tener’s diary

てねーるのブログ記事です

【ディズニー映画感想企画第6弾】『ラテン・アメリカの旅』感想 ~政府の依頼から生まれた旅行映画~

 ディズニー映画感想企画企画第6弾は『ラテン・アメリカの旅』です。一応、公式にWDASの6作目の長編アニメーション映画とされている作品ですが、短編集に近いうえ全上映時間もわずか40分ちょっとしかないので、あんまり‟長編”って感じはしないです。ディズニー映画の紹介&感想記事を書くにあたって~ディズニー映画入門~ - tener’s diaryの記事でも軽く触れましたが、これ以降しばらくは「一応‟長編アニメーション映画”ということになっているけどオムニバス形式の短編集に近い作品」が続くことになります。*1

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【基本情報~政府の提案で南米旅行に~】

 『ラテン・アメリカの旅』は『バンビ』公開とほぼ同時期の1942年に公開された、6作目のWDAS長編アニメーション映画です。前の記事で第二次世界大戦期からディズニー・スタジオはアメリカ政府の依頼を受けてプロパガンダ映画を作るようになり始めたと述べましたが、この『ラテン・アメリカの旅』の制作のきっかけもまさにアメリカ政府からの依頼でした。

 1941年に当時のアメリカ政府(国務省米州局調整オフィス)からの依頼でウォルト・ディズニー氏は南米旅行に行きました。アメリカ政府は、アメリカ合衆国と南米諸国との親善を深めるための大使としての役割をウォルト・ディズニーに期待したそうです。そして、その旅行先での取材をもとにラテンアメリカの習俗や文化を紹介する映画をディズニーに作ってもらおうと考えていました。*2

 当時のディズニー・スタジオはまだ『ダンボ』と『バンビ』を制作中でしたが、ちょうどこの頃に従業員による大規模なストライキに見舞われてショックを受けていたウォルト氏は、労働争議からの現実逃避も兼ねてこの南米旅行の話に乗ったそうです。こうして実現した南米旅行での経験を下に、アメリカ政府からの資金援助なども受けながら制作され、翌年の1942年に公開されたのが『ラテン・アメリカの旅』でした。

 この『ラテン・アメリカの旅』は完成後すぐにフランクリン・ルーズヴェルト大統領やネルソン・ロックフェラーたち政府のメンバーに見せました。この映画は政府の主だった人からは概ね好評となり、ネルソン・ロックフェラー氏も「期待以上の作品だ」と絶賛したそうです。同年に映画『バンビ』が商業的にも評論家からの評判的にも失敗した一方で、政府の依頼がきっかけとなって作った『ラテン・アメリカの旅』のほうは政府に大いに喜ばれたわけです。

 当時のディズニーはこの『ラテン・アメリカの旅』だけでなく他にもたくさんの「政府御用達の映画」を作りました。前の記事でも述べましたが、『ピノキオ』『ファンタジア』『バンビ』などの一般的な商業用映画が軒並み赤字となって経営が苦しくなっていた当時のディズニー・スタジオにとって、政府からの依頼による仕事こそがまさにスタジオ存続の命綱になってました。

 『ラテン・アメリカの旅』は戦時下の「政府御用達の映画制作スタジオ」と化したディズニーを象徴する作品の1つでしょう。




【個人的感想】

総論

 戦時中に政府の依頼で作られたディズニー映画というとしばしば「プロパガンダ色が強すぎて娯楽作品としては面白くない」という評価を受けることもありますが、この『ラテン・アメリカの旅』に限って言えばプロパガンダ色は強くないです。単にラテンアメリカ諸国の人々の暮らしや文化、自然などを紹介した教育用番組みたいな内容の映画です。ぶっちゃけテレビ番組の『世界ふしぎ発見』みたいな感じの映画です。

 個人的にはわりと面白く見れた映画です。というのも、僕はもともと海外旅行が好きで『地球の歩き方』とかを暇つぶしに読みふける性格の人間なので、『ラテン・アメリカの旅』みたいな内容は好きな方なんですよね。しかも、僕はもともとラテンアメリカの歴史や文化がわりと好きで*3、いつか南米旅行したいと思っているのでこの映画の内容はそれだけで魅力的なんですよね。

 この映画は基本的には短編集のオムニバス形式になっていて、各短編の合間には、実写でラテンアメリカの映像が映し出されナレーションが入る構成になっています。以下、各短編の感想を書きます。


ドナルドのアンデス旅行

 ボリビアとペルーの間にまたがるチチカカ湖が舞台です。序盤は実写になっていて、完全に教育番組のノリでナレーターがチチカカ湖周辺に住む先住民族の暮らしについて解説しています。インカ帝国関連の歴史が好きな自分としてはわりと興味深く見れました。

 その後ドナルドダックが出てきてラマと一緒に、ドナルドダックのシリーズにありがちなドタバタコメディを繰り広げるアニメーションへと変わります。ここのコメディ・アニメーションはぶっちゃけそんなに面白い訳でもないんですが、まあ肩の力を抜いて気楽に見れる短編作品にはなっています。


小さな郵便飛行機ペドロ

 チリの首都サンティアゴに住む郵便飛行機のペドロが、アルゼンチンとの間に聳え立つ南米最高峰の山アコンカグアに苦戦しながら郵便物を届ける短編アニメです。これも個人的にはそんなに面白い話でもないんですが、アコンカグアのデザインだけはめっちゃ好きです。完全に「魔王の顔」にしか見えないアコンカグアの絵が面白い作品。


グーフィーガウチ

 まず実写でアルゼンチンの首都ブエノスアイレスの映像やパンパに住むガウチョたちの生活の様子が映し出されます。このシーンも完全に教育番組みたいな雰囲気なんですが、いつかアルゼンチンに旅行したいと思っている僕にとってはとても魅力的な内容でした。特に、ガウチョの食べるアサドの映像がとても美味しそうで食欲を大いにそそられましたね。

 それらの実写解説映像のあとにグーフィーの短編アニメへと移ります。テキサス州に住むカウボーイを演じるグーフィーが、アルゼンチンへ移動しガウチョの生活を体験するという内容です。一応コメディ描写はあるのですが、全体的な内容は引き続き解説アニメになっていて学習漫画のアニメ化を見ているような気分になります。カウボーイとの比較を通して実際にガウチョの暮らしをナレーターが解説してくれるアニメとなっています。個人的には、実写パートに引き続き解説内容がわりと僕の興味ある内容だったので、結構楽しめて見れました。


ブラジルの水彩画

 再び実写に切り替わり、ブラジルの当時の首都*4リオデジャネイロの映像が映し出されます。有名なリオのカーニバルの映像も映し出されます。アルゼンチン同様に、ブラジルにも一度旅行したいと思っている僕にとってはこのシーンも非常に魅力的な映像でした。

 その後は、音楽に合わせてブラジルのカラフルな自然が水彩画で描かれていくアニメーションが映し出されます。そして、後半にドナルドダックが再び登場し、さらに有名なホセ・キャリオカも出てきます。実はこの映画がホセ・キャリオカの初登場作品になります。彼らがサンバを踊る後半のシーンは、音楽の楽しさも相まってなかなかに楽しいミュージカル的なシーンになっています。そもそも、僕はこの手のサンバとかのラテン音楽が大好きなんですよね。だからこのシーンも結構好きなシーンの1つです。


気楽に見れる教育番組

 『ラテン・アメリカの旅』は短編集だし、一つの長編の物語ではなく教育番組に近いので、『バンビ』までの初期ディズニー作品とはまた全然違うタイプの映画ではあります。でも、ラテンアメリカの歴史や文化や自然に興味があってこの手の旅行番組や教育番組が好きな人ならば楽しめる作品になっているのではないでしょうか。また、全部通しても40分ちょっとしかないので、わりとお気楽な気持ちで見れます。「ものすごい傑作!」っていうタイプの映画ではないですけど、肩の力を抜いて気楽に南米旅行した気分に浸れる学習漫画的な作品として見るならば、僕はわりと好きな映画ですね。





 以上で『ラテン・アメリカの旅』の感想記事を終えます。次回は『三人の騎士』についての感想記事を書く予定です。それではまた。

*1:ちなみに、2019年8月現在、日本ではこの作品のディズニー社による正規版DVDの販売はされていないのでやや視聴困難です。ただし、日本国内では著作権切れにつきパブリック・ドメイン版のDVDが発売されているのでそちらを入手すれば日本でも視聴可能です。

*2:これは、当時フランクリン・ルーズヴェルト政権の進めていた「善隣外交」政策の一環でもあり、また、南米諸国との結びつきを当時深めつつあった枢軸国に対抗するためという目的もあったそうです。

*3:だから大学では第二外国語スペイン語を選択していました

*4:2019年現在のブラジルの首都はブラジリアに移ってますが、この映画が公開した1942年当時のブラジルの首都はリオデジャネイロです。