tener’s diary

てねーるのブログ記事です

【ディズニー映画感想企画第38弾】『ファンタジア2000』感想~60年ぶりの続編~

 お久しぶりです!!ものすごく久しぶりの更新となってしまい申し訳ありません。ようやく更新できそうな目途が立ってきたので、これからはまた定期的に記事を更新していきたいと思います。*1
 ということで、ディズニー映画感想企画第38弾です。今回は『ファンタジア2000』の感想を書こうと思います。

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【基本情報】

ウォルトの悲願の結実

 『ファンタジア2000』は1999年*2に公開された38作目のディズニー長編アニメーション映画です。タイトルから容易に分かる通り、1940年に公開された3作目のディズニー長編アニメーション映画『ファンタジア』の続編です。まさに60年振りの続編なんですよね。

 60年前の前作『ファンタジア』は、【ディズニー映画感想企画第3弾】『ファンタジア』感想~実験的な芸術作品~ - tener’s diaryの記事でも述べた通り、ウォルト・ディズニー氏にとってかなり意欲的な実験作でした。「アニメーションと音楽を融合させた新しい芸術作品」を作ることにかなりの期待を膨らませてたんですね。しかし、当時『ファンタジア』は興行的には成功せずウォルト・ディズニー氏にとって残念な結果となってしまいました。『ファンタジア』制作時のウォルト・ディズニー氏は、この作品内の曲やアニメーションを定期的に入れ替えてコンサート形式の映画にすることを計画していましたが、その計画もウォルトの存命中には結局実現しませんでした。

 そのような悲しい結果に終わった映画『ファンタジア』ですが、その公開からおよそ60年経った1999年にその続編が新たに公開されることが決定しました。ある意味、『ファンタジア』をシリーズ化したいというウォルトの夢が60年ぶりに叶ったのだと言えるかも知れません。本作品の企画を強く持ちかけたのはロイ・E・ディズニー氏*3でした。叔父ウォルトの悲願を叶えてあげたいという強い思いがあったからなのかは分かりませんが、とにかく彼はマイケル・アイズナー氏*4に強く働きかけ、60年ぶりとなる『ファンタジア』の続編を作ることを認めさせたのです。

 そして、ロイ・E・ディズニー氏が制作総指揮となって、この『ファンタジア2000』の制作を進めたのでした


新たな音楽や映像とともに

 1940年公開の『ファンタジア』のほうではレオポルド・ストコフスキー氏の指揮のもとでフィラデルフィア管弦楽団が演奏しましたが、60年後に公開された本作『ファンタジア2000』では今度はジェームズ・レヴァイン氏のもとでシカゴ交響楽団が演奏しました。シカゴ交響楽団フィラデルフィア管弦楽団と同じくアメリカ5大オーケストラの一つであり、そのネームバリューは60年前の『ファンタジア』に並ぶと言えるでしょう。また、指揮者のジェームズ・レヴァイン氏も当時20世紀後半を代表する著名な指揮者の一人でした*5。このように、本作『ファンタジア2000』も60年前の前作に負けず劣らず、音楽面でのクオリティを高く追及したのです。

 もちろん、それと同時にアニメーション映像でのクオリティ追及も忘れませんでした。本作品は、当時アニメーション映画界に進出し始めていたIMAXという新しいタイプの上映システムで公開されました。通常の映画よりもはるかに大きなサイズの映像で上映されることがIMAXの特徴であり、本作品ではその巨大なスクリーンに相応しいようなアニメーション映像の作成にチャレンジしたのです。

 そんなこんなで本作品の制作は進み、タイトルに合わせて2000年に公開されました*6。本作品の興行収入は前作『ターザン』や前々作『ムーラン』などに比べるとかなり少額でした。桁が一つ違うレベルです。しかし、これは本作品が不評だったからではなく、本作品が先述した主にIMAXの設備のある劇場だけで公開されたためです*7。今もそうですが、IMAXで映画が見れる劇場って少ないので、どうしても普通の映画に比べて興行収入は下がってしまうんですよね。あくまでも「IMAX公開作品」の中で比べれば、むしろ本作品はかなり良い興行成績を収めていると言えます。

 つまり、IMAX公開作品であることを考慮したうえで判断すれば、本作『ファンタジア2000』も商業的には十分成功したディズニー映画だったと言えるでしょう。IMAX向け作品ということもあってか、それまでのディズニー映画に比べて知名度が若干低い気もする本作品ですが、まだまだ第二期黄金期のディズニーの底力は見せているほうなんじゃないかと僕は思います。まあ、間もなくディズニーが暗黒期に突入する時代に作られた作品ではあるんですけどね。このように、本作品に関しては商業的に成功したこともあってか暗黒期の作品としてカウントされることは少ないです。むしろ、前作『ターザン』までではなく本作『ファンタジア2000』までを第二期黄金期の区切りとして採用することもできると思います。*8





【個人的感想】

総論

 実は子供の頃の僕は1940年のオリジナルの『ファンタジア』よりも、この続編である本作『ファンタジア2000』のほうがまだ好きでした。以前書いた【ディズニー映画感想企画第3弾】『ファンタジア』感想~実験的な芸術作品~ - tener’s diaryの記事でも、子供の頃の僕には『ファンタジア』はとても退屈で眠くなる作品だったと述べました。まあ、あまりにも「芸術性」を求める余り「ストーリー性」が皆無すぎてつまらなかったんですよねえ。しかも無駄に長いし。

 そんな前作『ファンタジア』の(子供の頃の僕目線での)欠点を本作『ファンタジア2000』はおおよそ解消しています。まず、上映時間が2時間以上もあった前作『ファンタジア』と異なり、本作『ファンタジア2000』の上映時間はわずか75分です。これは標準的なディズニー長編アニメーションの長さであり、その点で本作品は「冗長過ぎた」という前作の欠点をおおよそ克服してると言えるでしょう。

 しかも、前作『ファンタジア』のようなストーリー性のないアニメーションは本作品にはあまりなく、ほとんどのアニメーションに見ていてわりと楽しめる感じのストーリーが付いています。だから、本作品は『ファンタジア』ほどには「眠く」ならずに観られるんですよね。この点も『ファンタジア』での欠点を克服した点だと言えるでしょう。

 そんな訳で、実は『ファンタジア2000』は『ファンタジア』よりもかなり万人向けとして他人に薦められる作品だなあと思います。「典型的な現代アート」って感じの作品に苦手意識があったり、そういう作品を前にすると眠気が抑えられなかったりするような人は、『ファンタジア』よりも先に『ファンタジア2000』を観た方が良いかも知れません。

 本作品も前作『ファンタジア』と同様に曲ごとに一つのアニメーション映像が付くという構成になってるので、以下の章では曲ごとに感想を書いていきます。


交響曲第5番

 『運命』という通称でも知られるベートーヴェンの超有名曲ですね。クラシック音楽に全く興味ない人でもこの曲だけはみなさん知ってるんじゃないでしょうか。まあ、有名な曲だけあって演奏にはかなり引き込まれます。あの有名な「ダダダダーン」っていうフレーズが何度も出てくる度に興奮しますねえ。

 そして、その音楽に合わせて流れるアニメーション映像なのですが、これが完全なる抽象画でストーリーがないんですよねえ。まあ、これは前作『ファンタジア』の1曲目『トッカータとフーガのニ短調』もそうだったから、それに合わせてのことなんでしょう。【ディズニー映画感想企画第3弾】『ファンタジア』感想~実験的な芸術作品~ - tener’s diaryの記事でも述べたように、子供の頃の僕にはこの抽象的な映像が延々と続く演出は退屈極まりなくて苦手でした。

 ただ、『ファンタジア』のそれと違い、本作ではこの1曲目の「抽象画がひたすら続くシーン」はかなり短いんですよね。『トッカータとフーガのニ短調』は9分以上あったのに対し、本作の『交響曲第5番』はわずか3分程度しかないんですよね。なので、『ファンタジア』の1曲目に比べると集中力を維持して鑑賞し続けることが子供の頃の僕にもできました。その点で本作のほうが「マシ」でしたね。


ローマの松

 この曲では、曲のタイトルとは全く関係ない内容のアニメーション映像が流れます。これは前作『ファンタジア』の『春の祭典』や『田園』でやったことと同じでしょう。『ローマの松』というタイトルの制約に縛られずにアニメーターたちが自由に想像力を働かせた結果、この「極寒の氷の地で海や宙を泳ぐクジラ」のアニメーションを表現したんでしょう。

 当時のウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオのCG技術が大いに生かされた綺麗な海や夜空やオーロラの映像が魅力的です。特に、僕は海の絵が好きですねえ。とても綺麗で幻想的でうっとりする映像になっています。

 ただ、少し難点を上げますと、このシーンはちょっと長すぎるんですよね。あんまり大したストーリーがあるわけでもないのに10分も続くのでぶっちゃけ途中で飽きて眠くなってきます。僕は海の映像が好きだったので何とか耐えて見続けられましたが、それでも正直ちょっと飽きる。


ラプソディ・イン・ブルー

 この曲のシーンはかなり好きですね。ただ、それは単に僕が元々このガーシュウィンの『ラプソディ・イン・ブルー』という曲が大好きだからという理由も大きいです。僕は一番好きな作曲家を聞かれたらその一人には必ず彼を挙げるぐらいにはガーシュウィンが大好きで、特に彼のこの『ラプソディ・イン・ブルー』は昔から何度も繰り返し聴いていたぐらいには好きな曲なんですよね。このシーンもかなり長いんですが、『ラプソディ・イン・ブルー』のジャズ風の曲想が何分経っても飽きずに聴いていられるので、この前の『ローマの松』と違って全く飽きずに僕は鑑賞し続けられました。

 なお、このシーンでのアニメーションは少し独特で、ディズニーにしては珍しいカートゥーン風の平面的な絵になっています。これは、このシーンのアニメーションを担当したのが有名な風刺画家のアル・ハーシュフェルド氏だったからです。彼の風刺画らしい独特な画風が存分に出ている絵になっています。前曲のCGを思い切り使った立体的な画風とは対照的な、ある意味「現代アート」っぽいこの画風は、これはこれで味のある良い絵だと思います。僕は嫌いじゃないですね。

 また、このシーンでのアニメーションにはちゃんとそれなりに見れるストーリーが付いてます。ニューヨークを舞台に繰り広げられる何人かの登場人物たちの日常を群像劇で見せるストーリーに仕上がっています。別に、ストーリー自体は取り立てて面白いというほどのものでもないですが、移り変わりが多く楽しいジャズ風の音楽と独特な画風で変化するアニメーション映像とを一緒に見せることで、飽きずに眠くならずに観続けられるようなシーンになっています。好きだなあ。


ピアノ協奏曲第2番アレグロ

 この曲のシーンも好きですねえ。ショスタコーヴィチのこの曲に合わせて、有名なアンデルセン童話『しっかり者のスズの兵隊』のアニメーションが流れる名シーンです。『ローマの松』と同じくディズニーらしいCGの良さが存分に出た、立体感のある綺麗な映像に仕上がっています。

 原作がアンデルセン童話だけあって、ちゃんとしたストーリーのあるアニメーションなので全く飽きずに見続けられます。その点も高評価ポイントです。原作と違ってハッピーエンドに改変されているんですが、そのハッピーエンドへの改変も含めて僕の好きなストーリーですね。『ピアノ協奏曲第2番アレグロ』の曲の流れや雰囲気に見事に合ったストーリー運びになっており、その点も含めてかなりの良作だと思います。

 特に印象に残っているシーンは、排水溝の中を兵隊が通るシーンですね。不気味な雰囲気が良く演出された素晴らしいアニメーション映像に仕上がっていると思います。


動物の謝肉祭より「終曲」

 さっきまでとは打って変わって今度はかなり短いシーンです。『ラプソディ・イン・ブルー』のシーンと同様にカートゥーン風の平面的な絵柄ですが、『ラプソディ・イン・ブルー』の画風とはまた少し違うタイプの絵柄です。

 この曲の演奏自体はとても楽しくて聞きごたえがあります。高い音域で繰り出されるサビのメロディがとても軽やかで爽快感あふれるコミカルな良曲だと思います。ただ、それに合わせて流れているアニメーションは普通ですかねえ。フラミンゴにヨーヨーを与えるという発想は絵面的に面白いので好きですが、大したストーリーもなく一瞬で終わるからか、アニメーション自体はそんなに深く印象に残るほどのものでもないですね。つまらないってほどではないし、嫌いでもないけど。


魔法使いの弟子

 ここだけは1940年の『ファンタジア』と全く同じです。前作『ファンタジア』へのリスペクトの意味を込めて敢えて残したらしいです。まじで寸分違わず一緒なので、感想も【ディズニー映画感想企画第3弾】『ファンタジア』感想~実験的な芸術作品~ - tener’s diaryで書いたのと全く同じです。


威風堂々第1番・第2番・第3番・第4番

 これもわりと観ていられる面白いストーリーが付いたアニメーションだったので飽きずに鑑賞できましたね。旧約聖書の『ノアの方舟』にドナルドダックとデイジーダックを登場させたストーリーが、エルガーのこの有名な曲に合わせて展開していきます。ドナルドの短編らしい適度なコメディも挟みつつ、ラストのデイジーとの再会ではちゃんと少し感動させてくれる良質な短編アニメーションに仕上がってると思います。

 あと、やっぱりこのエルガーの『威風堂々』という曲自体がすごく良いんですよね。サビの盛り上がりが凄まじい名曲なので、こういうストーリーの演出に見事に合っていると感じます。方舟が新しい地に着いたシーンに合わせて、この曲の一番盛り上がるサビが流れていますが、その音楽のおかげでかなり盛り上がりの大きいシーンになっていましたね。

 前曲『魔法使いの弟子』と並んで、「アニメーションのストーリーと音楽の融合」がきちんと出来ている作品だと言えるんじゃないんでしょうか。要所要所における音楽による演出の仕方が上手いと思います。こういうのは、やっぱりミュージカル映画を長年作り続けたディズニーだからこその業なんでしょうね。


火の鳥

 最後の曲です。多分この映画で一番有名なシーンじゃないでしょうか。ストラヴィンスキーの名曲に合わせて、自然の緑の中での妖精(スプライト)の物語が繰り広げられます。曲自体が、盛り上がる箇所と静かな箇所の対比がかなり強い構成になってるんですよね。そういう曲自体のメリハリに上手く合った形でアニメーションのストーリーも展開しているので、前曲『威風堂々』などと同様に音楽演出がかなり上手い作品として見られるんですよね。

 ただ、この曲はメリハリが大きいゆえにその「静かなシーン」が長くて少し退屈なので、そこだけは難点かなあと思います。まあその分対照的に、盛り上がるシーンはかなり目を見張る出来になってるので全体としては文句ないんですけどね。特に、火山の中から火の鳥が現れて妖精を襲うシーンと、そのせいで荒れ地となった場所に再び緑が蘇る終盤のシーンは、どちらも盛り上がりが非常に強くて印象的なシーンだったと思います。

 あと、映像も全体的にとても綺麗でしたね。火の鳥として襲いあがる溶岩、妖精の力で溢れる自然の緑、それらがディズニーのアニメーション技術によってかなり美しく描写されているんですよね。一つの絵として見ても非常に見応えのある素晴らしい絵に仕上がってると思います。こういう画風は個人的にとても好きですねえ。美術館に飾って鑑賞したいタイプの絵です。


初心者でも見やすい芸術作品

 最後にまとめを述べます。この『ファンタジア2000』は前作『ファンタジア』の難点をおおよそ克服したことで、わりと万人向けの鑑賞しやすい作品になったなあと感じます。前作『ファンタジア』は「良くも悪くも芸術的すぎる」作品だったので、ぶっちゃけそういう現代アートにあまり興味ない人にとっては眠くて退屈な作品だったと思います。実際、子供の頃の僕はものすごくダルくて眠かったです。

 それに対し、本作『ファンタジア2000』は全体的にちゃんとストーリーのついてる作品が多く、そのうえ上映時間も短かったので、飽きることなく見続けられたなあと感じます。『ラプソディ・イン・ブルー』以降のアニメーションはどれも途中でそんなにダレることなく見続けられる程度の面白さはあります。そういう点で、本作『ファンタジア2000』のほうが60年前の『ファンタジア』よりも僕はむしろ好きだったりしますね。

 「音楽とアニメーションの融合による芸術」という点から見ても本作品はわりと良く出来ていますしね。映像と音楽の組み合わせによる演出はやはり上手いです。また、アニメーション映像についても、CGを大いに活用した立体的なアニメーションからカートゥーン風の平面的なアニメーションまで、わりと色んなタイプのアニメーションが見られてわりと見ごたえがありますね。アニメーションの作り手としてのディズニーの凄さを改めて認識できた気分になります。

 そんな訳で、本作『ファンタジア2000』は他のディズニー映画に比べるとやや知名度は低いですが、十分に良作と言える作品だと僕は思います。僕はわりと好きな作品ですね。







 以上で、『ファンタジア2000』の感想記事を終わりにしたいと思います。更新間隔がめちゃくちゃ空いてしまい、大変申し訳ありませんでした。今後は主に週末の土日での更新になるかと思われます。次回は『ダイナソー』の感想記事を書こうと思います。

*1:ただ、今後は平日の更新は厳しいので主に毎週末の更新になると思います。

*2:プレミア公開が1999年12月にされているので、1999年を公開年とするのが正しいですが、一般公開はタイトルの"2000"の文字が示す通り2000年1月1日でした。

*3:ウォルト・ディズニー氏の兄ロイ・O・ディズニー氏の息子です。つまり、ウォルトの甥に当たる人です。

*4:当時のウォルト・ディズニー・カンパニーのCEOです。

*5:なお、当初の構想段階ではレヴァイン氏ではなくレナード・バーンスタイン氏(同じく20世紀のクラシック音楽界を代表する世界的に超有名な巨匠とも言うべき指揮者です)に本作品の指揮を頼もうとしてたらしいのですが、本作品の制作が本格的に始動する前にバーンスタイン氏は亡くなってしまったためこの試みは潰えたそうです。

*6:先述の通り、プレミア公開は1999年。

*7:正確に言うと、IMAXだけでの公開から約半年後には、通常の劇場での公開も行っています。とは言え、半年も後のことなのでその頃にはすでにちょっと旬は過ぎてましたし、基本的にはその前のIMAX限定公開がメインだったと考えて差し支えないです。

*8:逆に言えば、次作『ダイナソー』以降は正真正銘の「暗黒期」扱いされていると言って構わないでしょう。ディズニー贔屓のファンですら多くの人がその事実を認めています。