tener’s diary

てねーるのブログ記事です

【ディズニー映画感想企画第18弾】『王様の剣』感想~暗黒期の兆しを感じさせる作品~

 ディズニー映画感想企画第18弾です。今回は『王様の剣』について語ろうと思います。前作までに比べるとちょっとマイナーである本作品は、「ディズニー映画ワースト」にしばしば挙げられがちという不名誉な点で、ディズニーオタクの間ではある意味有名な作品でもあります。
 そんな『王様の剣』についての感想記事を書こうと思います。

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【基本情報】

ウォルト晩年のアニメーション離れ

 『王様の剣』は1963年にディズニー18作目の長編アニメーション映画として公開されました。原作はイギリスの有名な騎士道物語であるアーサー王伝説です。この作品は、ウォルト・ディズニー氏が完成状態を見れた最後の長編アニメーション映画だと言われています*1。つまり、『王様の剣』はウォルト・ディズニー氏の晩年を代表する作品の1つだと言えるでしょう。

 これまでの記事で述べて来たとおり、『眠れる森の美女』の制作時期の辺りからディズニー社はアニメーション以外の事業にも多く手を出すようになり、アニメーション制作だけにかまけてはいられなくなってました。そして、『眠れる森の美女』が興行的に失敗したことがきっかけでディズニーのアニメーション離れはますます加速し、前作『101匹わんちゃん』の制作ではコスト削減が図られたこともこれまでの記事で述べました。『王様の剣』もディズニーのそのようなアニメーション離れの時期に作られた作品の一つです。

 『王様の剣』は興行的には一応の成功を収めましたが、当時の批評家からはかなり賛否両論な評価を受けました。冒頭で述べたように、現在でも本作品はWDAS長編アニメーション映画の中ではクオリティの低いほうだという評価がディズニーマニアの間では目立ちます。実際、(後で詳細な個人的感想は述べますが)僕自身も本作は駄作だと感じます。本作に対するそんな悪評も影響したのか、前作『101匹わんちゃん』の興行的成功にもかかわらず、『王様の剣』公開以降ディズニーの長編アニメーション離れはさらに進み、次作『ジャングル・ブック』の公開まで4年もの年月が空きました。

 この時期、ウォルト・ディズニー氏自身も関心が長編アニメーション制作以外の方向に向いており、アニメーション離れの状態であったと言われています。当時のウォルト氏は1964年のニューヨーク万博への出展*2や実写映画*3である『メリー・ポピンズ』の制作のほうに力を入れていました。


暗黒期の兆し

 第一期黄金期の始まりである『シンデレラ』以降、前作『101匹わんちゃん』まではディズニーオタクじゃなくても知ってるような有名な作品が続きましたが、本作『王様の剣』の公開以降はやや知名度の劣る作品がしばらく続きます。また、先述の通り、この頃からディズニー社自体が長編アニメーション制作にあまり力を入れなくなっていたため、長編アニメーション映画の公開ペースが大幅に遅くなります。これ以降、1980年代半ばまでのディズニーはおおよそ3~4年に一度のペースでしか新作長編アニメーション映画を公開しなくなります。

 そのため、ウォルト死後の1970年代から1980年代辺りのディズニーはしばしば暗黒期だとか低迷期だとか言われています。ウォルト晩年に公開された『王様の剣』は、そんなディズニー暗黒期の到来を予感させる作品だと言えるでしょう。*4




【個人的感想】

総論

 『王様の剣』は歴代ディズニー映画の中でもワーストに近い方の作品だとしばしば言われています。冒頭で述べた通り、一般的知名度こそ低いですが、‟悪い意味”で「マニアの間では有名な作品」でもあります。と言うのも、本作品は『コルドロン』などと並んで、マニアが「微妙なディズニー作品」として頻繁に挙げがちな作品の一つなんですよね。つまり、ディズニーオタクの間では「駄作として有名な作品」になってるんですよね、これ。*5

 で、僕個人の感想ですが、正直言って僕も本作が「駄作」に近い作品であることは否定できないなあと思っています。ぶっちゃけ面白くはないです。以下、『王様の剣』のどういうところが微妙だと感じたのか詳細に語っていこうと思います。


悪い意味で驚きのラスト

 本作の原作は有名なアーサー王伝説です。しかし、『王様の剣』はそんなアーサー王伝説の序章だけをアニメ化してます。有名な円卓の騎士とかは全く出てきません。若き日のアーサーが剣を抜いて王になるところで終わりです。正直言って、この時点でつまらない作品になってます。いや、それでも上手くストーリー展開の転がし方次第ではもっと面白くできたんじゃないかと思わなくもないですが……。

 というのも、本作ははっきり言って終わり方が酷すぎるんですよね。思わず「は?」って言いたくなるようなラストですよ。主人公のワート(後のアーサー王)が剣を抜いたらみんなから唐突に王様扱いされるエンドですよ。主人公自身もその唐突さにラストで戸惑っています。本来なら「うおー、主人公が王に選ばれた!!」と興奮して盛り上がるべきシーンにもかかわらず、ちっとも盛り上がらない。だって、それまでの物語の展開とこの終わり方が全く繋がってないんだもの。本当に唐突に剣を抜くだけなんですよね。

 剣を抜くまでの本作の展開は「ワートが魔法使いマーリンから色々な知恵を授けられる」というものです。そして、一応そこでは「知恵の大切さ」が再三に渡って大事なテーマとして強調されています。にもかかわらず、ラストは剣を抜くだけなんですよ。「いや、知恵全く関係ねえじゃん!!」って思わず突っ込みたくなりましたよ。

 普通さ、こういうのって「マーリンの教えで知恵の大切さを学び成長したワート」を見せつけるような終わり方にするんじゃないんですかね?そういう展開にすることで、物語の筋道に一貫性あるテーマが生まれるのが王道の作品だと思うんですよ。本作はそういう王道を見事にぶっ壊してます。もちろん、王道をぶっ壊していてもきちんと面白ければ問題ないのですが、本作品は悪い意味での意外性しか生んでないです。「え?これで終わりなの?」って感じのラストにしかなってないんですよね。成長したワートの勇姿が描かれることなく、何となく流れで剣を抜いたら何となく王様にされてしまっただけ。それじゃあ拍子抜けしちゃいますよ。


ワートのキャラ

 ラストで僕が拍子抜けした感想を抱いた一因として、本作の主人公ワートのキャラ設定の問題も挙げられます。このワートってやつがちょっとヘタレすぎるんですよね。いや、もちろんヘタレ主人公の存在自体は悪くないんですが、この作品の場合は結局ワートが最後までヘタレのまま王になっちゃうから全然感激しないんですよね。ワート本人も「王なんてなりたくない。従者で十分」みたいなことを終盤まで言ってるので、そんな人物が何となく剣を抜いていきなり王になったところで盛り上がらないでしょう。

 だって、ワート自身も王になろうという強い意志のもとで剣を抜いたわけじゃないですからね。単に、義兄にパシられた結果たまたま目に入って来た剣を抜いたら、その剣が伝説の剣だったので成り行きで周囲に持ち上げられて王になっちゃっただけ。本人も「僕には王なんて無理だ」って言って逃げ出そうとする始末です。王になることを長年望んでいた主人公がやっと王として認められただとか、王なんて無理だと思っていたヘタレ主人公がラストで覚醒して王として働くことを決意するようになるだとかいった展開ならば、王道のストーリーとしてそれなりに感激できたかもしれません。でも、本作品は最後まで主人公は「王なんて嫌だ」と言い続けるだけです。そんな人が成り行きで無理やり王にさせられても、ちっとも盛り上がりませんよ。

 ひょっとしたら、この成り行きでなんとなく王になっちゃった主人公ワートがこの後アーサー王として目覚めて、数多の伝説のような活躍をするのかもしれませんが、本作品ではそこまでは描写されません。アーサー王として目覚めて活躍する前の、なんとなく王になっちゃった場面で物語は終了してます。だから「は?そこで終わりなの?」という感想しか出てこないんですよね。「もっと物語が続くべきなのでは?」と消化不良に感じてしまいます。盛り上がりにも感動にも欠けるダメダメな終わり方だと思います。


マーリンの教え

 終盤の謎展開に至るまでの間、本作品では魔法使いマーリンがワートに色々な教えを授けるシーンが延々と続きます。ここは少し説教臭い部分でもあります。まあ、ディズニーの作品が説教臭いのは『ピノキオ』の頃からずっとそうなので、それ自体は別にマイナスではないのですが、先述した通り、その説教の内容が物語のラストに全く結びついてないから説得力に欠けるんですよね。

 マーリンの教えはおおよそ要約すると「知恵の大切さ」であり、武術なんかよりも勉強のほうが大切だとワートに再三に渡って強調します。まあ、そのテーマ自体は別に良いです。僕も勉強して知恵を磨くことの大切さ自体を否定する気はないです。しかし、じゃあワートはその教えを得て成長してるのかというと全然そんな感じがしません。魚になったりリスになったりする過程で、色々とワートが何かしらを学んだっぽい描写があるのですが、そこで学んだことが生かされる展開はないんですよね。

 結局、ラストでワートが王になれたのも「剣を抜いたから」という、知恵とは全く関係ない要因によるものです。マーリンの教えを受けて成長したワートが知恵を使って活躍するようなシーンが仮にあるならば、この作品のメインテーマの説得力も増し、物語としても面白いものになったのかも知れません。しかし、本作ではワートが知恵を生かす場面は一切ないため、ただ単にマーリンが説教臭いお話をしつこく繰り返すだけの物語になっております。その説教の内容を物語の展開に全く生かせてないのははっきり言って作劇上の失敗でしょう。ワートに教えを授ける展開を用意するなら、その分ちゃんとワートが成長して活躍した姿を見せてくれないと困ります。

 作中のメインテーマである「知恵」を使って見事に困難を切り抜けたシーンを強いて挙げるならば、マダム・ミムとの対決シーンでしょうか。でもこれはあくまでもマーリンの活躍であり、ワートがそこから何か知恵の大切さを学んだという感じではありません。そもそもマダム・ミム自身も終盤でいきなり登場するだけの悪役なので、彼女を倒したところでそこまで強いカタルシスはないです。だからやっぱり「知恵の大切さ」というメインテーマがそこまで強い説得力を持って読者に響く訳ではない。

 「知恵の大切さ」というテーマを何度も繰り返し強調してる割りには、物語の大きな展開にそれが全く結びついてない点が、本作品の2つ目の大きな欠点だと思います。ワートが大きく成長して活躍する場面がないので、マーリンがワートを教育することの重要性が観客にちっとも伝わって来ない。


映像と音楽

 本作は前作『101匹わんちゃん』と同様に、「漫画のネームっぽいラフな絵柄」になっています。恐らく、『101匹わんちゃん』同様にトレスマシンを導入したためでしょう。ただ、これは完全に僕の好みによる部分もあると思うのですが、『101匹わんちゃん』のようなお洒落でスタイリッシュな雰囲気は今作には感じないです。『101匹わんちゃん』は現代世界が舞台ゆえに、あの「ラフな絵柄」がモダンアートっぽさを引き立ててお洒落な雰囲気を醸し出してたのだと思うのですが、中世のイングランドが舞台である本作品でそういう絵柄を使われてもお洒落にはあまり感じないんですよね。とは言え、見ていて苦手意識の感じるような絵でもないです。まあ、感じ方としては普通の絵柄です。

 そして、本作もディズニー映画ということでそれなりに色んなミュージカルシーンがあるのですが、はっきり言ってどれもあまり耳に残るような曲じゃないです。前作『101匹わんちゃん』よりは劇中歌は多いのですが、それにしてはどの曲もあまり強く印象に残らない。とは言え、有名なシャーマン兄弟*6が作曲しているだけあって、ちゃんと良い曲はあります。例えば"That's What Makes the World Go Round"なんかは何度か聞いてるとちょっと楽しくなるような良い曲だと思います。本作は、そういう「ものすごく耳に残るような曲ではないけど何度か聞いてるとまあまあ楽しい」タイプの曲が多いのかなと思います。そういう意味では、やっぱり音楽もちょっと弱い気がします。


結局イマイチな作品

 ここまで欠点しか挙げてこなかったですが、強いて擁護する点を挙げるならば、見ていて終始退屈ってほどではない点でしょうかね。個々の展開は盛り上がりに欠けていてちっとも興奮できないのですが、とは言えまあまあ見続けられるレベルの面白さの展開が続く作品ではあります。魚に変身して食べられそうになるシーンやマダム・ミムとの対決など、特別に面白いと感じるほどの盛り上がりはないけど眠気を強く感じるほどのつまらなさでもないです。

 とは言え、やっぱりこの作品は全体的に見て「駄作」と言われても仕方ないよなあと感じます。個々の展開は説教臭いだけで盛り上がりや説得力に欠けるし、ラストは唐突すぎて消化不良感しか抱かないし、あんまり魅力的なキャラもいないし、音楽や映像もインパクト弱いし……全体的に微妙としか言いようがないですね。『コルドロン』と並んでディズニー映画の駄作扱いする人が多いのも納得の出来だと思います。面白くないです。







 以上で、『王様の剣』の感想記事を終わりにしたいと思います。次回は『ジャングル・ブック』の感想を書く予定です。それではまた。

*1:本作の公開後、次作『ジャングル・ブック』が完成する前の製作途中の時期にウォルト・ディズニー氏は亡くなっています。

*2:この1964年ニューヨーク万博の際に有名な「イッツ・ア・スモール・ワールド」のアトラクションが初めて制作され、その後ディズニーランドに同じアトラクションが導入されました。

*3:ただしアニメーションとの合成シーンもあります。

*4:と言っても、『王様の剣』の公開した1963年自体は、まだウォルト・ディズニー氏の存命時代のため暗黒期に通常は含めないことが多いですが。

*5:ただし、こういう評価はあくまでも日本のディズニー・オタクの間だけであり、アメリカではそこまで評価は低くないという話も聞きます。ただ、僕はアメリカ人のディズニー・オタクの生の声をあまり知らないので、この点の真偽については何とも判断できません。とは言え、確かにRotten Tomatoesなどでの数字はそこまでめちゃくちゃ低くもないです。

*6:ディズニーの有名な楽曲を数多く作り出したディズニー御用達の有名な作曲家兄弟です。本作以外にも、『メリー・ポピンズ』や『ジャングル・ブック』『おしゃれキャット』などでの劇中歌を多く生み出しています。また、映画音楽以外にも"It's a Small World"のようなテーマパーク音楽の作曲も手掛けています。