tener’s diary

てねーるのブログ記事です

【ディズニー映画感想企画第20弾】『おしゃれキャット』感想~ウォルト・ディズニー氏死後の一作目~

 ディズニー映画感想企画第20弾は『おしゃれキャット』の感想を書こうと思っています。ウォルト死後の最初の作品であり、この作品以降ディズニーは暗黒期に入ったとも言われていますが、その割には本作はわりと知名度高いほうです。
 そんな『おしゃれキャット』について語っていこうと思います。

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【基本情報】

ウォルト死後の暗黒期

 『おしゃれキャット』は1970年にディズニー20作目の長編アニメーション映画として公開された作品です。1966年のウォルト・ディズニー死去後に作られた最初のアニメーション映画として知られています。構想と企画自体はウォルト存命期にすでに決定していたのですが、本格的に制作が開始されたのはウォルトが亡くなった後のことです。

 前作までと違いウォルト・ディズニー氏がいなくなってからの制作開始ということで、ひょっとしたら世間からはそれなりに厳しい批評の目が向けられていたのかも知れませんが、それでも本作は興行的には一応の成功を収めたそうです。評論家からの評判もそこそこ良かったらしく、ひとまず「ウォルト・ディズニーがいなくなったせいで大幅にレベルが下がった」みたいなありがちな評価を食らうことは免れたと言えそうです。

 しかし、それでも前作『ジャングル・ブック』に比べると興行収入は減っています。これ以降のディズニー・スタジオでは比較的マイナーな作品の公開が続くため、本作以降の時代はしばしばディズニー・アニメーションの第一期暗黒期だと言われています。実際、ウォルト・ディズニー氏の晩年からすでに兆しのあったスタジオのアニメーション離れは、『おしゃれキャット』以降も進み次作『ロビン・フッド』では制作予算を大幅に削られていたりします。今までの記事で述べた通り、新作アニメーションの公開ペースも大幅に落ちています。当時のウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオは徐々に衰退していったのです。


日本でのマリー人気

 冒頭で述べた通り、暗黒期の始まりの作品とされている割には『おしゃれキャット』はわりと知名度が高いほうの作品でしょう。アメリカでも日本でも現在はそれなりに有名な作品として扱われている気がします。しかし、日本に関して言えば『おしゃれキャット』の知名度の高さの一因として、特殊な事情が存在しています。それは、本作品のキャラクター「マリー」の人気です。

 マリーは『おしゃれキャット』においては主人公ではなく脇役の一匹にすぎないのですが、日本ではそんなマリーが一時期異常なほどの人気を博していました。21世紀に入ってから、色んなマリー・グッズが日本で発売され、主に若い女性の間で「可愛いマスコットキャラクター」として大人気となったんですよね。多分、本作の主人公であるダッチェスやオマリーよりも日本での知名度は高い気がします。東京ディズニーリゾートでもダッチェスやオマリーよりはマリーを見かける機会のほうが多いですしね。*1

 最近はそんなマリー・ブームも落ち着いた気がしますが、そのブームの影響ゆえ今でも『おしゃれキャット』は知らなくてもマリーというキャラクターは知っているという人も良く見かける気がします。マリー・ブームは日本における『おしゃれキャット』の知名度向上に大いに貢献したことでしょう。




【個人的感想】

総論

 『おしゃれキャット』に対する自分の感想は「そこそこ面白いんだけど、あと一歩何かが足りない」というものなんですよね。プロットは前2作(『王様の剣』と『ジャングル・ブック』)と比べたらかなりちゃんとしてるし面白い気がするんですが、名作とまで言えるほどの面白さはないです。そんな訳で、どうも僕は本作の評価に困ってるんですよね。良くも悪くも「普通」「まあまあ」みたいな感想に落ち着いてしまい、なんとなく詳細な感想を書きにくい、そんな作品です。


わんわん物語』と『101匹わんちゃん』

 本作は久しぶりとなるディズニーオリジナルのストーリーです。原作は存在しません。原作なしのオリジナルのディズニー長編アニメーション映画は『わんわん物語』以来15年ぶりです。でも、その割にはあんまり「オリジナル」感はないです。というのも、『おしゃれキャット』のストーリーって正直言ってほとんど『わんわん物語』の二番煎じなんですよね。『わんわん物語』のキャラクターを猫に変えただけ感が半端ないです。で、それに『101匹わんちゃん』の要素もちょっと加えた感じの話です。

 今までの記事で述べた通り『わんわん物語』も『101匹わんちゃん』もストーリーはかなり「面白い」作品なので、それらの要素を掛け合わせた本作『おしゃれキャット』のストーリーもそれなりに面白いものにはなってるんですよね。少なくとも『王様の剣』や『ジャングル・ブック』のような突っ込みどころの多い展開にはなってないです。ラストも唐突ではなくちゃんと納得のいくものになってる。でも、単純に比較して『わんわん物語』や『101匹わんちゃん』のほうが面白さは優っていると思います。

 『おしゃれキャット』も悪くはないんですけど、同じようなストーリーゆえにどうしても『わんわん物語』や『101匹わんちゃん』と比べて見てしまうんですよね。で、これら2作と比べるとどうしても微妙な点が本作では目立っている気がします。それゆえに「それなりに面白いんだけどあと一歩足りない、惜しい!」という感想になるんですよね。以下、具体的に僕が惜しいと思った点を挙げていきます。


中盤からダレる

 本作品の一番の欠点はここなんですよね。中盤からかなりテンポが悪くなって、かなり冗長な展開が続くんですよね。ちょっと眠くなる。上映時間は『わんわん物語』と比べて大差ないのに、中盤からは『わんわん物語』よりもダラダラして長ったらしい展開に感じちゃうんですよね。多分、大して面白くもない本筋と関係ないシーンがやたら長かったせいだと思うんですよね。

 特に、エドガーがナポレオンやラファイエットと繰り広げる攻防劇が無駄に長く感じましたね。一応コミカルな描写にはなってるんですが、コメディとして笑えるのは最初だけで、あとはただただ長くて退屈に感じます。主人公サイドのダッチェスやオマリーの物語とも関係ないし、このシーンが最終的なエドガー討伐に繋がってるわけでもないので、単に尺を引き延ばすための無駄なシーンに思えてしまうんですよね。

 あと、ガチョウやジャズ猫との交流シーンも同じように冗長に感じてしまいましたね。こういう、「本筋とはあまり関係ない色んなキャラクターのお披露目シーン」が無駄に多くて長い点は前作『ジャングル・ブック』でも見られたんですが、『ジャングル・ブック』と違って、ジャズ猫のシーン以外はあんまり魅力的な音楽が流れてこないんですよね。だからこそ余計に退屈に感じた気はします。ガチョウたちも歩くシーンだけはちょっとコミカルな音楽が流れますがミュージカルシーンにはなってないし、ナポレオンとラファイエットが出てくるシーンの音楽はあんまり印象に残らない普通のBGMだし。そんな訳でちょっと無駄に冗長で眠くなるシーンが本作には多いんですよね。

 ジャズ猫の登場シーンだけは曲が良かったのもあって退屈しませんでしたけどね。他の脇役動物たちの登場シーンはどれもイマイチでつまらないです。「ここのシーン要らないから早く展開を先に進めてくれないかなあ」という感情がどうしても出てきてしまいます。


悪役がショボすぎる

 これも『101匹わんちゃん』と比較しちゃうから出てくる感想なんですけど、『おしゃれキャット』の悪役であるエドガーってちょっと間抜けでショボすぎるんですよね。『101匹わんちゃん』のクルエラのような恐ろしさはあんまりない。いや、もちろんわざとそういうキャラ設定にしてるのは分かるんですよ。恐らく、エドガーをそういう情けないキャラにすることで作品にコミカルさを出そうとしてるのかも知れません。でも、それゆえに作品全体から緊張感がかなり欠けてるんですよね。同じような間抜けキャラでもホーレスやジャスパーから逃げるシーンのほうがはるかに緊張感ありました。

 悪役が間抜けなエドガー一人しかいないのに対し、主人公サイドの味方キャラはオマリーやジャズ猫やロクフォール、フルー・フルーなどたくさんいましたからね。しかも、エドガーったら主人公たちとは関係のない犬のナポレオンやラファイエット相手にも苦労してるし。そんな威厳や怖さに欠ける悪役がエドガーなので、悪役相手にハラハラドキドキするような緊張感ある展開は本作品には全くないです。終盤でのエドガーとのバトルシーンもコメディ色が強い上に、味方キャラ総出でエドガーをフルボッコにしてたので、全くハラハラしませんでした。『101匹わんちゃん』の終盤でのクルエラとのカーチェイスシーンはとても緊張感あるアクションだったのにね。

 じゃあ、これらの緊張感あるサスペンス要素を削った代わりに増やしたコメディ要素が面白いのかというとそうでもないです。緊張感を削って代わりにコメディを増やすという方向性自体は悪くないと思うんですけど、その割りにはエドガー関連のシーンってあんまり笑えるほどコミカルでもないんですよね。ナポレオンたちとの攻防シーンは多少笑えたけど二度も繰り返した上に長すぎるので途中で飽きてくるし、それ以外のシーンは笑えるというよりは、単にエドガーに対して「情けない」と思っちゃうだけなんですよね。

 エドガーも情けない描写が多すぎて「絶対に許せない悪役」というよりは「可哀想なおじさん」という印象が強いんですよね。まあ遺産目当てに殺そうとしてる辺り普通に悪い奴ではあるんですが、それとは関係ないところ(例えばナポレオンなど)で酷い目に合ってる描写が多いのでちょっと可哀想に思えてくるんですよね。なんというか、あまりに情けなさ過ぎる人ゆえに‟判官贔屓”的な感情が生まれてきてしまう。そういう訳で、どうもエドガーはあんまり「名悪役」って感じがしないんですよねえ。僕は、もっと‟いかにも”な「悪役らしい悪役」のほうが好きです。そうじゃないと作品全体の展開が緊張感に欠ける。実際、本作は緊張感が弱かったです。


スタイリッシュなお洒落さ

 ここまで「微妙」だと感じた点を挙げてきましたが、本作品はそれでも「良かった」と思う点もそれなりにあります。その一つが作品全体に漂う「お洒落な雰囲気」でしょう。これは映像と音楽の二つがお洒落だったからだと思います。まさに『おしゃれキャット』という邦題に相応しいお洒落さです。*2

 映像は『101匹わんちゃん』以降のディズニー映画に共通してみられる「ラフな原画っぽい絵柄」が特徴的です。『101匹わんちゃん』では現代世界が舞台ゆえにこの独特な絵柄がモダンアートっぽさを感じさせてお洒落な雰囲気になっていたと以前の記事で述べましたが、『おしゃれキャット』でも同様の効果を発揮してくれてます。『おしゃれキャット』の舞台は1910年のパリですが、この時代のパリの街の雰囲気に、この印象派みたいな絵柄がとても合っているんですよね。すごーくお洒落なパリの風景を感じさせてくれます。このモダンでスタイリッシュなお洒落さは個人的にかなり好きです。『101匹わんちゃん』を彷彿とさせるお洒落さ。

 映像だけでなく音楽もかなりお洒落なんですよねえ。まずオープニングの歌"The Aristocats"からしてかなりお洒落です。アコーディオンの音が心地よく響いて、すごくフランス風のお洒落な歌って感じの曲なんですよね。この曲を歌っているのはモーリス・シュヴァリエというフランス人の有名な俳優兼歌手です。渋くて格好良い歌声ですねえ。

 その後、ボンファミーユ夫人の屋敷の中でネコたちが歌う"Scales and Arpeggios"も音楽教室で習う音楽っぽさを感じてお洒落です。まさに"aristcats"っぽさを感じさせるシーンです。ピアノの音が綺麗に響いて素晴らしいですね。ダッチェスたちのキャラに合ってる良い曲だおと思います。

 オマリーの登場シーンで流れる"Thomas O'Malley Cat"という曲はブラスの音がしっかり決まってるジャズ風の曲となっています。こういうジャズ風の曲もお洒落さの演出に一役買ってますね。『101匹わんちゃん』でも"Cruella De Vil"というお洒落なジャズ曲が流れていましたが、『おしゃれキャット』でも同様にこういうジャズ風の曲がスタイリッシュなお洒落さを醸し出してくれてます。こういうジャズ曲が、作品の舞台(1910年のパリ)の雰囲気に見事に合ってるんですよね。こういうところも『101匹わんちゃん』を彷彿とさせるスタイリッシュなお洒落さに繋がっています。


ジャズ猫たちによる名曲

 このように、従来のディズニー映画同様に『おしゃれキャット』もミュージカル映画であり、お洒落な劇中歌がたくさん流れていました。それらの劇中歌のうち特に有名なのが"Everybody Wants to Be a Cat"でしょう。ジャズ猫たちがこの曲を歌うシーンは、個人的に本作で一番印象に残ってる好きなシーンです。まずこの曲が良い曲ですよね。この曲もジャズ系の曲なんですけど、全編に渡って聞きごたえのある演奏が流れる素晴らしい名曲なんですよ。楽しくなって興奮するような曲で、耳に残ります。

 しかも、そんな名曲とともに流れる映像演出も素晴らしいんですよね。最初はゆったりとしたお洒落なジャズって感じの曲調と映像なんですが、途中から一気にサイケデリックな雰囲気に変わります。カラフルな照明も相まって、ドラッグでも決めたようなカオスで楽しい演出が続きます。曲調も興奮できるような雰囲気のものに一気に変わって楽しいです。最後にピアノと一緒にガンガン階を落下していくシーンは、良い意味で"Crazy!!"と言いたくなるような楽しい演出だと思います。



面白いけど惜しい

 という訳で、僕にとって『おしゃれキャット』は一長一短な作品なんですよね。単体で見れば、ストーリーもまあまあ面白いし、音楽や映像もお洒落なのでそこそこ良作なんですが、どうしても『わんわん物語』や『101匹わんちゃん』の二番煎じ感が強くて、ついつい比較して見てしまうんですよね。で、これらと比較して見ちゃうと、テンポの悪さや緊張感の欠如などの欠点が目立ってしまい、イマイチに感じてしまう。

 とは言え、『わんわん物語』のような王道ラブロマンスとしての面白さはそれなりにありますし、『王様の剣』や『ジャングル・ブック』と違ってラストもちゃんとしてるので、決して退屈なストーリーではないです。中盤のダラダラしたシーンさえ我慢すればそれなりに面白く見られる話にはなっています。しかも、音楽や映像はめちゃくちゃスタイリッシュでお洒落です。僕は、こういうモダンアートっぽいお洒落な雰囲気が好きなので、それらを楽しむだけでも十分満足できる作品にはなっています。

 そういう訳で、僕は『おしゃれキャット』に対しては「あと一歩惜しい!」という感想を抱くんですよね。まあまあ面白いけど欠点もちょいちょい目立つ、そんな作品ですね、『おしゃれキャット』は。好きな点とダメダメな点が混在してる辺り、前作『ジャングル・ブック』と似たようなものを感じなくもないです。暗黒期の作品群の中では相対的に見て良い方だとも思います。そんな「良いとも悪いとも言い切れない」作品だと思っています。






 以上で、『おしゃれキャット』の感想を終わりにします。次回は『ロビン・フッド』の感想記事を書く予定です。それではまた。

*1:ちなみに、僕は捻くれたオタクなので、映画の『おしゃれキャット』なんて全然見たこともない人たちが単なるマスコットの一人としてマリーをやたら可愛がってるだけの日本の特殊な流行に対して、多少苦々しく思う気持ちを抱いていた時期もありました……。でもまあそんなのは、流行に素直に乗れずに捻くれて斜に構えた逆張りオタクの悲しい性ゆえの戯れ言なのでどうでも良いですね……。

*2:なお、原題は"The Aristocats"なので「おしゃれ」っていう意味はタイトルには存在してないです。ちなみに、このタイトルは「貴族」を意味する"aristocrats"と「猫」を意味する"cat"を掛け合わせたディズニーの造語なんですが、わりとセンスの良い言葉遊びだと思います。このタイトルの付け方もお洒落で好きです。