tener’s diary

てねーるのブログ記事です

【ディズニー映画感想企画第16弾】『眠れる森の美女』感想~意外と個性的な作品~

 前回から更新が少し空いてしまいました。ディズニー映画感想企画第16弾です。今回は、実はかなり個性的な作品である『眠れる森の美女』の感想記事を書こうと思います。

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【基本情報】

手間暇のかかった失敗作再び?

 『眠れる森の美女』はディズニー16作目の長編アニメーション映画として1959年に公開された作品です。前作『わんわん物語』の公開が19555年だったので、4年もの間ディズニーは長編アニメーション映画を公開していなかったことになります。それだけ『眠れる森の美女』の制作に時間がかかっていたという訳です。時間だけでなく製作費にも莫大な金額を費やしました。『眠れる森の美女』はウォルト・ディズニー氏にとって久しぶりとなる「渾身の自信作」だった訳です。*1

 しかし、それだけ制作に手間暇をかけたわりには『眠れる森の美女』は興行的には失敗してしまいます。かなりの手間暇をかけた割には興行的に今一つな結果に終わってしまったという点では、かつての『バンビ』を彷彿とさせます。また、当時の評論家からの評判も賛否両論で、否定的な意見もだいぶ目立っていました。そんな訳で、『バンビ』の時と同様に『眠れる森の美女』も「力を入れて作った割には相応の評価を得られなかった失敗作」となってしまいました。

 前の記事で述べた通り、当時のディズニーはテレビ番組制作やテーマパーク経営にも乗り出しており、もはやアニメーション映画だけの会社ではなくなりました。ウォルト・ディズニー氏自身もかつてのようにアニメーション映画の制作だけに構っている訳にはいかなくなっていました。そんな中で、久しぶりに力を入れて作ったはずの『眠れる森の美女』の興行的失敗は、ディズニーのアニメーション離れをますます加速させる事態となったそうです。この映画以降、アニメーション映画の製作本数が露骨に減っていきます。それでも、縮小してはいるもののアニメーション事業をその後も続けたのは、「元々ディズニーはアニメーション制作スタジオとしてスタートしたのだ」という矜持がウォルトたちの中にあったからなのかもしれません。


ウォルト最後のプリンセスもの

 『眠れる森の美女』の原作は『シンデレラ』同様にシャルル・ペロー氏の童話です。つまり、本作は『白雪姫』『シンデレラ』に次ぐ3作目となる「ヨーロッパの童話を原作としたプリンセスもの映画」になります。実は、意外に思われるかもしれませんが、ウォルト・ディズニー氏の存命時代(1901~1966)に作られた「ヨーロッパの童話を原作としたプリンセスもののディズニー映画」はこの3作品だけです。ディズニーと言えば「中世ヨーロッパ風の世界でお姫様と王子様のラブロマンス!」って思う人も多いかもしれませんが、実はそういう典型的な「ディズニー・プリンセス」風の作品ってウォルトの時代にはそんなにたくさん作られていないんですよね。

 しかも、『眠れる森の美女』以降この系統のプリンセスもののディズニー映画は1989年に『リトル・マーメイド』が公開されるまでは全く制作されていません。30年もの間、ディズニーは「ヨーロッパの童話を原作とするお姫様と王子様のラブロマンス」を公開していないんです。この事実も人によっては少し意外だと思われるかも知れません。昔のディズニーは現在のイメージとは違って、「ヨーロッパ童話原作のプリンセスもの」中心のスタジオではなかったのです。




【個人的感想】

総論

 『眠れる森の美女』は、それまでのディズニーのプリンセスものである『白雪姫』や『シンデレラ』とは色々な点で異なる個性的な作品だと思います。特に、この作品の個性的な特徴として真っ先に挙げられるのは「絵柄」と「王子のキャラ」でしょう。しかも、「絵柄」に関しては、プリンセスものに限らず当時のディズニー作品全体と比較してもかなり独特です。この絵柄は人によって好みの分かれる点だと思います。実際、僕も小さい頃はこの絵柄ゆえに『眠れる森の美女』をあまり好いていませんでした。

 しかし、小さい頃は絵柄を理由にそんな好きでなかった『眠れる森の美女』も、ある時を境に「これはこれでそれなりに面白いなあ」と思えるようになり、好きになりました。当時の興行収入こそイマイチな出来に終わった作品ですが、『眠れる森の美女』もディズニーの第一期黄金期に並び立つにふさわしい十分な良作だと思います。


独特な絵柄

 上で述べたように、『眠れる森の美女』の最大の特徴はやはりこの独特な絵柄だと思います。それまでのディズニーアニメーションの絵柄とは明らかに作風が違います。これまでのディズニーアニメーションで追求してきたのは基本的に「リアリズム」であるのに対し、『眠れる森の美女』の絵柄はかなり平面的で動きも少ないんですよね。これはこの作品の美術担当だったアイヴァンド・アール氏の作風が強く反映された結果らしいです。

 彼の絵柄は、デューラーファン・アイクブリューゲルなどの影響を強く受けたうえで現代的な抽象アートっぽさもある絵柄だと言われています。実際、『眠れる森の美女』の絵柄はあの頃のヨーロッパの絵画っぽさを強く感じます。あの時代のヨーロッパの教会とかに飾ってありそうな絵の登場人物がそのまま動き出した感じのアニメです。特に背景の城や自然などのデザインがそんな感じです。

 一方で、色彩もすごく独特です。全体的にちょっと暗めの色使いでありながら、モブキャラたちの服装はどことなくカラフルなんですよね。悪役のマレフィセント登場時に多用される緑の炎や光もなかなか独特な色使いで、ちょっと恐ろしげなファンタジーっぽさを感じます。この辺りのデザインには現代風の抽象アートっぽさも感じますね。本作品には、立体感が欠けてるどことなく平面的な絵柄がちょいちょい目立つんですが、その点もめちゃくちゃモダニズムのアートっぽいです。

 これらの独特な特徴ゆえに、「リアリティある動きのアニメーション」というよりは、文字通り「美術館に飾ってあるような絵画の世界に飛び込んだ」ようなアニメーションになっています。最初のシーンからしてその独特な絵柄を実感します。お城に集まるたくさんの人々の絵にリアリティのある立体感や動きは全く感じられず、むしろ芸術的な絵画に描かれた人物みたいな絵柄になってるんですよね。

 このようなアール氏の絵柄は今までのディズニーアニメーションとは大きく異なる独特な絵柄なので、見る人をかなり選ぶ画風だと思います。公開当時『眠れる森の美女』がイマイチ微妙な興行成績となった一因もそこにあると言われています。僕も小さい頃はこの絵柄が好きでなかったです。しかし、それほど個性的であるがゆえに次第に何となく味のある絵にも思えてきて、何度か見ていくうちに気に入るようになりました。今の僕は「これはこれでどことなく癖になる絵柄で良いなあ」と思っています。


王子のキャラ

 それまでのディズニーのプリンセスもの映画である『白雪姫』や『シンデレラ』では王子のキャラはほぼないようなものでした。はっきり言って王子は空気でした。それに対して、『眠れる森の美女』のフィリップ王子はしっかりと個性的な人物描写がなされており、全く空気にはなっていません。あまりセリフもなく人物像が掴みにくかった『白雪姫』や『シンデレラ』の王子とは違い、『眠れる森の美女』の王子は出番もそれなりに多く、どんなキャラクターなのかがはっきり分かる描写がなされています。

 しかも、物語の後半ではそんなフィリップ王子が大活躍します。『白雪姫』も『シンデレラ』も王子の活躍シーンがあまりなかった点が彼らの‟空気”化の一因となっていたのですが、『眠れる森の美女』ではフィリップ王子がしっかりと活躍して見ごたえのあるアクションシーンを見せてくれます。だからこそ、フィリップ王子は空気でないどころかかなり魅力的なキャラクターになっています。

 「王子のキャラがちゃんと魅力的になってる」という点も、今までのディズニーのプリンセスものとはだいぶ違う点であり、本作品の個性的な特徴だと思います。実際、フィリップ王子のキャラクターはなかなかに魅力的です。彼、普通に格好良いんですよね。しかも、意外と自由恋愛志向という現代的な価値観の持ち主です。王子は姫と結婚すべきだと主張する父親のヒューバート王に対して「古いなあ。今は14世紀ですよ」みたいな発言をフィリップがするシーンは、小さい頃から個人的に印象に残っているシーンの1つです。終盤で妖精たちの力を借りつつもちゃんとオーロラ姫救出のために活躍するところも格好良いですね。


オーロラ姫

 この映画に関しては、フィリップ王子のキャラが立っている一方で、オーロラ姫のキャラが弱いという感想も良く聞きます。確かに、後半からオーロラ姫はずっと寝ているだけなので出番が少なく空気に見えるのかもしれません。でも、それはあくまでも後半のシーンであって、前半はしっかりとオーロラ姫も主人公の一人として描写がなされています。

 ローズとして農民の娘の生活をしている前半のオーロラ姫はしっかりとセリフも多いし魅力的なヒロインとなっています。自分の正体を知って悲しみに暮れるシーンなんかはしっかりと悲劇のヒロイン感あります。フィリップと会えないと知って涙するシーンなんかはそれっぽいです。気丈な態度が目立つシンデレラとは違い、オーロラ姫はわりとロマンティックで少し受動的な悲劇のヒロインっぽいキャラクターだと思います。そのように、前半はしっかりとオーロラ姫のキャラも立っています。


三人の妖精たち

 とは言え、本作で最も目立っていてキャラが立っているのは三人の妖精たちでしょう。本作品の主人公はオーロラ姫よりもフローラ、フォーナ、メリーウェザーの三人の妖精たちでしょう。彼女たちが実質的な主人公として物語を動かしていきます。この三人の妖精のキャラもなかなか魅力的ですね。わりとコミカルなシーンもあって面白いんですよね。特に、ドレスの色を巡ってフローラとメリーウェザーが喧嘩をするシーンはこの作品の代表的なコメディ要素でしょう。*2

 この三人の妖精は、終盤ではマレフィセントを倒すために活躍もする一方で、中盤では凡ミスをしてマレフィセントにオーロラの居場所がばれるという失態もやらかしている。そんなどこか人間味のあるところが魅力的なキャラクターとなっています。


マレフィセント

 本作で目立つもう一人のキャラクターは何といっても悪役のマレフィセントでしょう。その名悪役ぶりが評価されてか、現在ではディズニーランドのショーやパレードなどで、全ディズニー・ヴィランズのリーダー的存在としてしばしば登場することが多いです。何といってもこの独特なキャラクターデザインが素晴らしいです。まさに「カリスマ溢れる悪の女王!」という感じのデザインになっています。見た目だけでなくその言動も悪のカリスマっぽさで溢れています。

 肝心の動機が「姫の誕生会に招待されなかったから」というそのショボさもある意味で彼女の悪辣さを強調していて良いと思います。ショボい動機で大きな悪行をやるというのがまさに絶対悪っぽくて素晴らしいです。マレフィセントのどこか人間離れした絶対的な悪役としての魅力はこの作品全体の魅力にも大きく貢献していますね。ファンタジー作品にありがちな「絶対的な強さと邪悪さを誇る大魔王」っぽさが、マレフィセントからは漂うんですよね。まさに悪のカリスマです。


アクションシーン

 この作品の一番の見どころは終盤のアクションシーンだと思います。悪のカリスマとして君臨するマレフィセントに立ち向かうフィリップ王子の活躍が格好良いです。最後にドラゴンへと変身するマレフィセントの迫力も相まって、なかなか見ごたえるのあるアクションシーンになっています。重厚な大作ファンタジーのラストに相応しい見ごたえのあるアクションになっていますね。こういう見ごたえのあるシリアスなバトル描写が終盤で出てくるのって当時のディズニー映画では珍しい気がします。

 終盤での悪役とのバトルは『ピーター・パン』にもありましたが、あれはピーター・パンやフック船長の子供っぽい人物像のせいでどこかコミカルな雰囲気の漂うバトルになっています。それに対して『眠れる森の美女』はそのようなコメディ要素もなく、シリアスで緊張感溢れるバトルが最後まで続きます。だから、とても見ごたえのあるアクションになってるんですよね。素晴らしいです。


音楽

 『眠れる森の美女』もミュージカル映画としてそれなりに劇中歌が存在します。特に有名なのはやはり"Once Upon a Dream"でしょう。作品内で何度も使われる超有名な曲であり、僕も本作品の曲の中で一番好きな曲です。ロマンティックで何度も歌いたくなる名曲中の名曲でしょう。この音楽に合わせてオーロラ姫とフィリップ王子が森の中で踊るシーンは本作品を象徴する名シーンでしょう。

 このように、本作品には有名なチャイコフスキー氏のバレエ音楽『眠れる森の美女』の曲がふんだんに使われており、バレエ好きならば一度は聞いたことのある音楽が多いと思います。これらのバレエ音楽がアニメーションのBGMとしてちゃんとそれぞれのシーンの雰囲気に合わせて流れてきます。この点も本作品の音楽の魅力的な点の一つだと思います。


芸術的な王道ファンタジー

 以上、細かい点を見てきましたが『眠れる森の美女』は全体的にちょっと格調高くて重厚感ある雰囲気の漂う映画だと思います。それゆえに、見ごたえのある王道ファンタジーになっていてとても面白い作品になっています。本作は『白雪姫』や『シンデレラ』に比べるとちょっと暗くてシリアスなムードが全体的に漂います。その重厚感溢れる作風は何といってもアール氏の絵柄によるものなんでしょう。アール氏の絵柄に加えて、チャイコフスキーの音楽も使われていることで、全体的に芸術志向の作品になってると思います。その点が本作品の少し格調高い雰囲気に繋がっているんだと思います。

 絵柄や音楽だけでなくストーリーもシリアスな王道ファンタジー小説っぽさを感じさせます。ちょっと雰囲気がどことなくトールキン作品や中世ヨーロッパの英雄伝説に近いんですよね。ラストのマレフィセントとのバトルシーンなんかがそんな雰囲気を感じさせる一因にもなってるんだと思います。ヒロインのオーロラ姫よりも、それを助けるフィリップ王子の活躍のほうが目立っている点にも王道のヒロイック・ファンタジーっぽさを感じます。それらの点がこれまでのディズニー作品とは少し異質で、本作が個性的に感じる要因になってるんだと思います。

 という訳で、『眠れる森の美女』は王道ディズニー作品のようでいながら実はとても「個性的」な作品だと僕は思っています。そのうえで、しっかりと面白い良作に仕上がっているとも思います。ストーリーは王道ファンタジーとして見ごたえのある飽きさせない展開になっていて、音楽もその展開に良く合っています。絵柄は独特で人を選びますが、個人的には味のある絵なので嫌いではないです。芸術色の強い映像や音楽などの演出と、中世ヨーロッパっぽいシリアスで少し暗い王道ヒロイック・ファンタジーとが上手く調和した良作だと言えるんじゃないでしょうか。僕はわりと好きな作品です。







 以上で、『眠れる森の美女』の感想記事を終わりにします。次回は、また更新間隔が空くかもしれませんが『101匹わんちゃん』の感想を書こうと思っています。それではまた。

*1:1955年にカリフォルニア州アナハイムに出来た最初のディズニーランドのシンボルとなるお城が、当時まだ制作中だった映画『眠れる森の美女』の城であったのも、ディズニーがこの作品の制作にそれだけ力を入れていたことの証かも知れません。

*2:このコミカルな喧嘩のお陰で、最後のダンスシーンではオーロラ姫の衣装の色がコロコロ変わる印象的な演出が見られます。この演出はわりと洒落ているので僕は好きです。