tener’s diary

てねーるのブログ記事です

【ディズニー映画感想企画第22弾】『くまのプーさん 完全保存版』感想~ほのぼの癒される短編集~

 すみません。色々と忙しかったもので前回の更新からだいぶ間が空いてしまいました。ディズニー映画感想企画第22弾です。今回は『くまのプーさん 完全保存版』の感想を書こうと思います。一応、時期としては暗黒期の作品に入ってますが、この作品自体はこの時期の作品の中どころか全ディズニー映画の中でもぶっちぎりで知名度が高いほうでしょう。
 そんな『くまのプーさん 完全保存版』について語っていきたいと思います。

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【基本情報】

実は新作じゃない

 『くまのプーさん 完全保存版』はディズニー22作目の長編アニメーション映画として1977年に公開されました。とは言え、実はこの作品は‟新作ではありません”。そう、新作じゃないんです。大事なことなので二回言いました。本作品は、すでにディズニーが過去に「短編アニメーション」として制作していた『くまのプーさん』シリーズの作品を3つ集めて、それを繋ぎ合わせて1つの長編アニメーションとして再度公開し直したものです。

 『くまのプーさん』シリーズがディズニーで初めてアニメ化されたのは1966年の短編アニメーション『プーさんとはちみつ』が最初であり、その後1968年に『プーさんと大あらし』を、1974年には『プーさんとティガー』という短編アニメーションをそれぞれ制作していました。この3つの短編アニメーションをまとめて1つの長編アニメーション映画という形にして1977年に公開したのが『くまのプーさん 完全保存版』なのです。オムニバス形式のディズニー長編アニメーション映画は1949年公開の『イカボードとトード氏』以来のこととなります。

 なので、一応1977年の公開とはなっていますが、実際に個々の短編アニメーションが制作されたのはもっと前のことだということを、ここでは改めて強調しておきます。


ディズニーと『くまのプーさん』の関係

 『くまのプーさん』シリーズは、イギリスの作家A・A・ミルン氏による同タイトルの児童小説を原作としています。原作小説は1926年に発表されて以降イギリスで絶大な人気となっていて、ディズニーがアニメ化を手掛ける前からすでにプーさんたちのキャラクターグッズなどがイギリスでは販売していたそうです。1961年、ディズニーはそんな大人気シリーズであった『くまのプーさん』のアニメ化や商標使用の権利を購入し、1966年に『プーさんとはちみつ』という短編アニメーションを公開したわけです。

 しかし、ディズニーによる『くまのプーさん』シリーズのアニメ化は当初から多くの困難に見舞われました。1966年に『プーさんとはちみつ』が公開されるとすぐに、「原作のイメージを破壊した」とイギリスで大いに批判されてしまいました。特に、イギリス人であるはずのクリストファー・ロビンアメリカ中西部訛りの英語を話していたことが大いに問題視され、イギリス英語の発音に吹き替えさせることを求める運動がイギリスで巻き起こりました。結果的にディズニー側が折れて、クリストファー・ロビンの声は吹き替えられました。

 ディズニーが原作改変するのは昔からの伝統ですが、『くまのプーさん』シリーズはそんなディズニー伝統の原作改変が最も問題視されたディズニー映画の一つでした。この吹き替え騒動以降もディズニー版『くまのプーさん』シリーズに対しては、「キャラクターのイメージが原作からかけ離れている」などの批判の声がしばしば投げかけられました。イギリスではディズニーが参入する前からプーさんのグッズなどがすでに至る所で販売されていたため、ディズニー参入前の『くまのプーさん』を愛する保守的なファンが多かったのかもしれません。

 さらに、ディズニーは後に『くまのプーさん』シリーズを巡って法的な闘争まで経験する羽目になってます。ディズニーがアニメ化する前からこのシリーズのグッズ事業などを手掛けていた会社であるスレシンジャー社とディズニー社の間で1991年頃から訴訟合戦が始まってるんですよね。商品化の権利やその利益配分などを巡って両社の間でいくつかの裁判が起こりました。ディズニー側が勝訴したものもあれば敗訴したものもあり、わりと互角の戦いを繰り広げてるっぽいです。まあ、その詳細な内容についてはここでは触れませんが、このようにディズニーにとって『くまのプーさん』シリーズは法的な権利関係の上でも困難に見舞われた作品だったのです。




【個人的感想】

総論

 僕はこの『くまのプーさん 完全保存版』をはじめとする一連のディズニー版『くまのプーさん』シリーズが好きです。あまり原作のほうには思い入れがないので、しばしば批判の対象となる原作との相違点については大して気にならないです*1。このシリーズって本当にひたすら「ほのぼの」としてるんですよね。作品内に悪意がほぼ存在しない「優しい世界」が形成されてるので、ストレスフリーな癒される作品になっていると思います。

 人によってはあまりにも平和すぎる内容で眠くなるかもしれないんでしょうけど、僕はこの極端なほどに「脳みそお花畑」な「優しすぎる世界」ってのがとてつもなく好きなんですよね。すごーく癒されます。なんというか「中身のない日常系アニメ」を好むオタクの気持ちに近いです。世俗な色々な事柄に疲れすぎた時に脳みそ空っぽにして見ることの出来る「癒しのアニメ」だと思います。そういう点で、わりと好きな作品の一つです。


ちょっとメタな演出

 『くまのプーさん 完全保存版』ではちょっとメタな演出が至る所で見られます。特に「絵本の中の物語」であるということを強く意識させる演出が多いんですよね。ナレーターがちょいちょい「ページ数」をナレーションするシーンなんかはその典型例でしょう。他にも、絵本の文字をそのままアニメーション内の動きに取り入れるシーン(例えばティガーが絵本の文字を滑り台のように下りたりする)など、「絵本の世界」だということを印象付ける演出がたくさんなされています。

 他にも、ナレーターが作品内の登場キャラクターと会話し始めたり、ゴーファーが「俺は原作には登場しない」みたいな発言をするなど、本作はかなりメタな演出が多い印象を受けます。こういうメタな演出は人によっては好みが分かれるのかも知れませんし僕もあまりにもやり過ぎなメタは嫌いですが、『くまのプーさん 完全保存版』程度のメタならば面白くて好きですね。わりと発想が独特で新鮮味を感じるし、ちゃんと面白い演出になっていると思います。


音楽

 『くまのプーさん 完全保存版』もディズニーお決まりのミュージカル映画になっており、作品内ではたくさんの名曲が流れています。特に有名なのは何といっても主題歌でもある"Winnie the Pooh"でしょう。ほのぼのとした歌いだしから、ちょっとリズミカルなサビに至るまで、全てが耳に残る名曲だと思います。とにかく癒されます。本作の主題歌になるのも相応しい「ほのぼの系」の名曲です。

 その他にも本作はたくさんの名曲が登場します。ティガーのテーマソングである"The Wonderful Thing about Tiggers"なんかもそんな有名な曲の例の一つでしょう。飛び跳ねるティガーが楽しそうに歌うこの曲は聞いていて本当に楽しい気分にさせてくれます。

 また、『ダンボ』のピンク・エレファンツを彷彿とさせる"Heffalumps and Woozles"の曲も、カオスで耳に残る名曲でしょう。このシーンで登場するズオウとヒイタチによるカオスの映像も相まって、本作品における屈指のトラウマソングとなっています。まあ、『ダンボ』の二番煎じと言ってしまえばそれまでなんですが、『くまのプーさん 完全保存版』のこのシーンも『ダンボ』とはまた違ったカオスさが感じられてとても印象的なシーンだと思います。僕は大好きなシーンです。

 他にも"Rumbly in My Tumbly"や"Little Black Rain Cloud"、"When the Rain Rain Rain Came Down"……etcと、とにかくたくさんの名曲が本作品では流れています。個人的には、"When the Rain Rain Rain Came Down"のようなリズミカルでついつい口ずさみたくなるような曲が特に好きですね。本作は、本当に名曲の宝庫なのでみんな何かしら好きな曲が見つかると思います。


各ストーリーの感想

 先述の通り、『くまのプーさん 完全保存版』は3つの短編から成るオムニバス形式です。そして、「絵本の中の物語」というメタ的な演出とナレーションで、それぞれのアニメーションを繋いでいます。このメタなナレーションによる繋ぎのシーンはわりと上手い演出になっていると思います。戦後初期のオムニバス映画シリーズにしばしば見られたような「雑に繋ぎ合わせた感」が少なく、一つの長編アニメーション映画としても見られるような繋ぎ方になっています。以下、各ストーリーの感想を述べます。

プーさんとはちみつ

 はちみつを巡ってプーさんが色々な苦労をする物語です。風船を使ってはちみつを取るプーさんの発想が馬鹿らしいけどひたすら可愛くて癒されます。それに協力してあげるクリストファー・ロビンの無邪気な優しさも見ていてほのぼのします。

 さらに、ラビットのキャラが好きなんですよね、僕は。ラビットってこのシリーズでは一貫して被害者ポジションであり、プーたちのせいでいつもひどい目に会うラビットはしばしばプーのことを疎ましく思う描写がされてるんですけど、それでもなんだかんだでプーたちに対して「甘い」んですよね。プーに対して完全に意地悪な態度はとれず、訪問したプーについついハチミツをご馳走してあげちゃう辺り、ラビットもなんだかんだで「優しいやつ」であることが分かるんですよねえ。だから好きです。こういうところが、本作の「優しすぎる世界観」の形成に一役買ってるんだと思います。そこに悪意はほとんど存在してないです。

 「原作にはいない」というメタ的なセリフを放つゴーファーのキャラも良いですね。ディズニーの短編アニメらしいコメディ担当となっています。穴に落ちるギャグが何度も繰り返されるんですが、それが天丼ギャグの効果をもたらしていて面白いです。笑えるキャラになってます。

プーさんと大あらし

 この話も『くまのプーさん』シリーズならではの「優しすぎる世界」が描写されてるエピソードなので大好きです。オウルのために自分の家を明け渡すピグレットやそんなピグレットを思いやるプーの優しさに心から癒されます。「僕の家だよ」ってイーヨーに抗議しない辺り、ピグレットたちの心の広さがうかがえます。こういう「登場キャラ全員が優しすぎる世界」が描かれてる点こそがまさに『くまのプーさん』シリーズの魅力だと思うんですよね。

 この話は嵐ゆえのメタ的な演出も多くて、その点も好きですね。特に、強風で絵本の文字が吹き飛ぶ演出が僕は好きです。先述した「ズオウとヒイタチ」の登場シーンも、『ダンボ』のピンク・エレファンツを彷彿させる狂気を感じさせてくれる名シーンですね。大好きです。

プーさんとティガー

 僕のお気に入りキャラであるラビットの優しさをものすごく実感できるお話しです。ラビットは本シリーズにおける屈指の不憫キャラであり、そんなラビットがティガーを憎むのも無理はないと思ってしまうんですよね。実際、ティガーのせいで迷惑を被るラビットの 様子が序盤でたくさん描写されてるので、その後何とかしてティガーに飛び跳ねるのを辞めさせようとするラビットの行動に共感しながら物語を見ちゃうんですよね、僕。

 でも、何だかんだで心の広いラビットは最終的にティガーが飛び跳ねるのを許し、ティガーと一緒に飛び跳ねるまでに至ります。あまりにも優しすぎる世界の描写ゆえに、さっきまでラビットに同情してティガーに怒っていた視聴者である自分の狭量さを実感して恥ずかしく思っちゃうレベルです。『くまのプーさん』シリーズの優しすぎる世界観が存分に描写された名作だと思います。やっぱり、僕はラビットが好きだなあ。


エンディング

 本作品において、ものすごく良い味を出してるのが「エンディング」で交わされるプーさんとクリストファー・ロビンの会話なんですよね。この会話の内容こそが『くまのプーさん』シリーズ全体のメインテーマでもあり、またディズニー映画全体に通底するメインテーマだとも思います。それゆえに、とてもしんみりとする心に響く内容になっています。

 大人になるにつれて「何もしない」をし続ける訳にはいかなくなるクリストファー・ロビン。だからこそ、友人のプーだけにはずっと「何もしない」をし続けてほしいと告げます。まさに「子供も大人も」を基本理念とするディズニーらしいテーマでしょう。クリストファー・ロビン同様に大人になる僕ら視聴者は「何もしない」を永久に続けるわけにはいきません。それでも、「何もしない」をし続けるプーと言う親友の存在をずっと思い続けることは出来る。「大人に成長しても決して子供心への夢を忘れない」というディズニーの基本理念を伝えるエンディングになっていると思います。

 僕はこのエンディングが本当に大好きで仕方なくて、これだけでも『くまのプーさん 完全保存版』はディズニーらしい傑作と言っても過言ではないと思うんですよね。本当にしみじみとする良いラストだと思います。


癒しとなる作品

 そういう訳で、この『くまのプーさん 完全保存版』は「何もしない」をできなくなって疲れて来た大人になってから見ると特に癒される作品だと思います。本作品で描かれている100エーカーの森では悪意がほとんど存在せず、ひたすら優しすぎる世界が描かれています。僕ら大人の生きる現実は決してそんな世界ではないけれど、それでもこの「優しすぎる世界」を微笑ましく思う心を忘れずに、いつまでもプーたちの存在に思いを馳せていたい、そういう思いを抱かざるを得ない作品だと思います。

 100エーカーの森で「何もしない」をし続ける彼らの存在に癒される「ほのぼの」とした名作。それこそがこの『くまのプーさん 完全保存版』の魅力だと思います。だから僕はこの作品が好きですね。本当に癒される。






 ということで、前回の更新からだいぶ間が空いてしまいましたが、『くまのプーさん 完全保存版』の感想記事を終えたいと思います。次回は『ビアンカの大冒険』の感想記事を書こうと思います。それではまた。

*1:そもそもディズニー映画なんてほとんどが原作改変の賜物なので、そんなのいちいち気にしてたらディズニー映画なんて楽しめないと思ってますし。