tener’s diary

てねーるのブログ記事です

【ディズニー映画感想企画第36弾】『ムーラン』感想~一時的な復活の始まり~

 また、久しぶりの更新となってしまいました。ディズニー映画感想企画第36弾です。今回は『ムーラン』の感想記事を書こうと思います。日本での一般的知名度は低めですが、最近はもうすぐ実写版が公開されるからか、たまに話題に上がることが増えた気がします。そんな『ムーラン』について語っていきたいと思います。

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【基本情報】

新しいスタジオでの制作

 『ムーラン』は1998年に36作目のディズニー長編アニメーション映画として公開されました。原作は中国の伝説『花木蘭』です。日本では原作もあまり有名じゃない気がしますが、中国では京劇や映画の題材などにもなっているわりと有名な伝説だそうです。

 『ムーラン』の制作は色々な点で新しい変化が見られました。その一つがフロリダの新スタジオでの制作です。『ムーラン』は当時フロリダに新しく出来たアニメーションスタジオで制作された最初のアニメーションになります。この新スタジオは、フロリダのウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート内に作られたアニメーション制作スタジオ兼テーマパークです。2019年10月現在はここでのアニメーション制作はもう行っていませんが、テーマパークとしての機能は依然維持されています。僕も昔ここに遊びに行ったことがあるのですが、色々なハリウッド映画に関連したアトラクションが多数あり、とても楽しいところでした。

 余談ですが、現在は「ディズニー・ハリウッド・スタジオ」という名前のこのスタジオは、『ムーラン』制作当時「ディズニー・MGM・スタジオ」という名前でした。MGM(正式名称「メトロ・ゴールドウィン・メイヤー」)と言えば、あの有名な大手の映画製作会社です*1。フロリダのこの新スタジオは、そんなMGM社とディズニー社が提携して作られたものだったんですよね。しかし、その際の契約内容を巡ってMGMとディズニーの間で大いに揉めて訴訟騒ぎにまで発展しました。訴訟自体はおおむね引き分けに終わったっぽいのですが*2、結局ディズニー側もその後態度を軟化したのかMGMの名前をスタジオの名称から外したんですよね。こういう経緯で、今は「ディズニー・ハリウッド・スタジオ」という名前に変わっているのです。

 『ムーラン』はそんな「ディズニー・MGM・スタジオ」(現「ディズニー・ハリウッド・スタジオ」)で作られた最初のディズニー長編アニメーションだったんですよね。


紆余曲折の音楽制作

 『ムーラン』の制作では音楽においても新しい変化が見られました。本作品では、今まで第二期黄金期のディズニー音楽*3の作曲を手掛けていたアラン・メンケン氏が作曲を担当していません。代わりにジェリー・ゴールドスミス氏、マシュー・ワイルダー氏、デビッド・ジッペル氏の3人が『ムーラン』の音楽制作に携わっています。このうち、ジェリー・ゴールドスミス氏は、長い間多くの映画音楽の制作に携わり続けて来た大御所の音楽家です。『野のユリ』や『猿の惑星』などの古典的名作の時代から映画音楽に携わり続けて来た巨匠が、『ムーラン』の音楽制作にも携わったのです。

 『ムーラン』の音楽制作を巡ってはちょっとしたゴタゴタもありました。もともとの予定では、それまでアラン・メンケン氏とコンビを組んでディズニー音楽の作詞に携わっていたスティーヴン・シュワルツ氏が『ムーラン』の音楽にも携わることになっていました。しかし、シュワルツ氏がドリームワークスの新作アニメーション『プリンス・オブ・エジプト』の制作にも携わったことに対して、当時のディズニーCEOのマイケル・アイズナー氏が激怒したため、シュワルツ氏は『ムーラン』の音楽制作から外れてしまったのです。

 これまでの記事で書いた通り、ドリームワークスと言えば、かつてディズニー所属の映画プロデューサーだったジェフリー・カッツェンバーグ氏が、CEOのアイズナー氏との対立が原因でディズニーを去った後に設立した会社です。その設立経緯ゆえにドリームワークスは当初からアイズナー支配下のディズニーへの対抗意識が強く、だからこそそんなドリームワークスへのシュワルツ氏の協力はアイズナー氏を激怒させたのです。そのため、シュワルツ氏は『ムーラン』の音楽制作から外れ、代わりにマシュー・ワイルダー氏が採用され、後に加わったジェリー・ゴールドスミス氏やデビッド・ジッペル氏らと共に『ムーラン』の音楽制作に携わることになりました。


有名芸能人の参加と一時的復活

 『ムーラン』でも有名な芸能人が制作に携わりました。特に有名なのはクリスティーナ・アギレラ氏とエディ・マーフィ氏でしょう。クリスティーナ・アギレラ氏と言えば、今でこそ"Ain't No Other Man"などの歌で知られている有名な歌手ですが、『ムーラン』公開当時はまだあまり名前も知られていない若手の歌手でした。そんな彼女がこの『ムーラン』の主題歌"Reflection"の歌手に抜擢され、そこで抜群の歌唱力を見せつけたことで人気歌手へと駆け上がることになったのです。ようは、この『ムーラン』の主題歌"Reflection"こそがクリスティーナ・アギレラ氏の実質的なデビュー曲なんですよね。

 一方、エディ・マーフィ氏はすでに『ムーラン』公開時点でもかなり有名な俳優として名を馳せていました。有名な映画『ビバリーヒルズ・コップ』の主演などを務めたことで知られる超人気ハリウッド俳優です。そんな彼をディズニーは『ムーラン』の名脇役であるムーシューの声優に採用したんですよね。これまでの記事で述べて来た通り、有名な芸能人がディズニー映画の声優を務めたことは今までも何度かあり、本作でのエディ・マーフィ氏の出演もその一環でしょう。

 他にも、エンディングで流れる"True to Your Heart"という曲は、有名なスティーヴィー・ワンダー氏が「98°」という音楽グループと一緒に歌っています。スティーヴィー・ワンダー氏は日本でも超有名なミュージシャンなので知ってる人も多いでしょう*4。そんな有名人をディズニーはエンディングソングの歌手として呼んだんですよね。

 これらの宣伝要素のもとで公開された『ムーラン』は、それなりに良い興行成績を収めました。今までの記事で述べて来た通り、『ポカホンタス』の公開以降ディズニー映画の興行収入は右肩下がりだったのですが、この『ムーラン』は前作『ヘラクレス』を上回る興行収入を達成し、ディズニーが衰退期からわずかに回復したことを示したのです。このディズニーの一時的な復活傾向は次作『ターザン』でも続くこととなります。前年まで一時的に衰退していたとは言えディズニーはまだまだ「黄金期」の最中なのだということが、『ムーラン』の商業的成功によって証明されたのです。




【個人的感想】

総論

 この『ムーラン』って一般的知名度こそ少し低めなんですが、ディズニーオタクの間では「隠れた名作」の一つとしてわりと持ち上げられがちな作品なんですよね。実際、第二期黄金期後半の作品の中では興行収入が良かったほうであるという事実に示されるように、それなりに良く出来たクオリティの高い作品だと思います。ディズニーらしいテーマとアクションと音楽が上手く融合した傑作でしょう。以下、詳細な感想を述べます。


フェミニズム的なテーマ

 本作品はフェミニズム的なテーマを真正面から扱った初めてのディズニー映画でしょう。これまでも一部の要素としてフェミニズム的な話やキャラ設定を盛り込んだディズニー映画はありましたが*5、それを作品のメインテーマに据えたディズニー長編アニメーションは本作品が初めてでしょう。『ムーラン』では、‟理想の女性らしい”振る舞いが出来ない主人公ムーランの悩みがテーマの一つになっています。

 本作品のテーマは僕の嫌いなタイプのアイデンティティー・ポリティクス的なフェミニズムではなく、純粋に‟個人主義”的なフェミニズムだったので、その点が個人的に特に良かったと思っています。「男は男らしくあるべき」や「女は女らしくあるべき」という社会の風潮に違和感を抱くムーランが、あくまでも「‟私”という個人」の在り方を貫く物語になってるんですよねえ。こういうテーマならば個人主義者として僕も素直に賛同できるので、共感しながら見ることができます。


ムーランのキャラクター設定

 『ムーラン』のストーリーを要約すると、「戦争は男の仕事」という価値観が当たり前の時代に、女性のムーランが男装して性別を偽って兵士になり、戦争で大活躍するというものです。このあらすじだけを聞くと、いわゆるムーランのキャラクターを「マッチョな男らしい女性」と想像しちゃう人も中にはいるかもしれません。しかし、実際はむしろ逆なんですよね。ムーランってあまり自己主張が強くないタイプのヒロインなんですよね。このキャラクター設定は秀逸だと思います。

 第二期黄金期のこれまでのディズニーヒロインを振り返ってみると、ベルやジャスミンエスメラルダなどいわゆる「強い女性」的なキャラクターが目立っています。彼女たちは自分の考えを相手に臆さず述べ、それを貫き通そうとする意志の強さがはっきりと表れた性格になっています。これに対して、ムーランの性格はちょっと「気弱」なんですよね。いわゆる「キョロ充」っぽい態度が目立つキャラになっています。そして、そういう性格設定だからこそ本作品は「フェミニズム」的なテーマを扱うにふさわしい内容となってるんですよね。

 仮に、主人公のムーランが最初から周囲の目なんか気にせずに自由に自分のやりたいことをやれる性格だったら、彼女がそれで悩むこともなく物語はつまらないものになってたでしょう。ムーランは結構気弱で周囲の目もそれなりに気にする性格だからこそ、周囲の社会からの「ジェンダー規範の押し付け」に悩むキャラとなっているのです。いわゆる昨今の「フェミニズム」的なポリコレの風潮だと、何でもかんでも「強い女性」を主人公にしがちじゃないですか。でも、『ムーラン』は敢えてそういう安易なキャラ設定を採用しなかったことで、逆に「ジェンダー規範を押し付ける社会の圧力」というフェミニズム的に重要なテーマが際立ってるんですよねえ。独特で斬新な発想だし、上手い設定だなあと思います。


テーマに合った社会の描写

 『ムーラン』では、多くの人々が性差別的な考えを自然と持っている社会がそれとなく描写されています。それは善玉の人でもそうです。悪意なしに自然と「女は家にいて男は戦うべき」と登場人物みんなが思ってるんですよね。そういう描写が上手いからこそ、作品の「フェミニズム」的なテーマがわかりやすく伝わるようになっています。

 作品内に流れる音楽の歌詞にも、そのような社会の性差別的な風潮が表れています。一発目に流れる"Honor to Us All"からしてそうです。「女性は家の名誉のために良い縁談相手を見つける義務がある」みたいな価値観が全面に表れた歌詞に仕上がっています。そして、この歌詞で歌われているような「理想の女性像」らしい振る舞いができずに縁談が失敗したムーランが、その悩みを歌い上げたのが主題歌"Reflection"になってるんですよね。このように本作では「社会に流布しているジェンダー規範」と「それに上手く馴染めず悩む主人公」の対比が、序盤から音楽を通して分かりやすく描写されています。

 また、ジェンダー規範はムーランのような女性だけではなく男性に対しても向けられてることが分かる描写もあります。例えば、"I'll Make a Man Out of You"の歌詞がその典型でしょう。すごく格好良い曲想ではあるんですが、歌詞を見ると「勇敢で強い兵士こそが男の花道である」という性差別的な価値観が全面に表れています。そういう価値観をリー・シャンのような善玉の隊長までもが無意識に受け入れてることに、この作品のテーマ描写の上手さがあるんですよね。

 性差別的な考えはムーランの親友三人組(ヤオ、チェン・ポー、リン)にも表れていることが音楽を通して描写されています。"A Girl Worth Fighting For"の歌詞がそうです。三人がそれぞれの「理想の女性像」を歌い上げるこの曲は、彼らの少々ミソジニー染みた価値観までもが歌われています。ムーランの「頭の良い女性や思ったことをはっきり言う女性はどう?」という問いに「ないわー」と三人組が答えるシーンは象徴的でしょう。この音楽のシーンっていわゆる「ホモソーシャル」っぽさが描写されているんですよね。こういう描写が実に的確で上手いんです。「あー、実際にこういう人たちっているよなあ」って思える描写になっています。


ムーランの活躍による変化

 上で述べたような「ジェンダー規範」を内在していた隊長やヤオ、リン、チェン・ポーたちが、終盤ではムーランの策に乗って彼女と共闘します。前半で彼らの性差別的な価値観がちゃんと描写されてたからこそ、そんな彼らが女性のムーランの策に乗って、しかも女性の格好までする点に、本作のテーマが上手く表れてるんですよねえ。

 彼らがそれまで無意識に信奉していた好ましくないジェンダー規範的な価値観が、ムーランとの共闘を通して徐々に解消されてることがうかがえる素晴らしい展開だと思います。ラストでは、隊長もヤオ、リン、チェン・ポーもちゃんとムーランの活躍や功績を認め、そのことを皇帝に訴えるまでに改心しています。ムーランの「自分らしい活躍」が、周囲の人々の性差別的な価値観を変えるまでに至ったというハッピーエンドな展開が気持ち良くて素晴らしいです。

 個人的に、「理想の男らしさ」を歌ったジェンダー規範満載の曲である"I'll Make a Man Out of You"が終盤でもう一度流れる演出が好きです。しかも、この歌が終盤で流れるシーンではあのヤオ、リン、チェン・ポーの3人が女装してますからね。「男らしさを歌った曲に合わせて、女装した男性たちが戦う」というある種の倒錯的な状況こそが、「ジェンダー規範へのアンチテーゼ」という本作品のテーマに見事に合致しています。上手い演出だと思います。


アクション

 本作品はそもそものストーリーが「戦争もの」というだけあって、迫力あるアクションシーンがかなり多いです。これまでの記事で述べて来た通り、素晴らしいディズニー映画には素晴らしいアクションシーンが付き物ですが本作品もその点では例外ではないでしょう。本作品の戦闘シーンの中でも特に映像的な迫力がすごいのは、雪山でのフン族との戦いでしょう。雪の中を大量のフン族の兵士が駆け下りるシーンやその後の大雪崩の迫力は、「さすが!ディズニーの映像技術!」と言いたくなるすごい映像に仕上がっています。

 終盤での戦闘シーンも同様でしょう。宮殿内でのシャン・ユーとムーランの戦いはかなりスリル満点ですごいんですよね。たくさんの群衆が見守る中で、悪役のシャン・ユーを花火で殺すまでの一連の怒涛の展開は見ていて飽きさせないです。個人的には、花火の爆発の中で、ムーランが提灯を掴んでロープを下るシーンの映像が好きですね。面白いアクションだと思います。


アニメーション映像の絵柄

 上述のアクションシーンで特に感じられることなのですが、本作品のアニメーション映像は「群衆」の描き方が上手いんですよね。先述した「雪山を一気に駆け下りる大量のフン族の兵士」もそうですし、終盤の戦闘シーンにおける「宮殿での戦闘を見守るたくさんの民衆」もそうです。これらの「大量の群衆」の絵が非常に迫力ある感じに描けています。この迫力とリアリティがかなり傑出していて、こういうところにディズニーの映像技術の蓄積を感じられるんですよね。

 ただし、その一方で『ムーラン』の作画はちょっと「カートゥーン的」にも感じるんですよね。特に人物の描き方はあんまり立体感がない描き方になっていて、その点では前作『ヘラクレス』に近い系統の絵柄だと思います。第二期黄金期前半の作品や『ノートルダムの鐘』のような絵柄とはだいぶ違うタイプの絵柄でしょう。で、そんな絵柄にも関わらずものすごくシリアスな話とアクションの演出をやるので、その点がちょっとアンバランスに感じなくもないです。

 『ムーラン』は前作『ヘラクレス』ほどコメディに振り切れてる訳でもなく、むしろフェミニズムジェンダー論とかの少々真面目なテーマを扱ってるだけに、この「カートゥーンっぽい絵柄」が作品の雰囲気に微妙に合ってなくて、その点で違和感を抱いてしまうんですよね。この点は本作品の数少ない難点だと思います。それでも、背景は中国が舞台ってことで、水墨画っぽい絵柄が所々で目立ってて*6、良い味を出してるんですけどねえ。その一方で、人物の描き方はちょっと「カートゥーンっぽい」と感じます。

 上述の通り、アクションシーンの映像演出自体は迫力あるものになってるんですが、肝心の人物の画風はカートゥーン的なので、そのチグハグさが目立つ気がしなくもないんですよね。次作『ターザン』なんかは完全に第二期黄金期前半のようなリアリティーある絵柄に戻ってるのでアクションの迫力にも満足して見ることができるのですが、『ムーラン』はその点が中途半端だなあと感じます。「カートゥーン的なコメディ」にも「シリアスで立体的な映像」にも振り切れてない感じ。


音楽

 本作品は第二期黄金期の作品にしては若干ミュージカル要素が薄めです。劇中歌はたったの4曲しかありません*7。上述した通り、『ムーラン』は音楽の制作過程においてちょっとしたゴタゴタがあったので、それが曲の少なさの原因なのかも知れません。とは言え、本作品も今までのディズニー映画の例に漏れず、曲数は少ないですがちゃんとクオリティの高いミュージカル映画にはなっています。

 『ムーラン』は中国が舞台の作品なので、劇中歌にも「アジアン」な曲想のものが目立ちます。中華風の音色や旋律になっている名曲となっています。とは言え、その「アジアン」な曲想もそれぞれの曲ごとに雰囲気が違うので、同じような雰囲気の曲ばかりで飽きるってこともないです。

 例えば、一発目に流れる"Honor to Us All"は聞いていてものすごく「中華っぽい!」と思えるエキゾチックで楽しげな曲になっています。キャッチーで耳に残るリズムが心地よい名曲だと思います。そして、その次に流れる"Reflection"は同じく「中華っぽい」曲ではあるのですが、"Honor to Us All"とは違ってかなりしっとりとした感動的なバラードになってるんですよねえ。同じアジア風のエキゾチックな曲想でも、こうやって曲ごとに個性を出せてる点が素晴らしいです。

 次に流れる"I'll Make a Man Out of You"は少年漫画の修行シーンみたいな「格好良い」曲に仕上がっています。ドラムの音が力強く響いていて、すごく興奮できる曲になってるんですよね。この曲に合わせて、ムーランが一人前の兵士として成長する過程が描かれるこのシーンは非常に感動的で盛り上がります。耳にも強く残る名曲だと思います。

 その次に流れる"A Girl Worth Fighting For"も中華風の演出が目立つ良曲になっています。この曲は"Honor to Us All"と似たような曲想ですね。エキゾチックで楽しくなるリズムの曲だと思います。短いながらも何度も聞きたくなるような、耳に残る良曲ですね。

 一方、エンディングで98°とスティーヴィー・ワンダーの歌う"True to Your Heart"も好きな曲ですね。この曲はかなり現代風のポップスになっています。ブラスの音が目立ってめちゃくちゃ楽しくなる曲でしょう。途中でスティーヴィー・ワンダー氏によるハーモニカのソロ演奏が挟まるところも好きですね。

 "True to Your Hear"の後はクリスティーナ・アギレラ版の"Reflection"がクレジットと共に流れます。クリスティーナ・アギレラ氏の声量のすごさに圧倒されるシーンですね。良くこんな高い声が出るなあ、と強く感心してしまいます。素晴らしいバラードだと思います。ホント、『ムーラン』の主題歌にふさわしい名曲でしょう。中国らしいエキゾチックな美しいバラードが本当に心地よくて、何度でも聞いていたくなるエモい曲ですね。


ムーシューとクリキー

 本作品のコメディ担当です。とは言え、個人的にクリキーの存在意義はあまり良く分からなかったのですが*8エディ・マーフィ氏の演じるムーシューのキャラは良かったですね。『アラジン』における‟ジーニー”的な良い脇役キャラになっていると思います。少々シリアスになりがちな本作品の空気を適度に明るくしてくれる良い感じの「ギャグ要員」でしょう。

 ただ、ムーシューのキャラってもはや完全に「エディ・マーフィ」そのものじゃないのか?っていう疑問はあります。ムーシューに関してはもはやキャラクター設定が完全にコメディアンとしてのエディ・マーフィそのものになってた気がします。まあ僕は個人的にエディ・マーフィはかなり好きな俳優の一人なので、エディ・マーフィっぽさを存分に感じられるムーシューのキャラクターは楽しくて好きなんですけどね。普通にコメディ担当として笑えるキャラになってますし。

 とは言え、もう少し「中の人」に引っ張られないディズニー独特のキャラクターを生み出しても良かったんじゃないかなあという思いもなくはないです。ムーシューの性格や言動は完全にエディ・マーフィに引っ張られてる感があるので、セバスチャンやジーニーのような「この映画ならではの個性溢れる名脇役」って感じはしません。「ああ、エディ・マーフィが良く演じてるタイプの三枚目キャラね。ありきたりで没個性的だなあ」という感想はどうしても出てきてしまいます。


シリアスなヴィラン

 本作品は、第二期黄金期のディズニー映画にしては珍しく、悪役にコミカルな要素や人間臭さが全くありません。シャン・ユー率いるフン族は完全に極悪非道の侵略者として描かれています。『オリバー ニューヨーク子猫ものがたり』の悪役サイクスを彷彿とさせるシリアスさです。前作『ヘラクレス』の悪役ハデスがかなりコミカルなキャラとして描かれていた点とは対照的です。

 そのせいなのか、個人的には本作品はあんまり悪役には魅力を感じないんですよね。普通の「侵略者」以上の個性的なキャラ付けもされていないため、人間味溢れる魅力的な悪役からは程遠い存在となっています。とは言え、ここまでシリアスな存在としてヴィランズを描いたからこそ、作品全体に緊張感が大いに増してるので、物語全体のバランスとしては良い采配だと思います。

 悪役だけが突出して目立つばかりなのが良い作品とは限らないですからね。むしろ、敢えて悪役の魅力を下げることで物語全体のバランスをちょうど良くすることだってあり得ます。『ムーラン』はそういう映画でしょう。悪役のキャラをシリアスで残忍すぎるキャラとして描くことで、作品全体の緊張感を増幅させ、物語を面白くすることに成功していると思います。

 実際、シャン・ユーの残忍さはかなり怖くてなかなかに緊張感があります。直接的な死体の描写はないにもかかわらず、シャン・ユーが残虐な行為を繰り返してることを視聴者に仄めかす描写が多数あり、適度なスリルを味わわせてくれます。特に、中盤で「少女の人形」を小道具として出すことで、シャン・ユーが村で行った虐殺の残酷さを強調する演出が上手いですね。フン族によって荒らされた村の様子を見せることで、彼らの残忍さと怖さがしっかりと視聴者に伝わってきます。

 だからこそ、後半でフン族が雪崩の中から復活するシーンでの恐怖が引き立つんですよね。ここはゾンビの復活みたいな感じがして、非常にスリル満点のシーンだと思います。こういう「ゾッとする」見せ場の作り方が上手いですね。本作品において悪役の設定をシリアスに全振りしたのはその点でも良い判断だったと思います。


一時的な復活

 ということで、『ムーラン』はアニメーション映像やムーシューのキャラクター設定などに難点を多少感じながらも、全体としてはフェミニズム的なテーマをちゃんと描けている良作だと僕は思います。この作品を高く評価するディズニーオタクが多いのも納得の出来です。

 この作品と次作『ターザン』を通してディズニー映画は再び世間でもヒットするようになります。『ポカホンタス』以降の衰退からの一時的に復活したのです。まあ、その後すぐにまた暗黒期に入ってしまうんですが、とりあえず『ムーラン』に関してはディズニー復活の始まりを告げる良作に仕上がってると思います。ストーリーもしっかりとまとまってるし、アクションの迫力も素晴らしいし、アジア風のエキゾチックな音楽も心地よい。良作でしょう。






 以上で、『ムーラン』の感想記事を終わりにします。次回もまた更新間隔は空いてしまうと思いますが、次は『ターザン』の感想記事を書く予定です。それではまた。

*1:ライオンが吠えるオープニングで名前を覚えてる人も多いと思います。

*2:この辺りの法的論点の詳細については僕は知らないので間違ってたらごめんなさい。

*3:ただし『ライオン・キング』だけはアラン・メンケン氏ではなくエルトン・ジョン氏の作曲でしたが。

*4:彼を良く知らない人でも、多分"I Just Called to Say I Love You"とかを聞けば、多分「あー、この曲を歌ってる人か」って分かると思います。

*5:例えば、『メリー・ポピンズ』では女性参政権獲得運動に熱心なキャラが出ています。

*6:雪山の絵などは何となく中国の水墨画っぽいタッチになってると感じます。水墨画については詳細を知らないのであくまでも印象論ですが。

*7:一応、エンディングで流れる"True to Your Heart"も含めれば5曲になります。

*8:正直言うと、「あのコオロギいなくても作品のクオリティに関係なくない?」という疑問はあります。