ちゃんと短編同士の「つなぎ」が出てきてるんですよね。この点は『三人の騎士』の長所だと思います。例えば次作の『メイク・マイン・ミュージック』とかは短編同士のつなぎもなく、ただ単純に短編を並べただけの作品で「手抜きの寄せ集め」感が強いんですよね。そういう粗雑さは『三人の騎士』からは特に感じられないです。その点は良かったです。


ショーみたいな作品

 基本的にはこの作品も『ラテン・アメリカの旅』同様にラテンアメリカ諸国の紹介動画なんですが、前作が『世界ふしぎ発見』みたいな「教育番組風の映画」ならば、本作は「観光PRを兼ねたミュージックビデオ」って感じですよね。前作に見られた「お勉強要素」もなくはないのですが前作よりは少し薄目です。その点が、個人的に少々物足りないなあとは感じてしまいます。

 とは言え、「観光PRを兼ねたミュージックビデオ」として見る分にはそんなに悪くないです。特に、後半はディズニーランドのショーを見てるような気分になります。ディズニーランドで見られるようなショーが好きな人ならば合うと思います。ただ、そういう「ショーみたいなシーン」が少々長すぎます。ショーみたいな動画は悪くないのですが、後半それが延々と続くので冗長に感じます。ストーリーもこれと言って起伏のある展開が続く訳でもなく、ひたすら音楽に合わせて歌ったりするだけなので、ぶっちゃけ途中で飽きが来ます。

 『ファンタジア』みたいに個々の音楽そのものを楽しむ方向で見たほうが良い作品だなと感じました。僕はラテン音楽自体は好きなので、この作中で流れる個々の音楽自体はそれなりに楽しめました。


各短編の感想

さむがりやのペンギン パブロ

 タイトル通り寒がり屋のペンギンのパブロが故郷の南極を出て暖かい地を目指す航海に出る話。正直イマイチな内容です。話のオチは氷の船で海に出た時点でおおよそ予想できちゃうし、航海シーンも単に南米の地名が色々と列挙されるだけでこれと言った解説や面白イベントがあるわけでもないので退屈な作品です。

空飛ぶロバ

 ウルグアイガウチョの子供が空飛ぶロバを使ってレースに出て賞金をいただこうと企むお話。これも特にこれと言って面白味のあるシーンもなく何の感情も出てこない作品。微妙です。ただ、この短編アニメの流れる少し前に話の掴みとして出てくるブラジルの色んな鳥の解説アニメーションは個人的に興味深い内容だったので面白かったです。このシーンで初登場するアラクアン・バードは他のディズニー作品でもちょいちょい登場してます。

バイーア

 ホセ・キャリオカが登場してブラジルのバイーアにドナルドを連れていく話。この話では途中からアニメーションと実写の合成シーンが出てきます。菓子売りのヤヤー(バイーアの女性)やヨヨー(バイーアの男性)が実写で登場し、アニメーションで描かれたドナルドたちと歌ったり踊ったりします。この実写とアニメーションの合成シーンはとても楽し気な演出になっていて、音楽と相まってこの作品でわりと好きなシーンの一つです。

 この辺りから「ディズニーランドのショー」みたいな雰囲気の短編が続きますね。

三人の騎士

 有名なパンチートの初登場シーンです。初登場したパンチートはこのシーンでドナルドやホセと一緒に"The Three Caballeros"という歌を歌います。この作品のタイトルになっている歌だけあってなかなかの名曲です。メキシコ風の楽し気な曲調で、聞いてて気分が上がってくる曲ですね。この曲は、もともとこの映画公開の少し前にメキシコで大ヒットした "Ay, Jalisco, no te rajes!" という曲の替え歌らしいです。こういう楽し気に歌うシーンは個人的に大好きなので、このシーンも結構好きです。

ラス・ポサーダス

 メキシコでのクリスマス・イベントである「ラス・ポサーダス」をパンチートがドナルドたちに解説する話。ここは前作『ラテン・アメリカの旅』を彷彿とさせるような‟お勉強シーン”でしたね。メキシコの文化を学ぶことのできる興味深く面白いシーン。

メキシコ~パツクアロ、ベラクルスアカプルコ

 お勉強タイムはさらに続き、パンチートが国旗に描かれたメキシコシティの歴史を解説します。そしてメキシコシティの絵をいくつか見せた後、魔法のセラーペでメキシコ中を旅します。この辺りからメキシコの観光PR動画みたいになってきます。歴史好きなので、冒頭の歴史解説シーンは個人的に面白かったです。

 その後、パツクアロとベラクルスで踊るシーンは人によっては飽きるかも知れません。基本的には、バイーアのシーンと同様にアニメーションと実写の合成映像で、ドナルドたちが現地の人たち(実写)と一緒に伝統的な踊りを踊ります。個人的には音楽も良いのでまあまあ楽しめたシーンですね。

 その後アカプルコのビーチでドナルドが美女たち(実写)に興奮するシーンはあんまり面白くないです。良くあるドナルドのドタバタ劇コメディですし。

ユー・ビロング・トゥ・マイ・ハート

 メキシコシティの夜景をバックにメキシコの歌手*2が歌い始め、その歌手にドナルドが一目ぼれする話。歌は良い曲ですが、単なるミュージックビデオなので面白くはないです。初めて見た時は、ぶっちゃけこの辺りから眠気を覚えてきました(曲がバラードっぽいことも影響してるとは思いますが)。

ドナルドの白昼夢

 舞い上がったドナルドが白昼夢を見るシーン。『ダンボ』のピンクの象のシーンや後の『ふしぎの国のアリス』を連想させるようなカオスな映像になっています。音楽は楽しいし、白昼夢での踊りがショーみたいで楽しくはあるんですけど、やっぱりここに至るまでのシーンが長すぎるので初見の時は眠くなりましたよ。


個別の短編自体は悪くないんだけど……

 ということで、前半のあまり面白くない短編ストーリー以外は個人的にどれも興味深く楽しめて見れる内容の短編だったんですよね。でも、全体的には長いので一気に見続けると飽きが来ます。これと言ったストーリーのない音楽中心のショーみたいな映像はそれぞれ単体で見る分には楽しめるので良いんだけど、それを続けて見せられると、同じことの繰り返しが長ったらしくて飽きてきちゃいますね。そういう意味で、やっぱり長すぎるのがこの作品の欠点なのかなあと思いました。こんなにたくさん短編を繋げなくても良いです。

 でも、繰り返しになりますが、個別の短編自体は個人的にはまあまあ楽しめたのも事実です。だから「プラスマイナスでほぼゼロに近いけど一応‟プラス”」という感想になるんですよね。そんな作品でした。





 以上で、『三人の騎士』の感想記事を終わりにします。次回は『メイク・マイン・ミュージック』について書くつもりです。それではまた。

*1:他の作品はパブリック・ドメイン版DVDなどでを通してしか日本では視聴できません。

*2:ドラ・ルスという人です