tener’s diary

てねーるのブログ記事です

【ディズニー映画感想企画第3弾】『ファンタジア』感想~実験的な芸術作品~

 今回はWDAS*1長編アニメーション映画3作目であり、ディズニー映画の中でもかなりの異色作である『ファンタジア』の感想について書こうと思います。
f:id:president_tener:20190816081118j:plain       f:id:president_tener:20190816081212j:plain

【基本情報】

芸術作品としての『ファンタジア』

  『ファンタジア』は『ピノキオ』と同じ年の1940年の秋に公開された3作目のディズニー長編アニメーション映画です。この映画は、クラシック音楽の演奏に合わせてアニメーション映像が流れる内容になっていて、ミュージックビデオ付きのオーケストラのコンサートのような構成になっています。アニメーション映像では登場人物たちとのセリフは一切流れず、映画で聞こえてくる音は基本的にクラシック音楽の演奏のみです。*2

 使われる曲は全部で8曲であり、それぞれの曲間には本当のオーケストラのコンサートみたいに司会進行のナレーションが流れます。途中で各楽器のパート紹介シーンもあったりと、本当にコンサートを聞きに来たかのような構成になっています。それぞれの曲ごとに別々のアニメーションが流れるので、一つの長編映画というよりはオムニバス的な短編集の映画に近いです。

 アニメーション映像とともに流れるクラシック音楽の演奏は、レオポルド・ストコフスキー氏の指揮するフィラデルフィア管弦楽団によるものです。ストコフスキー氏指揮下のフィラデルフィア管弦楽団は今でもクラシック音楽の世界ではものすごく有名なオーケストラです。そんなビッグネームによる演奏を、『ファンタジア』では当時最新の音響技術であったステレオ音声で再生しました。映画館にステレオを導入したのは『ファンタジア』が世界初らしいので、そういう意味で技術史的にも意義の大きい作品だそうです。*3

 ミュージック・ビデオが当たり前となった今でこそ、音楽の演奏に合わせたアニメーション映像の作成も珍しくないと思えるかもしれませんが、当時はまだそのような試みはかなり画期的なものでした。ウォルト・ディズニー氏はこの『ファンタジア』を通して、今まで子供向けと思われていたアニメーションを新しい「高尚な芸術作品」へ変えようと思っていたそうです。


またもや失敗作?

 そのような実験的な試みのもとで作られた『ファンタジア』ですが、同年に公開された『ピノキオ』と同じく興行的には失敗してしまいます。しかも、『ピノキオ』と違って評論家からの評判も賛否両論でした。ウォルトの狙い通り「映画史に残る画期的な芸術作品」と評価する人もいる一方で、音楽評論家などからは「伝統的なクラシック音楽に対する解釈がおかしい」と非難されたそうです。

 『ファンタジア』も『ピノキオ』同様に第二次世界大戦の影響でヨーロッパ市場での収益はあまり見込めなかったうえ、一部評論家からの酷評が伝わったせいなのかアメリカ国内でも客入りはあまり芳しくない状態でした。『ピノキオ』同様に莫大な製作費をかけたにも関わらず興行的には全然成功せず赤字となってしまったことで、今後のディズニー・スタジオの経営はますます苦しくなってしまいます。



【個人的感想】

総論

 正直言うと、小さい頃の僕は『ファンタジア』はそんなに好きじゃなかったです。退屈でものすごく眠くなる作品だなあ、と思っていました。ある程度クラシック音楽の鑑賞をする機会が増えてから、ようやくこの作品の楽しみ方が分かって楽しめるようになったクチです。

 公開当時に評論家からの評価が真っ二つに分かれた映画『ファンタジア』ですが、それとは別の意味で今でもこの映画は人によって好き嫌いが大きく分かれると思います。クラシック音楽鑑賞が趣味でコンサートとかも頻繁に行っているような人には楽しめるかも知れないけど、あまりオーケストラ演奏や現代アート的なものに興味のない人にとっては非常に退屈で眠くなる作品だと思います。小さい頃(というか今も多少はそう)の僕は後者のタイプでした。

 それまでの『白雪姫』や『ピノキオ』みたいなストーリー性のあるエンターテインメント作品とは違って、『ファンタジア』はとにかく高尚な芸術性を追求した作品なので、そういうのが合わない人にはとことん合わないと思います。曲によってはストーリーのあるアニメーション映像もあるのですが、抽象芸術っぽい感じが非常に強い映像がひたすら流れるだけの曲も多くて、その辺りが小さい頃の僕にはかなり退屈に感じられました。
 
 あと、単純に‟長い”。後年に短くカットされたバージョンも作られましたがオリジナルのバージョンの上映時間は2時間超えです。もちろん2時間超えの映画なんて当時も今も全然珍しくないですが、それが成り立つのはちゃんと入り込めるストーリーがあってこそです。ストーリー性がごく一部にしかないアニメーション映像をクラシック音楽と一緒に2時間ぶっ通しで眠くならずに鑑賞し続けるのは結構しんどいです。

 と、ここまで辛口なコメントが続きましたが、最近の僕は上記のような感想は依然抱き続けながらも「あれ?意外と『ファンタジア』も良い作品かもな」と思うようになってきました。ある程度の歳になってから改めて見返すと、子供の頃に思ってたほどは退屈な作品でもないなと感じられるようになりました。まあ、それは単純に僕が多少クラシック音楽をかじるようになって、それなりにオーケストラのコンサートとかを楽しめるようになったからだという理由が大きいです。

 実際、クラシック音楽好きならば『ファンタジア』は決して悪くない作品だと言えると思います*4。ウォルト氏の目論見通り、音楽とアニメーション映像の芸術的な融合という試み自体は成功しているので、その点を楽しみながら個々の演奏をじっくり聞き入るとかなり楽しめると思います。

 なお、僕はアニメーション映像はあくまでもおまけのアクセント的な感じにとどめ、どちらかというと演奏のほうをメインで聞き入ることでこの作品を楽しんでいます。ようは完全に「ミュージックビデオ付きの音楽作品」としてこの映画を楽しんでいるんですよね。そういう姿勢の下で、実際のコンサートを聞きに来てるかのような気持ちで鑑賞するのが個人的にこの映画を楽しむコツかなあと思ってます。やっぱり、ストコフスキー氏の指揮による演奏は圧巻で非常に聞き入ることのできるものなんですよね。そういうのを楽しめる映画としては『ファンタジア』は名作だと思います。

 以下、曲ごとの感想。


トッカータとフーガのニ短調

 ぶっちゃけ1曲目がこれであることが、子供の頃に『ファンタジア』を退屈な作品だと思った一因なんですよねえ。いや、音楽にはものすごく引き込まれるんですよ。出だしからして有名なあのフレーズがいきなり始まるわけですから、「すごい音だ!」って感動するんです。でも、それに合わせて流れてくるアニメーション映像が、完全なる抽象画の世界なんですよね。

 他の曲では何かしらのキャラクターが出てきたり自然の映像が流れたりするんですが、この曲で流れるアニメーションにはそういうのは出て来ず、色とりどりの曲線だったり直線だったり、雲や水面みたいな模様の抽象画の背景が流れてくるだけのアニメーションなんですよね。ストーリー性は一切ないです。イメージとしては今でいう「VJ映像」に近いです。

 こういうVJ映像みたいな抽象画のアニメをそれ単体で楽しむのは僕には無理で、だからこそ小さい頃の僕はこの1曲目から「退屈だ」という感想を抱いたんですよね。今は、このアニメーション映像をあくまでVJ映像みたいな感じで装飾として見ることで、フィラデルフィア管弦楽団の演奏に集中して音楽を鑑賞するという見方を自分はしています。そういう風に、映像よりも音楽をメインで聞くようにすれば、ここの演奏は本当に圧巻なので、満足して鑑賞することができます。


くるみ割り人形

 この曲では、ストーリーがあるようでないようなアニメーションが流れます。妖精が飛び交ったり、魚や花が踊ったりするアニメーションが流れます。明確なキャラクターや自然の映像があるため前の曲のようなVJ映像っぽさはなくなっており、どちらかというとプロモーション・ビデオに近い印象を覚えます。

 前の曲よりは抽象度が下がったため多少は退屈じゃなくなったとは言え、結構長いので人によってはやっぱり少し眠くなる映像ではあるかも知れません。ただ、個人的にはここの映像は全体的に綺麗で幻想的なものが多いので子供の頃から結構好きでした。こういう神秘的な雰囲気のあるエモい映像は今も昔も大好き。感傷的な気分に浸ったり楽しげな気分になったりしながら見れます。

 もちろん、演奏も文句なしに素晴らしいです。チャイコフスキーの『くるみ割り人形』は個人的に今でもかなり好きな曲の1つなんですが、それはこの『ファンタジア』で見て気に入ったからという要因も結構あります。


魔法使いの弟子

 恐らくこの映画で一番有名なシーンでしょう。もともとこの曲で短編アニメーションを作ろうと企画したのが『ファンタジア』制作のきっかけだったらしいです。

 前2曲と違いここのアニメーション映像はちゃんとしたストーリーがあります。すでにディズニーを代表するキャラクターとなっていたミッキーマウスが「魔法使いの弟子」のキャラクターを演じ、師匠に内緒でほうきに水汲みをさせたら大惨事になってしまうという物語がアニメで表現されています。

 抽象的な映像ではない普通にストーリー性のあるアニメーションが流れるのでここはかなり楽しんで見入ることができます。調子に乗ってやらかしちゃうミッキーの可愛さもなかなかに魅力的で面白いです。一緒に流れる演奏がストーリーの雰囲気と見事に合っているのが良いですね。ちゃんと盛り上がるシーンでは盛り上がる雰囲気のフレーズが流れ、緊張感のあるシーンでは緊張感ある音楽が流れます。まさに「音楽とアニメーションの融合」って感じがして楽しいです。


春の祭典

 元々は人類の原始時代の儀式を表現した曲を、ウォルト・ディズニー氏の独自解釈により地球の生命の歴史の表現としてそのようなアニメーション映像を流したシーン。火山が噴火しまくる太古の地球から、海の中で最初の単細胞生物が誕生し、やがて地上に出てきて恐竜の時代となり……という感じで地球における生命の歴史を再現したアニメーションが曲に合わせて映し出されます。

 ストーリー性はそれなりにあるし、こういう題材は見る人が見れば楽しいんだろうけど、ちょっと火山のシーンが長すぎて個人的には少し退屈でしたね。恐竜たちが食ったり食われたりするシーンも映像的にそこまで迫力あるとも感じないし長いのでちょっと眠くなる。個人的に海の映像が好きなので、海の中で生命が進化して多様な種が生まれてくるシーンだけは好きでしたね。


サウンド・トラック 紹介

 ここは曲間の休憩シーンで、クラシック音楽は流れません。何かしらの音楽コンサートに足を運んだことある人ならば分かると思うんですけど、コンサートって良く途中で各楽器のメンバーを紹介する下りがあるじゃないですか。あれと似たようなことやっています。*5

 「サウンド・トラック」くんというキャラクターの紹介という形で、ハープやフルートなど各楽器が順に紹介されます。まあ、ここまではコンサートあるあるのシーンなので特別に面白くもつまらなくもないんですけど、この時に流れる映像がいわゆる「オーディオ・スペクトラム」的な映像になっています。

 紹介シーンで各楽器がそれぞれちょっと音を出すんですけど、その音の周波数とかに応じたようなスペクトラムのアニメーション映像が流れてきます。まあ今でこそVJ映像で良く見る演出方法なので珍しくない気はしますが、個人的にこういう演出は結構好きなのでこのシーンもわりと好きです。


田園

 このアニメーション映像が公開当時には評論家から特に非難されたそうです。ベートーヴェンの『田園』に対する通常の解釈とは全然違うギリシャ神話風のアニメーションが流れているかららしいです。まあ自分はそこまでクラシック音楽の解釈に厳密な性格ではないので、その点については特に気にしないです。

 ただ、それとは別にこのシーンもあんまり好きじゃないです。ギリシャ神話風の世界観でケンタウルスたちが戯れてる映像がひたすら流れるんですが、長すぎて単純に退屈です。ゼウスみたいなのが現れてからはちょっと緊張感が増して面白くなるのですがそこに至るまでが長い。

 一応、『魔法使いの弟子』と並んでそれなりにストーリーのある映像ではあるんですが、『魔法使いの弟子』みたいな起承転結が一本に繋がっていてしっかりとオチのあるコメディじゃないので、物語としても普通に退屈で面白くありません。


時の踊り

 ここのアニメーションは何となく好き。バレエ音楽ということで、ディズニーの短編アニメーション風に擬人化された色んな動物のキャラクターが曲に合わせてひたすら踊る映像が流れるんだけど、その動物キャラクターたちが可愛いので見ていて楽しい。

 音楽も楽しげな曲調なので、本当に楽しいバレエの踊りを見ている気分になります。カバとワニの掛け合いが僕は特に好きです。


はげ山の一夜~アヴェ・マリア

 多分『魔法使いの弟子』に次いでこの映画で二番目に有名なシーン。特に『はげ山の一夜』で出てくるチェルナボーグはディズニー・ヴィランズの一人として今でもディズニーランドや色んなスピンオフ作品などで頻繁に登場するので知っている人が多いと思います。

 『はげ山の一夜』と『アヴェ・マリア』は本来全く別の曲なんですが、この映画では上手く編曲して一続きにしています。そしてアニメーションもその一続きの演奏に合わせて、連続したストーリーとして映し出されています。ただ、個人的にここのアニメーションのストーリー自体はそんなに面白くないです。というか、単純にストーリーが分かりにくいです。映像見ただけだとどういう物語になっているのか良く分からない。

 ただ、有名なシーンだけあってチェルナボーグが登場するシーンの迫力はすごいです。『はげ山の一夜』のサビ(?)の厳そかな雰囲気の音とともに悪魔や悪霊みたいなのがたくさん出てくるシーンのおどろおどろしい雰囲気はかなり好きです。ホラー的な演出がすごく上手く出ていると思います。この辺りのシーンだけはその音楽演奏も合わせて結構好きです。


良くも悪くも芸術作品

 最後にまとめると、やっぱりこの映画はウォルト・ディズニー氏も意図した通りあくまでも「芸術作品」なんだなあと思います。クラシック音楽好きとして、ミュージックビデオ付きでフィラデルフィア管弦楽団の演奏を聴きに来ていると思えばそれなりに楽しめて見れるのですが、『白雪姫』や『ピノキオ』のように純粋にストーリーを楽しむ目的で見るとイマイチに感じる作品だなあと思います。演奏ではなく映像のほうメインで見ちゃうと、「『魔法使いの弟子』以外のストーリーは退屈だし、全体的にどれも長すぎて疲れるし眠くなっちゃうなあ」という感想を僕は抱いちゃいますね。

 とは言え、クラシック音楽好きならば一度は見ておいて損のない作品だと思いますので機会があればぜひどうぞ。何だかんだで、小さい頃はともかく今の僕は、『ファンタジア』も音楽作品として見る分にはわりと好きな作品の一つです。






 ということで『ファンタジア』の感想記事を終わります。次回は『ダンボ』について書く予定です。それではまた。

*1:ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオの略。詳細はこちらの記事を参照 ディズニー映画の紹介&感想記事を書くにあたって~ディズニー映画入門~ - tener’s diary

*2:ただし、各曲の合間にナレーションのセリフは流れます。

*3:そもそも指揮者のストコフスキー氏自身も、『ファンタジア』公開より前に世界で初めて音楽のステレオ録音をした経歴の持ち主です

*4:とは言え、当時の音楽評論家のように、曲の解釈違いを理由に酷評を下すクラシック音楽ファンもいるとは思いますが

*5:なお、このシーンは、発売されているDVDのバージョンによってはカットされています