tener’s diary

てねーるのブログ記事です

【ディズニー映画感想企画第23弾】『ビアンカの大冒険』感想~世代交代の始まり~

 ディズニー映画感想企画第23弾は『ビアンカの大冒険』の感想記事を書こうと思います。ぶっちゃけ、日本ではマイナーな作品だと思いますが、実はディズニーの歴史においてはそれなりに重要度の高い作品だったりします。そんな『ビアンカの大冒険』について語っていこうと思います。

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【基本情報~スタジオの世代交代~】

 『ビアンカの大冒険』は23作目のディズニー長編アニメーション映画として1977年に公開された作品です。原作はイギリスの作家マージェリー・シャープの小説"The Rescuers"と"Miss. Bianca"です。同じ年には『くまのプーさん 完全保存版』も公開されていますが、こちらは前の記事で述べた通り実際は新作ではないので、『ビアンカの大冒険』のほうが前々作『ロビン・フッド』以来のディズニーの新作長編アニメーションになります。

 そして、本作『ビアンカの大冒険』と次作『きつねと猟犬』の2作はウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオにおける世代交代を象徴する作品としても知られています。それまでのディズニースタジオを支えていたナイン・オールドメン*1がいなくなったためです。

 まず、ナイン・オールドメンの一人であり本作品の監督も務めていたジョン・ラウンズベリーが本作の制作中に亡くなってしまいます。さらに、同じくナイン・オールドメンの一人であるミルト・カール氏も本作品での作画を最後に引退してしまいます。その少し前にはナイン・オールドメンの一人であるレス・クラーク氏なども退社しており、ウォルト存命時代からディズニーアニメーションを支えて来た大御所が当時次々といなくなっていったことがうかがえます。

 一方で、そんな引退していくナイン・オールドメンたちに代わり、本作品からはロン・クレメンツやグレン・キーンなどの新参アニメーターたちが本格的に制作に携わり始めます。彼らはどちらも後のディズニー第二期黄金期を率いることになるアニメーターたちです。ロン・クレメンツ氏は後に『リトル・マーメイド』や『アラジン』などの監督を務めますし、グレン・キーン氏は後に『リトル・マーメイド』や『美女と野獣』など多数の第二黄金期の作品にてキャラクター作画を担当しています。

 このように、『ビアンカの大冒険』の頃からのウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオでは、「ナイン・オールドメン」というかつての大御所たちから「後の第二期黄金期を率いる」新参アニメーターたちへの世代交代が進んでいた訳です。この世代交代の動きは次作『きつねと猟犬』制作でより一層進むことになります。

 このように、ディズニーの世代交代を象徴するという点において、『ビアンカの大冒険』はディズニー史において重要度の高い作品だと思います。そんな『ビアンカの大冒険』は興行的にもかなりの成功を収めたらしく、ウォルト死後の暗黒期において久しぶりの大ヒット作となったそうです。




【個人的感想】

総論

 本作は、公開当時にヒットしたと言われているだけあって、暗黒期の作品の中では比較的面白いほうだと思います。僕はわりと楽しんで見れました。とは言え、日本では依然として知名度が低い理由も何となく分かるんですよね。本作品は、ストーリーはそれなりに面白いんですが、音楽などの演出が少し微妙で、ちょっと全体的に「暗くて地味」な作風になってるんですよね。前々作『ロビン・フッド』と同系統の暗さを感じさせる作品です。どうも暗黒期のディズニー作品はちょっと暗くて地味な雰囲気の作品が目立つ印象があります。

 そういう意味で、本作品も『おしゃれキャット』などと同様に「まあまあ面白いけど手放しでは褒められない惜しい作品」という感想を僕は抱いています。後一歩で名作になれそうなのに名作になれてない微妙な感じ。そういう印象を抱かざるを得ない作品ですね。


世界観とストーリー

 まず先に面白かった点を挙げておくと、ストーリー展開と世界観の発想は面白かったです。世界各国のネズミたちが国連総会の裏で集まっているという設定がまずちょっと面白いです。人間社会に隣接した形で独自の社会を築いてる動物たちという設定がピクサー作品っぽさを感じさせてくれます。こういう発想は面白くて良いですね。個人的に、アホウドリの飛行機の設定が特に好きです。飛ぶのに助走が必要なアホウドリだからこそ飛行機の滑走っぽい演出ができてるんですよね。面白い。

 ストーリー展開も、それなりに緊迫感があって見ごたえあります。『101匹わんちゃん』などに通じるミステリーやサスペンス風の展開になってるのが良いですね。それ故に、ちゃんと続きが気になって飽きさせないような展開になっています。

 序盤はミステリーパートになっていて、行方不明となったペニーの居場所を突き止めるための捜査パートです。一般にミステリでの捜査シーンは地味で退屈になりがちであり、本作も少しそういう面はあるのですが、わりとすぐにペニーの居場所が判明するので、そこまで冗長には感じないし退屈もしません。

 そして、マダム・メドゥーサの登場以降はかなり緊迫感のある展開が続きます。後述しますが、このメデューサヴィランとしてわりと良いキャラしてるんですよね。何も特別な力を持たない普通の人間でありながらもとても恐怖を感じさせてくれる存在となっていて、それゆえに作品全体に緊張感が生まれてる。彼女のペットであるワニのネロとブルータスも恐ろしい存在として描かれていて、これらの悪役の存在が後半の展開をハラハラするスリル満点のサスペンスにしてくれてるんですよね。

 この辺りのサスペンス風の緊張感は『101匹わんちゃん』の終盤に通じるものがあります。この恐ろしい悪役たちから果たしてどうやってペニーを救出するのか?そんなふうに続きの気になる緊張感ある展開をしっかりと用意してる点は秀逸だと思います。


アクション

 本作は、このような緊張感のある適度なスリルの下で魅力的なアクションシーンが数多く描かれています。いくつかのアクションはコミカルさと緊張感が適度に混ざった「面白いシーン」となっていると思います。例えば、ワニのブルータスとネロから逃げてパイプオルガンの中でドタバタ劇を繰り広げるシーンは適度な緊張感がありながらもどこかコミカルでもある、見ごたえのあるアクションシーンになってると思います。

 終盤に、沼地の動物たち総出でメデューサを退治するシーンも、どこかコミカルなドタバタアクションになっていてまあまあ面白いです。流れているBGMもコミカルですしね。ここのアクションは非常にテンポが良くて、次から次へと状況が目まぐるしく変わるので、見てて飽きないし面白いんですよね。中盤でバーナードとビアンカの立てた作戦通りにアクションが進んでいく点も面白いです。

 ラストの、水上バイクとワニたちによる追いかけっこのシーンも、ちょっと短すぎる気はしますが、絵面の発想が面白いのでわりと好きなシーンです。多分狙ってるんでしょうけど、水上スキーみたいな絵になってます。こういう発想は好きです。

 また、洞窟の奥を探検してダイヤを探すシーンもかなり緊張感のあるアクションになってます。迫りくる水に何度も溺れそうになりながらも、なんとかダイヤを取り出すシーンは、インディ・ジョーンズのシリーズなどに通じるような面白さがあります。命の危険を感じてハラハラしながら宝を探す展開は、この手の冒険劇の王道ですからね。そういう王道をしっかり踏まえたスリル満点のアクションシーンだと思います。

 他にも、トンボのエビンルードがコウモリから逃げるシーンなど、本作には面白いアクションシーンがたくさんあります。こういう面白いアクションが後半でしっかり用意されてるからこそ、本作は飽きずに見られるストーリー展開になってるんですよね。


メデューサ

 本作において一番魅力的なキャラはやっぱり「メデューサ」でしょう。先述の通り、この悪役の存在こそが本作品のストーリー展開に適度な緊張感やスリルを与える役目を果たしています。このメデューサのデザインを担当したナイン・オールドメンの一人ミルト・カール氏は、同じくナイン・オールドメンの一人で『101匹わんちゃん』の名悪役クルエラのデザインを担当したマーク・デイヴィスへの対抗意識から、このメデューサというキャラクターを考え付いたそうです。それ故に、メデューサのキャラはどこかクルエラを彷彿とさせる部分もあります。その強欲で自分勝手で傲慢で悪辣なキャラクター性は確かにクルエラと似ています。現代世界を舞台にした世界観で動物たちと格闘する辺りもクルエラの立ち位置を彷彿とさせますね。

 そういう意味では、「ぶっちゃけクルエラの二番煎じでは?」という思いも抱かなくはないのですが、それでもクルエラと同じくきっちりと魅力的な悪役に仕上がっていると思います。こういうインパクトの強い魅力的な悪役を出せる点は素晴らしいですね。


暗すぎる

 ここまで『ビアンカの大冒険』の良かった点を挙げてきましたが、本作にもやはり「暗黒期だなあ」と思わざるを得ない難点がいくつかあります。その中でも特に大きいのは、あまりにも作風が暗すぎる点でしょう。この暗さの原因はいくつか考えられますが、そもそもストーリーの内容が暗いという点が一因として挙げられます。

 だって、悪役メデューサのやってることが「児童を誘拐して危ない洞窟で働かせる」ですからね。現代風の世界観でこういうガチの犯罪である児童虐待を出すのは、ディズニーにしてはかなりエグくて暗いです。被害者のペニーが可愛らしくて魅力的な子供として描写されているため、そんな彼女を酷い目に合わせる本作品の展開は彼女への同情を余計に掻き立てるものになっています。こういう悪事のあまりの非道ぶりゆえ、本作品は『ピノキオ』のコーチマンのシーンなどを彷彿とさせるような陰鬱さが全体的に漂っています。それで居ながら、主人公のバーナードのキャラや終盤のアクションなどを通してコミカルさも出そうとしてるため、『ロビン・フッド』同様に「暗さ」と「コミカルさ」がアンバランスなまま共に詰め込まれた作品になってると思います。


映像と音楽の演出

 本作品の暗さの原因としてもう一つ挙げられるのが演出の地味さでしょぅ。まず、映像が全体的に暗いんですよね。ほぼ全てのシーンにおいて暗い色使いの映像が映し出されているため、どことなく暗くてジメジメとした雰囲気を感じさせます。

 さらに、音楽も本作品はちょっと地味です。そもそもこの作品はミュージカル要素が薄くて劇中歌があまりないのですが、それでも"Someone's Waiting for You"などの劇中歌が一応あります。でも、これらの音楽はどれもしっとりしたバラードっぽかったりして、明るさには欠けるんですよね。リズミカルな明るい曲の欠如は本作の暗さの一因になってると思います。終盤のメデューサと戦うシーンのコミカルなBGMぐらいしか明るい曲は思い当たらないです。"Rescue Aid Society"もあんまり楽しくなる感じの歌じゃないしなあ……。


地味な演出と冗長な前半

 このように本作品は全体的に映像も音楽も「暗い」雰囲気が漂っていて、何となく地味ーな演出になっています。それゆえに、後半のアクションシーンは面白いものの前半は少し退屈になってるんですよね。先ほど、捜査パートはそこまで長くないのであまり退屈しないとは言いましたが、人によってはそれでも十分に退屈に感じる展開だとは思います。

 特に、動物園での下りやアホウドリの飛行機に乗ってからの下りは、なんか眠くなる退屈さがあります。後半のような緊迫感のある展開は前半ではあまり見られないため、少し冗長で眠くなる展開に感じてしまいます。動物園でのやり取りなんて、後半の展開にもつながらないうえ、肝心の動物が見えないせいでアクションとしても面白くない展開なので、「このシーン要るか?」とは思ってしまいます。まあ、前半のちょっとしたシーンにすぎないので、あまり気になるほどでもないんですけどね。


面白いけど垢抜けない

 と言う訳で、『ビアンカの大冒険』は暗黒期の作品にしてはストーリーも面白くて悪役のキャラも立っている魅力的な作品だとは思いますが、それでもやっぱり「あと一歩惜しい」という感想が出てきちゃうんですよね。全体的に暗いうえ、音楽や映像などによる演出がかなり地味なので、面白いわりには印象に残りにくい微妙な作品になってる気がします。

 とは言え、『ロビン・フッド』や『ジャングル・ブック』などに比べると、見ごたえのあるスリル満点の面白いアクションがたくさん用意されていて、はるかに「面白い作品」になっていると思います。しっかりと冒険エンタメ作品としての王道を抑えているので、これまでの暗黒期の作品の中では比較的面白いほうだと思います。個人的には、『おしゃれキャット』などと同じく「ストーリーは面白いけど難点もわりと目立つ惜しい作品」という印象が強いですね。黄金期の作品のように垢抜けるにはあと一歩足りない気がする、そんな作品ですね。







 以上で、『ビアンカの大冒険』の感想記事を終わりにします。次回は『きつねと猟犬』の感想記事を書く予定です。それではまた。

*1:以前【ディズニー映画感想企画第14弾】『ピーター・パン』感想~子供と大人の折衷的作品~ - tener’s diaryの記事でも説明しましたが、初期からディズニーに勤めていた9人の大御所アニメーターであり、第一期黄金期の頃からディズニー映画制作を率いてきた人たちのことです。