tener’s diary

てねーるのブログ記事です

【ディズニー映画感想企画第21弾】『ロビン・フッド』感想~再利用による節約映画~

 ディズニー映画感想企画第21弾です。今回は『ロビン・フッド』について語っていこうと思います。これも暗黒期の作品にしては意外と知名度が高いほうという印象があります。そんな『ロビン・フッド』について語っていきたいと思います。

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【基本情報】

ロイ・O・ディズニーの死

 『ロビン・フッド』は1973年にディズニー21作目の長編アニメーション映画として公開された作品です。中世イングランドの有名な伝説であるロビン・フッドの物語を、キャラクターを動物たちに変えたうえでアニメ化しています。構想自体はウォルト・ディズニー氏の存命時代からうっすらと存在していたそうですが、正式に制作が決定したのはウォルトの死後になってからです。

 前作『おしゃれキャット』が1970年に公開されると興行的に成功を収めたことでディズニー・スタジオは安堵し、さらに翌年の1971年にはフロリダ州オーランドにてウォルト・ディズニー・ワールドも開園するなど、ウォルト・ディズニーの死後にも関わらずこの時点ではディズニーはまだまだ安泰かのようにも見えます。しかし、このウォルト・ディズニー・ワールド開園の数か月後にロイ・O・ディズニーが亡くなってしまいます。ウォルト・ディズニーの兄であり、1923年に弟のウォルトと一緒にディズニー・スタジオを立ち上げた時からずっとディズニーを(主に経営面で)支えて来た人です。

 1966年のウォルト・ディズニーの死に引き続き1971年には兄ロイ・O・ディズニーまでも亡くなったことで、ディズニー社の未来にもなんとなく暗雲が立ち込めて来たかのように感じます。実際、『ロビン・フッド』の制作には当時のディズニー衰退の様子を感じさせる雰囲気がどことなく漂っています。特にそれがはっきりと感じられるのが「過去作の再利用」でしょう。


低予算ゆえのコストカット

 ロイ・O・ディズニー死後のスタジオの衰退が影響したのか、『ロビン・フッド』は予算を大幅に減らされた状態での制作を強いられていました。前作『おしゃれキャット』の半分以下の予算で作らざるを得なかったと言われています。それだけ厳しい予算の状況ゆえに、『ロビン・フッド』ではコストカットのために様々な工夫が施されました。

 その工夫の最たるものが「過去作の再利用」です。『ロビン・フッド』ではコストを節約するために、過去のディズニー映画のアニメーションをそのまま使い回すという大胆な試みが成されています。"Robin Hood Reused"とかのワードで適当にYoutube辺りを検索すれば具体的に使い回している箇所がすぐに見つかります。『白雪姫』や『ジャングル・ブック』『おしゃれキャット』などの過去作のシーンと完全に同じ動きのアニメーションになってる箇所が『ロビン・フッド』では多数見つかります。

 「再利用」と言えば聞こえは良いですが、ぶっちゃけ単なる「使い回し」なのでこの点は今でも結構な批判の対象になりがちです。実際、本作品を見てると「あれ?このシーン、前にも見たことあるぞ」って既視感をちょいちょい抱いてしまうんですよね。まあ、僕個人の考えとしては、それでも話に新しささえあればこの程度の映像の使い回しは気にならないのであまりこの点を批判する気もないんですけどね。とにかく、『ロビン・フッド』はそんな「過去作の再利用」がかなり目立つ映画なんですよね。


後世への影響

 『ロビン・フッド』は動物たちが人間のように服を着て立って歩いて文明社会を築いている世界観です。本作品公開の40年以上も後に作られたディズニー映画『ズートピア』でも似たような世界観を採用しており、その作品制作においては『ロビン・フッド』にインスパイアされた部分があったそうです。特に、『ズートピア』の準主役であるキツネのニックは、『ロビン・フッド』の主人公ロビン・フッドをモデルにしています。『ズートピア』の監督を務めたバイロン・ハワード氏は当初『ロビン・フッド』同様にこのキツネのニックを主人公にして『ズートピア』を作るつもりだったそうです。*1

 『ズートピア』が大ヒットしたおかげなのか、それに影響を与えた『ロビン・フッド』の知名度も近年上がってるように思われます。暗黒期の作品の一つと言われてるにも関わらず『ロビン・フッド』の知名度が比較的高いように感じるのにはそういう理由もあるのかも知れません。




【個人的感想】

総論

 ぶっちゃけ、本作品は妙にファンも多い作品ですが僕はかなり微妙だと思っています。コミカルで「軽い」作品なんですが、一方で無意味に「暗い雰囲気」もある作品なんですよね。そこがものすごく中途半端に感じます。ストーリーにはあまり突っ込みどころも感じないし、まあまあ退屈せずに見れる面白さは維持してると思うんですが、どうもあんまり楽しめないんですよね。

 肩の力を抜いて気軽に見れる作品ということで地味にファンも多い作品ではあるんですが、僕はあまり楽しめない作品でした。そして、個人的にこの『ロビン・フッド』はめちゃくちゃ感想が書きづらい作品でもあります。以下、そう思った理由を書いていきます。


コメディなのになんか暗い

 本作は基本的にコメディ風味の強い王道ヒーロー物語となっています。ロビン・フッドという義賊のキツネが相棒のクマのリトル・ジョンと一緒に、プリンス・ジョンの圧政から人々を救う話なんですよね。ミッキーマウスシリーズを彷彿とさせるような動物たちの擬人化キャラクターによる絵柄とシンプルで分かりやすい勧善懲悪なストーリーゆえに、肩の力を抜いて気軽に見れる話になってはいます。実際、本作品を好きだという人の多くはその点を評価してるんだと思います。

 でも、そういうコメディにしてはこの作品はちょっと雰囲気がどことなく暗いんですよね。例えば『白雪姫』や『ピノキオ』などの初期ディズニーもしばしば「暗い」という感想を聞くことが多いですが、『ロビン・フッド』の暗さはそれらの暗さともまた違う方向性の暗さなんですよね。例えば『白雪姫』や『ピノキオ』も暗い陰鬱なシーンはありましたが、その暗さはちゃんと音楽や映像でも表現されており、それゆえにそういう「演出」だとして受け入れることができる類の暗さです。物語に適度な暗さを持たせることで作品をシリアスなものにしようという意図もあったのかもしれません。でも、『ロビン・フッド』の暗さはそういうのとは違います。

 絵柄はコミカルで「軽い」ままなのに、その絵柄で描写されている物語の内容が「暗い」んですよね。特に、住民たちが牢屋に入れられるシーンが何とも言えないエグさを醸し出しています。そもそも、政府の重税による貧困の拡大というテーマが戯画化されてるとは言え、ちょっと大人向けでビターな内容なのかも知れません。シェリフ・オブ・ノッティンガムが子供や老人たちから税を搾り取るシーンやその結果として貧困に喘ぐノッティンガムの様子も妙にエグいしリアルなので暗い雰囲気を感じさせます。

 じゃあ、そういう暗さがシリアスなテーマを生み出してるのかと言ったら、全然そんなことはなくて本作はあくまでも「お気楽なコメディ」として話が描写されるんですよね。このアンバランスさが自分にはイマイチに感じた原因なんだと思います。感動したり深く考えさせられたりするようなシリアスさはない一方で、完全にコメディに振り切れてはいない暗さの残る作品なんですよね。


ストーリー

 とは言え、本作品のストーリーはそれなりに面白いです。『王様の剣』のような根本的にストーリーが破綻してる箇所もなく、ラストもそこまで無理やりな終わりという気はしません。そう言う意味で、飽きずに見られる展開にはなっています。でも、めちゃくちゃ興奮して後先が気になるような展開になってるようにも感じないです。

 なんというか「減点もないけど加点もない」作品なので、とても感想が書きにくいんですよね、この作品。王道のストーリーを展開してるのでそれなりに面白くも見えるのですが、一方で目新しくて興奮するような展開や感動するメッセージとかも何一つないんですよね。コメディとして見てもそんなに笑えるようなシーンがあるわけでもないです。

 アクションもそれなりに緊張感はあるので退屈ではないんですけど、目新しさはないんですよね。主人公ロビン・フッドは武力よりも知恵を働かせるタイプのヒーローなんですが、その割りには彼の練る策略って「別人に変装する」のワンパターンなのであんまり面白くないです。「おお!面白い作戦だ!」っていう感激がないんですよね。

 本作品では主に山場となるシーンが二つあるんですけど(マリアン救出作戦とタックたちの救出作戦)、そのどちらもこれと言って特筆すべき点があまりないんですよね。つまらなくはないんですけど、面白くもない。単なる子供向けのドタバタコメディ程度にしかなっていない気がします。その割りにはタック救出に至るまでの展開は暗いし、あんまり笑える内容でもないですが……。


世界観が生かせてない

 『ロビン・フッド』の原作は中世イングランドの有名な伝説であり、原作の舞台はリチャード1世時代のイングランドです。しかし、この作品では実際の中世イングランドではなく、擬人化された動物たちの住むイングランド風の王国が舞台になっています。そうすることでコミカルな作風にすることを狙ったのかもしれませんが、その結果良くも悪くも「ロビン・フッドの伝説を動物たちで描いただけ」になってるんですよね。ロビン・フッド伝説が元々内包していたジョン王の妙にリアルな残忍さと圧政などの暗い雰囲気はそのままに、ただ動物たちの絵柄だけでコミカルさを醸し出そうとしてるからか「シリアスにもコメディにもなりきれない中途半端」な作品に留まっている印象があります。

 そして、動物たちの擬人化という世界観が「コミカルさの演出」以上の効果をほとんど発揮してないんですよね。動物擬人化ならではの面白い発想はほとんど見られず*2、「別に人間キャラクターでも良くない?」みたいな映像が続くだけなんですよね。ゾウが鼻を使ってラッパみたいなことするのだって、『ジャングル・ブック』とかの二番煎じだし、とにかく発想に新しさを感じない。

 当時のディズニー作品の歴史を考慮しても、動物擬人化によるコメディって発想はミッキーマウスシリーズ以来ずっとディズニーがやってたことなので目新しさのある世界観ではないですからね。ないものねだりのような感想なのは自覚してますが、「せっかくの独特な世界観なのにそれを生かした面白い発想が全然見られない」という感想がどうしても出てきてしまうんですよね。


良くも悪くもフツ―

 ここまで、『ロビン・フッド』の難点ばかりを述べてきましたが、決して「つまらなくはない」んですよね。繰り返しになりますが、「減点箇所はほぼない」ので見てて退屈する箇所はないです。肩の力を抜いて気楽に息抜きで見る分には満足できる作品だと思います。

 ただ、やっぱり「加点箇所もほぼない」んですよねえ。だから、「こういう展開や発想を見せてくれたら加点できたのに……」というないものねだりな感想になっちゃうんですよね。この『ロビン・フッド』は、特筆してダメ出ししたい箇所もなければ、特筆して褒めたい箇所もない作品なんですよね。そういう意味で、僕にとって『ロビン・フッド』は良くも悪くも「フツ―」な作品ですね。繰り返しますが、決してつまらなくはないです。でも興奮するほど面白くもないです。そんな作品です。







 以上で、『ロビン・フッド』の感想を終わりにします。次回は『くまのプーさん 完全保存版』の感想記事を書こうと思います。それではまた。

*1:その後、色々あってウサギのジュディを主人公にすることに変更しましたが。

*2:強いて挙げればヘビのヒスが風船を使ってヘリコプターみたいなことしてた点ぐらい