tener’s diary

てねーるのブログ記事です

【ディズニー映画感想企画第8弾】『メイク・マイン・ミュージック』感想~寄せ集めの短編集~

 ディズニー映画感想企画第8弾です。今回は、WDAS長編アニメーションの中でもかなりマイナーなほうの部類の作品だと思われる『メイク・マイン・ミュージック』の感想を書こうと思います。

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【基本情報~売れ残り一掃セール~】

 『メイク・マイン・ミュージック』は第二次世界大戦終結後の1946年に公開された8作目のWDAS長編アニメーション映画です。と言っても、この作品も『ラテン・アメリカの旅』や『三人の騎士』同様に事実上は短編集です。この作品の公開時期は戦争終結後の1946年ですが、制作自体は第二次世界大戦中に進められていました。今までの記事で述べたように、第二次世界大戦中のディズニー・スタジオは長編アニメーションの作成をやめて政府向けの短編アニメーションを主に作り続けており、前々作『ラテン・アメリカの旅』や前作『三人の騎士』もそんな政府向け映画でした。

 こうして、初期ディズニー作品のような長編アニメーションの制作をすっかり諦めたディズニーは、その代わりに、以前からアイディアだけは温めていた短編アニメーションを繋ぎ合わせることで「長編アニメーション」扱いにして売り出すことを決めました。つまり、未消化アイディアの寄せ集めです。その第一号が『メイク・マイン・ミュージック』でした。

 『メイク・マイン・ミュージック』は、ディズニーがかつて『ファンタジア』の続編にしよう*1と考え温めていたアイディアを10個ほど集めただけの作品です。そのため、個々の短編では『ファンタジア』同様にそれぞれ何かしらの曲が流れ、その曲に合わせたアニメーション映像が流れるという作りになっています。

 この作品の制作にはウォルト・ディズニー氏自身もあまり熱心ではなかったらしく、制作コストも少なめでした。それゆえに本作品は「ウォルトの売れ残り一掃セール」と冗談気味に呼ばれてもいます。この『メイク・マイン・ミュージック』以降しばらくこのような「売れ残り一掃セール」的な作品が立て続けに公開されます。第二次世界大戦中のディズニー・スタジオにはボリュームのある長編アニメーションをがっつり作る余裕はなかったということです。


【個人的感想】

総論

 同じ短編集映画でも『メイク・マイン・ミュージック』は『ラテン・アメリカの旅』や『三人の騎士』と違って、本当に「色んな短編を雑多に持ってきて並べただけ」という感じが強いです。『ラテン・アメリカの旅』や『三人の騎士』は「ラテンアメリカ諸国の紹介」という基本コンセプトのもとに、個々のアニメの間に一応「つなぎ」のストーリーがありました。しかし、『メイク・マイン・ミュージック』はそういう繋ぎも全体を貫くストーリーもなく、ただ短編を並べただけなので「手抜き」っぽさを強く感じます。まあ戦時中の苦しい状況下での制作だから仕方のないことなんでしょうけど、実際そのせいで作品全体のクオリティは低く感じられる出来になっています。

 以下、各短編の感想を述べます。


谷間のあらそい

 「内容が暴力的」という理由でこの作品だけは現在発売のDVDではカットされています。そのため現在の視聴は困難なのですが、日本では著作権が切れてるので、ちょっと頑張れば合法的に視聴可能です。

 内容は、ロミオとジュリエットみたいな話をコメディにした感じです*2。オチは意外と笑えるのでまあまあ面白い作品だと思います。カントリー風の音楽もなかなかに良い。わりと耳に残ります。

 カットされた理由である暴力描写は正直言って大したことないです。単に銃を撃ち合うシーンがあるだけです。子供向けにしてはやや暴力的というだけの話で、大人が見る分には大したことないシーンだと思います。もっと暴力的なアクション映画なんてごまんとある。


青いさざなみ

 『ファンタジア』で『月の光』に使うつもりで用意していた映像の再利用です。『ファンタジア』制作時に『月の光』のシーンが完全カットされたことで要らなくなった映像をこの映画のために再利用したわけです。そのため、『ファンタジア』と同じくセリフが一切流れないアニメーション映像になってるんですが、正直言って映像はひたすらつまらないです。単に鳥が戯れるだけのセリフなしのアニメーションを延々と見せ続けられても退屈なだけです。流れている曲ものんびりとしたバラードなので、それが余計に眠気を誘発します。微妙な作品ですね。


みんなでジャズを!

 ジャズ好きならば誰でも知っている超有名人である‟キング・オブ・スウィング”ことベニー・グッドマン氏の楽団の演奏に合わせて、少年少女が踊りまくる映像が流れるアニメーション。ベニー・グッドマン氏提供だけであって音楽は確かに素晴らしいんですが、アニメーション映像のほうは大したことないです。カートゥーン的な絵柄でひたすら踊るだけの単調なストーリーだし、演出も凝っている訳ではない。音楽しか楽しめない作品ですね。


あなたなしでは

 またもや退屈な作品。アンディ・ラッセル氏*3が歌うバラ―ド風の曲に合わせて、面白味のない自然界の風景画が延々と流れるだけです。ミュージック・ビデオを見てる気分で音楽だけに注目して聞かない限り、ぶっちゃけ眠くなります。


猛打者ケイシー

 これはちゃんとしたストーリーのあるアニメーションです。この前までの3作が大したストーリーのない退屈な話だったので、それらの退屈な作品からの流れで見てみると、相対的にこの話がわりと面白く感じます。『ケイシー打席に立つ』という有名なアメリカのポエムが原作なんですが、コメディとしてしっかり笑えるオチになっていて面白いです。野球のルールとか全然分からない僕でも楽しめた。ちゃんと起承転結の流れが出来ている点が良かったんだと思います。

 ぶっちゃけ、ケイシーがなんで作中で観客たちから人気を博しているのか全然分からないんですけど、それ故にケイシーのコミカルなキャラクター性が際立っていて、余計に笑いを誘う内容に仕上がっていましたね。一緒に流れる音楽も良いです。コメディ風の楽しげな曲調になっています。


ふたつのシルエット

 また退屈なアニメーションに戻ります。歌に合わせて二人のダンサーが踊るシルエットとアニメーションの映像がひたすら流れるだけです。眠くなる作品。


ピーターとおおかみ

 これはちゃんとストーリーのあるアニメーションです。最初に、各キャラクターたちを表す楽器を紹介するシーンがあるのですが、このシーンは個人的になかなか興味深く見れました。ちゃんと楽器ごとに役割が決まっているっていうのは面白いですね。

 その後に続くメインのストーリーは個人的に「まあまあ面白い」って感想を抱きました。ピーターたちが狼に追い詰められていく中盤のシーンは、コミカルな描写のわりには意外と緊張感や絶望感のあるシーンなので良かったです。ただ、最終的にピーターが狼を倒すシーンは省略されているので、「なんでピーターはあの状況から逆転して狼に勝てたの?」って疑問に思っちゃって、オチにはあまりのめり込めなかったです。緊張感のあるシーンからの逆転劇の見せ方が雑すぎて、終盤はイマイチな作品だと思いました。途中まではまあまあ面白いです。


君去りし後

 再びベニー・グッドマン氏の演奏に合わせてストーリーのないアニメーション映像が流れます。ただ、それまでの「ストーリーのないミュージック・ビデオ風アニメ」に比べると、ここのアニメーションだけは個人的にちょっと好きです。楽器たちが意思を持った人間のように動きながらカオスな映像を繰り広げるだけのアニメなんですが、それがどことなくお洒落な雰囲気になっていて結構好みなんですよね。音楽もピアノの音が良い感じに響くお洒落な曲調のジャズなので、その点も合わせて全体的にお洒落な作風のアニメーションに仕上がっていると思います。

 長さも3分弱しかないので、あまり飽きずに見続けられる長さになっているんですよね。その点も良かったです。


帽子のジョニーとアリスの恋

 またちゃんとストーリーのあるアニメーションです。これも「まあまあ面白い短編ミュージカル」って感じでそれなりに退屈せずには見られます。帽子の擬人化のアイディアがちょっと新鮮で、面白い世界観になっています。この辺りの設定の面白さは『トイ・ストーリー』に通じるものがありますね。特に、ジョニーが町中を冒険するシーンは『トイ・ストーリー』っぽさを強く感じます。


くじらのウィリー

 これもストーリーのあるアニメーションです。ひょっとしたら『メイク・マイン・ミュージック』の中では一番有名な話かも知れないですね。*4

 ディズニーにしては珍しい悲劇的なオチのあるオペラ風ミュージカルです。この悲劇的なオチは結構意外性あるので、初見時はわりと驚きました。ただ、それだけの作品かなあ。「ディズニーにしては珍しい悲劇」というだけで、取り立てて感動する訳でも面白い訳でもない普通のストーリーです。特にこれと言った感想も出てきにくい作品です。

 なお、ウィリーの声を担当したのは有名な声楽家ネルソン・エディです。彼の声量のすごさのお陰で、音楽はなかなか聞きごたえのある作品になっています。テノールバリトン、バスの3つの声を全て出すネルソン・エディ氏はすごいですね。ストーリーは普通ですが、オペラ音楽を楽しむ作品として見る分には悪くない作品だと思います。


ピンキリな短編集

 以上述べたように、まあまあ面白い短編もあれば眠くなる退屈な作品もあって、全体的には「ピンキリだなあ」という感想に留まる作品ですね。個人的には『猛打者ケイシー』の話が一番好きですね。

 そんなわけでピンキリの作品ではあるんですが、この作品の中では‟ピン”のほうの短編―つまり比較的面白いほうの短編―も、単体で見て「傑作!」「名作!」と言えるほどの出来ではないです。あくまでも『メイク・マイン・ミュージック』の中では相対的にマシなほうってだけですね。全体的には微妙な出来の作品だと思います。冒頭で述べたように、繋ぎのシーンすらないため手抜き臭もちょっと強いです。退屈で眠くなるシーンもかなり多いですしね。第二次世界大戦期のディズニーの衰退がうかがえる作品だと思います。






 という訳で、『メイク・マイン・ミュージック』の感想を終えます。次回は『ファン・アンド・ファンシー・フリー』の感想を書こうと思います。

*1:『ファンタジア』の続編制作の企画は『ファンタジア』公開前にスタジオ内で出ていた案なのですが、肝心の『ファンタジア』が興行的に失敗したせいで『ファンタジア』公開後には棚上げとなっていました。

*2:恐らく、実際に過去にアメリカで起きたハットフィールド家とマッコイ家の有名な争いがモデルだと思われます

*3:日本では知名度低めですがアメリカではわりと有名な歌手です。

*4:ディズニーランドのフィルハーマジックのところにウィリーの絵も確か飾ってあるので。