tener’s diary

てねーるのブログ記事です

【ディズニー映画感想企画第37弾】『ターザン』感想~第二期黄金期最後の名作~

 ディズニー映画感想企画第37弾は『ターザン』の感想記事を書こうと思います。第二期黄金期後半のディズニー作品の中では恐らく一番知名度が高い作品ではないでしょうか。そんな『ターザン』について語っていきたいと思います。

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【基本情報】

莫大な制作費と最新技術

 『ターザン』は1999年に37作目のディズニー長編アニメーション映画として公開された作品です。原作は、『火星』シリーズなどでも知られるアメリカの有名なSF作家エドガー・ライス・バローズ氏の小説『ターザン』シリーズです。バローズの『ターザン』シリーズはディズニーが映画化するよりも前からアメリカで何度も映画化されており、かなり知名度の高いシリーズでしょう。そんな『ターザン』シリーズを改めてアニメ化することをディズニーは企画したわけです。

 このような話題性のある題材のアニメ化を企画したディズニーはここで更なる賭けに出ます。それが「莫大な制作費」です。ディズニーは『ターザン』の制作のために1億3000万ドルという当時のディズニーアニメ史上最高額の制作費を費やしたのです。それだけディズニーは『ターザン』のヒットに賭けていたということなのでしょう。

 例えば、本作品ではディープ・キャンバスと呼ばれる最新のCG技術が背景に使用されています。僕も詳細は良く知らないのですが、大まかに言うと、3DCGで作られた背景の上にアニメーターが直接絵を描きこめるようにする技術だそうです。これによって、非常に立体感のあるリアルな背景を描くことに成功しています。後で、個人的感想の項でも述べますが、実際このような最新技術の導入により『ターザン』の映像はディズニー史上でも屈指のクオリティに仕上がっていると感じます。


フィル・コリンズ氏の参加

 今までのディズニー映画同様に『ターザン』でも有名人の採用が行われました。中でも特筆すべきはフィル・コリンズ氏の採用でしょう。前作『ムーラン』に引き続き、今作『ターザン』でもアラン・メンケン氏は音楽制作を担当せず、代わりにイギリスの有名な歌手フィル・コリンズ*1が本作品の音楽担当に選ばれました。かつて『ライオン・キング』でも有名ミュージシャンのエルトン・ジョン氏とのコラボが話題になりましたが、『ターザン』でも同様のことを企画し、今度はそのコラボ相手としてフィル・コリンズ氏をディズニーは選んだのです。

 とは言え、本作品でのフィル・コリンズ氏とのコラボは『ライオン・キング』でのエルトン・ジョン氏とのコラボとはだいぶ内容が異なります。というのも、本作では従来のブロードウェイ風ミュージカルの要素をなくし、代わりにフィル・コリンズ氏による歌を作品内で流すことにしたのです。『ライオン・キング』ではエルトン・ジョン作曲の歌が使われはしましたが、作品内でそれを歌うのはエルトン・ジョン氏ではなく各キャラクターたちでした。一方で、『ターザン』では基本的に作中内のキャラクターは歌わず、代わりにフィル・コリンズ氏の歌声がナレーション風に流れるのです。

 1988年の『オリバー ニューヨーク子猫ものがたり』以降、第二期黄金期のディズニー映画では基本的にずっとブロードウェイ風ミュージカルの方針がとられていたので、『ターザン』でのこの新しい試みは当時のディズニーにおける一つの大きな変化でした。ディズニーは莫大な制作費や最新技術だけでなく、音楽の取り入れ方においても新しい賭けに出たわけです。


第二期黄金期最後の成功作

 このように、『ターザン』制作においてディズニーは成功のための大きな賭けを多く重ねてきました。元々何度も映像化されるほど有名だったバローズの小説『ターザン』シリーズを敢えて題材に選び、1億3000万ドルもの莫大な制作費をかけて、ディープ・キャンバスと呼ばれる最先端の技術を駆使し、有名歌手のフィル・コリンズ氏と音楽面でコラボし、従来のブロードウェイ風ミュージカルをやめる……などと言った多くの「賭け」が行われたのです。では、実際にこれらの賭けは成功したのでしょうか?

 答は大きく「イエス」と言って差し支えないでしょう。『ターザン』は4億4800万ドルもの興行収入を叩きだします。この数字は、『ポカホンタス』以降の第二期黄金期後半の作品の中ではぶっちぎりのトップであり、『美女と野獣』や『アラジン』など第二期黄金期前半の作品と並べても遜色ないぐらいの興行収入となっています。前作『ムーラン』でディズニーの興行収入が一時的に復活したことは前の記事で述べましたが、本作『ターザン』ではその「復活」がより一層強調されて示されたのでした。

 『ターザン』は商業的な成功だけでなく、批評家からの好評も獲得しています。多くの批評家が本作品に対して肯定的な評価を下し、フィル・コリンズ氏の歌う本作品の主題歌"You'll Be in My Heart"はアカデミー歌曲賞を受賞したほどです。このように『ターザン』は、『ポカホンタス』以降衰退が目立ったディズニーにとっては久しぶりの、文句なしの「成功作」となったのです。

 そして、この『ターザン』の成功をもってしてディズニーの「第二期黄金期」(ディズニー・ルネサンス)は終了したと一般的には言われています。1989年の『リトル・マーメイド』公開以来10年続いていたディズニーの第二期黄金期はここで終了し、翌年の『ダイナソー』公開以降のディズニーは再び暗黒期に入ったのです。つまり『ターザン』は、暗黒期に入る前の、まだディズニーが第二期黄金期として繁栄していた時代の、その最後を飾った成功作なんですよね。そういう意味でも、非常に歴史的意義の大きい名作だと言えるでしょう。



【個人的感想】

総論

 はい、この作品は完全に文句なしの「名作」です。第二期黄金期後期の作品の中で一番売れたのも納得の出来でしょう。それまでの第二期黄金期後半の作品も確かにそれなりに良作ではありましたが、やはり第二期黄金期前半の圧倒的な名作群に比べると相対的に劣るという印象はありました。それに対して、『ターザン』は『リトル・マーメイド』や『美女と野獣』などの第二期黄金期前半の名作たちと比べても全く引けをとらない名作だと思います。第二期黄金期後半の作品を『ポカホンタス』から順に見ていくと、本作品でいきなりレベルが格段に上がっていてかなり驚きます。

 以下、具体的にこの『ターザン』のどこがそんなにもレベル高いと感じたのかを見ていきたいと思います。


圧倒的な映像美

 やはり『ターザン』の圧倒的魅力の一つは何といってもこれでしょう。先述の通り、『ターザン』ではディープ・キャンバスという最新のCG技術が使用されており、それゆえにかなりリアリティのある背景が違和感なく再現されています。この前2作が『ヘラクレス』と『ムーラン』という、どちらも平面的で少々カートゥーンっぽい絵柄のアニメーションだったので、それらを見た後に『ターザン』を見ると、背景映像のあまりのレベルの上がり方にビビります。

 オープニングからして映像美に圧倒されます。鬱蒼と生い茂るジャングルの木々の絵のリアルさに感動し、その後にタイトルが映し出される演出にも感動します。そのあとも、難破した船の炎や海の水の映像のリアルさにものすごく感動します。特に、CGの凄さを実感しやすいのはこの「水」の映像だと思うんですよね。本作品では、滝つぼや海など至る所で「水」の映像が見られるのですが、その水の光沢具合や質感などが本当にリアルで感心するんですよね。ここまでリアリティーのある水を描けたのはディズニーのアニメーション技術の賜物だと思います。

 もちろん「水」以外の映像も素晴らしいです。『ターザン』の舞台であるアフリカのジャングルの自然が途轍もない立体感で描かれています。ジャングルを構成する一つ一つの木々の質感や影の入り具合など、本当に本物のジャングルの中にいるかのようなリアルさがあります。それでいながら、完全なフルCGではないので手描き2Dアニメーションならではの味もしっかり出ています。2Dアニメーションと3DCGを上手く調和させてここまでリアルかつ立体感のある美しい映像を見ることができるのか!と大いに感動しますね。

 これまでの第二期黄金期後半の作品って『ポカホンタス』『ヘラクレス』『ムーラン』など平面的な絵柄が多かったじゃないですか。それはそれで味がある絵だと思わなくもないんですが、やっぱり「圧倒的な感動」は薄いんですよね。ディズニーの映像技術の豪華さを感じるのはやはり第二期黄金期前半の作品や『ノートルダムの鐘』のような立体感のある映像だと思います。そして、『ターザン』のアニメーション映像は、そのような豪華な立体感のある映像の中でも最高潮に達しています。『リトル・マーメイド』に始まり、『ライオン・キング』や『ノートルダムの鐘』で一度その頂点に達したCGと手描きアニメの融合による豪華な映像美は、この『ターザン』で更なる進化を遂げています。本当に圧巻の映像美だと思います。


アクション映像の見ごたえ

 上述のような豪華な映像技術に裏打ちされてるだけであり、『ターザン』のアクションはかなり見ごたえのあるものになっています。第二期黄金期後半の作品の中ではアクション映像が一番迫力あると言っても過言ではありません。本作品のアクション映像に関して特筆すべきは、何といっても木々を滑って駆け巡る主人公ターザンの動きでしょう。ここのカメラワークが本当にすごいんですよね。

 中盤でターザンがジェーンを助けてヒヒの大群に追われるシーンがありますが、このシーンのアクションはかなりの迫力があって圧倒されます。ジャングルを縦横無尽に動き回るターザンをいわゆるカメラの「長回し」によって常に追い続ける映像が、ディズニーのアニメーション技術の優秀さを十分すぎるほどに実感させるクオリティに仕上がっています。本当に、この「長回し」が素晴らしいんですよね。ターザンのとても激しい動きをひたすらカメラが追いかけ、しかもレベル高い背景の映像もちゃんとそれに合わせて違和感なく映り続けている。実写でこのレベルのスピード感ある長回しアクションを撮影するのはほぼ不可能だと思うので、アニメーションならではの演出だと思います。

 ターザンと言えば蔦を持って移動しまくるアクションが昔から有名であり、本作品でもそのアクションは再現されていますが、本作品はそれとは別に新しいタイプのターザンのアクションとして木の枝を滑りまくるアクションを取り入れたんですよね。この新しいアクションを通してディズニーはアニメーション技術の限界に挑んだのだと感じます。先述のヒヒに追われるシーン以外にもターザンが木々の上を滑ってジャングル中を駆け巡るアクションシーンが本作品の至るところで出てきますが、そのどれもがかなり見応えのある映像に仕上がっています。こういうクオリティの高いアクション映像には本当に興奮しますね。

 ディープ・キャンバスという最新技術を使って背景のクオリティを上げ、そのうえでカメラの長回しによって木々を滑ったり蔦を持って移動するターザンの素早い動きを追いかけるという発想がまず素晴らしいですし、しかもその発想がちゃんと成功している点も素晴らしいです。本当に、狙い通りの臨場感あふれるアクション映像が凄すぎて圧倒されますなあ。


豊富なアクションシーン

 ジャングルを駆け回るターザンの華麗なアクションのみならず、本作品には多くのアクションシーンが存在ます。アクションシーンの量は恐らく歴代ディズニー映画の中でもこの『ターザン』がトップレベルなんじゃないでしょうか。それぐらい、本作には見応えのあるアクションシーンが多いです。

 まず序盤からしていきなり緊迫感のあるアクションシーンが出てきます。カーラが赤ん坊のターザンを助け出し彪のサボーから逃げるシーンですね。ここのサボーはかなりの怖さがあります。赤ん坊のターザンが今にもサボーに食われそうなこのシーンは非常にハラハラドキドキさせてくれて、良い緊張感のあるアクションに仕上がってると思います。

 そして、成長したターザンがこのサボーと戦うシーンが中盤で再び出てきます。このシーンは前半のクライマックスでしょう。先述したターザンの動きを長回しで映したアクション映像も見られ、非常に迫力ある戦闘シーンになっています。とにかくサボーが本当に怖いんですよね。頻繁にターザンをピンチに陥らせるので、見ていて本当にハラハラします。それゆえにスリル満点で動きも激しい最高のアクションになっているんですよねえ。サボーを見事に倒したターザンがお決まりの「アーアアーアアー」という掛け声を叫ぶシーンは本当に感動します。

 もう一つのクライマックスは、もちろん終盤のクレイトンたちとの戦いでしょう。ここは今までのディズニー映画でも見られたように、今までのキャラクターが総出でクレイトンたちと戦うドタバタ戦闘アクションになっています。中盤で出て来たヒヒ軍団まで登場するなど、なかなかに芸が細かくて素晴らしいです。ちょっと『ライオン・キング』や『ノートルダムの鐘』の終盤を彷彿とさせるような、迫力やスリルのある素晴らしい戦闘シーンになっていると思います。特に終盤のクレイトンとターザンの一騎打ちのシーンが良いですね。ターザンが銃声を真似するシーンなんか、初見だとちょっとビックリします。その後の蔦に絡まるクレイトンの倒し方もなかなかに見応えのあるアクションシーンになっています。終始画面に釘付けですね。

 その他にも、先述したヒヒの軍団にターザンが追われるシーンや序盤でタントーたち象の群れが大暴れするシーンなどアクションシーンが本作は本当に豊富です。個人的には、船の上でターザンがクレイトンの手下たちから逃げ回るシーンも素晴らしいと思いましたね。船の帆や煙突の上を上るターザンが多数のクレイトンの手下を見下ろすシーンの臨場感が半端ないです。短いシーンではありますがこれもとても見応えのあるアクションだと思います。

 また、ラストのアクション映像も素晴らしいですね。"Two Worlds"のrepriseに合わせて、ターザンとジェーンがジャングルを駆け巡るのをまたもカメラの長回しで映したこの映像はとても感動的です。カーラやタークやタントーなど、これまでのキャラが全員映っている点も良いですね。中盤のヒヒとの追いかけっこのシーン同様、そのスピード感に圧倒されます。

 当ブログではこれまでの記事で何度も「良いディズニー映画には良いアクションシーンが付き物である」と述べてきましたが、この『ターザン』のアクションシーンは、これまでの歴代ディズニー映画の中でもトップレベルの量です。しかも、映像のクオリティも高い。そういう意味で、質・量ともに歴代最高レベルの満足感を味わえるアクションシーンを『ターザン』では堪能できるんですよね。ディズニーがこれまで培ってきたアクション映像技術の一つの頂点を感じさせてくれます。とにかく凄すぎる。


音楽

 映像と並ぶ本作品のもう一つの見所はやはり「音楽」でしょう。先述の通り、『ターザン』では従来のディズニー映画に見られたブロードウェイ風のミュージカルをやめ、その代わりにフィル・コリンズ氏の歌が作品内の至るシーンで挿入されています。このフィル・コリンズの歌が本当に名曲揃いなんですよねえ。本作品はしばしば「フィル・コリンズのMV」と言われるのですが*2、実際その通りだと思います。そのMVとしての演出がかなり上手すぎて感動するんですよねえ。

 まず何といってもオープニングで流れる"Two Worlds"でしょう。フィル・コリンズ氏の感動的な歌声で、ターザンやカーラの境遇が説明されるシーンになります。ちゃんと歌詞が本作品のストーリー展開に合った内容になってるのはもちろんのこと、その音楽や映像の盛り上がりがしっかりとしているので、非常に感情を揺さぶられるMVになってるんですよね。曲の盛り上がる場面とアニメーション映像の盛り上がる場面が完全に一致していて演出の上手さを感じます。曲自体も、それ単体でもキャッチーで耳に残るエモい名曲になってます。この曲はラストでも再びrepriseされますが、先述した通りこのラストのシーンも素晴らしいです。ターザンの長回しアクションが光る感動的なエンディングになっています。

 本作品のもう一つの主題歌である"You'll Be in My Heart"も名曲でしょう。劇中では、幼いターザンをカーラが世話するシーンで流れています。カーラの歌声から始まりフィル・コリンズ氏の歌声に移るこの曲は、アカデミー歌曲賞に選ばれたのも納得の名曲だと思います。本当に感動的な歌声になっていて、ターザンに対するカーラの母性愛がうかがえる名シーンに仕上がっています。とにかくエモい曲なんですよねえ。"Two Worlds"と合わせて、何度でも聞きたくなる名曲でしょう。この2曲はともにエンドロールでも再びフィル・コリンズ氏の歌声で流れており、本作品を代表する名曲であることがうかがえます。感動的で大好きです。

 その他にも"Son of Man"や"Strangers Like Me"などのフィル・コリンズ氏の歌が流れるシーンがいくつかあります。どちらの曲もフィル・コリンズ氏の感動的な歌声が耳に残る爽やかな曲想になっています。フィル・コリンズ氏の素晴らしい歌声に沿って、ターザンの成長や心境の変化がダイジェスト形式で伝わる作りになっているんですよね。単にMVとしてエモいだけでなく、ちゃんとストーリーも進む形式になっているので、中だるみや退屈することもなく聞き入ることができます。"Son of Man"ではゴリラの家族の一員としてターザンが成長する過程が、"Strangers Like Me"ではターザンが人間たちの世界について知りジェーンに惹かれていく過程がそれぞれ描かれています。ちゃんと歌詞を通して主人公ターザンの変化を知ることができるのが良いんですよねえ。そのうえでしっかりと盛り上がるシーンや感動するシーンに合わせた音楽が流れる演出になっているので、感情を大いに揺さぶられます。

 また、本作品ではフィル・コリンズ氏の歌だけでなくタークやタントーたちによる"Trashin' the Camp"という歌も流れています。ブロードウェイ風のミュージカル要素の少ない本作品で数少ない「キャラクターたちが歌うミュージカルシーン」ですね。人間たちのキャンプにある色んな道具を楽器のように使ってタークたちが奏でるジャズ風の音楽はリズミカルでとても楽しいんですよね。フィル・コリンズ氏の歌とは違って、こっちは歌詞に特に意味のないいわゆる「スキャット」になってるんですけど、そのスキャットによるジャズ音楽がとても楽しくてキャッチーで、とにかく耳に残るんですよね。また、このシーンは『美女と野獣』のポット夫人がカメオ出演してたり、『シリー・シンフォニー』シリーズの1作目『骸骨の踊り』のオマージュと思われる骸骨のダンスシーンがあったりと、過去のディズニー作品のセルフパロディが楽しめるシーンにもなってるんですよね。こういうマニア向けの演出は嬉しくなりますね。


ターザンの心情描写の丁寧さ

 ここまで映像や音楽など演出面を主に褒めていましたが、もちろん本作品はストーリーも良く出来ています。基本的にこの『ターザン』はかつてのディズニー映画『ジャングル・ブック』とかなり似たような設定なのですが*3、ディズニー版『ジャングル・ブック』と違って今作『ターザン』はかなりヒューマンドラマの部分が丁寧に作られています。

 以前書いた『ジャングル・ブック』の感想記事【ディズニー映画感想企画第19弾】『ジャングル・ブック』感想~ウォルト・ディズニー氏の遺作~ - tener’s diaryでは、『ジャングル・ブック』において主人公モーグリの葛藤が十分に描かれていないためにラストがあまりにもあっさりしすぎた急展開になってる点が欠点だと述べました。『ターザン』ではこの欠点が完全に解消されています。最初から最後まで物語の全編に渡って主人公ターザンの苦悩に焦点を当てているんですよね。だからこそ、個々の場面でターザンが下す行動に説得力が増している。

 本作品では、ターザンはジャングルに残るべきか人間社会に行くべきかという自身のアイデンティティを巡る悩みで終始葛藤し続けてるんですよね。前半まででは、ゴリラの家族の一員として認められたいのに姿形の相違のせいでカーチャックに認められず苦悩するターザンの心情がこれでもかと言うぐらい丁寧に描写されています。本作品の長所はここだと思うんですよね。ターザンの生い立ちを巡る前半シーンの描写がとても長くて丁寧なんです。

 ジェーンたち人間が登場するのはオープニングから30分も経過してようやくなんですよね。最初の30分間はターザンが自身の異形さに悩みながらもゴリラの家族の一員としてアイデンティティを育んでいくまでの過程が丁寧に描写されており、それゆえにターザンの複雑な悩みに自然と共感できるようなストーリーになってる。カーラの母性愛に支えられ、タークやタントーという親友を得て、最終的には宿敵サボーを倒すことでカーチャック以外のゴリラのみんなからは家族のヒーローとして認められるまでの過程を十分に描いてるんですよね。このサボーを倒すシーンは完全に前半パートのクライマックスであり、短編アニメーションだったらここで話が一端終わってもおかしくないでしょう。姿形が異なるにも関わらずターザンがゴリラの家族のヒーローとして成長し成功していく過程を描いたそのドラマに感動します。

 そして、後半ではそんなターザンの心境がジェーンたち人間と出会うことで変化する過程が描かれています。"Strangers Like Me"の歌で描写されている通り、ターザンは初めて自分と似た容姿の「人間」たちを見たことで次第に彼らの社会にも惹かれていくようになるんですよね。『ジャングル・ブック』でも主人公モーグリがラストで急に会った人間の少女に一目惚れして人間社会に行ってしまう展開がありましたが、あっちはモーグリの心境の変化があまりにも唐突すぎて完全に視聴者置いてけぼりの急展開になっていました*4。しかし、今作『ターザン』では、前半30分を通してターザンが自分のアイデンティティに悩んでいたことが十分に描写されていたため、彼が自分と似た姿の人間に興味を抱く展開になっても十分納得できるんですよね。

 実際、カーチャックが家族を守るために人間との接触を禁じたことにターザンが反発するシーンがあります。ターザンは、カーチャックが自分や自分と同じ姿の人間たちを遠ざけようとしていることに対して不満を抱いていることがこのシーンからもうかがえます。前半30分を通してターザンとカーチャックとの間の確執が十分に描かれていたからこそ、このシーンにも説得力が増しているんですよねえ。「姿形の相違」ゆえにカーチャックから家族の一員として認められずに悩んでいたターザンが、自分と同じ姿形をするジェーンたち人間に惹かれるのは自然なことであり、そこには『ジャングル・ブック』のラストのような「唐突な急展開」感は全く見られません。丁寧に作られているストーリーだと思います。


ジャングル・ブック』の上位互換

 上述のような理由で人間世界に興味を持ちジェーンへの恋心まで抱きはじめたターザンは、カーチャックとの敵対がきっかけでとうとう人間界に行くことを選びます。この選択結果は『ジャングル・ブック』のラストでのモーグリの行動と同じですが、『ジャングル・ブック』と違ってターザンがその決断を下すに至るまでの心境変化の描写が丁寧なので唐突さは感じさせません。ジャングルのゴリラ家族の一員なのか人間なのかで悩むターザンのアイデンティティの葛藤が丁寧に描かれていたからでしょう。

 しかも、『ジャングル・ブック』のモーグリがバギーラやバルーにほとんど見向きもせずあっさりと人間社会に戻ったのとは違い、ターザンは人間社会に戻ることを決意した時に育ての母であるカーラにしっかりと別れの挨拶を述べ、涙しながら別れています。『ジャングル・ブック』のモーグリに見られたような薄情さはターザンからは感じられません。カーラのほうも、バギーラみたいなパターナリズム的な押し付けをするのではなく、あくまでもターザンの意思を尊重して「あなたが幸せならば構わないわ」と言ってターザンを送り出すんですよね。この親子愛は何度見ても本当に泣けます。

 途中までのターザンの行動は『ジャングル・ブック』とほぼ同じにもかかわらず、『ターザン』のほうが丁寧なストーリー作りゆえにちゃんと「魅せられる物語」になってるんですよね。完全に『ジャングル・ブック』と同じような展開にも関わらず、『ジャングル・ブック』よりも感動的なストーリーになってる点で、『ターザン』は『ジャングル・ブック』の上位互換と言えるでしょう。


真逆かつ感動的なラスト

 しかし、その直後にクレイトンの裏切りがあり、結局クレイトンとの戦いの後にターザンは人間社会に行かずゴリラの家族と共に暮らすことを選びます。つまり、最後の最後で『ジャングル・ブック』とは真逆の決断をターザンはするんですよね。でも、この展開も十分に納得できるものになっています。

 クレイトンから家族のゴリラを守るために戦ったターザンは、ここでようやくカーチャックからも家族の一員として認められるんですよね。カーチャックからの迫害が自身のアイデンティティに対する悩みとなっていたターザンは、最後の最後でカーチャックとも和解し、ゴリラたちのリーダーになるわけです。カーチャックが死ぬ間際にようやくターザンを認めるこのシーンは、ベタではありますがやはりとても感動します。それまでのカーチャックとターザンの確執やそれゆえのターザンの葛藤が丁寧に描写されていたからこそ、感動も一層大きいものになってるんですよねえ。音楽や映像などの演出による上手さもそれをさらに引き立ててくれています。

 この感動的な和解を通してカーチャックからゴリラの家族の一員として認められたターザンが、その大切な家族を守るためにジャングル残留を決意するのは自然なことであり、そこに不自然さはありません。似たような展開として『ポカホンタス』のラストでも主人公のポカホンタスは結局インディアンの集落に残ることを選んでましたが、こちらはポカホンタスがその決断を下すに足る十分な理由がちゃんと描写されていないという欠点がありました*5。それに対して、『ターザン』ではその直前にクレイトンによってゴリラの家族が危機に陥るという展開があり、さらにはカーチャックとの和解という決定的な要因もあったために、ターザンがジャングルに残ることを選んだ理由は十分に理解できるものになっています。『ターザン』のストーリー作りの上手さがうかがえる展開ですね。

 そして、『ポカホンタス』と違い『ターザン』ではジェーンとターザンも離れ離れになりません。結局ジェーンのほうが逆にジャングルで暮らすことを選ぶんですよね。『ポカホンタス』みたいな安易な「離れ離れビターエンド」にはせず、ジャングルでターザンは新しく愛する人とともに暮らし続けるという完全なハッピーエンドにした点も本作品の良かった点だと思います。ビターエンドも悪くはないけど、やっぱり王道のディズニー映画ならば視聴後の後味は良いほうが嬉しいですよね。先述した通り、ラストにフィル・コリンズ氏の"Two Worlds"がrepriseされるシーンは、それまでの登場キャラがみんなその後もジャングルで幸せに暮らしていることがうかがえる感動的で後味の良いエンディングになっています。まさに第二期黄金期前半のディズニー映画のおとぎ話にも通じる"Happy ever after"なラストだと思います。素晴らしいです。


魅力的なキャラクター

 本作品はキャラクターもみな魅力的で良いんですよね。先述の通り、本作品では主人公ターザンの心情描写が丁寧なので、自然とターザンに感情移入しながら見ることができるんですよね。魅力的な主人公です。そして、ヒロインのジェーンもかなり魅力的なヒロインなんですよね。今までのディズニーのヒロインとはまた少し違った個性的なキャラで、個人的に歴代ディズニーヒロインの中でもトップレベルに好きです。なんというか、適度な「等身大」感のあるヒロインなんですよねえ。良いキャラしてると思います。

 また、個人的にはターザンの親友であるタークとタントーのキャラがかなり好きなんですよね。特にタークのキャラがとても個性的で魅力的です。今どきのアメリカのティーンのギャル系若者っぽいキャラになっていて、ディズニーにしては珍しいキャラ設定だと思います。パンクなバンドメンバーとかにいそうなタイプの頼れる悪友って感じで面白いです。ちゃんとターザンの良き理解者になっており、とても魅力的な親友キャラでしょう。

 タントーのほうはディズニー映画でわりと良く見かけがちな神経質で臆病なひ弱キャラなんですが、後半では逆にタークを奮起させてターザンを勇敢に助けに行くという、ベタなギャップ萌えシーンもあって面白いです。ターク同様に魅力的な親友キャラだと思います。

 タークとタントーはともにディズニー映画で良くありがちな「三枚目」ポジションのキャラクターなんですが、単なるコメディ要員としてだけではなく、ターザンの‟親友”キャラとしての重要な役割も物語内で果たしてるんですよね。異形ゆえにゴリラの家族の中で疎外感を抱きカーチャックとの確執に悩んでいたターザンが、タークやタントーという親友を得たことで次第にゴリラの家族の一員として馴染んでいくようになるわけですからね。ジャングルにおけるターザンのアイデンティティ形成において、カーラと並んで重要な役割を果たしたキャラでしょう。親しみの持てる「悪友」って感じで良いキャラだと思います。

 カーラの愛情あふれる「母親」っぷりもとても素晴らしいです。彼女の母性愛がこの物語の感動要素になってるんですよねえ。特に、幼少期のターザンにカーラが自身の心臓の音を聞かせて慰めるシーンは何度見ても感動します。カーチャックから嫌われて落ち込んでいたターザンにとって、カーラのこうした愛情は本当に強い支えになってるんですよね。ベタではありますが普遍的な「親子愛」を感じさせる名シーンだと思います。先述した、人間社会に戻ることを決めたターザンをカーラが送り出すシーンも同様に感動的で大好きです。素晴らしく魅力的な母親キャラだと思います。


文句なしの名作

 はい、ということで、ここまで述べて来たようにこの『ターザン』は文句なしの名作としか言いようがないです。褒めるべきところしか出てきません。第二期黄金期後半の作品の中では一番の傑作ですし、『リトル・マーメイド』や『美女と野獣』や『アラジン』のような第二期黄金期前半の作品とも肩を並べられるほどの名作でしょう。アニメーション映像の圧倒的な美しさ、スピード感と迫力のあるアクション映像、フィル・コリンズ氏のエモい歌声による感動的な演出、心情描写が丁寧で泣かせるストーリー作り……etcとそのすべてが完璧としか言いようがないです。本当にレベルの高すぎる名作です。大好き。





 以上で、『ターザン』の感想を終わりにしたいと思います。次回は『ファンタジア2000』の感想記事を書く予定です。それではまた。

*1:フィル・コリンズ氏を良く知らない人でも"One More Night"とかの代表曲をいくつか適当に調べて聞けば多分「あー、この歌を歌ってる人か」って分かると思います。

*2:君の名は。』がRADWIMPSのMVと言われているのと似たような感じですね。

*3:この類似はディズニー版だけでなく原作にも当てはまります。

*4:詳細は【ディズニー映画感想企画第19弾】『ジャングル・ブック』感想~ウォルト・ディズニー氏の遺作~ - tener’s diaryの記事で述べた通りです。

*5:詳細は、【ディズニー映画感想企画第33弾】『ポカホンタス』感想~第二期黄金期後期の新たな挑戦~ - tener’s diaryの記事で述べた通りです。